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「カンナビノイドの科学」要約④

【第9章 カンナビノイドと法律の壁】※2015年の状況です

  • 大麻取締法には大麻の医薬品の施用禁止が盛り込まれている。これは、当時流通していた印度大麻草を規制するためで、大麻から作られた医薬品が有害かどうかという視点はなかった。国際条約である「麻薬に関する単一条約」では医療利用は禁止されておらず、リスク評価の点でも大麻とヘロインが同等とされていることは科学的根拠に乏しいため方針転換に向けた議論が進んでいる。

  • 大麻草が国内で薬機法上の医薬品として使えるようになるには、日本薬局方に収載されるか、新薬承認の手続きをするかの2つの方法がある。新薬承認には500億円、9~17年の歳月がかかる。薬局方への収載とどちらが時間とコストがかかるかは、担当機関によれば「一概に言えない」。このため、大麻取締法が改正されても大麻草が医薬品になるにはさらに10年以上を要すると考えられる。

  • 医療用大麻は、世界保健機関や厚労省、大学研究者など「医学」の立場からは有用性のデータの蓄積が不足していると判断されている。一方、医療用大麻を合法化した地域での患者の実践など「医療」の立場からは治癒効果があったと判断されている。

【第10章 カンナビノイドと薬物教育】

  • 1998年から小中高の学校教育に薬物乱用防止が明記された。大麻に関する記述は、㈶麻薬・覚せい剤乱用防止センターの情報をベースにしており、大麻精神病という不確かな病名の紹介、医学的根拠の不明瞭さ、「薬物には例外なく人格が崩壊する危険がある」といった医療用大麻の実態とはかけ離れた記述があり、問題である。

  • これまでの薬物乱用防止教育は国際的な麻薬撲滅キャンペーンを受けた洗脳教育といえる。現代社会においては、薬物乱用に走る若者の家庭環境や心理的要因に関する知見を活かし、「依存症」に焦点を当てた教育に改めるべきである。

  • アメリカではマリファナ合法化についての世論調査が1970年から実施されている。最初は合法化反対が84%、賛成が12%で、1996年のカリフォルニア州での医療大麻合法化から賛成の割合が上昇しはじめ、2014年に反対39%、賛成58%と逆転した。マリファナ喫煙の生涯経験率が41.9%と高いアメリカであっても、合法化から社会の支持を得るのに17年かかっている(日本の生涯経験率は1.2%)。

【第11章 カンナビノイドで健康長寿社会へ】

  • 海外の事例や臨床報告を踏まえると、カンナビノイドは老人退行性疾患と精神疾患への有効な手段となる。欧米で医療用大麻の対象疾患となっている疾病について、日本の患者統計で単純に足し上げると4531万人となる。健康長寿社会にはカンナビノイドの利用が必須であり、次世代の健康インフラになる可能性を秘めている。

  • 一部の州で規制緩和されたアメリカでは、大麻の市場規模は2014年に全米で27億ドルと推計されている。日本においても対象疾患患者4531万人の10%が医療用大麻を利用したと仮定すると、8212億円の農家産出額、同規模の医療費削減効果が見込まれる。世界情勢の変化を踏まえ、「特区制度」を利用した社会実験や、日本に適した法制度が必要である。

  • カンナビノイドに関する情報は、患者と医療従事者に広く伝わっていない。カンナビノイドの利用は患者の権利であり、海外で認可された医薬品が日本で使えないドラッグラグ問題でもある。公衆衛生の「公」は行政ではなく市民であり、生活する一人一人の問題という自覚の上に制度設計が必要である。

まとめと感想に続きます

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