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大麻取締法改正 経過の振り返り⑤「日本の麻文化を守るために」ほか

 検討会第5回、テーマは「日本の麻文化を守るために」です。併せて、「これまでの質問への回答と追加説明」と、「報告書とりまとめに向けた今後の検討課題」も話されます。

【検討会第5回 令和3年4月23日】
 はじめに、日本の伝統麻文化を守る活動をしている「日本麻協議会」事務局代表 兼 「難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン」代表理事の若園和朗氏、栃木県の麻農家で「一般社団法人日本麻振興会」代表理事の大森由久氏から、「日本の麻文化を守るために~大麻取締法をマリファナ等取締法に~」と題しての説明です。

  • 日本の産業用大麻は保健衛生上の問題となるマリファナ等とは無関係で無害。日本在来の大麻のほとんどはTHCの含有率が低く乱用される可能性のない品種で、歴史的に乱用とは無縁である。

  • しかし、世間では正しく分別されず混乱した状態が続いている。原因の一つが麻薬対策課による「ご注意ください!大麻栽培でまちおこし!?」と名付けられた国内の大麻とマリファナ用大麻をごちゃまぜにしたパンフレットである。この場を借りて抗議する。

  • 大麻栽培免許を担当する県も混乱している。神事や伝統産業で使われる精麻の供給を目指して2014年に伊勢麻振興協会が設立されたが、出荷できるのは三重県内のみとされており、経営は危機的な状況にある。

  • 厄介なのは、日本の大麻とマリファナの乱用を混同し、乱用を正当化しようとするマリファナ解放論者である。

  • 日本の麻の伝統を守るため、大麻取締法をマリファナ等取締法に変えることを提案するとともに、以下について要望する。

    1. THCの含有率の基準を定め、新規の栽培免許取得を可能にすること

    2. 乱用薬物としての大麻は「マリファナ等」と表記すること

    3. 大麻取締法の「目的」を明記すること

    4. 栽培者と厚生労働省が連携して「乱用防止キャンペーン」を行うこと

    5. マリファナは安全といった誤情報から若者と伝統を守ること

  • 国際疼痛学会は「現時点では痛みのための大麻やカンナビノイドの一般的な使用を支持することはできない。どのような患者に利益があり、どのような患者に害があるか研究を進めるべき。」との見解を出している。マリファナは非犯罪化すべきだと主張する医師もいるが、慢性痛の患者を支える立場からは心配な主張である。

  • 日本麻振興会は麻産業を後世に伝えていくことが役目で、大麻の開放を訴える人とは一切関係がない。栃木県では「とちぎしろ」というTHCが限りなく低い品種を栽培しており、ここ20~30年大麻の盗難はない。大麻は横綱の綱、弓の弦、ランプシェードなど多岐にわたって6次産業化を行っており、花火にも麻炭が使われている。

 以上です。嗜好用大麻の合法化を訴える人たちの活動によって、産業用大麻は正しく理解されない状態にあるということのようで、強い口調での非難もありました。これに対して質疑応答がなされます。

  • 大麻栽培で「麻酔い」ということは実際なかなか起こらないというが実際どうか。 > 52年栽培しているが全くなく、聞いたこともない。訂正されるべき。

  • 大麻栽培は、乱用者に免許を与えない制度が必要。免許要件は現在各都道府県が規定しておりばらつきがあるため、国の免許に移行して統一すべき。大麻研究者についても同様。また、大麻取締法に目的を明記すべき。

  • 栽培のための大麻の種子の管理はどうしているのか。 > 栃木県では、県が種子の保管・育種して栽培者に分けている。

  • 大麻取締法に使用罪がない理由として「大麻栽培者が麻酔いすることもあるから」という国会答弁があったが、さっきの話と整合性がない。 > 大麻に関する知見は昨今変わってきている。麻酔いについて、麻薬取締部による栽培者の尿検査でもTHCは検出されておらず、とちぎしろにはTHCが含まれていないという研究結果も出てきている。これらを踏まえて対応を考えていかなければならない。

