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Di-Sportsトークショー「それぞれのオリンピック!〜そして東京から未来にメッセージ〜」イベントレポート(後編)

このレポートは、11月13日にセールスフォース東京オフィスで開催されたDi-Sportsの第2回目のトークショーの内容をまとめたレポートです。

テーマは、「それぞれのオリンピック!〜そして東京から未来にメッセージ〜」。Di-Sports Lab長の辻秀一氏のファシリテーションのもと、元バドミントン日本代表の池田信太朗氏、元競泳日本代表の伊藤華英氏、元サッカー日本代表の石川直宏氏のオリンピアン3名が登壇しました。

前編・後編の2回に分けてお届けしているレポート、ここからは後編のお話になります。

前編はこちらから。

教育の重要性と、日本の教育に必要なもの

石川:教育に話を戻すと、僕はFC東京というチームやサッカー界を強くするためにどうしたら良いのかをいつも考えているのですが、行き着く先が教育なんですよ。なぜかと言うと、やっぱりプロになる選手はいろんな技術を持っていますが、技術力だけではある程度のところまでしか行けないんです。そこを突き抜ける選手は、受け入れる力や、目の前のことからきちんと逃げない力がある人なんです。幼少期から、謙虚でいろんなことを吸収しようとする力を身につけてきた、ベースの人間力がある人です。そういう人は、サッカーでもバドミントンでも水泳でも、スポーツではなくビジネスの世界でも、突き抜けられる可能性があります。どの道に進むのかは、選択すれば良いですが、それ以前にベースが足りない人が多いと感じます。サッカーに限って言えば、プロになる選手ですら、そこが足りなくてもったいないなと思う人もいます。
自分に矢印を向けられない選手も多いですが、自分に矢印を向けられる選手は、やっぱりトントントンって成長しています。久保建英選手なんかは、ちゃんと目の前のことを受け入れる力があってやっぱりすごいなと感じますが、その裏にはご両親の素晴らしい教育があったそうなので、教育は大事だと思いますね。

辻:社会的に、教育を変えるのは一番時間がかかるんです。日本の教育は受験をベースに構成されているので、大学受験の仕組みが変わって、やっと高校のカリキュラムが変わって、それに応じて中学校、小学校とカリキュラムが変わる頃には、もう世の中が変わっている。スポーツやビジネスの世界は、変化に早く対応していかないと勝てないし成功できないので、もっと早いですよね。教育現場にいる先生たちには、勝ち負けがないので、反省自体が少ないんです。

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池田:僕、教育すごく好きなんです。軽井沢に、ISAKという全寮制のインターナショナルスクールがあるのですが、ここはワールド・ユナイテッド・カレッジ(UWC)という国際的な教育機関と、国際バカロレア(IB)という国際的な教育プログラムの認定を受けている学校なんです。受入対象は高校生で、世界50カ国以上の国と地域の子どもたちが軽井沢に集まり、4人1部屋で生活しながら勉強しています。実は妻がここの局長を務めているので、僕も結構学校に遊びに行っているのですが、ISAKの教育ってすごく面白いんです。宗教や肌の色、文化の違う人たちと一緒に生活する環境なので、とにかく多様性に富んでいて、他者を受け入れないと楽しいライフスタイルを描くことができない。日本にいても、少し世界に目を向けたときに、食べ物や肌の色、宗教、考え方の違う人たちと一緒に生産性を高めていかないと、一つのゴールを達成できない時代だと気付かされるわけです。

