見出し画像

夢を与える:綿矢りさ:なぜかダークじゃないのはなぜだろう

「夢を与える」(105/2022年)

綿矢が子役、芸能モノを書くと、こうなるのか。重いようで、軽いようで、やっぱり重い。2006年作品か、ドラマ化もされている。キャステイング、ハマり過ぎですね。
主人公夕子はクオーター、幼児モデルからスタート。6歳でCMに大抜擢。その後、高校1年生の時のとある案件をきかっけに大ブレイク。しかし、闇に飲み込まれ、スキャンダルで二十歳を前に事実上の引退に追い込まれる。
ダークな物語なんだけど、どこか柔らかさを感じる。もっともっと悲惨になってもおかしくないのに、いや十分悲惨なんだけど、どこか明るさが残っている。最後に同級生がいないという最低、最悪のゴールなんだけど、そういう現実が、今までの芸能界での夕子の現実を完全に消し去ってくれたから、そう感じるのだろうか。
もし、彼がいて、彼と話して、その場は少しだけでも救われる、なんて結末だったら、パーフェクトなダークサイドに陥っていたかも。

芸能人という仕事をする人の感情を実に正確に描いていると思いました。毎日がお祭り状態から一気にリアルに戻る、そしてまた祭に戻っていく。彼らにとっては、どちらも現実なんですよね。祭も現実、平常も現実。非芸能人である一般の人たちは、祭の状態を求めて芸能人に接し、高揚感を感じ、満足して、また平常に戻るけど、芸能人はそれが出来ません。

芸能人に向いている人は2タイプ。祭と平常をストレスなく自由自在に行き来できる、切り替えられる人と、平常もお祭り状態のテンションで居られる人。それ以外の芸能人は、ギャップを埋めるために苦しみ、消えていくのです、本作品の主人公、夕子のように。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?