  • 大麻栽培の免許や監督は都道府県ごとに基準や規制が設けられているが、合理的なものになっているか改めて見直す必要がある。大麻栽培のパンフレットに産業としての不合理性についての記述があるが、不正栽培だけに焦点をあてるべき。

  • 厚生労働省では国内で栽培されている大麻のTHC濃度に関する情報は集めているのか。日本の産業用大麻は乱用には適さないということを示せば不正に入手しようという人も出てこないのではなか。 > 調査していない。必要があれば今後調査する。

  • 大麻を栽培する圃場での管理は厳しくされているものなのか。 > THCが低いので、それ目当ての泥棒は来ない。毎日見回りをしており、葉っぱ1枚とられてもわかるが、20数年来取られたことはない。

  • 産業用大麻の範囲についてTHCの含有量で基準を設けることを検討すべき。また、麻酔いがないのであれば大麻に使用罪がないことは合理性がないので、使用罪の対象とする方向で対応すべき。

 産業用大麻の基準の話が再び出てきました。また、日本の在来品種はTHCが低く「麻酔い」は起きないことから、麻酔いを理由に使用罪が設けられていなかったという根拠がなくなり、使用罪新設の流れも感じられます。

 続いて、麻薬対策課からこれまでの検討会で出た質問に対する補足の説明がありました。内容が多岐にわたりますが、おおむね以下のとおりです。

  • 厳罰化による犯罪抑止効果について例を挙げて説明する。危険ドラッグ対策については、平成19年に指定薬物制度が施行され、平成25年に指定薬物の単純所持・使用に対する罰則が整備され、平成26年に施行された。

  • 検挙数は罰則整備により平成28年に1,276人と前年の897人から増えた後に減少し、平成31年は200人となった。使用罪によって危険ドラッグがなくなったという人もいるが、販売店への販売停止命令など総合的に実施した結果である。

  • もう一つの例として、飲酒運転に対する道路交通法の改正を挙げる。平成18年に道路交通法が改正され罰則の強化を行った結果、平成19年の飲酒運転による交通事故は大幅に減少した。警察では取締強化と罰則強化で減少したとして総括しているが、国民全体に飲酒運転はよくないことだという認識が改めて広がったことも理由の一つと言える。

  • 医師の麻薬中毒者届出義務と守秘義務の関係については、届出は麻向法の義務であるため届け出た場合に守秘義務違反にはならないが、通報に関しては医師の裁量にゆだねられている。

  • 諸外国における合法化前後の大麻の使用状況は、カナダでは過去3か月間に使用したことのある人が14%から17.5%に増加。ウルグアイも増えた。アメリカのコロラド州、ワシントン州も、他州より大幅に増加。

  • 起訴・不起訴について、覚せい剤では75%以上が起訴される一方、大麻は50%。保護観察がつかない全部執行猶予判決は、覚せい剤が33.5%に対し大麻は82.3%。保護観察がつく一部執行猶予は覚せい剤が18%に対して大麻は2.1%。

 質疑応答です。

  • 厳罰化の犯罪抑止効果の例として飲酒運転の説明があったが、アルコールは合法であり、大麻使用罪を新たに作ることの効果や意義を示す例としてはズレている。

  • 厳罰化の抑止効果について、危険ドラッグはこれまで規制されていなかったもので、規制の効果が得られやすい。飲酒運転については、社会問題化しマスコミで取り上げられたり企業や官庁で厳しい対応が取られたことによる複合的な効果と思われる。

  • 薬物の問題は保健衛生・健康問題であり、「ダメ。ゼッタイ。」はもうやめたほうがいい。当事者や薬物依存症者の家族、治療や回復支援に携わっている専門職や支援者も不満に思っている。

  • 「ダメ。ゼッタイ。」は薬物乱用を始めていない人への呼びかけで一次予防。ヨーロッパのある国でも「Never.Ever.」と言われている。一次予防に対する呼びかけは不可欠。

  • 麻薬中毒者の届出義務について、実際にはほとんど届出がなくなっているとのこと。もし多くの医師がきちんと運用した場合、届出件数が非常に多くなる可能性があり、監視・監督の期間が刑事処分より長期に及ぶ点も再考しなければならない。多くの医療関係者が「通報しなければならない」と誤解しており、きちんとした広報が必要。

