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アメリカで生き抜くための選曲術 -DJはここまで考える-

この記事で僕は、あなたに「ニューヨークでDJとして生きてきた経験、そして得たこと」をお伝えするつもりです。

”クラブDJ”というと一般的には「(主にナイトクラブを中心に)次々に曲を変える人のこと」を指しますよね。だから「クラブを盛り上げる主役」そんなイメージを持っているんじゃないでしょうか。でも本当の主役は、僕たちDJではないんです。

好きな曲をかけることは決して悪いことではありません。だけど僕がなによりもDJに必要だと信じているのは、「どうすれば主役であるお客さんを楽しませることができるか」という視点です。

「かっこいいじゃん!」なんて言って頂ける一方、DJにあまり良いイメージを持たない方も、少なからず居ると思います。そんな方々にも「へぇー、DJってそんなこと考えてるんだ」ってこの記事を通して少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。10分程かかりますが是非読んでみてください。


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今までSNSで、なぜオープンフォーマットスタイルが重要なのか、何度もお話しさせて頂きました。

「新曲によって毎月のように変わるトレンドに加え、より多くのジャンル、幅広い年代の音楽に展開できる人、つまりオープンフォーマットDJが、観光客や移住者が多いアメリカで求められているから。」てな感じで。

...でもあるとき、そんな自分のDJスタイルに限界を感じてしまったんです。

だって、アフリカ系にはヒップホップやレゲエ、コケージャンにはロックやダンスミュージック、中高年にはディスコやファンクみたいに、それぞれが好むジャンルの曲を選んでも、様々な人種が集うニューヨークのクラブでは彼ら全員を同時に踊らせることはできなかったから。要は、白人がエレクトロミュージックで踊る傍らで、黒人が踊らない」っといったような状況を解決できない自分のレベルに納得いかなかったんです。

もちろん人それぞれ好みのジャンルがあり、好かない音楽に興味を持たせるの容易ではありません。それに、ある程度多くのジャンルに展開していれば、仕事を依頼してくるプロモーターやクラブのお偉いさんから文句を言われることもない。

...でも次のレベルがあるとしたら?もしお客さん全員を同時に踊らせることができるとしたら?僕が理想とするDJとはまさにそれなんです。

アメリカ人にコミュニケーション能力で劣る僕は、「負けたくない!もっと上手くなりたい!」っていう執念じみた想いがあったんですよね。そんな負けん気がもう少しだけ、僕を先に進めてくれました。

最低限知らなきゃいけないこと

そんな思いから始まった長ぁ〜い挑戦なのですが、僕はまず英語、特にリスニングの勉強から取り掛かりました。「なぜ今さらリスニング?」って思うでしょ?でも理由は単純なんですよね。ただ僕がニューヨークのDJに劣っているものは何か考えたときに、歌詞の意味を十分に理解していないことなんじゃないかなって思ったんです。だから、まず彼らと同じ位置に立たなきゃ!って。

最初はただ歌モノを流して、歌詞を紙に書き出すだけ。”聞く”ということが習慣づいている僕にとって、まったく苦じゃないトレーニングでした。もちろん僕が全てを理解するのは不可能だし、宗教的な表現や反社会的な事柄が歌われるヒップホップなんかは、同じアメリカ人でも白人には理解できない部分だってあるくらい。けど、曲名やサビの意味を理解するだけで、今までにないアイデアがどんどん浮かんできたんです。

ではなぜ歌詞を理解することは重要なのでしょうか。

ハウスやテクノ、インストなどに特化したDJがもっとも意識することは、一定の流れや曲調を保つことだと思います。それによって波のない空間を生み、聞く人は心地良さを感じるのでしょう。もちろん僕のようなオープンフォマットDJにとってもそれは重要なことなのですが、トップ40のようなキャッチーな曲をかけるとき、それだけでは物足りないと思うんです。

例えばこのような順番で、曲調の似た3曲をかけたとします。

恋についての曲 →  お金についての曲 →  恋についての曲 

...悪くない。だけどこれがもし、日本語の曲だったらどうでしょうか。「あれ?ちょっとミスマッチかも」って違和感を持つ方もいるんではないでしょうか。

僕たちが当然日本語の歌詞を理解できるように、アメリカ人にとって英語の楽曲は僕たち日本人が思っている以上に彼らの耳に残りやすいと思うんです。失敗した時は言いたいことをストレートに言われるし、DJブースから見るお客さんの反応もわかりやすい。

だから最低限歌詞の意味を理解することは、DJをするために必要なことだと思っています。でもプロのDJには「そんなことできて当たり前でしょ!」って言われちゃうかも。

ではここからは、真逆のことをお話ししますね。今までのことを否定するつもりはありません。だた、次のことを書こうとすると少しだけ矛盾してしまうんです。

ルールなんてない

僕の仕事って評価基準がすごく曖昧なんです。そもそも一般的にも「DJって何をしてるの?どれが良くて、どれが悪いの?」なんて思われがち。それは多分文章にも似ていて、作家さんがたくさんの言葉や言い回しを組み合わせて色んな表現が生むように、DJはたくさんの楽曲を組み合わせて色んなパターンのミックスを作る。

