図1

フェイク・ファック・トーキョー

「三顧の礼には答えねばならんな」老人はロクロから手を離し立ち上がった。「こんな寒村に幾度も来る理由はなんだ?」作務衣姿の老人は私の前に座る。
「作っていただきたいのです。本物に見紛う至高のオナホールを」
「どこでそのことを?」
「アラカワから聞きました」
老人は顎髭をさすり、腕組みをした。「生きていたのか」
「ご健在です」
「そうか」といって、思い出に浸るように目をつむった。
「儂のオナホで自らを慰めるために使う訳ではあるまい。目的はなんだ?」
沈黙が流れる。外は深々と雪が積もり、静寂の中でパチパチと、囲炉裏の炭がはじける音が響く。
「・・・・・・無修正です」
老人は目を開き、眉をひそめ、私を睨みつける。
「正気か? この国で猥褻物陳列罪は、ほぼ極刑だぞ」
「秘策があります」
私は内ポケットから1本のディルドを取り出した。赤黒い輝きは、本物を切り出したような錯覚を起こすほどだ。
「ほぅ・・・・・・」
老人はそれを手に取ると、両手の平でその太さと質感を調べ、カリ首をつまみ、その固さを確認する。裏スジから玉の部分までを覗き、反りを見る姿は、品定めする刀鍛冶のようだった。
「我々には最高のアンドロイド職人、そしてディルド職人がおります。それで最高の無修正を作りたいのです」私は頭を床につけた。「どうかその剣を納める鞘を、作っていただきたい」
「しかし、たとえ模倣であってもサクラダモンが赦すことはないぞ」老人はディルドを置いた。「それで儂は多くの友人を失った」
「サクラダモンも所詮はAI、騙すことは可能です」
私はポケットから端末を取り出すと、サイトにアクセスし、画像を表示する。画面には目の前にあるディルドが映っていた。本来ならばサクラダモンの索敵にかかり、即座に削除されているはずだ。
「そのディルドには特殊な塗料が練り込んであるため、AIはモザイクを誤認するようになっています」
私は、液体の入った小瓶を取り出した。

【続く】

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