小田部君

冬になると膝が痛くなる。
これは私がおじいちゃんだからではなく、きちんとした理由がある。

中学1年の6月のことだった。私はバレーボール部に所属していて、その日もくたくたになるまで練習をした。

当時、まだ成長期を迎える前で身長が145センチくらいしかなかったのだけど、一時期、とある先輩からやたらと頭を撫でられていた。

一応、後輩然として「えへえへどうも」みたいなリアクションをしていたのだけど、正直ちょっと気持ち悪いし、なんなのかしらと思っていたら、ある日、いつもに増してしつこく頭を撫でていた先輩が「加護ちゃん(の身長)はこれくらいかぁ」とニヤニヤしながら呟いたことで合点がいった。

先輩は私の頭を撫でながら、当時ミニモニ。で爆発的人気だった加護亜依さんを想像していたのだ。

もちろん私は男の子だし、加護ちゃんとは似ても似つかない顔なのに、よく身長という共通点だけをオカズにして頭を撫でていたなぁ、と感心した。

話が逸れたけど、その日も部活が終わり、着替えを済ましてみんなで体育館を後にした。ちょうど雨が止んだばかりで、空気がひんやりと湿っていたのを覚えている。「お疲れさまでした!」と口々に言い、それぞれ自転車に乗り帰路についた。

私も同じように自転車で走りだしたのだけど、体育館から50mほど離れたあたりで、派手にすっ転んでしまった。自転車とアスファルトとの間に左脚が絡んでしまい、おろし器で生姜を擦るが如く、左膝がアスファルトに密着した状態でずるずると滑った。

滑り終わって(?)おそるおそる左膝を見ると、べろんと剥がれた皮と、なんと、白い骨が見えた。

「これはあかん」と思った。

左脚と自転車はまだ絡んでいて、自力では動くに動けないし、携帯電話も持っていなかったので、助けを呼ぼうと周りを見ると、30mほど先で、自転車にまたがった同級生の小田部君が様子を伺うようにこちらを見ていた。

私は雪山で遭難者がレスキューヘリを見つけたときのように思い切り手を振った。

「助かった、小田部レスキューのおかけで命拾いした」と思ったら、小田部君もこちらに手を振り返してくれた。そして、自転車を漕いでどこかへ消えてしまった。

え?

私は呆然とした。後になって冷静に考えれば、小田部君は転んだ音を聞いて振り返りはしたが、私が元気に手を振っていたので「大丈夫そうだな」と判断したのだと思う。でも切羽詰まっていた私は「あんにゃろ、めんどくさくて逃げやがったな」と憤慨した。「こっちは骨がでてるんだぞ!」

結局は顧問の先生が気づいてくれて、私と自転車を慎重に解いて、救急車を呼んでくれた。不思議とそれほど痛みは感じなかった。もしかしたら、小田部君にぷりぷり怒っていたからかもしれない。

救急車で病院に搬送されてから、ギザギザになった皮を切って接合する簡単な手術を受けていたら両親がきてくれて、何故か焼肉を食べてその日は帰った。

あれから毎年、冬になると膝が痛む。
膝が痛むと、頼もしい小田部君の登場と、劇的な幕切れを思い出す。
もしかしたら私はまだ小田部君に少しむかついているのかもしれない。


#日記 #エッセイ

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