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教育でもスポーツの世界でも、今はティーチングからコーチングへと言われています。僕、スポーツの世界で納得いかないことが一つあって。僕が現役だった頃は、試合が終わると、監督の方に走っていって「お願いします!」と言っていたんです。要するに、見ていたコーチのところに行って「アドバイスください、お願いします!」と言って、一方的に情報をインプットしていたんです。学校現場ではこれが当たり前でしたし、日本代表もそうでした。恐らく、バレーボールやバスケなど、他のスポーツでも多いと思います。でもこれでは、「自分がこうこうこうだから、こういうところが問題だと思うんです。だから教えてください。」というコミュニケーションではなくて、一方的に「お願いします、何か僕に言ってください。」という入り口になってしまうので、問題だと思うんです。
自分の何が悪くて、何が良かったのか、次の試合はどうしたらいいのか、次の課題は何なのか…といったことを自ら考えられるアスリートが少ないと思うんです。自分のことを客観的に捉えて、どうしたら物事が良くなるのかを考えた上で、プラスαでコーチングが効いてくると思うのですが。僕も一度ISAKでバドミントンを教えたことがあって、ISAKの生徒たちは技術的には下手でしたが、アドバイスの聞き方は一流のような感じだったんです。「こういう風なプレーがどうしてできないのですか?」「もっと上手くなるためにはどうしたらいいですか?」「僕は次にどういった練習をしたらいいのですか?」と。

辻:日本の子は聞かないよね。

池田:僕は全国でバドミントンを教えていますが、そんなにアクティブに聞きに来るような子どもには会ったことがないですもん。たとえ強い選手でも、「お願いします!」と頼んでくるので「こうした方がいいんじゃないかな」とアドバイスすると、「ありがとうございます!」と言われて。「え、聞いてる?今ので本当に分かったの?」みたいな。

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「質問はー?」と聞くと、日本の子は手を挙げませんが、ISAKではもう無理っていうくらい挙がっていましたからね。「僕の時間!」「僕はこういうことが聞きたいんだ!」っていう感じで。さらに、いいことを聞いた生徒には拍手が送られるんです。「僕もそういうこと聞きたかった!」という具合で。今の日本の教育にはそういうのが根本的に足りないと感じますが、本当はそうあるべきだと思うんです。スポーツこそアクティブな教育に持っていくべきだと。

人を称えるコミュニケーション

辻:僕たちがDi-Sportsの活動で子どもたちに教える時は、子どもが何かをしゃべったら、仲間は拍手をするのがルールになっています。自分が喋ったことで周りが拍手をしてくれると、良い脳内物質が分泌されて、自分の中に認められる感覚が生まれます。それによって、また喋ろうという前向きな気持ちになれるので、拍手は絶対に重要なのです。

池田:人から褒められたり、称えられたりすると嬉しいですもんね。スポーツでも、トップ層のアスリートになってくると、自分が勝つことだけが目的なのではなくて、サポーターのために何かをして、称えてもらいたいという想いがあったりするんじゃないかなと。一方で、人が話しているのを称える文化は少ないですが、アウトプットをしないだけで、心の中で良いと思っていることはありますよね。こういう話のときに拍手をされると、話し手としては気持ち良くなれるんですが。

一同:(拍手)

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辻:拍手は、早く強く打った方が脳に良いです。ラグビーのように成熟しているスポーツでは、グッドルーザーと言われるように、負けたチームも称えられる文化があります。一方で、日本の高校野球で負けるようなチームの中には、泣いていてろくに挨拶もせずに砂を持って帰ってくるようなチームもありますが。お互いに称え合える方が、美しいですよね。

伊藤:小学生の頃って、先生の言うことを聞けて、宿題が必ず期限内に終わって、テストで良い点数を取るような人が優等生と言われていたけれど、私はその風潮が好きではなくて。優等生を目指すことが正しいことなんだ、って教えられるじゃないですか。でも、オーストラリアで育った私の兄やいとこは、一人ひとりそれぞれの正解があっていい、という感覚だったので、私も小さい時からその考え方に触れていて。親からは、普通が一番難しいって言われていたんです。普通じゃなくていいんだよ、って。小さい時はその意味が分からず、普通が一番いいんじゃないかなと思っていたのですが、今は世の中には普通じゃない人がいっぱいいるなと思いますね。やっぱり日本では、どこか「普通」の定義が染み付いているところがあると感じていて、価値観もみんな一緒だなと思うんですよね。

