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「2022年個人的ベストアルバム」

時が進むのは早いもので、今年もいろんなメディアや有識者の「今年のベストアルバムTOP〇〇」が発表される時期となりましたね。

個人的な話ですが、2022年は自分の人生の中でも音楽に割いた時間がかなり大きかったような気がします。音源を聴くのはもちろん、ライブやコンサート、フェスといった音楽イベントに参加する機会も多く、自身の軽音楽活動もそれなりにこなし、音楽に関してはかなり充実していた1年でした。もしかすると、今後の人生においてここまで音楽と向き合うことができる年というのはもう訪れないのかもしれませんね。

音楽については基本的にリスナーであり、有識者でもなんでもないのですが、人並みには音楽を聴いてきたと思うので、その中で完全主観ではありますが「良いな〜」と思った今年リリースのアルバムをランキング形式で発表したいと思います。

この記事を書く前までは「大体20作品くらいにまとまるのかなぁ」と思っていましたが、いざ選び始めるとなるとなかなか難しく、最終的に絞りに絞って50作品になってしまいました。卒業論文ばりの長文(それよりも長いかも)になってしまうとは思いますが、悪しからず。

この記事を最後まで読んでくれた忍耐力のある方、是非個人的なベストアルバムを各種SNSのDMなどで教えてくれると嬉しいです!


それでは、いってみましょう。



50位:「Patch」/  warbear

俺たちの青春「閃光ライオット」の英雄 Galileo Galilei のフロントマンであるザキ兄こと尾崎雄貴によるソロプロジェクト「warbear」。アルバム通じてザキ兄が紡ぐ言葉とメロディの美しさが際立った作品だなと思いましたね。10月には Galileo Galilei の再始動も発表されて、全俺と閃光ライオットの亡者たちが揃って泣いたわけだが、Galileo Galilei、BBHF、warbearと3足の草鞋を履きこなすザキ兄、控えめに言って人間離れの所業である。


49位:「Memories & Remedies」 /  曽我部恵一

サニーデイ・サービスや曽我部恵一BAND、ソロプロジェクトに加え、自身のプロデュースするカレー店やレコードショップのオーナーとして、前述のザキ兄よりも草鞋を履きまくっている曽我部さんがコロナ療養中に制作したというアンビエントインスト作品。心の奥底をそっとタッチしてくれるような音が耳を支配する。くるり岸田さんが「曽我部さん背中遠すぎ」とボヤくのも無理はない。曽我部さんが経営するカレー店「八月」のあいがけキーマは絶品なので下北沢に立ち寄った際は是非ご賞味あれ。


48位:「Everything I Know About Love」 /  Laufey

Laufey(レイヴェイ)を知ったきっかけはカルチャーを愛する元アイドルこと長濱ねるの Instagram のストーリーズだった気がする(カルチャーへのアンテナの張り方どうなってるんだ?)。実は私も Sigur Rós や Björk といったアイスランドのアーティストが好きなので、8月の Sigur Rós 5年ぶりの来日公演にはきちんと足を運んだし、一時期アイスランドへ1人旅をしようかと企てていた時期もあった(エアチケットのあまりの高さに断念せざるを得なかったが)。そんな私自身のバックグラウンドと Laufey がアジアの血を継いでいるということもあってなのか非常に耳馴染みが良く、クラシックやジャズを基調としたベッドルームポップで構成されるこのアルバムの音楽は最上級の癒しを齎した。ちなみに1999年生まれ。同い年… 才能……


47位:「Betsu No Jikan」 /  岡田拓郎

「森は生きている」時代から前衛的なロックとポップスの融合によってリスナーの支持を集めてきた岡田拓郎が「とにかく音にフォーカスする」という着眼点でリリースした作品。一応バンド時代から聴いているものの、なかなか自分には解釈が難しいと感じる曲もあり、今回のこの作品も全て自分なりの解釈が完了したとは言い難い。それでもこの作品で彼が奏でるジャズ的なメロディーによって自身の平穏が保たれているなと実感する機会は多々あったと思っている。


46位:「Hold The Girl」 /  Rina Sawayama

SUMMER SONIC 2022 でのベストアクトにMCを含めた彼女のパフォーマンスを選んでいる人は少なくないはず(かくいう私はというと、Beabadoobee のライブ後の空腹に耐えきれず昼食を優先してしまうという大失態を犯してしまいました)。ダンスミュージックだが、そこには彼女自身が経験したアイデンティティによる差別に由来した皮肉や怒りが表れており、現代社会が抱える性に関する大きな問題を題材とした「This Hell」は今年のベストトラック候補に挙げられるのではないかと思う。


45位:「LOVE ALL SERVE ALL」/  藤井風

昨年のNHK紅白歌合戦でとんだサプライズを披露し、紅組大トリの MISIA までも喰ってしまった藤井風、今年も相変わらず素晴らしい活躍である。CMタイアップやバラエティ番組の出演でお茶の間の認知度はもちろん、「死ぬのがいいわ」のヒットにより、世界的な評価も爆上がりした彼のニューアルバムは、「きらり」「へでもねーよ」などのアッパーなキラーチューンを盛り込みつつ、最後は大名曲「旅路」で締める構成でまさに圧巻の一言。ただ、音楽だけでこんなにも才能を発揮しているのにも関わらず、ビジュアルが良すぎるせいでF3層からの支持が異様に厚く、変な売れ方をしているのがちょっと気になるが。


44位:「Mr. Morale & The Big Steppers」/  Kendrick Lamar

10年代 Hip-Hop シーンの王者ケンドリック・ラマーの自分探し的な側面が垣間見えたような作品。2017年リリースの大名盤「DAMN.」のせい(?)でニューアルバムのハードルが爆上がりしていたが、その完成度の高さによって期待値は上書きされた。それでもこの順位に落ち着いたのは、2部構成の前半9曲はめちゃくちゃ好きだけど後半が「Saviour」以外若干尻すぼみ感があるというか何というか。何はともあれケンドリックのフロウってめちゃくちゃカッコいいよね。あとはビートが心地良い。今年のグラストンベリーで披露した「Saviour」のパフォーマンスが YouTube に up されているので必見(多少グロいので注意)。20年代も変わらず彼の時代なのだろうか。


