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台風15号による記録的豪雨 地形の危険性 把握重要

(2022年9月28日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)

 9月23日夜から24日朝にかけ、県内は台風の影響で活発化した雨雲により記録的な豪雨に見舞われた。いまだ多くの方が大変な思いをされている状況下にある。まずは被災された皆さまにお見舞い申し上げたい。

 静岡県資料によれば9月26日時点の県内の被害は、死者・行方不明者3人、住家の全壊・半壊、一部破損、床下・床上浸水が計4,374棟で、家屋被害はすでに2019年台風19号の同2,829棟を上回る甚大なものになった。比較的近年の県内の風水害による大きな家屋被害としては、1982年台風18号による同2万2,161棟、1974年七夕豪雨時の同8万1,287棟などがある。被害の数は今後変化すると思われるが、これらに匹敵する被害とならないことを願っている。

 家屋の被害数の多寡にかかわらず、高価な電化製品などが多く存在する現代の家屋では、浸水時の被害は昔とは異なる深刻さがある。また、大規模な停電や断水が現代の生活に大きな打撃を与えることも目の当たりにし、「避難」などのソフト対策だけでなく、インフラの強靱化、多重化などのハード対策が重要なことも実感させられた。

 浜松市で生じた土砂災害では人工的な盛り土の影響も指摘されている。昨年の熱海土石流災害で顕在化したように人工的な盛り土の管理には目を向けねばならない。一方、人工的な盛り土だけが危険かのような認識は適切でない。土砂災害の大多数は自然の斜面や渓流で発生しており、自然斜面なら安全などということはない。日本の地形は、山が崩れ、崩れた土砂を川が運び、人が暮らす土地が形成されている。山は崩れるものであり、川はあふれるものである。基本的には「頑丈で崩れない斜面などというものは存在しない」、「川と同じくらいの高さの低地は洪水の影響を受けうる」と考えてよい。

 近年の風水害において洪水・土砂災害犠牲者のほとんどは地形的に起こりうるところで発生しており、今回犠牲者が生じた掛川市の土砂災害現場も土砂災害警戒区域内、袋井市での犠牲者発生現場は洪水浸水想定区域内である。川根本町での車が河川付近に転落したケースも繰り返されている被害形態だ。ハザードマップや地形を見て身の回りに起こりうる危険性を把握して暮らし方を考えることの重要性も痛感させられた。

【note版追記】

 今回の静岡県内での豪雨災害についての、9月26日夕方時点で書いた雑感です。被害の数値は刻々と変わる段階でしたので、入稿時の最新の値を入れていただきました。出典は静岡県のページになります。

 過去の静岡県の被害の数字は、静岡県地域防災計画に掲載されている資料によりました。もっと古い時代も含めて表を作ったことがあるので下に示しておきます。

静岡県の主な自然災害(1945年以降,死者・行方不明者10人以上)

 まだしばらく被害の数字は動くと思いますから、どの程度の値になるのか、本当になんとも言えません。ここで過去の数字を挙げたのは、なんとなくの感覚で「これまで起きたこともない大災害」のような見方をすることは適切でないと思う、ということを婉曲に述べたいという気持ちがありました。このあたりは難しいところで「たいしたことない」と言ったととられて攻撃を受けるリスクがあり、相当慎重な言い回しをしなければならないと思っています。今はただ1982年台風18号や1974年七夕豪雨のような被害規模とならないことを祈るばかりです。

 後半で強く言いたかったのは、人工的な盛土だけが危険であるかのように捉えるのは適切ではないということです。日本の地形は山が崩れて川が崩れた土砂を運んで形成されてきたのですから、「頑丈で崩れない斜面などというものは存在しない」という強い言葉を使いました。

私たちの身の回りの「地形」の形成過程

静岡新聞「時評」欄へ寄稿した過去記事については下記にまとめています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。