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私が現役のときにびっくりしたのが、海外の選手に「私たち宗教がないんです。」って言うと、「日本には神様いないんですか?」って聞かれて、「日本の経済はどうなっているんですか?」「日本の政治はどうなっているんですか?」と、トップ選手になればなるほど興味を持って聞いてくるんです。ずっと本を読んでる選手なんかもいて。私たち日本人は、勝てばいい、強いやつが偉い、と言われて育てられていたから、人として日本という国に属していながら、日本のことを喋れないことがとてもショックでしたし、恥ずかしかったんです。日本人は、喋らないで一歩引くことが美徳とされる部分もあるから、先ほど話していたように「はいはいはい!」って手を挙げるのが恥ずかしかったり、失敗したら嫌だなと思ってしまうんですよね。

でも、私は現役時代に海外の選手たちと喋ることができて、戦う楽しさや伝えられる楽しさを覚えることができたので、異なる価値観を持った人たちと触れ合えた経験は、今の人生に活きていると感じています。たしかに、自分自身のことも、国のことも喋れない日本人と会話をしていても、楽しくないと思っちゃいますよね。日本人の聞く力も素晴らしいですが、海外の人は自分の気持ちを話すことで会話が成り立っているので、グローバルスタンダードという視点で見たら、「日本はこうだけど海外はこうなんだよ」ということを日本の教育の中でも教えていかないといけないのかなと思います。日本の良さが分からない、アイデンティティーについて喋れないというのは、世界の中の一部に私たちがいるという感覚がない人が多いからなのかな、と思うので、寂しいですね。海外に行くと、あんまり日本人っぽくないねって言われたほうが嬉しいくらいです。

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人間力の教育

辻:教育の視点から人間力の話が出ましたが、人間力に関して、社会としてはどのような取り組みが必要だと思っていますか?人間性やリスペクトの精神、ノーサイドの精神、リーダーシップの精神など、定量化できないものはどのように育くめば良いでしょうか。

石川:Di-Spoでは、「一生懸命やることが楽しい、楽しいと機嫌が良い」と言っていますが、これはシンプルに大事ですよね。先日、浅草中学校に行ってご機嫌先生として生徒たちに授業をしたのですが、サッカーをしたわけではなくて、グループセッションで対話をしてもらい、ご機嫌の価値を感じてもらったんです。すると、1時間満たないくらいでみんな笑顔になっているんですよ。この、ごきげんになる喜びの先にある価値に気付けるかどうかだと思うんです。
スポーツでは勝利を目指しますが、勝利の先にある価値に気づくことができる人ほど、トップで活躍できる人です。スポーツをやっていない人も含めて、なんでごきげんが良いのか、その先にどんなことがあるのか、と、先が見えるような教育が必要だと思います。地道に一歩ずつかもしれないですが、Di-Spoがそれを広めていくことで、アスリートに限らず色々な分野から実際にごきげんの価値を体感している人たちが出てきて、ごきげんの先にある価値を伝えていけると、繋がっていくのかなと思います。

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今FC東京には、直轄のスクール生と派遣のスクール生合わせて4000人弱くらいの子どもたちがいて、すごく楽しくサッカーをしてくれているのですが、その先に価値を持たせたいと思っていて。親御さんたちは、FC東京であれば素晴らしい指導者がいるから子どもを預けても安心だろうと思って選んでいるんだと思います。もちろん、トップを目指すために、小さい時から所属するチームを選ぶことは重要です。でも、その中から実際にトップになる選手は一握りですし、その一握りに入ったとしても、他の分野や次の道で活躍する喜びを見出せるかどうかが大事だと思うので、サッカーで伝えられることは伝えていきたいと思っています。

辻:やれるといいよね。その先にあるものの価値は、まさにDi-Spoの理事の一人の廣瀬くんが『ノーサイド・ゲーム』で演じていた浜畑くんが言っていた、目標と目的の重要性にもすごく繋がりますよね。

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ごきげんの価値

辻:ところで、池田くんは、機嫌がいいとどんないいことがありますか?ごきげんの価値は何ですか?

