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DXを失敗しないために重要な5要素

最近「DXを試みたがプロジェクトが大炎上中で助けて欲しい」という依頼を受けることが多く、ここで一度、基本ながらも大切なDX(デジタル・トランスフォーメーション)の本質に迫りたいと思います。

デジタル領域の専門家として、そしてアナログ領域も大好きな筆者失敗しないDXの秘訣を記します。軌道修正するなら今のうち!新年を迎えたことをきっかけにシフトチェンジしてみましょう。

1. 「IT企業になる」という宣言や心意気は逆効果

業務にデジタル技術を取り入れーー融合させることをDXと呼びますが、既存の企業がIT企業になる必要はありません。本当にDXを理解しているのであれば、そのような心意気ですら臨まず、IT企業化を目指そうともしません。

ちなみに、GAFAMと呼ばれる企業たちは、いかにしてリアルデータ(現実世界のデータ)を取得するか試行錯誤しています。彼らはオフラインの、いうならばアナログの世界に活路を見出しているのです。DXで生粋のIT企業になろうとするのは時代に逆行するようなものです。

間違ったDXを推進する企業においては、かえって業務効率を悪くしてしまったり、中途半端な設備投資でDX化が成功しなかったりと散々な結果で終わります。

なぜ中途半端な設備投資になるかというと、間違ったDXを推進してしまう企業はそもそも技術を理解できないため、どのレベルのハードウェア・ソフトウェアを導入すればよいのか判断できないからです。その結果として、お金をかけるべきところに適切な金額の投資がなされず、失敗の原因を切り分けることが困難になります。

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わかりやすい事例として、鶴の一声で「全社的にビデオ会議で効率化しよう」ということを始めたとしても、Webカメラやマイクの品質が悪ければ会議の質が極めて低下し、生産性も低下するようなものです。全社的にビデオ会議に取り組むならば、ヘッドセットを全従業員に配布し、拠点においては高性能なビデオ会議システムを導入するのが得策です。

つまりDX最初の一歩としては、何が最低限必要で、何が過剰であるのか切り分けることが出来る人物が必要です

2. 無理やりITを導入しようとしない

どの業種にも言えますが、現場に無理やり情報技術(IT)を導入することは即座にやめるべきです。現場が混乱して業務効率が悪化し、さらにはIT化へのアレルギー反応が大きくなって反感を買うことになります。これは不可逆的な失敗に繋がり、永遠にDX化を実現できなくなります。そもそもDX化は手段なので目的でありませんが…。

DXとは試行錯誤の連続です。成功するシステムを一発で導入できることなどあり得ないと言って良いでしょう。そもそも、DXの本質には『デジタル技術も進化していく』という前提があります。つまり、システムを一発入れて終了ではないのです。ワンショット思想は過去のものであり、箱物行政の思想と同等といえます。

DXを成功させるには試行錯誤をいかにして繰り返すかの勝負なのです。なのに、IT化を無理やり進めると現場は徐々に拒否反応を強めます。そのような状態になると、方法が悪いのか、相性が悪いのか、オペレーションが悪いのか切り分けることが難しくなります。結果として五里霧中になるのです。

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試行錯誤中は失敗を許容する必要があります。しかし、顧みない失敗を繰り返してはなりません。顧みる行為には現場の協力が必要です。「PDCA」という単語でまとめられることもありますが、その質を高めることが重要であり、PDCA自体は手段でしかありません。

なお、IT企業は往々にして傲慢であるというのが私の持論です。「我々のテクノロジーは素晴らしくて導入すれば効果がでる」という前提ありきで、あなた(クライアント)の財布を使って実験しようと試みます。

3. 現場のヒアリングが最優先

強調しますが、DXはとにかく現場優先のヒアリング重視です。それは、数千億円の投資と20年弱の時間を費やした「IT界のサグラダ・ファミリア」が教えてくれました。

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Jan Cattaneo / Shutterstock.com

私たち人類は、IT界のサグラダ・ファミリアと呼ばれた巨大銀行のシステム刷新からも「現場オペレーションのヒアリング」がいかに大切であるのか学んだはずです。そのプロジェクトは、初期の頃に現場のオペレーションを無視したシステムを稼働した(押し付けた)ことで大混乱に陥りました。

しかし、それらの失敗から IT企業とIT部署は反省し、傲慢さを抑え、現場の声を聞いて最高のシステムを目指すようになりました。そして永遠に完成しないと言われたシステムが稼働している今があるのです。

同様のことは航空機の事故からも学ぶことができます。離陸する度に警告が無意味に鳴るためスイッチをOFFにするのが常套化した結果、本当の警告を見落として事故につながった事例や、チェックリストを律儀に守っていたら機内火災から逃げ遅れたという悲しい事故もあります。

航空機における安全の歴史は、顧みる試行錯誤を愚直に行っている結果です。現場の実情に合わせて機械だけでなくルールも変化させているのです。その結果、航空機の安全性は70年前と比較すると飛躍的に向上しました。

ですから、とにかく現場に聞き、どの情報技術(IT)が適切なのか、どのように融合させていくのか検討するようにしましょう。

4. スシローはITらしさを見せつけない

回転寿司のスシローは、IT化が進んだ企業の一つとして知られています。2002年の時点で皿にICチップを取り付けて、顧客が、どのネタを、いつ、どれくらい消費したのかというデータを取り始めました。約20年前から行っていることに驚きます。今では鮮度管理にAIを導入するなど、その進化に余念がありません。

