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なぜ毎年研修がとっかえひっかえになるのか?~人材育成ポリシーのススメ~

人事制度策定の際には、「人事ポリシー」なるものを作ることが多くあります。
これは自社の人材マネジメントにおいて「どんな方向に向かっていくのか?どんな方向には向かわないのか?」を表現したものです。

人事制度は、

●複雑になりやすく、主旨(何を目指し、何に報いるのか?)を社員がシンプルに掴めるようにする必要がある
●評価や給与など、社員の生活にダイレクトに影響するなど重要度が高い
●杓子定規に運用するものではなく、時と状況に応じて運用することが求められる

などの理由から、制度単体に加え、このような人事ポリシーとの掛け合わせで運用されることが多いのです。

◆人材育成ポリシーとは何か?

一方で「人材育成」においては上記のような「ポリシー」を策定している企業はあまり聞きません。
おおよそ以下のような理由からではないでしょうか。

●人事制度だけでも大変なのに、人材育成でも同じようなものを策定するのは大変(≒面倒くさい)
●人材育成はみな一過言ある分野であり、スタートとすると、なかなかまとまらないのが目に見えているので腰が引けがち
●給与など、従業員の生活に影響する人事制度に比べると、重要度が落ちがち(≒日の当たる仕事ではなく、地味)

僕はこんなnoteを書いているぐらいなので「人材育成ポリシー」は重要だと考えています。

というのも、以下のような(お粗末な)やり取りが企業の中では頻発しているからです。

●毎年のように研修プログラムをとっかえひっかえしていて、何がうまく行っていて、何がうまく行っていないのか、実は誰も知らない(実は長年伴走しているコンサルタントが誰よりも詳しいということも。。。)

●一度導入したものを3年ぐらいは続けるが、人事のトップが一新されたことをきっかけに、それまでの文脈を顧みることなく教育体系も一新される(人が変わった以外に教育体系が一新される理由が見当たらない)

●数年前と同じ議論を繰り返し行っている

●以前にやってうまく行かなかったから取りやめた施策がなぜかそのまま復活する

こういったことが、皆さんも知っているであろう名だたる企業の中でも起こっているのですから、なかなかスパイシーな状況だと言えます。

もちろん人材育成は論理的に解決できるものではなく、複雑かつ創発的なプロセスなので、あの時はダメだったけど、今やったらうまく行くということはあり得ますし、考えても失敗することはあるでしょう。

ただ、それを偶然にするのではなく、意図と仮説検証のもとで行えるようになることが経営人事の観点からも望ましいと考えています。

その意図と仮説検証の起点となり、かつ、意思決定や判断基準となるのが「人材育成ポリシー」です。

では、どうやって人材育成ポリシーを策定するのでしょうか?

◆人材育成ポリシーのつくりかた

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ステップは大きく3つあります。

①目指す姿・大切にすることの定義
キーワードレベルで良いので、自社の人材の目指す姿、大切にしたいことなどを洗い出します。

経営陣(特にトップ)とのコミュニケーションの中で言語化されることも多く、経営陣とのインタビューやディスカッションを強く推奨しています。

意外とこういった場面で初めて考えたという経営者の方も珍しくありません。なので、面倒くさかったり、たとえ面倒臭がられたとしても、経営者の方を巻き込むことがお勧めです。(ほぼ毎回「こんなことorここまで考えたたり言葉にしたのは初めてだ。」となります)

②自社の事業構造の紐解き(何が価値の源泉か?)
企業における人材育成は「経営に資する」ために行います。経営の重要な要素である「事業」を紐解くことで、自社に必要な人材育成・必要でない人材育成も見えやすくなります。

例えば、食品を扱うメーカーであれば「安全性への意識」が求められますが、雑誌をつくる出版社であれば「流行をかぎ取る力」などが求められることは想像に難くありません。

上記はあくまで極端な一例ですが、企業における人材育成の方向性は事業に大きな影響を受けることがわかります。(当たり前と言えば当たり前なのですが。。。)

ここも自社にいると外と比較対象ができないので、当たり前になりやすいのと、人事の世界では、まだあまり戦略論は扱われないので、盲点になりがちなポイントです。

私たちコンサルタントは、いろんな企業に接する中で、業界特有の思考の癖やコミュニケーションの癖などがあることを実際に体験しており事業構造特有の人材モデルや人材像が必要かつ有効であることを知っています。

③自社の組織風土・規範の紐解き(何が自社らしさなのか?)
人は機械とは異なり、すぐに変化することは起こりにくく、外部からの環境や現時点での意識からの影響を受けやすい存在と言えます。