43位:(エン)/  RYUTist

Twitterで話題になっていた新潟県新潟市を拠点とするアイドルグループの作品なのだが、このアルバムに携わっている人たちがとにかく凄まじい。全ての楽曲派アイドルファンがスタンディングオベーションしただろう。君島大空や石若駿、柴田聡子やパソコン音楽クラブ、蓮沼執太やウ山あまねなどが、彼女たちに良質で自由な音楽を提供してくれている。私としてはもっとメジャーなシーンでもこういうことをやってくれよと思っているが、なかなかそうはいかないのが現実です。


42位:「ぼちぼち銀河」/  柴田聡子

シンプルに見せかけた歌詞とメロディなのに、とても深みにハマってしまう。聴けば聴くほど引き込まれていく THE スルメ盤の1枚。彼女のインタビュー記事を読むと、自身のバックグラウンドにはディアンジェロやユーミンがいるとのこと。納得である。M2「雑感」の歌詞にある「私ほど運転が上手い人もなかなかいないです」という表現が狂おしいほど好きなのは私だけじゃないはず…


41位:「Pompeii」 /  Cate Le Bon

私はどうしてもこういうドリーミーなサウンドの音楽を好きになってしまう傾向になりがちにあるようである。2019年に発売された前作「Reward」と比較してもよりミニマルかつ内省的なものになっているような印象で、彼女自身の儚げだがどこか飄々としている声色に不穏なサックスの音が乗っかることで、独特な妖艶さを醸し出している1枚。


40位:「A Light for Attracting Attention」/  The Smile

我々根暗の友達こと Radiohead のトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドが、 Sons of Kemet のトム・スキナーと共に新たに組んだバンド The Smile の1st アルバム。トム・ヨークのヘロヘロな歌声とジョニーの荒々しいギターはサウンド的には Radiohead のギターロックの大名盤「The Bends」に近しいものを感じる。本来はもっと上位にランクインしてもおかしくないクオリティではあるが、この順位に落ち着いた。理由としては、個人的に「Radiohead としてこの作品を出しても良かったんじゃない?」感があったため。


39位:「MAYBE IN ANOTHER LIFE…」/  Easy Life

SUMMER SONIC 2022 2日目の個人的ベストアクトに認定されている Easy Life のニューアルバム。イギリス出身のバンドではあるが、俗に言う「UKロック」とは真逆で、Hip-Hop や R&B、エレクトロニカやラテンミュージックといった現代的なサウンドの作品をリリースしている。前作「life's a beach」が素晴らしかっただけに今作はどうなのかと期待を寄せていたが、今作も前作と遜色ない完成度だと思う。ぜひアルバム通しで聴いてほしい。


38位:「Florist」/  Florist

世の中にまた1つ、傑作アンビエントが誕生した。フィールドレコーディングで得られた虫の鳴き声が曲中で非常に有効的に使用され、そこにザラっとした質感のサックスとシンセのミステリアスでメロウなサウンドが煌びやかに鳴っている。アコースティックギターと Emily の声の相性も抜群だ。空気の冷たい秋の夕暮れの田舎道をポケットに手を突っ込んで散歩しながら聴きたいアルバムである。


37位:「プロム」 /  Cocco

今年、自身の YouTube でメディアでは今後顔を出して歌わないことを発表してから初めてのアルバム。歌番組で「強く儚いものたち」ばかり歌わされることに疲弊しきっていると Twitter で吐露していたが、「光溢れ」は彼女の新たなキラーチューンになってもおかしくない完成度を誇っているし、「嵐ヶ丘」は「カウントダウン」や「焼け野が原」を彷彿とさせる。過去には沖縄出身というアイデンティティを隠そうとしていた彼女がその呪縛から解放され、沖縄民謡の代表曲「てぃんさぐぬ花」をカバーしているのも良い。


36位:「ほぼゆめ」/  kabanagu

このアルバムを聴いた時、あの頃千円札を握りしめて毎週TSUTAYAでCDを5枚レンタルしていたこととか、通学途中の電車の中で友人と当時好きだったアイドルについて延々と話していたこととか、そういった過去の思い出やノスタルジーを引っ張り出し、それをぶっ壊してくれるような、そんな感覚に陥った。あのどうしようもなかった学生時代を蘇らせてくれるような、そんな魅力がこのアルバムにはある。そしてこのアルバムを聴いた今年の夏も思い出に変化していく…


35位:「Whatever The Weather」/  Whatever The Weather

UKエレクトロの次世代スター Loraine James の別名義での活動であるが、これがかなり秀逸なアンビエントエレクトロニカであった。曲名は全て温度で表示されているため、わかりやすいパラメーターで彼女のニュアンスの理解がより簡単にできるよう工夫されている。このアルバムがリリースされてからその日の気温を調べ、それに合致する曲を聞くというのを何度したことだろう。20年代のエレクトロニカの新たな名盤の誕生をリアルタイムで経験できたのは光栄なことである。


34位:「The Overload」 /  Yard Act

サウスロンドンのポストパンク・ムーヴメントの代表的なバンド Yard Act による1st アルバム。ボーカルの James Smith が書く社会風刺とアイロニーたっぷりの歌詞と攻撃的なサウンドを聴いているだけで、まるで自分が最強になったのだと錯覚できる。このアルバムを聴きながら夜の街を全速力で走り抜けて夜勤に向かった日々がもはや懐かしい。


33位:「Hellfire」/  black midi

UKインディーロックシーンの最注目バンド。マスロック、プログレ、ポストパンクなどのジャンルを融合させており、混沌の中にもインテリ性が垣間見えるアーティスト。昨年リリースした「Cavalcade」が各メディアから高い評価を得たのも記憶に新しいが、こんなにも短いスパンでこのクオリティのアルバムを連発できる彼らの才能には畏敬の念を抱かざるを得ない。12月には待望の来日を果たし、そのカリスマ性を遺憾無く発揮していた彼らの次回作も楽しみである。


32位:「Search + Destroy」/  Luby Sparks

海外のインディーシーンに多大なる影響を受け、2018年にシューゲイザー・ドリームポップの大名作を世に放った Luby Sparks の久々のアルバム。今作はどちらかと言うと1曲ごとの強度が高い反面、アルバム通しで聴くとバラバラな印象。それでも相変わらずキラキラとしたサウンドが心を浄化してくれる。メンバーがインタビューで語った「真の意味でオルタナティブな音楽」を体現している作品であることには間違いない。


31位:「Chilli Beans. 」/  Chilli Beans.