つまり、IoTやDXと呼ばれるものを20年近くやっているのです。極論ですが、スシローを見ると、2021年の今になって「IoTの時代が到来!センサーで顧客動向・導線を把握するのがトレンド」などと言うのが恥ずかしくなります。

しかし重要なことは、ITの塊であるスシローは、TV番組の特集企画以外においては「IT活用を意図的に隠している」かのように振る舞っていることです。

WEBサイトに訪れてもIT活用は押し出さず、企業トップが各所で発信するメッセージはあくまでも「お寿司」にフォーカスしています。持株会社のスシロー・グローバル・ホールディングスですらIT技術について主張していません。

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引用:スシロー・グローバル・ホールディングス
https://www.sushiroglobalholdings.com/

私は、スシローはDXの本質を理解しているとしか思えません。顧客はお寿司を目当てに同店に訪れるのであって、IT技術を目当てに訪れていないことを理解しているのです。これは当然のように思えますが、経営する中で見落としがちな難しい事柄なのです。

(特に上場企業にとっては)企業価値を向上させる施策の一つとして、DXに関する情報発信が重要になる場面が存在します。しかしそれは、投資等の情報に敏感な人たちが目に触れる方法ーー例えば、テレビ東京のビジネス番組や日経の専門誌、業界紙などに限って発信すれば良いのです。

スシローで例えるならば、それらを守るだけで「寿司が旨いスシロー」のブランドイメージを、「IT(機械)」という水と油のような存在で汚すことなく保つことができます。これらのことからも、スシローは本当にITの使い方を理解している企業だと思います。

大切なことは、既存の事業が業界またはブランドイメージを保有している場合、IT化を発信するチャネルを限定することです

5. IT活用をとにかく隠す

ITがブランドイメージを損なうことが多々あります。そもそも顧客は "ITがスゴイ" ことを楽しむために来店しているわけではありません。それは科学館の役割です。接客業ならば、大切なものを買うときに機械に接客されて喜ぶ顧客は稀であり、そういうコンセプトならば許されるーーつまり、HISグループの「変なホテル」は例外です。

所詮、ITは道具です。ところが、ITに強いコンサルなどが経営にコミットすると「ITが主軸になってしまう」のです。なぜなら、ITシステムを販売したいのですから。素直です。

スシローの事例でも分かるように、成功するDXは、ITが顧客から見えない場所でフル活用されているものです

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私はディズニー・テーマパークで長くキャストをしていましたが、ゲストから見えない裏舞台ではITフル活用を垣間見ることができました。

アトラクションや夜のパレード、各種ショーにしても先端技術のフル活用です。当時、ファストパス発券システムはWindows XPで動いてました。『プーさんのハニーハント』や『センター・オブ・ジ・アース』には、懐かしきコンパック製(Compaq)のPCがビークル(乗り物)に1台ずつ搭載されています。

東京ディズニーランド版『プーさんのハニーハント』は2000年にオープンしましたが、当時では最先端であった無線LANを使ったローカルGPS技術を活用しています(※厳密には、屋内測位システム)。

でも、それらの部分が見えたらゲストは冷めてしまいます。これはディズニー・テーマパークだけが例外ではなく、様々な業種・業態に当てはまります。前述のスシローも同様です。

SF作家であるアーサー・C・クラークは大切なことを教えてくれます。クラークの三法則の一つに

十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。

というものがあります。IT化の姿勢やIT活用が丸見えでは本業に悪影響を及ぼしかねません。IT(Information Technology=情報技術)は黒子に徹するのが正しい姿なのです。

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繰り返しますが、DXを成功させるためにはITの存在を徹底的に隠す必要があります。これがDXを成功させる鍵となるでしょう。

そして、今後25年はデジタルとアナログの双方の良さを十分に理解するアンバサダー的な存在が活躍し、重宝されるというのが私の持論です。

間違っても、ITシステムを売りつけ、導入させい大手コンサルのことを真に受けたり、目新しい技術に飛びつくことの無いように気をつけなければなりません。DXを始めるならば、デジタルとアナログの双方の良さを十分に理解するアンバサダーの意見聞くことができる社内体制を整えましょう。

すでに社内で整っている自信がある場合、その人物は本当に "アナログ" な分野も大好きで詳しい人物でしょうか。そしてデジタル技術を現場と融合させる際に、現場に対して敬意を払うことができる人物でしょうか。

菓子メーカーのユーハイムは、門外不出の職人が焼いていたバウムクーヘンをAI搭載の機械で焼くために、現場の声を少なくとも1,000回は聞いたと言われています。そしてその機械を日本全国のお菓子屋さんに降ろすというビジョンを持っています。現場の職人を尊重せず、ビジョンもない状態では上手く事が運ばなかったことでしょう。

もしもアンバサダーを担う人物がいない場合は、ご相談に乗りますのでお気軽にご連絡ください。最後に営業のようになってしまい申し訳ありません。しかし、あまりにも目に余る状況が散見され、手遅れに近い現場にピンチヒッターとして参加することが多く、居ても立っても居られなくなってnoteに基本的な事をまとめました。どうか、DXブームの被害者が増えませんように。

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