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情報の「地と図」(演習解説)『才能をひらく編集工学』【無料公開#26】

8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」、第3章「才能をひらく「編集思考」10のメソッド」より一部公開予定です。今回は第3章メソッド03「見方をガラリと変える 情報の「地と図」」より一部を公開いたします。今回は昨日の演習の解説です。ぜひ演習に取り組んでから読んでみてください。

演習3 情報の「地と図」 解説

日頃あたり前に使っている言葉にも、いろいろな側面がありますね。

たとえば「会議」。

チームにおける会議であれば「情報共有」や「アイデア出し」かもしれないし、経営層にとっては「合意形成」や「意思決定の場」という側面があるでしょうか。

新人にとっては「度胸試し」や「成長の場」にもなるでしょうし、働き方改革担当からすれば「削減対象」の場合もありますね。

「日本学術会議」などといえば、ミーティングではなくて評議のための機関ということにもなります。

「結婚式」は、新郎新婦にとっては「晴れの日」ですし、その後夫婦生活を送る中では「記念日」や「生涯の思い出」ともなります。

親にとっては「巣立ち」や「旅立ち」、参加者にとっては「お祝い」ですが、場合によっては「散財の元」とも見えるかもしれません。

ホテルにとっては「案件」であり「本番」。

幼い女の子にとっては「花嫁さんになれる日」かもしれませんね。

「結婚式」をめぐる景色も、どこから見るかでずいぶんといろいろです。

多面的に眺めていく中で、「結婚式」とはそもそも何か、「会議」にはどんな一面があるか、「育児」は何をもたらしてくれるのか。

そういった日頃は意識しない視点に立つことができます。

ただし、漠然と眺めていても、なかなか「地」は切り替わりません。

「〜における◯◯」「〜にとっての◯◯」と、情報の分母や文脈にあたる視点を、意図的に設定しながら切り替えていきます。

もう一歩編集を進めるならば、メタファー(比喩)や「見立て」を積極的に取り入れていくと、さらに発想が自由になります。

誰の言葉か、「育児は育自」とはよく言ったものです。

これは「育つ者」の「地」を「子供」から「自分」にくるりと転換した見方です。なかなか含蓄がありますね。

どんどん「地」を切り替えて「図」を多方面から眺める中で、「あ、そういう見方もあったか」という発見にいたれれば、この演習は大成功です。

その感覚を、ぜひ日常の中にも持ち込んでみてください。


第2章アプローチ03からのヒント

編集は「連想と要約のかわるがわる」で進んでいきます。

「連想」を進めていく上でのもっとも基本的な技法が、この「地」の転換です。

一方、「要約」は「図」を絞り込んでいくほう。編集はこの両輪で進んでいきますが、発想を自由にするためには、まず連想に強くなることです。

「連想」とは、頭の中の情報の枠組みである「フレーム」や「スキーマ」を渡り歩いている状態です(無料公開#12)。

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「〜における」「〜にとっての」を変えていくことで「地」が変わると言いましたが、これは言ってみれば「フレームの飛び移り」にあたるものです。

「フレーム」や「スキーマ」は、物事を認識する上で重要な枠組みの機能を果たしているものですが、一方で、それが動かなくなるとものの見方が固定化されて、いわゆる「頭が固い」状態に陥ります。

頭を柔らかく保っておくためにも、「フレーム」や「スキーマ」は自在に動かせる状態でいたい。

「情報の乗り換え・持ち替え・着替え」というのは、フレームやスキーマの乗り換え・持ち替え・着替えを意図的に起こす状態のことでもあります。

その具体的な方法として、情報の「地と図」を見極めて動かしていく技法を体験していただきました。

ミンスキーは、フレームからフレームへ思考を飛び移らせるのは「アナロジー」の働き以外にない、と言いました(無料公開#14)。

この「地と図の切り替え力」が「アナロジー」と大きく関係していることを、次のメソッドで見ていきましょう。


著者プロフィール

安藤昭子(あんどうあきこ)

編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。

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