今年最もライブを見たアーティストかもしれない。SUMMER SONIC や SWEET LOVE SHOWER でもオープニングアクトながら圧巻のパフォーマンスを披露し、その場にいた観客を一瞬で熱狂の渦に巻き込んでいた次世代ガールズバンド Chilli Beans. だが、音源も超オルタナで自由度が高くカッコいいというチートっぷり。「School」や「lemonade」は日本のロック史に刻まれるべき大名曲だと思うし、チャットモンチーやねごとに次ぐ骨太オルタナバンドの系譜として今後が楽しみなバンド。


30位:「風が凪ぐ」/  Uztama

SUPERCAR の「スリーアウトチェンジ」や NUMBER GIRL の「SCHOOL GIRL BYE BYE」、Frank Ocean の「Blonde」など、私の中で「存在しないはずの夏の淡い記憶を夢の中で思い出させてくれるようなアルバム」というのが数多く存在するのだが、この作品もそのリストに追加されたようだ。Uztama氏がこのアルバムを制作するにあたって影響を受けた楽曲のプレイリストを note に公開しているのだが、Sigur Rós や BBHF、THE 1975 や銀杏BOYZ、Porter Robinson や JYOCHO… 「もうこれ俺のプレイリストじゃん!」と言わんばかりのラインナップ。「陽炎」に関して言えば、「ピンポン THE ANIMATION」のサントラ(牛尾憲輔作)に影響されたという徹底ぶり。もうUztama氏=俺と言っても過言ではないよね!(過言だよ)


29位:「Sometimes, Forever」/  Soccer Mommy

前作「color theory」のドリーミーな音楽像からは姿を変え、よりローファイ感が増し、シューゲイザー要素も加わった模様で、おそらく前作の方が好きという人と今作の方が好きという人で評価が真っ二つになるのかな?という印象。私はというと「circle the drain」や「Lucy」を擁す前作の方が微々たる差だが好みかも。とは言うものの、収録曲全てにおいてメロディセンスが爆発しているし、サウンドから幻想的でメランコリックな雰囲気がドバドバ出ている今作も名盤と呼んで間違いのない雰囲気の作品であることに変わりはない。


28位:「MY REVOLUTION」/  ゆうらん船

1st が各方面で絶大な人気を誇ったゆうらん船の、ファン待望の 2nd アルバム。フォークとサイケを融合したようなサウンドが曲を引き立て、内村イタルの柔和なボーカルによってより親密性が増す。多彩なアレンジの中でもピアノの音が非常に印象的で心地良く、全てを優しさで包み込んでくれるような、聴けば聴くほどその深みにどっぷりとハマり込んで離さない捨て曲一切なしの珠玉の1枚。


27位:「SOS」/  SZA

先行シングル「Good Days」がリリースされてから、公開を待ち望んでいた SZA の新譜。前作の良い意味でのシンプルさは影を潜めたが、K-POP ヨジャグルのような強固なビートに乗っけるガチガチのフロウとは対照的な緩いビートに乗せる自由自在なフロウと気怠げなボーカルはそのままに、1曲1曲が全て良質な R&B (これは果たして R&B なのか?という曲も多々あるけど)で、聴き応え抜群のニューアルバムである。R&B とラップの可能性は無限大であることを証明した名盤。


26位:「言葉のない夜に」/  優河

このアルバムに加え、前述の「LOVE ALL SERVE ALL」と「プロム」、そして中村佳穂の「NIA」が同時にリリースとなった3月23日は新譜を聴くので忙しくも幸せな日でしたね。その日のリリースの中で私の1位に輝いたのはこの作品。昔 RADWIMPS の野田洋次郎がラジオで Aimer の歌声を「毛布」と喩えたことがあったが、この人の場合は「膝掛け」のように素朴だが柔らかく温かみの感じられる歌声であると言う印象。サウンドに関しても演奏はもちろん、アレンジや音響にダイナミックだが繊細な配慮がなされていて、至高のオルタナティブ・フォークを形成している。ひとりぼっちの夜のお供にこのアルバムを聴きたい。


25位:「NO THANK YOU」/  Little Simz

12月12日に緊急リリースが決まった Little Simz の新作。にしても、12月に名盤出過ぎじゃない?この記事を書き始めたのが12月初頭だったので、年ベスの更新と編集が大変なのよ。前作「Sometimes I Might Be Introvert」のような圧倒的名盤感みたいなものは失われてしまったものの、流れるような品のあるフロウは今作でも健在で、盟友 Cleo Sol の甘美な歌声も最高の一言に尽きる。前述の「SOS」にも負けない Hip-Hop R&B の誕生だ。2022年、この手のアーティストの新譜大豊作すぎる…


24位:「BIG WORLD」/  MONDO GROSSO

坂本龍一や田島貴男などのレジェンドに加え、どんぐりずや CHAI などのニューカマーを含めた豪華なゲスト陣を迎え制作した、大沢伸一の遊び心満載のニューアルバム。ゲストの新たな一面を引き出す大沢氏の手腕が遺憾無く発揮されている。おそらく2022年個人的ベストトラックのトップ3に入るであろう「STRANGER」は、「齋藤飛鳥 + シューゲイザー」の互換性を世間に発信し、過去に「みんなが思い描いているようなアイドル像は私には無理だ」と言った彼女の、アイドルとは違う「表現者」としての大いなる可能性を存分に提示した作品と言っても過言ではないだろう。彼女の卒業ソロ曲はこっちで良くない?とぶっちゃけ思っている。


