しじみ

まれに読んだり書いたり。アイコンは餅村様(@sorata123)に描いて頂きました。

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最近の記事

『世界は『関係』でできている』

カルロ・ロヴェッリの専門、ループ量子重力理論の本。  時間をメインテーマに置いていた前作に対して、今回は自らの理論が描く世界とはどんなものかを語っていた印象でした。  ロヴェッリも『量子力学の奥深くに隠されているもの』のキャロルも、一般向けの物理学書ということでとっつきやすいようにかなり工夫してくださってるのを感じるものの相変わらず難解で、目の粗いザルで濾し取ったような理解で恐縮ですが、話のメインは「世界とは何かと何かの間に起きる物理現象である」ということの解説でした。

    • Self-Reference短歌3

      ニワトリと卵の順序を入れ替えてそれでも君を愛しきれない  円城塔さんの連作短編集『Self-Reference ENGINE』に登場する巨大知性体(スーパーコンピューターの超進化形みたいなもの)をテーマに詠んだ短歌のひとつ。これは『Event』に登場する名前が出てこない巨大知性体のイメージ。  この小説は時空が砕け散った後の世界を描いているというのが最大の特徴なのですが、その時空の崩壊、通称『イベント』がいかにして起こったかをある時空の巨大知性体が、その時空に住む人間、敷

      • Self-Reference短歌2

        愛し君いたるところに書き置きを残しておくから探さないでね  円城塔さんの連作短編集『Self-Reference ENGINE』に登場する巨大知性体(スーパーコンピューターの超進化形みたいなもの)をテーマに詠んだ短歌のひとつ。これは『Japanese』に登場する巨大知性体ナガスネヒコのイメージ。  人類が死に絶えた旧日本諸島の調査に従事していた一団が日本文字と呼ばれる文字からなる解読困難な文書を発見したことから現在まで続く日本文字の研究について解説する体を取っている短編で

        • 『ボルヘスと不死のオランウータン』

           ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ『ボルヘスと不死のオランウータン』を読みました。  エドガー・アラン・ポー愛好家の集団「イズラフェル協会」がブエノスアイレスで開催した総会のさなかに起きた殺人事件を、語り手フォーゲルシュタイン(出自、経歴など多分に作者が投影されている)があの巨匠ホルヘ・ルイス・ボルヘスと共に推理する、という夢の詰まったミステリ。  この「夢」というのは第一義的には作者の夢ではあるんですが、世のボルヘスファンたちは多分にその夢を共有しているところがあって、

        『世界は『関係』でできている』

          『量子力学の奥深くに隠されているもの:コペンハーゲン解釈から多世界理論へ』

           ショーン・キャロル『量子力学の奥深くに隠されているもの: コペンハーゲン解釈から多世界理論へ』を読みました。  いわゆる多世界解釈ガチ勢によるアツい多世界解釈プレゼン本だなという印象はおおよそ間違ってなかったのですが、微視的な世界で起きていることは私たちの巨視的な視点で捉えているものとは違うよというのは量子力学も伝えていることですのでもう少し細かくこの本をご紹介しようと思います。 本の構成 この手の一般向けの物理学入門書は往々にしてニュートン、場合によってはアリストテレス

          『量子力学の奥深くに隠されているもの:コペンハーゲン解釈から多世界理論へ』

          inkstand by kakimoriに行ってきた

          この世にはインク沼という沼がある。 行って帰った人はいない見果てぬ深淵である。 文具界で決して狭くはない面積を占めるその沼は 今この時もなお広がり、深まり続けているという説もある。 それにもかかわらず沼を訪れる者たちは皆一様に、そして常に渇いている。幾百のインクを乾しても足りぬとばかりに常に新たなインクを求めている。 何が言いたいのかというと、文具ブームもずっと続いていて最近ではオリジナルインクが色んなショップから出ていますが、飛ぶように売れてなかなか手に入らないものも多い

          inkstand by kakimoriに行ってきた

          貴志祐介『新世界より』

          SF好きを標榜しつつ読んでいなかった無数の作品の一つ。 遠い未来に呪力という超能力を得た人類が作り出したアルカディアで生きる少年少女たちが、閉ざされた町の外で捕まえたミノシロモドキという生き物(=滅亡した日本にあった国立国会図書館の自走式端末)との出会いから怒涛の運命に導かれ、丁寧に管理された世界の裏側を目の当たりにしていくお話。 呪力という大きな力を持つために争いを避けなくてはいけない人類は、高度な通信手段も移動手段も持たず、悪鬼や業魔というおとぎ話を怖がるとても素朴な生活

          貴志祐介『新世界より』

          Self-Reference短歌

          神変を得ても日ごとに生まれ死ぬ人のわざへのあこがれがあり  短歌に挑戦するための入り口として、円城塔さんの連作短編集『Self-Reference ENGINE』に登場する巨大知性体(スーパーコンピューターの超進化形みたいなもの)をテーマに短歌を詠んでいたんですが、上記の歌は『Ground 256』という作品に登場する東の国の悪の巨大知性体、レックス・ムンディをテーマにしたものです。  ざっくりご説明すると、人間社会のインフラや面倒な仕事を一手に引き受けていた巨大知性体が

          Self-Reference短歌

          カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』

           読みました。私はまごうかたなき非理数系で、物理学とも縁遠い人生を送ってきましたが、時空間や量子論を扱ったSFが好きで、時空間が砕け散った世界を見事に描いた円城塔さんの『Self- reference ENGINE』も大好きなので、その円城さんがお勧めするこの本を読んでみることにした次第です。また、ちょっと自分の創作活動のために物理のさわりだけでも理解する必要があったため、良い物理の本を探していたらこれが一番売れていると(Amazonに)言われたので読んでみることにしたという

          カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』

          短歌#1

          歌会サイト「うたの日」で短歌100本ノックをやった記録。 下に行くほど古い。 夜の浜陸を目指した白鯨に入れ替わろうかと持ちかけてみる 『陸』 丑年の僕はどうにも才気ある子年の兄を信じきれない 『ね』 内側に僕への知らせを秘めたまま先立つ濡れた圧着ハガキ 『葉書』 廻の字は回を背負ったカタツムリのたりのたりと季節はめぐる 『回』 空中ブランコ乗りに憧れつつ蛸の娘はつま先見上ぐ 『蛸』 知らぬ間に真昼は過ぎる曇りの日終わってわかる人も時間も 『真』 今ならばずるい大