池田:機嫌がいいと、笑顔が素敵になる。人になにかやってあげたくなる、与えたくなる。

辻:いいね。華英ちゃんはどう?

伊藤:私は、やる気が出る、人に優しくなれる、世界を見たくなるというか、視野が広がる。不機嫌だと何も見たくなくなっちゃう。

辻:石川くんはどうですか?

石川:受け入れる器が大きくなるというか、いろんなことを吸収できるようになる。あとは生活面でも、食事がおいしくなる、睡眠がよくとれる。
先生はどうですか?

辻:僕は、機嫌がいいとアイデアが出るようになります。機嫌がいいとアイデアが出るから、いつも機嫌を良くしている。機嫌が悪いときはアイデアが出ないから。機嫌がいいことを価値化する訓練がされていないと、不機嫌の理由ばかり喋ってしまうんですよね。

機嫌がいいことに価値を感じていれば、不機嫌になっても自分を救い出すことができます。これがあると機嫌が良くなる、これがないと機嫌が悪くなる、と考えていては、試合に勝ったら機嫌がいいし、晴れたら機嫌がいいし、日曜日なら機嫌がいいし、給料をもらったら機嫌がいいですが、実際には毎日勝てるわけでも、毎日晴れるわけでも、毎日ハワイにいるわけでも、毎日給料をもらえるわけでもないですよね。
機嫌がいい人は、ご機嫌の大地にいる時間が長いのです。嫌なことだってあるし、嫌な人もいるし、うまくいかないこともあるけど、だけど俺は機嫌よくやるよ、っていうのがその人の内側にある価値なんです。そういった教育が絶対的に足りてないので、今Di-Spoでやっているんです。

みなさん、今隣の人たちと2,3人で、機嫌がいいと悪い時よりも何がいいのかを、10個ぐらい出し合ってみてください。

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辻:機嫌がいいことの価値を考えたら、みんな機嫌よくなったでしょ?みんな問題は抱えているし、まだ勝ってもいないし、給料も上がってないけど、機嫌がいいことの価値を考えたら機嫌がよくなる。不機嫌から自分を救い出しているんです。脳科学的に言うと、非認知的な脳が働いて、脳のバランスが良くなっているんです。この経験を子どもの頃にさせておいて、機嫌がいいことは大事だということを子どもたちにインプットしておくと、その経験は扁桃体と海馬というところに残って、忘れていても後で追求できる人格になるのではないかと仮説立てているんです。

会場からの質問タイム

最後に、会場のみなさんから質問を受け付けました。

Q.冒頭で説明されていた脳と組織の成熟過程は、直線的なのでしょうか?それとも、戦争と平和のようにサイクルがあるのでしょうか?

A.(辻)人間は直線的には成長しないです。認知が暴走して、それに気づいて認知しなくなって、ユートピアに行き過ぎて失敗して…と繰り返していくので、上から見ると同じように回り続けていますが、横から見ると螺旋階段のように進化して成熟していくのです。

Q.認知的な脳と非認知的な脳のバランスという話がありましたが、これは二極なのでしょうか?

A.(辻)脳の機能として、2つに分けています。認知的な脳は外側に向かっていて、非認知的な脳は内側に向かっている。人間の機能として大きく2つに分けると、この2つです。右脳と左脳のような場所ではなく、人間の脳の使い方、機能として分けると認知的な脳と非認知的な脳になります。

Q.女性向けのボクシングジムをやっているのですが、女性は特に会話を通してごきげんになれる可能性が高いと感じています。みなさんは、具体的に女性にごきげんになってもらうにはどのようなアプローチが有効だと思いますか?