23位:「22 Make」/  Oh Wonder

ロンドンのエレクトロ・ポップデュオが昨年サプライズでリリースした「22 Break」の続編の今作。曲調としてはエレクトロ・ポップというジャンルが納得のシンセサウンドが鳴っているが、「True Romance」や「Fuck It I Love You」などはどちらかというとキャッチーなオルタナティブ・ポップというイメージ。しかし、「Magnificent」や「Apollo」では極上のチルサウンドを形成しており、音楽性の幅の広さが垣間見える。前作と合わせてアルバム通しで味わいたい作品。


22位:「The End of Yesterday」/  ELLEGARDEN

待ちに待った ELLEGARDEN の新譜は思い出補正も含めてこの位置に落ち着けることにしました。デロリアンに乗って2015年の自分に「2018年にエルレは復活して、2022年には新譜を出すよ」と伝えても多分信じないんだろうなぁ。そんな私の青春をカラフルなものにしてくれたエルレだが、どうしても過去に残した名曲たちの存在が大きすぎるが故に果たして新作を良いと思えるのか?という不安があったが、先行リリースされた「Mountain Top」を聴いてそれが杞憂だったと思い知ることができた。アマプラで配信されたドキュメンタリーも公開当日に鑑賞し、気がつくと涙を流していた。「Strawberry Margarita」みたいな曲も未だに作れることを証明してくれたし、まだまだいろんな人の青春を彩ってくれる奇跡のようなバンドであることに変わりはないようだ。2018年の復活の時に幕張の音漏れを聴きに行って以来チケットが当たらずライブを見ることができていないので、来年こそは生で彼らを感じ、その場にいる人と感情を共有したい。

21位:「Wet Leg」/  Wet Leg

UKロックシーンに突如現れ、瞬く間に世界を席巻した2人組。「悪趣味」と形容されるコンプラ上等の攻めまくったユーモラスな歌詞は、世の中の鬱屈とした空気を吹き飛ばす起爆剤の役割を担う可能性を大いに感じさせる。「Chaise Longue」や「Ur Mum」など、同じレーベル所属の Arctic Monkeys「Do I Wanna Know?」や Franz Ferdinand「Take Me Out」のような UKロック特有の「みんなでシングアロングできるギターリフ」の系譜を引き継ぐような楽曲も多数含まれており、今後さらにアーティストとしての地位を高め、各国のフェスでヘッドライナー級の役割を与えられることは必然だろう。来年には来日公演も控えており、日本での人気も確立しつつある大注目のバンドだ。


20位:「caroline」/  caroline

ポストロック〜ミニマルミュージックの未来の担い手は彼らに託された。ロンドン出身の8人組即興音楽集団の記念すべきデビューアルバム。牧歌的な柔らかさがありつつ、どこか退廃的なムードを醸し出す彼らの音楽は唯一無二だ。M1「Dark Blue」の捉えどころのない音の反復の中に聴こえてくる印象的なストリングスは、暗闇と静寂の中に現れた唯一の光、曇り空の中に垣間見える完璧な青空のようである。M5「messen #7」ではフォーキーなアレンジも見せ、彼らのアプローチの広さが窺える。彼らの音楽性を分析しようとしても、どうしても陳腐な表現になってしまうのは致し方ない(そもそも音楽を言語で表現すること自体ナンセンスなのかもしれないが)。このアルバムは、日々の暮らしの中の悲しみと憂いの中に希望を見出す手段としてのを役割を果たしているのかもしれない。


19位:「Harry's House」/  Harry Styles

One Direction のメンバーとしてこの上ないほどの名声を得た Harry Styles の3作目のソロアルバム。タイトルから細野晴臣「HOSONO HOUSE」へのリスペクトをビンビンに感じる。もしかすると、この世界的なパンデミックがなければこのアルバムは誕生していなかったのかもしれないと彼は語っている。「家」をコンセプトに、彼が自身と向き合い、昔からの仲間たちとレコーディングを行ったとインタビューで答えている通り、非常に会話的でリラックスした雰囲気の楽曲が並んでいる。世界的にヒットした「As It Was」は説明不要の名曲だし、アルバムの中で私が一番好きな曲「Matilda」は印象的なクラシックギターのリフが全てを包み込んでくれる。YouTube の人気コンテンツ「THE FIRST TAKE」に海外アーティストとして初めて参加し、国内でもその人気の高さを証明した Harry。一体どこまで高みに上り詰めるのだろうか。彼の今後のキャリアが楽しみで仕方がない。


18位:「Fossora」/  Björk

「Björk が Björk している」このアルバムを初めて聴いた時、大リーグのイチローに対する実況ばりの感想が出てきた。前述の Laufey で書いた通り、私をアイスランド音楽の世界に誘ったのは Sigur Rós と Björk の2組であったため、このアルバムの期待値も必然的に高いものであった。「生」と「死」、「破壊」と「再生」という  Björk の Björk っぽいテーマはそのままに、「Homogenic」や「Vespertine」のようなエレクトロサウンドは影を潜め、実験的なボーカルやコーラス、木管楽器を多用したサウンドからはよりオーガニックな室内楽的響きを感じることができる。前作「Utopia」はちょっと重苦しい雰囲気があったので個人的にはあまりハマっていなかったのだが、今作は Björk のディスコグラフィーの中でも好きな方であった。来年は「orcestral」と「cornucopia」という2つの異なる形態での来日公演を果たす彼女。何としてでも目撃しておきたいが、チケット代が大学生に優しくない価格なので、どうしたものか。


17位:「Ants From Up There」/  Black Country, New Road

昨年と同様今年もフジロックを YouTube の配信で鑑賞していたわけだが、WHITE STAGE での BC, NR のパフォーマンスは印象に残るものであった。このアルバムが発売される数日前にメインボーカルのアイザックが離脱し、新たな体制での来日となったが、アイザックへの敬意からこのアルバムを含めた過去の曲を一切披露せず、全て新曲のみでセットリストを構成し、ボーカルは残ったメンバーが交代交代で務め上げた。中心人物を失ってもこのバンドを守り続けていくんだという気概を感じるステージに感動しっぱなしだった。そんな彼らのニューアルバムは、1st を大幅にアップデートし、より様々なジャンルの音楽からアプローチし複合させた斬新なサウンドを聴き手に親近感が湧くようなアレンジに落とし込んだ、インテリジェンス味溢れる1枚となった。M1「Intro」から期待感を煽り、「Chaos Space Marine」で一気に解放されるようなアルバムの構成も完璧。新たなスタートを切った彼らも楽しみではあるが、いつかアイザックがバンドに戻ってきた時にこのアルバムの曲を披露してくれることを願う。


16位:「卵」/  betcover!!

