2022年9月23~24日の静岡県内での豪雨災害(第2報) 降水量の概要
2022年9月23~24日の台風15号の影響による静岡県での豪雨について、降水量の特徴を簡単に速報します。9月29日時点でまだ検討途中の速報であり、今後数値や見解などが変わっていく可能性があります。
降水量データについて
まず、いくつかの継続時間ごとの降水量について、9月23日から24日の間の最大値と、その観測所における観測史上最大値に対する今回の最大値の比(既往最大値比)を分布図で示します。この2日間の最大値なので、記録された時刻は観測所によって異なります。また、データは気象庁AMeDAS観測所の観測値の、気象庁による集計値を用いています。既往最大値比は統計期間が10年以上ある観測所のみを示しています。気象庁の観測所はしばしば移転・廃止となり、統計期間は観測所によってかなり異なります。また統計期間は最長でも1976年以降の47年間です。「観測史上最大値」とは、最長で47年間の最大値ということになります。降水量は0.5mm単位で観測されていますが、以下の図及び本文では小数点以下は省略して表記しています。
1・3時間降水量
1時間降水量でみると、「猛烈な雨」に当たる1時間80mm以上が観測された観測所が、中部、西部を中心に11箇所となり、そのうち5箇所で既往最大値更新となりました。
3時間降水量も中部、西部で多くなっており、最大は高根山の215mmでした。決して小さな値ではないですが、筆者の集計では全国AMeDAS観測所の最大値は383mm、上位10番目でも292mmですから、全国的に観測されたこともないような規模というわけではありません。既往最大値は県内では8箇所が更新となり、うち4箇所では120%以上の値となりました。もっとも、静岡や菊川牧之原など、3時間降水量自体は大きくても既往最大値更新に至らなかった観測所もあります。
24・48時間降水量
24時間降水量も中部、西部で多くなっていますが、最も多かったのは静岡(地方気象台)の417mmで、次いで鍵穴(静岡市葵区)の405mm、高根山(藤枝市)の403mmなどとなっています。より山深いところの井川(289mm)、有東木(334mm)はそれほど大きな値になっていません。有東木の334mmは一見大きな値に見えますが、ここは非常に多くの雨が降るところで、さほど記録的な値とは言えません。有東木は2020年からの観測所なので過去のデータがありませんが、近接する廃止観測所の梅ヶ島では24時間降水量の既往最大値が647mm、2位が613mmというようなところです。井川も既往最大値は536mmですから、今回の値は全く及びません。普段から比較的多くの雨が降りやすい北部山間部ではそれほど多くの雨が降らず、平野部に近いところの山間部で、その地域としては多くの雨が降ったというのが今回の大雨の降り方の特徴と言えると思います。ただし、規模の大小はありますがこうした降り方自体は、静岡県付近では格別珍しいものではありません。
24時間降水量の既往最大値比をみると、県内では6箇所が最大値を更新しています。ただし最大値比は最大の天竜でも113%で、量的に多くの雨が降った静岡、鍵穴、高根山では既往最大値を若干上回った程度です。48時間降水量は静岡でわずかに上回っただけで他には既往最大値を更新した観測所はありません。比較的短時間の降水量が大きかったのが今回の大雨の特徴と言えそうです。
静岡(静岡地方気象台)の降水量
以下では各観測所の降水量をみていきます。これ以降の降水量データは、気象庁の観測値を用いて筆者自身が集計したものを用いています。集計方法が異なるのでこれまでに挙げた気象庁の集計値とは若干異なる場合があります。
上の図は、静岡(静岡市駿河区曲金・静岡地方気象台)における9月22~24日の1時間降水量と72時間降水量の推移を示したものです。右上の図は、同期間中の各降水継続時間ごとの最大値と、同地点における既往最大値(ここでは1976年以降)、全国AMeDAS全地点の最大値を比較した図です。以下でも同様な図を示します。
静岡では23日夕方頃から雨が降り始め20時頃から一気に雨脚が強まりました。1時間30mm以上の「激しい雨」や同50mm以上の「非常に激しい雨」が4時間ほど継続し、0時頃に一時小康状態となりますが、02~03時前後に二度目のピークがありました。1976年以降の最大値と比較すると、12時間降水量は既往最大368mm→今回最大値404mmとはっきり上回りましたが、1~6時間降水量は既往最大値未満、24,48時間降水量も既往最大値とほぼ同程度、72時間ははっきり下回っています。たしかに大変な降り方ではあったものの、1976年以降の最大値を大きく上回る規模ではなかったと言えるでしょう。
1974年七夕豪雨との比較