A.(池田)不特定多数に話をするよりも、一人ひとりとコミュニケーションを取った方が、ちゃんと自分のことを思ってくれているんだな、と思ってもらうことができて、エンゲージメントも高くなると思います。

(伊藤)私は、声をかける方がいつも変わらない態度でいることが大事だと思うんです。日によって態度が変わると、「先生今日は機嫌が悪いのかな」と思ってしまい、距離ができてしまうというか。あとは、誰かを特別扱いせずに、先生が変わらない距離感で話しかけてくれると、信頼感が生まれて、生徒も「先生!」とか「コーチ!」とかって話しかけやすくなると思うんです。特に女性は敏感だと思います。

(石川)お二人のおっしゃる通りですね。あと、僕は自然に見てあげる感覚が大事だと思います。今FC東京で監督をしている長谷川健太さんも、こういうことをしていたら試合に出られる、結果を残せる、というものを選手たちに提示しながら、あとは最後まで選手を見ていて、気づいたときに声をかけるんです。一人ひとりに興味を持つことが頭にあると、自然と言葉になり、コミュニケーションができるようになると思います。

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Q.スポーツの世界では勝利至上主義もありますが、そういったものとはどのように折り合いをつけているのでしょうか?学生時代にバスケットボールをしていたのですが、高校・大学では、日本一を取らないと死ぬのと同じ、というくらいの環境でした。

A.(池田)スポーツっていうのは必ずピークがあって、そのピークを終えると自分のパフォーマンスも社会としてのバリューも緩やかな曲線を描いて下がっていくと思います。スポーツっていう分野で活躍している以上、タイミングとしてはピークの点に向けて人生かけて一生懸命頑張っていると思うんです。でも、スポーツという枠を外して、自分の人生になってくると、やっぱりスポーツで学んできたもの、たとえばリーダーシップなど、そういったものが資産として残っていくので、中長期的に見ると役に立ちますよね。短期的なスポーツとなると、勝たないと周りからは評価されないですが。指導者としては、勝たせることが仕事なので、教える上では難しいし、勝利至上主義になってしまうのですが。ただ、中長期的に人生を見てくと、社会に役立つことは学べるので、スポーツをやる以上はそういったことを学ばないとスポーツをやっている意味がなくなってしまうんですよね。だから、勝利至上主義が大切な瞬間もあると思いますが、そこに一生懸命向かうプロセスが自分の中では価値になるので、中長期的に自分の人生を設計して理解することが大事なのかなと僕は思います。

(伊藤)競泳の世界は絶対勝たないといけないんです。オリンピックではメダルの数も他の競技より多くないといけないと言われたこともありますし、やっぱり私もなんでこんなに頑張らないといけないんだろう、と思ったことが何度もありました。こんなに勝つことがなんで正しいことなのか分からない時もあったのですが、やっぱりアスリートという道を選んで、アスリートとしてオリンピックを目指して頑張っていくということは、勝つことを目指していかないといけないということに気づいたんです。途中で、別に勝たなくていいんだったらアスリートやらなくていいんじゃないかっていう自分の答えもあったんですけども…でも、勝つことが偉いのではない、ということを体感したんです。勝ってるからって偉そうにしている人はいない。そういうトップアスリートを見たときに、やっぱり、勝つ人というのは自分なりの信念を持っていて、人生レベルでアスリートとしての人生を考えている人が多いなと感じ、視野が広がりました。アスリートという道を選んでいるからには、4番でいいと思ってしまうと、自分の努力している時間が無駄になってしまう。結果的に1番にならなかったとしても、1番を目指したからこそ感じられる世界がそこにはあるので、目指す権利や環境があるなら絶対に目指すべきだと思うんです。勝つことが100%正しいわけではなくて、人生が豊かになるとか、いろんな目標ができるとか、いろんな勝ち方がある。アスリートをやりきって、そういう世界ではなくなった今の自分の生活もすごく幸せですが、そのとき頑張らなかったら今の気持ちはないと思うので、やっぱり頑張れるチャンスがある人は頑張って欲しいなと。それでダメでも失敗ではないので。