  • 保護観察のつかない全部執行猶予の割合について、覚せい剤が33.5%となっており、残りの60%ぐらいは保護観察がついているような印象を受けるが、これは懲役の判決が出たものを母数にしているからで、全部執行猶予の判決が出た中で保護観察がつくケースは10%ぐらいしかない。

  • 大麻事犯の検挙人員は増えているが、医療機関の患者は増えていない。厳罰化するのは何のためなのか、なぜ大麻がいけないのか、どんな健康被害や社会的弊害をもたらすのかという根拠も考えてみなければならない。逮捕者が増えているから厳しくするだけで本当にいいのか。

  • この会議が厳罰化に向けて動いているように聞こえるが、それは決まっていないと思うがどうか。 > 方向性としてお示ししたことはない。

 厳罰化による抑止効果については麻薬対策課の説明が否定されており、委員には慎重派が多いと感じられます。また、「ダメ。ゼッタイ。」への否定意見も大勢を占めているようです。反論しているのは「ダメ。ゼッタイ。」の広報を行っている乱用防止センターの委員さんでしょうか。

 続いて麻薬対策課から、これまでの検討会を踏まえた今後の検討課題が示されます。

  • 報告書の柱は4つ、「大麻取締法のあり方」「再乱用防止、社会復帰支援等」「医療用麻薬及び向精神薬」「情報提供、普及啓発」に整理した。

  • 大麻取締法のあり方については、昨今の状況、大麻の健康への影響、有害性、大麻取締法の現状と課題をまとめる。今後、大麻由来医薬品のあり方、若年者の大麻事犯増加への対応、部位規制のあり方について引き続き議論していく。

  • 再乱用防止、社会復帰支援等については、医療的な支援と社会的な支援、司法における対応と分類してどうか。麻薬中毒者制度のあり方については別途方向性をお示しいただきたい。

  • 医療用麻薬及び向精神薬については、麻薬の流通管理、適正使用の普及啓発について更なる取組みはどういったものが必要なのかを整理する。

  • 情報提供、普及啓発については、わかりやすく、有害性をきちんと示す。一次予防、二次予防のあり方を含め整理していく。

 質疑応答です。

  • 一次予防、二次予防、三次予防が必要。一次予防は手を出さない、持ち込ませないことの徹底。二次予防は早期発見早期治療をきちんとやっていくこと。三次予防は社会復帰を促進すること。

  • 一次予防と再乱用防止はリンクしていて、薬物の供給があっても始めてしまう人とそうでない人がいる。始めてしまう人にはその理由があり、経済的、社会的な状況などいろいろあると思うが、官民がアプローチすることが必要。

  • 予防啓発にあたっては、すでに依存症になってしまっている人を排除しないような啓発や広報のあり方を模索してほしい。また、治療や回復支援の現場における薬物使用は安全であるというメッセージも出してほしい。

  • 早期発見早期治療の二次予防が大事と思う。現在は薬物を使ったことのない一次の人から回復支援施設につながっている三次の人との間が空いている。

  • 啓発に関して、大麻の有害性、無毒大麻といった言葉があったが「害」や「毒」を使わず「大麻の健康影響」という言い方がフェアである。害や毒にはやめさせようとする側の意図がすごく見えて抵抗する層もいる。もう少し科学的に、証拠に基づいて伝えていく形が有効と思っている。

  • 司法における対応で、起訴は半分、起訴されても9割は単純執行猶予で、犯罪化されても放置されている実態があり、これを何とかしなくてはいけない。刑事手続きや司法における対応についてを含めた報告書になればいい。 > この検討会は厚労省の諮問機関であるが、報告書に書いてはいけないということではないので、法務省と協議していく。

 以上です。
 検討会は中盤かと思っていたら、もう取りまとめに向けて動いていく段階のようです。個人的に抱えていた疑問、「厳罰化に関する議論」「THC基準の妥当性」についてはこれまでの委員発言と改正内容が食い違うような印象を受けていますが、取りまとめの段階で変わったのでしょうか…。
 続いてみていきたいと思います。


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