2022年の最後のビッグサプライズであった、betcover!! の最新作のリリース。これまでの作品に関しては「betcover!!、いいかも?」くらいの感覚で一通り全部聴いていたのだが、今回のアルバムで自分の中の評価が「betcover!!、やべえかも…」という段階にランクアップした。全て一発録りで収録された今回の10曲は数多のライブで磨かれた演奏メンバーの楽器のスキルが爆発している。カオスとも形容できてしまうサウンドメイキングのユニークさ・アナーキー具合はこれまでの作品と同様だが、今作は比較的取っつきやすいような気もする。曲に乗せられる柳瀬二郎の歌謡曲的な歌唱は楽曲に哀愁やシブさを加えており、betcover!! の作品になくてはならない重要な要素だ。M2「超人」で見せる、最初の激しい曲調をブツ切りにしてのらりくらりとしたブルージーな曲に展開していくドSっぷりには痺れた。ライブで化けるんだろうなという曲も多いので、来年こそは彼らのライブに足を運んでみたいものだ。


15位:「The Car」/  Arctic Monkeys

00年代後半から10年代前半のUKロックの覇者アクモンの通算7作目となるアルバム。おそらく 1st や 2nd のようなギターフレーズがバンドをリードしていくダイナミックかつ疾走感のある若気の至り満載の曲ではなく、5th「AM」以降で見られる重厚感漂う壮大かつ無骨なサウンドの曲で構成されるんだろうなという大方の予想通り、今作もアラフォーに突入した Alex Turner の大人の色気が爆発しており、まるでA5ランクのステーキ重のような佇まいの作品に仕上がっている。かといって前作と同じなのかと言われてみればこれが全く違う。ピアノが主体だった前作から打って変わって今作では弦楽器主体の甘美なサウンドが中心となり、コーラスと相まってよりリッチで柔らかな印象を受ける。ジャケットで表現されている通りロードムービーを想起させる10曲で、聴き手の耳をがっちり掴んで離さない。また、「Dance Floor」「Dancing Shoes」「Dance Little Liar」といった曲があるように、アクモンの楽曲テーマとして「クラブやダンスシーンへの視点」というのがタイトルから垣間見えると思うのだが、今作でも「There’d Better Be A Mirrorball」でそれを達成している。来年3月にこのアルバムを引っ提げて9年ぶり、単独としてはなんと13年ぶりの来日を果たす。頼むからチケットご用意されてくださいな。


14位:「Thirst」/  DYGL

様々な海外アーティストの来日公演でゲスト出演し、もはやオープニングアクト請負人の地位を確立しつつある DYGL の躍進の 4th アルバム。Arctic Monkeys や The Stone Roses、The Smith や The Libertines をルーツとしていると公言している通り、並行して活動していた「Ykiki Beat」時代の音楽を含め、彼らの楽曲からは海外のインディーシーンからの影響が色濃く出ている。「I Wish I Could Feel」では Dinosaur Jr. や Sonic Youth を彷彿とさせるノイジーなサウンドの中にマイブラ的な繊細なシューゲイザー要素が感じられるし、「Phosphorescent」のローファイなサウンドは何の捻りもない例えだが Pavement を思わせる。かと思えばエモラップの楽曲「Salvation」のようなアップデートされた音楽もきちんと織り込まれており、DYGL というバンドをより強固なものへとしている印象。完全セルフプロデュースということが納得のオルタナティブの名盤だ。足を運んだ Say Sue Me の来日公演でゲスト出演していた彼らだが、ちょうどこのアルバムのリリース日ということもあって生で新曲たちを聴けたのはデカい。彼らこそが現代の日本の音楽シーンで最もロックと真摯に向き合っているバンドと言って間違いないだろう。


13位:「Janky Star」/  Grace Ives

ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活躍するシンガーソングライター Grace Ives の新作。「2nd」というややこしいタイトルの 1st アルバムでは彼女の経験に基づく個人的な感覚を主題とした楽曲が並んでいたが、今回はそういったものから一旦離れ、「生命」や「宇宙」といったより広いテーマを彼女らしい繊細な視点から言及する作品となっている。シンセサイザーを基調としたミニマルなサウンドにギターとピアノを加え、静謐ながらもダイナミックなボーカルによってその幅を広げている。Sky Ferreira、Yves Tumor、Charli XCX などのサウンドを手がけた Raisen のサウンドプロデューシングの手腕も光っており、彼女の柔軟なボーカルが最大限生かされた2022年の中でも頭一つ抜きん出た10曲27分のコンパクトでエネルギッシュな究極のポップ・ミュージックアルバム。彼女の自己形容の旅はまだまだ続いていきそうだ。


12位:「The Last Thing Left」/  Say Sue Me

韓国のインディーシーンを代表するオルタナティブ・ロックバンドであり、ドラマーの死など様々な困難を乗り越え今年結成10周年を迎えた Say Sue Me のアルバム。Netflix で公開されている韓国ドラマ「わかっていても」のサウンドトラックとしてリリースされた「So Tender」が大ヒットし世界的な評価も得ているバンドで、ライブを見ていても若い世代にウケが良いんだなぁという印象。そんな彼らの最新作は、「Around You」や「No Real Place」などの楽曲で彼らの特徴であるサーフロック、サーフゲイザーとも形容される疾走感溢れる気取らないロックを提供したかと思えば、「To Dream」や「Photo of You」ではノイジーで美しいギターの轟音を鳴り響かせており、強さの中にもギュッと握りしめたら消え去ってしまうような儚さを感じられる。12月の来日公演に行ったのだが、缶ビールを飲みながら楽しげに演奏をする姿に、自然と体が動いてしまった。アジアのインディーシーンにはまだまだ発掘されるべき Say Sue Me のようなアーティストがたくさんいるはずだ。