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(石川)僕と同じようにサッカーの世界にいるJリーガーや日本代表のサッカー選手が僕を見たら、そんなにたいしたことないと思うと思うんですね。全てに勝ってきたわけでも、結果を残してきたわけでも、常にピッチに立っていられたわけでもないし。だけど、自分が1番大事にしてきたことは、その時その時をとにかくやり切るという姿勢でした。その結果、学生時代には優勝したこともありましたが、その優勝の喜びっていうのはやっぱり一瞬でしたし、また優勝したいという気持ちにもなったものの、自分がやるべきことは日々の積み重ねでした。近くで見てくれていたチームメイトやサポーターからも、「全速力で走って最後足を投げ出してボールを出さないようにするとか、ゴールを守るとか、ゴールに向かっていく姿勢とか、そこにピッチの中での生き様を感じました」と言ってもらえて。その生き様を常に意識していくためには、日々出し尽くしていかなくてはいけないし、そういうことを認めてくれる人たちがいたから、やはり競技を長く続けられたのかなと思い、そこに価値を感じたんです。

(辻)僕はオリンピックに出たことは無いですが、勝利至上主義っていう言葉が問題なんだと思うんです。至上主義という言葉になった瞬間に、その他を認めないということになってしまいますよね。その他の価値は認めないのか、負けることは認めないのか、プロセスは認めないのか…。勝利を目指すことの意欲は、人間を成長させるし、この3人のように様々なものを学んでいけるので、勝つことだけが全てなのではなく、勝つことを目指す権利があったらそれを最大限に使う努力をすることが大事なんだと僕は思っているんです。

オリンピックに出て感じたこと

辻:最後に、僕からも一つ聞きたいことがあります。オリンピックって、どんなものなんですか?出るとどうなるんですか?オリンピックに出て学んだこと・感じたことを、一言ずつ教えて下さい。

池田:一言でいうと、やはり人間成長できる場所ですね。僕自身も、他の選手を見ていても、一度オリンピックに出ると、発言が変わり、行動も変わるんです。自分のバドミントンはこうです、と話していた人が、日本のスポーツってこうですよね、と話すようになります。なぜかと言うと、いろんな競技のアスリートと、日本代表というチームで戦うから、視野が広がるんだと思います。

伊藤:私は、オリンピックに出て日本人であることを自覚しました。日本には、日本人しかいないじゃないですか。海外に行って、日本の旗を見たときに、こんなに私は日本人だったんだと、日本人の代表としてここに来たんだなと感じられた場所でした。なので、2020年の東京オリンピックもきっとみなさんが日本人だと感じる大会になるし、アイデンティティーを感じて欲しいと思います。

石川:僕の場合は、オリンピックの出場権を得ることがまずプレッシャーでした。アトランタ、シドニーと出ていたので、アテネで途切れちゃったらどうしよう、というプレッシャー。また、僕自身はメンバーに入れるかどうかギリギリのラインだったので、予選が始まった時からピッチに立つまでの間が成長の期間でしたね。アテネ自体は本当に一瞬で終わって、一瞬には悔しさしかなかったです。サッカーにはワールドカップがあるので、この経験をワールドカップに繋げるっていう部分での意識はありましたが。

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今回は、オリンピックという世界の舞台を経験している3人のトップアスリートと、数々のアスリートのメンタルトレーナーを務めるDr.辻の視点から、スポーツ、対話、ごきげんについてDi-Sportsならではのトークが繰り広げられました。
世界で結果を残してきた人の言葉には説得力があり、アスリートに限らず学びや気づきに溢れた貴重なトークショーとなりました。

今後もDi-Sportsでは、アスリートとともに様々なテーマでトークショーを行ってまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします!

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