なんか、はっきりした正解がなくて自由。でもね、それがDJの醍醐味だと僕は思うんです。どこまでも自由が許されるからこそ面白いDJミックスは生まれるじゃないかなって。だから例の3曲だって間違いじゃない。むしろ相性が悪そうな曲や、異なるジャンルの曲をうまく繋げることができたとき、今までない感覚を覚えることがあったんです。

DJを初めた頃の話なのですが、僕は まだブラックミュージックを専門にかけるDJでした。出演するパーティーはヒップホップを中心としたモノばかりで、遊んでいる仲間は決まってヒップホップ好き。だってあの頃はそれしかカッコいいと思ってなかったから。だからEDMブームが来た頃、「こんなの聞くヤツと友達になれねー」なーんて生意気言ってたと思う。逆にEDMが好きの人も、僕ような人に対して同じような想いだったんじゃないかなぁ。そうでしょ?

でも人それぞれ好みがあるのは当然のことで、そうやってお互いに興味のないことは受け入れられないもんなんです。そんなムードがわかりやすく出るのが、色んなタイプの観光客や移住者が集うニューヨークのクラブってわけです。つまり、あっちでは踊ってるけどこっちでは踊ってないっていう状況になる。...ということで僕なりの解決策をお話しします。

1. サンプリングが用いられた楽曲と、その原曲を使うこと。(サンプリングとは、既存の曲からある一部のフレーズ、単音、声ネタなどを抜き出し、再構築していく制作方法)

例えばこの2曲。どちらも未だにクラブでかかるジャムなんですが、聞いてみて気づくことはありませんか?

そう!少し似てますよね。それは"O.P.P"が”A.B.C"をサンプリングすることによって作られた楽曲だからです。ジャンル、年代、歌詞の意味も異なるのに相性は悪くない。少しベタですがこの2曲を順にかけることによって、"A.B.C"のような70'sポップスやソウルを好む人をヒップホップに引き込んで楽しませることだってできるんです。良くも悪くも気づいてくれるニューヨーカーは敏感ですね。

好きな曲の原曲やサンプリングされた楽曲などを知りたい方はコチラから検索してみてください。世界中のサンプリング情報を調べられますので、DJはもちろん、音楽好きの方は是非試してみてださい。

2. 曲全体の意味ではなく部分的に意味を理解すること

...えっまた歌詞?って思いましたよね。でもここで重要なことは”よりはっきり聞き取らせること”にあるんです。

始めに「恋についての曲」といったように曲全体の意味を知ることで、安定した繋がりのあるミックスができることをお伝えしました。けどそれはあくまで同じような曲調やジャンルの中での話で、異なるジャンルを楽曲をミックスする際にはわかりづらくて伝わらない。伝わらなければ、ただ無理にジャンルを変えているようにしか聞こえないのでお客さんの足を止めてしまう。ではどうすればいいのでしょうか。

それを解決するには、異なる楽曲の歌詞から同じワードを使っている部分を探し出し、組み合わせることをお勧めします。リリック繋ぎやワードプレイなんて呼ばれたりするDJのテクニックなのですが、異なるジャンルの楽曲をミックスする際にこのテクニックを用いるとお客さんに伝わりやすくすごく効果的なんです。

例えばこちらの2曲。70年代に少しの間流行ったイギリスのロックバンド、パイロットの"イッツ・マジック"は、ニューヨークのクラブでDJがピークの時間帯にかけるほどのジャムです。幅広い年齢層のお客さん(特に白人)が好む曲で、大合唱してくれますよ。そしてこの曲の次にかけたいのがリル・キムと50セントの”マジック・スティック"。

2000年代前半に流行ったこちらもキャッシーな1曲。今度はジャンル、年代は異なるのに歌詞に共通のワードがある。そうだなぁ、僕だったらこういう流れでミックスします。

(パイロット)「Oh Oh Oh It's Magic, you know Never believe it's not so It's Magic」  → (50セント)「I got a Magic Stick 〜」

てな感じで。どうです?DJって意外と深いでしょ?聞いただけではミスマッチな2曲だからこそ、「なぜこうしたのか」と説明ができるようなミックスすることで、お客さんをどんどん色んなジャンルに引き込むことができるんです。

...とはいえ少し専門的な話が過ぎたので、実際にDJミックス聞いていただいて方が理解できると思います。先日マンハッタンに構えるThe DLというクラブで僕のDJプレイを録音しました。今回公開するのはその中の一部に過ぎませんが、実際にニューヨークの現場で披露したミックスです。是非聞いてみてください。

今日も読んでくれてありがとうございました。今度もツイッターではニューヨークでの簡単な日常生活について、インスタグラムではDJやパーティーなど音楽に関する情報をお届けしたいと思っています。是非こちらのフォローも宜しくお願いします。


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