11位:「Dragon New Warm Mountain I Believe In You」/  Big Thief

海外の音楽メディアが軒並み「2022年のベストアルバム」に挙げている通り、Big Thief のニューアルバムは今年随一の大傑作だろう。20曲80分、3分未満の曲はわずかに3曲のみという、レコーディングの期間がわずか5ヶ月とは到底思えないほどのとんでもないボリュームで、正直なところ、アルバムを通して聴くと疲労に近い感覚を覚えてしまう。このアルバムの最も正しい聴き方は、ハイクオリティな楽曲たちを1曲ずつリピートして聴くことなのかもしれない。インディーロック、カントリー、フォークなど様々なジャンルの音楽が盛り込まれており、M1「Change」は変わってしまうということを、たった3つのコードと変わらない進行という真逆の要素でのびのびと歌うハートウォーミングなカントリーソングだし、M7「Little Things」はまるでアコギでシューゲイザーをやってしまいました的な実験的で勢いのある音楽。M8「Heavy Bend」から続く不穏な空気の冷たい音楽もどこか北欧の香りが漂っていて非常に良い。「安寧」と「混沌」を彼らの内側から溢れてくる自由な発想を信じて変に尖ることなく表現された、後世に語り継がれるであろう大名盤だ。






さて、ここまで読み続けられた人はかなりの強者かド変態だと思います。
満を持してトップ10を発表していきたいと思います。

正直、これまでの順位は曖昧に付けたものも多く、後で見返してこっちの方が高かったなぁなんて後悔すると予想していますが、以下で記述する10作品に関しては割と即決レベルで選出できたものばかりで明確に順位も確定しており、きちんと納得できるランク付けとなりました。


それでは、どうぞ。








10位:「Beatopia」/  Beabadoobee

2019年に NME が発表した期待の新人として Billie Eilish と共にその名を全世界に轟かせたフィリピン生まれロンドン育ちの Beabadoobee。2020年には10代の葛藤を描いた若さ全開の名盤「Fake It Flowers」、2021年には同じレーベルで自身も大ファンだという THE 1975 の Matty のゲスト参加も話題となった EP「Our Extended Play」を立て続けに発表し、国内でもその人気の高さを窺わせた彼女のニューアルバムは、ネガティブな一面が多かったそれまでの作品とは異なり、ポジティブさの際立つ作品となった。「Talk」や「10:36」のように前作を踏襲したような純粋なUKギターロックも織り込みつつ、「Sunny Day」や「The Perfect Pair」、「Lovesong」のようにアコースティックギターの音が印象的な R&B やボサノヴァといったジャンルの音楽にも挑戦しており、「新しいことをやってみたかった」という彼女の思いが形となった作品だろう。今作でも3つの曲で Matty との共作を実施しており、レーベルメイト同士の絆も垣間見える。SUMMER SONIC 2022 でも MARINE STAGE でフレッシュかつ堂々としたパフォーマンスを見せた彼女の躍進は止まらない。


9位:
「roman candles 憧憬蝋燭」/  Laura day romance

早稲田大学のコピーバンドサークル「ロッククライミング」のメンバーで結成された Laura day romance の最新作。メンバー自身、昨年のサニーデイ・サービスの傑作アルバム「いいね!」に影響されたとインタビューで答えている通り、往年の彼らのようなネオ・アコースティックに近い音楽性であり、都会的でどこか懐かしさを感じさせるようなサウンドを奏でている。これまでの作品は J-Pop に近い形のロックの楽曲が多く、痒いところに手が届かないんだよなぁ感が個人的にあったのだが、このアルバムによって何か大きな殻を破ったような印象を受けた。過去に日本の音楽シーンを席巻し、現在では Ginger Root を筆頭にリバイバルブーム真っ盛りの「渋谷系」をよりフォーキーにしたような音楽をベースに、ボーカル井上花月の Phoebe Brigers や Arlo Parks に影響を受けたという優しさと憂いを含んだ微ハスキーな歌声と浮遊感のあるギターフレーズが煌びやかに鳴り響いている。ちょっとした散歩のお供に、部屋で1人まったりしたい時の BGM に、様々なシチュエーションにピッタリのエバーグリーンな名盤である。


8位:「God Saves The Animals」/  Alex G

Frank Ocean の「Blonde」への参加によりその知名度を上げ、現役最高とも評されるアメリカのペンシルベニア州出身のSSW、Alex G の最新作。様々なアーティストとのコラボレーションにより制作されたこのアルバムは、虚構と現実というフィルターを通じて彼自身の経験を描いた楽曲が多数収録され、アルバムを通して彼の信仰心や祈りが表れている。ある特定の宗教を強調するのではなく、むしろ普遍的かつシンボリックなフレーズを用いることで、リスナーの解釈に自由度を与えている。シンプルなギターリフにも関わらずゴージャスで温かみのあるフォークロックで、M1「After All」や M3「Misson」などで見られる滑らかな高音のハーモニーを聴くだけで、今作のテーマである普遍的な信仰心とあらゆることからの許しをビンビンに感じることができ、涙が出そうになる。M5「No Bitterness」では現代のエモサウンドでこのアルバムの大きな主題を表現しており、音楽性の面でもジーニアスな一面を見せる。動物とオートチューンによる治癒力を信じる彼なりの信念が提示された珠玉の名作だ。


