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居場所カフェを通じて出会う10代の生きづらさとは?

NPO法人ダイバーシティ工房が運営するLINE相談「むすびめ」の1周年に伴い、10代の若者の「生きづらさ」を考える対談を実施しました。ひきこもり支援を経て、現在は高校内で生徒が学年や所属を超え、地域の多様な大人たちとも交流できる「居場所カフェ」を運営するなど、10代の若者たちの生きづらさと向き合ってきたNPO法人パノラマの石井正宏さんを迎えた対談の模様をお届けします。

◯「校内居場所カフェ」とは?
https://npo-panorama.com/cafe/

ひきこもる苦しさを生む前に、会いに行く

平水(ダイバーシティ工房事務局長・司会):高校内の図書館に「居場所カフェ」を作り運営してきた石井さんですが、そもそも高校生に対しそういった空間を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

石井さん(NPO法人パノラマ理事長・以下敬称略):2000年からひきこもりの人たちへの支援をしてきて、ひきこもって5年、10年と経たないと出会えないことにもどかしさを感じていました。

ひきこもる少し前とかちょっと後に会えていたら、この人はこんなにも苦しまなかったのではないか、と。

ひきこもるのを待ってから支援するのが自分でも苦しくなり、ひきこもる前の高校生のときに出会っていたいという思いが居場所カフェのきっかけです。

石井さん対談ベント画像

若者支援機関にくる若者の年齢は、27,8歳。つまり、17,8歳で学校との関わりが絶たれてから支援の扉をたたくまでに10年かかっているんです。そして扉をたたけずにきた方たちがいわゆる5080問題と呼ばれる状況にあったりします。

支援機関で待っていても会えない人たちに会いに行こう、ということで始めました。

佐藤(ダイバーシティ工房「むすびめ」マネージャー):
居場所カフェにお邪魔したことがあるのですが、学校の一空間の中に色々な生徒、大人がいることが印象深かったです。

皿回しをして盛り上がっている子たちがいる傍ら、しっぽり話し込んでいる生徒や、「聞いてほしいことあるんですよ」とボランティアの大人に話す子がいたり。

石井:親と先生以外の色々な大人に出会い影響を受ける、という経験をしてほしいと思い、毎年250人くらいのボランティアさんに参加してもらっています。

学校の不登校がそのままひきこもりの状況になった若者って、親と先生以外の大人に出会っていないんですよね。

親と先生以外の大人から受ける影響こそ、若者が広い世界があることを知る上でとても重要だと思っています。

親と先生以外の大人に出会える場所

石井:言うと大ごとになると思って、先生に言えないことっていっぱいありますよね。

だから先生以外の大人にぼそっと言ったつぶやきを拾い、いかにソーシャルワークにしていけるかが大事だと思っています。


佐藤:私も教員をやっていた時期があるので実感をもってわかるのですが、先生ってどうしても「役割」を感じざるを得ない部分があるんですよね。

例えば石井さんがおっしゃるようなつぶやきを拾えたとしても、聞いたのなら教員として道を示さなければいけない、指導しなければいけない、という方向に考えやすいです。


石井:先生という役割にはとりわけ、子どもに対して開けてはいけない引き出しがたくさんありますよね。

生徒に何か打ち明けられたとき、本当はこう言いたいけど言ってはいけないな、とか。

そういう大人だけが相手だと、子どもたちは自分の気持ちを上手く吐露できず、困りごとが一層こじれやすかったりもするのだろうなと思います。

佐藤:そうなんですよね。本当はこう言ってあげたい、とかあるんです。でも先生だから、親だから難しいこともある。そう考えると、親や先生以外の大人でいかに子どもたちの話を聞ける人がいるかということの重要性を痛感します。

平水:ふとした疑問なのですが、知らない大人を相手に高校生たちは気軽に悩みを打ち明けてくれるものなのですか。居場所カフェでの話せる関係性は自然と作れるものなのでしょうか?

石井:ボランティアさんからの感想でも一番多いのが、「こんなに子どもたちに話しかけてもらえると思わなかった」です。

学校って不思議なもので、校内にいる大人は安心して大丈夫、という認識が子どもたちにあるんですよ。

私があるとき、頭に手拭いを巻いて学校の廊下を歩いていたら、生徒が立ち止まって、「ラーメン屋さん?」って言ったんです(笑)。もし街だったら、知らない大人に同じことは言わないと思うんです。

学校の中で出会っている、という時点である種のハードルは超えている状態なんですよね。

高校生の生きづらさとは?
キーワードは「同調圧力」と「変な大人」

平水:今回、若者の「生きづらさ」がテーマなのですが、そんな色々な大人と出会える居場所カフェに、子どもたちは何を求めているのでしょうか?

石井:昔、私の3人の子どもたちは、学校から帰ると夕飯を作っているお母さんの足元にべたっと座って何十分も、今日友達にこんなこと言われて嫌だったとか、あんなことがあって大変だったとか、話していました。

お母さんは頷いたりリアクションを返したりして聞いているのですが、子どもは話し終えると「お腹空いた~」とか言ってけろっと夕飯を食べ始めたりします。

私にとってその光景は、子どもがその日学校で経験した嫌なこととか、体に刺さった矢を一本一本抜いていく作業に見えました。

居場所カフェに来る子どもたちの中には、例えばこうした「矢を抜く時間」を家で持てない子がいるんだろうと思います。大人の側に余裕がないと中々できないことですからね。

それから、先生ではない大人を相手に話すということは、点数をつけない立場の人に話しているということです。評価されないし、100点を目指さなくていい場という安心があるのだと思います。

平水:人と比べたりもされないということですね。

石井:そうですね。それはつまり同調圧力から抜け出せる場所であるということなんです。若者の「生きづらさ」を考えるうえで、同調圧力というのはかなり重要なキーワードです。

佐藤:学校の現場は、とりわけ同調圧力が働きやすいように思います。この同調圧力ってどこから来るのでしょうか?

石井:どこからなんでしょうね。

私たちは居場所カフェの大事な要素としてよく「変な大人」という言葉を使います。

世間とは少し異なる価値観を持っていたり、一見何してるのかわからなかったり。そういう「変な大人」の共通点は、同調圧力の外側にいることだと思うんです。

例えばスーツを着た大人しかいない学校の中に、Tシャツにジーパンを履いてる私がいる。「変な大人」の存在が、その場の重力をゆるめるようなイメージです。

何をするにもルートは一本ではないし世間が示す規定とは異なることを選んでもいい。SNSを通じて、これまでになかったほど相手を監視し合える同調圧力の時代を生きる若者だからこそ、そういう圧力から開放されている色々な大人に出会ってほしいなと思います。

格差社会、若者に突破口を作れるか

平水:居場所カフェを通じて高校生との交流を続けている石井さんは、これからどのような活動が大事になると考えますか?

石井:経済的な格差が広がる社会の中で、貧困層の人と裕福な人とでは生きづらさの質や根源が違うものになっている状況があると思います。それゆえ、互いに共感が持てないということもあります。

経済的に豊かであればまだ、生きづらい状況にいても、何種類かの突破口があると思うんです。それが、格差の下の方にいる若者になると、突破口そのものがなかったり、ごく狭いものになってしまっていたりします。

これからの活動は、そんな若者たちに対してどんな突破口を見せられるか、作れるか。それがやるべきことだと考えています。


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