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「発想が豊か」と言われる人はどういう人か『才能をひらく編集工学』【無料公開#13】

8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」を公開予定です。今回は第2章アプローチ03より一部を公開いたします。

「スキーマ/フレーム」を操る「お笑い」の編集力

この「スキーマ」をさらに束ねている枠組みを「フレーム」といいます。

ある概念を理解するのに必要となるような背景にある知識構造のことで、何かの意味は「フレーム」を背景にしてはじめて理解されえます。

ひとつの「フレーム」は複数の「スキーマ」同士が関係し合ってつくられています。

「スキーマ」や「フレーム」がない状態では、わたしたちは毎度ゼロから物事を把握しないとなりません。

いまこの瞬間も「読書フレーム」の中の「本スキーマ」や「読みスキーマ」が束なって、視線は上から下へと文字を追い、指先は迷わずページをめくっているはずです。

これらを外すと、「読書をする」という行為自体が何なのかを考えるところから始めないとなりません。

さらに言えば、「読書」のような普遍的なフレームから、その地域や民族な
らではのフレームにいたるまで、さまざまなレイヤーのフレーム/スキーマが混在しています。

この地域ごとのフレーム構造の違いが、「文化」として現れるのです。

落語や漫才やコントは、わたしたちが経験の中で培ってきた「スキーマ」と「フレーム」を巧みに引き出してはずらしたり壊したりすることで「笑い」を生み出します。

たとえば、「ピザ屋フレーム」には、ピザ屋らしいユニフォームや言葉遣いや手続きの「スキーマ」が連なっています。

「ピザ屋ならこうするはず」というフレームが共有されている上で、やたら馴れ馴れしいとか、玄関先で重たい話を始めるとか、こちらのフレームやスキーマから外れていくときに、「ピザ屋なのに」というおかしさが生まれてくるというわけです。

音楽やアートやスポーツに比べて「お笑い」は国境を越えにくいと言われますが、「お笑い」というものがそもそも文化に内在しているフレーム構造を取り扱う技能である、という宿命もあるのでしょう。

このように、「スキーマ」や「フレーム」が相互に影響しあいながら、わたしたちはさまざまな事柄をパターン認識しています。

「発想が豊か」とか「頭がやわらかい」と言われる人は、必要に応じてこの認識のパターンをくずして、新しいものの見方(スキーマやフレームの新しい組み合わせ)を持ち込める人とも言えます。

そう考えれば、「発想力」というのは必ずしも生まれ持ったセンスだけによるものではないことがわかります。

思考の枠組みに自覚的になって、意図的に取り出したり飛び越えたり組み合わせたりをマネジメントすることで、いかようにも引き出されていくものです。

フレームの組み合わせや飛び移りをすべて外部に取り出してマネージしようとした「発想力エンジン」とも呼べる夢の装置への挑戦が、「アプローチ02」で触れた「ルルスの結合術」でした(『才能をひらく編集工学』【無料公開#9】)。

そこから600年を経て人工知能にいたっても、いまだ完璧な「発想力エンジン」はつくられていません。いかに人間の想像力が複雑で入り組んでいるか、ということです。

ここでは、どうすればフレームを自在に飛び移れるのか、ということを探って、わたしたちの内側にある「発想力エンジン」にもう少し踏み込んでみましょう。

(明日に続きます)


著者プロフィール

安藤昭子(あんどうあきこ)

編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。

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