7位:「Air Guitar」/  Sobs

今年の個人的ベスト・オブ・アジアンアーティストアルバムは彼らの作品に決定しました。シンガポール出身の3ピースバンド。昨年、Sobs のメンバーも所属する同郷のシューゲイズ・ドリームポップバンド Subsonic Eye がタイムレスな名盤「Nature of Things」を発表し、多くの音楽ファンや批評家たちの心を踊らせたわけだが、今年も Sobs によってますますシンガポール音楽シーンの虜にされた人も多いのではないだろうか。Subsonic Eye が THE アジアンインディーといった音楽であるのに対し、Sobs はどちらかというと欧米圏寄りの音楽を奏でている印象。M1「Air Guitar」や M2「Dealbreaker」は正にベッドルーム・シーンから誕生した瑞々しさ全開のドリームポップサウンドで、まるでお菓子の家に住んでいるようなテイストを感じられ、無意識に踊り出してしまうような雰囲気を纏っている。M4「Friday Night」は 100 gecs や underscores に代表される、現代のネット社会を投影したかのようなハイパーポップサウンドでアウトロを構成しており、古さやマンネリ感を微塵も感じさせない。これから先の時代、アジア圏の音楽が発展し世界を席巻していく一部始終を見逃してはならない理由がこのアルバムから感じられる。


6位:「our hope」/  羊文学

SUPERCAR が解散してから数年の時を経て誕生した日本を代表するシューゲイザーアイコン羊文学がまた強いアルバムを発表した。彼女らの彼女らたる要因である、3ピースという特徴を活かした余白が多いともとれる必要最低限な音で掻き鳴らすシューゲイザー・アンビエントといったサウンドは、己の不安定な部分を剥き出しにして訴えかける声なき声のようにも聞こえる。インディーズ時代に発表した「若者たちへ」、そしてメジャーデビューアルバムである「POWERS」によって羊文学の音楽性というものは確立されたため、次回作は彼女たちらしさを失った作品になるのではないかという不安もあった(同様のアーティストで SUPERCAR ときのこ帝国がいるが、前者がエレクトロニカへの転換により大成功を収めた一方で、後者はメジャーデビュー後にセルアウトを意識した作品ばかり作るようになってしまったという経緯があるため)。しかし、羊文学は今作でも「若者たちへ」から繋がる系譜をきちんと踏襲し、羊文学というブランドをより強固なものへと押し上げたのだった。M4「電波の街」では Joy Division、M10「OOPARTS」(名曲!)では SUPERCAR といった過去の偉人たちをリスペクトしたオマージュも見せ、高い音楽偏差値も発揮した。今作でも素晴らしい景色を見せてくれた羊文学。次のアルバムでは一体私たちにどんな光景を見せてくれるのだろうか?


5位:「Household Name」/  Momma

このアルバムは本当によく聴いた。ドライブやアルバイトの帰り道、東上線を寝過ごして森林公園駅から自宅最寄り駅まで歩いて帰った時などに必ずといっていいほど流れていた。M2「Speeding 72」、M3「Medicine」、M5「Motorbike」で見られる印象的なギターリフとローファイなサウンドは、Pavement や Pixies、 The Smashing Pumpkins を思わせるような 90年代 US オルタナシーンの風貌を纏っており、その年代のカルチャーが好きな人にはたまらないノスタルジック万歳!な作品に仕上がっている。アートワークも90年代をテーマにした映画のワンシーンを切り取ったかのような質感で、みんな大好き古き良き90年代にタイムスリップしたのかと錯覚する。結成当初バンドを大きくするという野心のなかった彼女たちがそのエネルギーを手に入れ、真のロックスターとして君臨するための第一歩を踏み出している。そんな紛うことなきロックスターの原石である彼女たちの、まるでデビューアルバムのような勢いを感じさせるロックンロールのマスターピースの誕生である。


4位:「Being Funny in a Foreign Language」 /  THE 1975

日付が変わって10月14日、あの44分間はとても幸せな時間だった。待ち望んだ彼らの今の集大成ともいえる通算5作目のアルバムのリリース日である。10年代のロックシーンの王者であり、数年の沈黙を経て SUMMER SONIC 2022 のヘッドライナーとして満を持しての来日を果たし、王者の貫禄ともいえる圧巻のパフォーマンスを披露した THE 1975。前作「Notes On A Conditional Form」では22曲81分の超大作を世に解き放ち数々のリスナーの魂を揺さぶった彼らが、11曲44分という彼らにしては割とコンパクトなアルバムを出すと発表された時には意外だなぁという感情を抱いた。しかも先行曲の4つを聴いただけの段階ではアルバムの全容というものが全く見えてこず、一体どうなってしまうのだろうかという不安も感じていたのだが、どうやらその心配は不要だったようだ。M1「The 1975」では フロントマンの Matty が敬愛する LCD Soundsystem の「All My Friends」のオマージュを見せた。M10「About You」は U2 の「With or Without You」をシューゲイザーサウンドにしたような、捨て曲が1つもないアルバムの中でも際立つ大名曲である。先行4曲もアルバム通しで聴くときちんと形になっている。新たにプロデューサーとして迎えた Fun. のギタリストである Jack Antonoff の手腕も見事で、サウンドの随所に彼っぽさを感じることができる。現代ではポップスや Hip-Hop が台頭し、「ロックは死んだ」とも言われているが、そんなシーンを認め、多種多様な文化にリスペクトを持ちながらも自身の音楽を奏で、ロックスターを演じる Matty 擁する THE 1975。彼らがいる限り、ロックはまだまだ生き続けるだろう。しかし、アクモン然り、羊文学然り、Momma 然り、今年は車のジャケットの名盤が多いなぁ。






さて、いよいよトップ3の発表です。
私のことをよく知る人にとっては、THE 1975 の4位というのは予想外なのではないでしょうか?


それでは、発表です!