この点を軽視することによる典型的な失敗事例としては、優れた人事マネジメントで有名な会社からやってきた人事部長が前職のメソッドを取り入れたもののまったくワークしない、ということがあります。

また、転職を経験された方であれば、業界業種がたとえ同じでも、前職の方法論をそのまま持ち込んでもうまく行かないということを体験された方がいらっしゃるかもしれません。

これはメソッドだけを見ていて、その宛て先の状況を考慮しないことで起こる失敗です。

組織のパワーバランスや、ものの考え方、受け止め方の癖、コミュニケーションの癖などを観察して、どこがレバレッジポイントなのか?踏んではいけない地雷は何か?どんな働きかけが有効なのか?にも配慮することが求められます。

この3要素を行ったり来たりしながらディスカッションを進めていくと、
自社の人材育成において譲りたくないこと・捨てても良いことなどがあぶり出されてきます。

それをコンパクトに言語化したものが「人材育成ポリシー」になります。

最後のポイントが、この「コンパクトにする」です。

これも少し検索すればわかりますが、名だたる大企業が長文の「人事・人材育成ポリシー」を掲げています。

そして一読すればわかりますが、その手のものは「あれもこれも」のスーパーマンを求める記述になっています。

意思決定基準・判断基準として機能するからには何らかのトレードオフが発生しているはずで、取捨選択が行われないものはただのスローガンでしかありません。

特に人材育成はこれといった正解がなく、また全体的には賛成となりやすいのでともすると、何枚にもわたるものになりがちです。

ただ、この取捨選択に対する基準を示すのもなかなか難しく、現実的には、分量で制約することが一番ワークするように思います。

多くともA4一枚程度に収まるものが妥当でしょう。

◆人材育成ポリシーの具体例

といってもなかなかイメージが付きにくいと思うので、前職の事例を元にご紹介します。(これは採用ページ等で公表されてもいます)

前職では明確な人材育成ポリシーは策定されていなかったですが、実質的に「熟達」というキーワードで浸透していました。

先ほどの3要素で見ていきます。

①目指す姿・大切にすることの定義
「熟達」というキーワードは前職の場合、トップの一声で決まりました。
思いつきのケースもあるかもしれませんが、前職の場合は事業構造なども踏まえた上での決定でした。

もちろん、このキーワードも熟慮の末に生まれたもので、数年の経営の積み重ね、多くの成功失敗のデータベースから作られたものです。

そのため、実際にはすぐに結晶化することはないかもしれません。
何度かブラッシュアップしていく中で定まる、ぐらいに構えておくのがちょうど良いでしょう。

②事業構造の整理
前職は大手企業に教育研修を企業に提案・納品することを主なサービスとしていました。

大手企業には様々な人材育成プログラムが持ち込まれ、お客様となる人事の方の目も肥えていて、かつ、競合他社との競争も激しいマーケットです。

また、教育はすぐに効果が見えにくいということもあり、製品力だけでなく、営業の対応や納品に至るプロセス、オペレーションなども洗練させ、
信頼を継続的に獲得していくことが業績に寄与する重要な要素です。

こう考えていくと、経験者や元人事ならともかく、未経験者が成果を出すには、時間を要する仕事であることは想像に難くありません。

そのため、短期的な成果を焦って目指すのではなく、着実に成長して、継続的に成果が出せるようになる「熟達志向」がプラスに働く事業と言えたのです。

③自社の組織風土・規範の整理
教育研修を扱う会社ということもあり、学習や自己啓発については前向きな風土がありました。

また、コンサル出身者が立ち上げた会社ということもあり、知的財産の積み上げは重要であるとの共通認識が組織にも強くありました。

前職の場合、経営トップが事業や組織も俯瞰しながら「熟達」というキーワードが発信され、当然ながらそれは事業や組織とも強く紐づいていたため、人材育成ポリシーとして機能しました。

最後に、熟達は以下のようなトレードオフとしても機能しました。

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このように「人材育成ポリシー」があると、人材育成に関する様々な場面での意思決定基準として活用することができます。

こうすると「一度失敗した施策の繰り返し」「施策をとっかえひっかえする」などの事象は起こりにくくなるはずです。

また、人材育成の方向性に一貫性が生じ、好循環サイクルが回りやすくなります。

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組織・人事コンサルティングやスタートアップの経営に携わりながら「Humanization」をテーマに活動しています。人や組織の変容や、それらを司る意識進化の探求・自己変容のプロセスを綴っています。最近は「生かされる生き方」にエネルギーが向いています。