静岡の過去の豪雨としてよく知られているのが、1974年7月7~8日の「七夕豪雨」です。このときも静岡(地方気象台)がもっとも大きな値を記録したのですが、AMeDAS観測網整備直前の大雨なので、よく使われる1976年以降の統計値ではこのときの記録が反映されません。データ自体はあるので、1974年7月6~8日について、2022年台風15号と同様なグラフを作成したのが上の図です。1時間降水量だけは2022年台風15号の記録が上回っていますが、他の降水継続時間については1974年七夕豪雨の記録の方が明らかに大きなものになっており、例えば24時間降水量は508mm(2022年台風15号では417mm)います。雨の降り続き方も激しく、1時間50mm以上の「非常に激しい雨」がほぼ7時間継続しました。様々な観点から見ても、静岡市街地付近においては1974年七夕豪雨の時の雨の方が、2022年台風15号にともなう大雨より激しかったと言ってよいと思います。
24時間降水量の分布について、1974年七夕豪雨との比較を簡単に考えてみます。1974年七夕豪雨時の降水量については、静岡地方気象台の静岡県気象災害小史(特別I)という資料に詳しい記述があります。この資料の3ページ目に24時間降水量の分布図があります。これと2022年台風15号による大雨の最大24時間降水量の図(下図)を見比べると、1974年七夕豪雨の方が24時間降水量400mm以上の領域が2022年台風15号より東西にやや広かったようにも思えますが、観測所の数も違いますので今のところはなんとも言えないかと思います。なお、1974年七夕豪雨でも、北部山間部でそれほど多くの雨が降らず、平野部に近い山間部で降水量が多い分布となっており、この点は2022年台風15号による大雨とよく似ています。
鍵穴(静岡市葵区)の降水量
静岡に次いで24時間降水量が多かった、鍵穴について同様な図を作成しました。鍵穴では9月23日夕方から次第に雨脚が強まる降り方でした。1時間30mm以上の「激しい雨」が5時間、50mm以上の「非常に激しい雨」が4時間継続しました。
静岡とは異なり、1時間~24時間降水量のすべてで既往最大値を上回る降り方となりました。24時間降水量は既往最大値と同程度で、48,72時間降水量は特に大きくないというのは静岡と同様です。鍵穴は1991年からの観測所なので、直接比較はできないものの近接する廃止観測所「大山」(1976~1991年)の記録を参考のため合わせて参照して同様な集計を行ったところ、1~3時間降水量は既往最大値と同程度でしたが、4,5,6,12時間降水量は既往最大値を明らかに上回る結果となりました。
高根山(藤枝市)の降水量
同様に24時間降水量が多かった、高根山についても同様な図を作成しました。高根山も鍵穴と同様な9月23日夕方から次第に雨脚が強まる降り方でした。1時間50mm以上の「非常に激しい雨」が4時間継続したのも鍵穴とよく似ています。
鍵穴と同様に1時間~24時間降水量のすべてで既往最大値を上回る降り方となりました。24時間降水量は既往最大値と同程度で、48,72時間降水量は特に大きくないというのも静岡、鍵穴と同様です。高根山は2009年からの観測所なので、直接比較はできないものの近接する廃止観測所「(旧)高根山」(1976~2009年)の記録を参考のため合わせて参照して同様な集計を行ったところ、既往最大値は若干変わりましたが、1時間~24時間降水量のすべてで既往最大値を明らかに上回る傾向は変わりませんでした。
まとめ
静岡県中部・西部で、この地域としては記録的な大雨となったが、全国の最大値を上回るような記録は生じなかった。
既往最大値を更新した観測所は、1時間降水量5箇所、3時間降水量8箇所、24時間降水量6箇所、48時間降水量1箇所。24時間降水量は既往最大値を大きく上回る規模ではなかった観測所がほとんどで、1時間、3時間など短時間の降水量が特に激しい降り方だった。
静岡では12時間降水量が1976年以降の最大値を上回ったが、24,48時間降水量は既往最大値とほぼ同程度、72時間は明確に下回った。また、ほとんどの降水継続時間について1974年七夕豪雨時の記録を下回った。これまでに記録されたこともないような豪雨というわけではない。
北部山間部奥深くの井川、有東木付近でそれほど多くの雨が降らず、平野部に近い山間部の降水量が多くなっている点は、2022年台風15号による大雨と1974年七夕豪雨で共通している。豪雨域の広がりについては今のところどちらが大きいといったことはなんとも言えない。
24時間降水量の多かった鍵穴、高根山では、1~12時間降水量が1976年以降の最大値を概ね上回った可能性が高いと思われる。24,48時間降水量が既往最大値とほぼ同程度、72時間は下回っているのは静岡と同様である。
記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。