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スガシカオ「奇跡」

スガシカオさんと村上春樹さんが新年会を催したらしいですね。いったいどんな空気感で会話がされるのだろう。昔から親交があるのは知っていたけどこんなに仲が良かったのですね。わたしにとってはふたりとも師匠のようなものです。
ツイートを見て「お」と声が出た。


さっき、たまたまスガシカオの「奇跡」という曲を聴いていました。この曲は2005年の夏の甲子園のテーマソングになっていたのですが、わたしはスタンド席でこの曲を聴いていました。

今日はその話を。


◇◇◇


いま 奇跡が起こりそうな予感に
抑えきれないくらい 胸騒ぎがするけど
きっと ぼくと同じこの瞬間を
世界のどこかで 君も感じているはず


当時わたしは高校三年生で、母校の野球部の応援のために甲子園のスタンド席にいた(ちなみに漫画家のあだち充先生の母校でもある)。

その前々日まで簿記部の全国大会のためにわたしは岐阜県にいて、たしか3位か4位に入賞して表彰された気がするのだけど今となっては何の役にも立たない。

全国から集まった猛者たちの叩く電卓のけたたましいカチカチ音が頭から鳴り止まないうちに、部員たちと新幹線に乗り群馬県に戻った。そして、その日のうちに甲子園行きの夜行バスにわたしは乗っていた。

残念なことにクラスには友達がひとりも居なかったので、バスに乗っている間はずっと外の景色を見ていた。きのうまでは簿記部の部員たちとわいわいお弁当を食べたり、ふだんはあまり話のできない若い女性顧問の先生と親交を深めたりしていたのに、今日は高速のパーキングの標識の数を数えたり、対向車線を走るトラックの奇妙な装飾を眺めたりしていた。
その時間はあまりにも長く、バスの中で繰り広げられるクラスメイト同士の会話はどこまでも退屈で、甲子園に応援に行くことをすでに深く後悔していた。

甲子園に実際についてみても気分は晴れず「あぁ、これがよくテレビで見るところかぁ」くらいの感想し持たなかった。担任の先生に誘導されて指定のスタンド席に座ると、当然のことながら友達がいないので両サイドの生徒は話したことのないひとたちだった。

陽射しがとにかくきつく、応援用のキャップを深く被り、タオルを首に巻いて直射日光が当たるのをなんとか防ごうとした。当時から重度のアトピーだったので日光は大敵なのだが、キャップとタオルだけではなんの意味も為さず、おそらく今後二週間くらいは体調が厳しくなるだろうなぁなどと予想しながら試合がはじまるのを待った。

甲子園の熱気とあまりに不釣り合いなスガシカオの音楽が耳に入ってきたのはその時だった。

落書きでうまった白い壁
やけたロードショーのポスター
昼間のマンガ喫茶のうすいジュース
照り返してる太陽光

「昼間のマンガ喫茶」と「昼間の甲子園」は、もはや夜と昼よりも差異のあるものに思えた。
わたしは夜が好きだし、昏いマンガ喫茶のうすいジュースが恋しかった。

「この曲が甲子園のテーマソングなのかぁ」と不思議な気持ちにもなった。当時はスガシカオの音楽に本格的に出会う直前の時期(この2年後にわたしはスガシカオに心酔することになる)で、変な歌詞だけど、この曲に救われている気持ちになっているのはこの球場でおそらくわたしだけだろうなぁと思った。

まわりの生徒たちは試合前にも関わらずテンション高く校歌を歌ったり、タオルを振り回していた。わたしは汗をかくと肌に悪影響なので、なるべくじっと動かないようにしながら変な歌詞のスガシカオを聴いていた。

いま 自分が変われそうな予感に
気づいたらちょっと
ニやけてしまうけれど
こんな 気持ちいつも冗談みたいに
消えてしまうから
誰にも言わないようにしよう

ここの歌詞が(比較的)前向きな部分だと思われる。たしかに、変われそうな予感がするときはいつも誰にも言わないようにしてきた。スガシカオと自分の感性はすこしだけ、ほんのすこしだけ似ているのかもなぁ、と思った。

しかし、この曲を高校球児たちはどんな気持ちで聴いていたのだろう。
気合入ったかなぁ? 

最後の歌詞はこちら。

記憶の中のあの景色 遠くで雨の降るにおい
加速する夏の日々

当然のことながらその日、雨は降っていなかった。



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#スガシカオ
#奇跡
#甲子園
#村上春樹

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