3位:「Dawn FM」/ The Weeknd

アルバムの完成度だけでいえばおそらくこの作品が No.1 なのではないか。世界がコロナ禍に陥った混沌の時代を予測するかのように、絶望感と閉塞感で溢れた前作「After Hours」をリリースした The Weeknd が、年始にこんなにも短いスパンで評価の高いアルバムを発表するとは思わなかった。おそらく混沌を描いた前作のアンサーであり、カタルシスを追求した故の副産物なのであろう。「103.5 Dawn FM をお聴きの皆様…」と DJ がアナウンスして始まる通り、この作品は架空のFMラジオを主題としたいわゆるコンセプトアルバムである。トラックの繋ぎ目にFM放送のイカしたジングルのようなセクションが設けられており、日本で例えるとするならばまるでカーステレオで J-WAVE や Inter FM を流しているような、そんな感覚にさせてくれる作品に仕上がっている。まず、M1「Dawn FM」で死後の暗闇の中に見える一縷の望み的な幸福のラジオを表現し、このアルバムが救いのアルバムであることを提示している。そして、M3「How Do I Make You Love Me?」や M5「Take My Breath」など、重厚なビートと80年代の R&B やディスコサウンドに乗せて彼が歌っているのは死や虚無感、先の見えない不安などの様々な恐怖からの脱却を図る内容であり、まさに「After Hours」を出した後の The Weeknd だからこそ歌うことができるテーマだ。この作品は世界がパンデミックの時代を経由していなかったら生まれることはなかったのかもしれない。音楽という枠組みでは収めることのできない、むしろアルバムというものを一種のアートの域まで押し上げた、究極の芸術である。






2位:「BADモード」/  宇多田ヒカル

この人のクリエイティビティが衰える日は果たして訪れるのだろうか?1998年に「Automatic」で鮮烈なデビューを果たし、日本の音楽シーンに衝撃を与えた宇多田ヒカルが、現代でも日本人最強の SSW であることに変わりはないことをこれでもかというほど証明してみせた大名盤。人間活動終了後の「Fantôme」や「初恋」ではこれまでの英語の多い歌詞を抑え、最愛の母である藤圭子を亡くした悲しみや、息子を授かり自身も母となった彼女の喜びや苦悩、葛藤などを歌った、日本語中心で彼女のパーソナルな部分がより色濃く出ている曲をリリースしてきたが、今作では再び英語が際立つ作品への回帰を見せている。かといって日本語をおざなりにすることは一切なく、マルチリンガルな彼女の日本語的な斬新な譜割と英語的なフロウが駆使された楽曲の数々がこの作品に盛り込まれており、内省的な視点での楽曲によって、息子の成長と共に自身も成長しているということを見せつけた、最先端だが家庭的で温かみのある、今の彼女の等身大の世界を描いた作品に仕上がっている。M1「BADモード」で「ネトフリ」や「ウーバーイーツ」などの固有名詞を使用しているところは、「七回目のベルで受話器を取った君」に通ずる部分が垣間見え、2022年という時代性が強く表れている。M6「気分じゃないの」から M7「誰にも言わない」への繋ぎは秀逸。このアルバムをきちんと曲順で聴かなければならない最大の理由だろう。M10「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」は各音楽メディアがベストトラックリストにノミネートするのも納得の、シンプルなメロディと展開の少なさ、最低限の詞表現にもかかわらず、12分という時間を全く感じさせない珠玉の1曲。音楽シーンにおいてワールドワイドで活躍できる日本人の役割を担うのは向こう数十年彼女のままだろう。










1位:「Blue Rev」/  Alvvays

今年の個人的ベストアルバムはこの作品に決まりました。正直、先行曲「Pharmacist」が公開されてアルバムが出ると知った時の期待感も、初めて聴いた時の胸の高鳴りも、アルバムを聴いた回数も、今年の中でダントツだった。これ以外の作品を1位にすることは全く考えられらなかった。それほどに Alvvays のカムバックとニューアルバム発売は私の中で大きな出来事となった。昨年の Porter Robinson の7年ぶりのニューアルバム「Nurture」がリリースされた時と同じくらい、いやそれ以上といってもいいほどの音楽体験による感動だったかもしれない。

現行のバンドによるドリームポップの中では最高峰の作品ともいえる前作「Antisocialites」がリリースされてから早5年、新曲の発表はおろか、近年はライブ活動さえも実施してこなかった彼女たちが、過酷な状況を乗り越えて今年カムバックを果たしてくれたことにまずは安堵したが、そのカムバックにふさわしすぎるほどの作品を世に解き放ったことで、多くのリスナーが心を踊らされたことだろう。サウンドに関しては実験的なアプローチをすることで有名な Shawn Everett をプロデューサーとして迎えたところによる影響が大きく、Alvvays のこれまでの作品と比較するとよりロックの色が強い印象で、マイブラ的なシューゲイザー要素のあるノイジーなギターサウンドがアルバムを通して見られる。先行曲である M1「Pharmacist」を聴けばすぐにわかるだろう。止まることのないギターノイズの応酬に、どこまでも駆け抜けてしまいたくなるようなビートからなるこの曲からは荒々しさと瑞々しさが感じられ、良質な陶酔感を得ることができる。M6「Many Mirrors」から繋がる M7「Very Online Guy」では、シンセサイザーを多用したノスタルジックなサウンドによって Alvvays の新境地を開拓したかのように思える。5年という歳月を経てさらにブラッシュアップされたフロントマン Molly Rankin のリリシズム溢れるソングライティングと透明感満載のボーカルも見事だ。また、M11「Belinda Says」などではこれまでの Alvvays のような王道ドリームポップも披露しており、新たなアプローチの楽曲と双璧をなす役割を果たしている。この曲を今年のベストトラックとして挙げているメディアも多数存在する名曲だ。

14曲39分という、コンパクトながらも1曲1曲が濃密でキラキラと輝いている。時には癒しを与え、時には背中を押してくれる。この時代に Alvvays がいることに我々は感謝しなければならないのかもしれない。そう思わせてくれるくらい、このアルバムはどうしようもないほどに超超大名盤だ。



というわけで、私の年間ベストアルバムは Alvvays の「Blue Rev」でした!
来年も様々なアーティストが素晴らしい作品を発表してくれると思います。「Blue Rev」を超えるような音楽体験が来年もできることを願って、この記事を終了したいと思います。


最後まで読んでくれた方々、ありがとうございました!

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