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Tensegral Voice Work⑤ポジショニング「古典を思考する」

ポジショニング=共振/筋運動感覚

ポジショニング、とは「どこどこに響くようなイメージで」や、「声を前に飛ばす、後ろに飛ばす」などの抽象的な表現指導のことを指します。

これらは結局個人差が激しいので、実用性がない、との指摘も多くあります。が、タテユニット、舌骨ユニット、または頚椎のアライメントなどを考えていくと、シンプルに「使っている筋肉」とポジショニング感覚が十分に一致します。

まず、「ポジショニング」をなぜ感じるのか、についての仮設を立てます。

筋肉は神経信号が送られると、収縮します。つまり硬化します。振動が伝わりやすくなるのです。共振です。この共振を「響いている」と感じがち、ということです。糸電話方式で共振していくのではないか、という仮説です。また、もし、共振までいかなくとも、「筋運動感覚」と捉えれば十分に説明がつくでしょう。

ですから、各ユニットにおいて、使っている筋肉はどこなのかを確認すれば、あっさりと現象と感覚が一致します。つまり、本記事においてはポジショニング=共振感覚/筋運動感覚です。レッスン中によくある会話ですが、タテユニットを使うように指導している最中に、「声が前に飛ぶ感じがある」と生徒が言い出したとします。「顎下を触ってごらん」と伝えます。そうすると十中八九、舌骨上筋群が強く働いていた、なんてことがあります。知らずに舌骨ユニット、舌骨のアンカー機能が強く働いていた、ということです。つまり、生徒のポジショニング感覚というのは十分に信用に値するのです。

舌骨ユニットでいえば、舌骨上筋群。舌骨上筋群を働かせることで、前方への共振を感じやすくなります。つまり歌手は「声を前に出している気がする」「声が前歯にあたる気がする」などと、前方へのイメージワードを口にすることが増えます。

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舌骨上筋群を用いず、タテユニットで音程を上昇してみましょう。例えば、実声のまま、C4-G4。ポルタメントをかけて、第一パッサージオを駆け抜けます。そうすると、C4までは輪状甲状筋だけで音高を稼いでいたのが、G4の頃には口蓋咽頭筋が参加する,,,そう仮定します。

そうなると、喉周りに感じていた共振(ポジション)が、軟口蓋にまで移動します。そして歌手は「頭に響いている感じがする」「鼻に響いている気がする」と言うことになります。

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リリーレーマン氏の「HOW TO SING」という本がありますが、彼女のポジショニングなども、そう考えると合点がいくことかもしれませんね。低音ほど舌骨上筋群をベースにして発声していたのが、高音に行くにつれて軟口蓋テンセグリティが機能し出す。ベルティングをしない歌手であればありうるパターンでしょう。

「マスケラ」などもなんとも言えませんが、ベクトルで考えれば、舌骨上筋群、と、軟口蓋機構の両方ベクトルの中間なのかもしれません。「両方使っている」ということです。

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付け加えて言えば、「首の後ろ」。うなじ、や後頭部のポジショニング感覚はこれも多くの発声指導者に指摘されてきましたが、シンプルに板状筋 / 僧帽筋など、頸部、背側の筋群の収縮が考えられます。

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「胸」「胸鎖関節」あたりにポジションを感じる人もいます。他の説明の方法ももちろんできそうですが、(咽頭共鳴腔が多分に使用されている等)これも筋肉で説明できますね。胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋らが収縮するのであれば、付着部で胸骨にポジションを感じることもあるでしょう。

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ポジショニングで「喉を開く」を思考する

付け足しのようにここで書きますが、さきほどの背側の頸部の筋群は舌骨ユニットで舌骨を前に引き出す歌手にとっては非常に重要です。

舌骨を前方に引き出そうというベクトルを付け加えれば、アマチュア歌手のほとんどが、「頚椎屈曲」のアライメントを引き起こします。その状態でも成り立つ歌手はいますが、頸部と喉頭までの距離が接近しかねません。つまり、やや損をする可能性があるのです。せっかく舌骨を前に出したのに、頸椎が追ってくる。プラマイゼロのようなものです。これは「LCS」という言葉で説明しましたね。

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ですから、「舌骨を前に引き出しつつ、頚椎を伸展させる」。このアライメントは「物理的に喉が開く」ということになります。

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人間の体は重力というプレッシャーの中でバランスを取るように力が働きます。前方の筋肉を使えば、バランスを取るように後方の筋肉を使いたくなるものです。もちろん後方の筋肉、とは言っても、頸部とは限りません。胸部、腰部の筋肉で脊柱 / 骨盤角度の調整でバランスを取る歌手もいます。その場合は、ぱっと見で「顎を突き出すのをやめなさい」などと注意されがちです。ですが、実は前後にうまくバランスを取っているというパターンも多く存在するでしょう。

ポジショニングの有用性

私のレッスンにおいては解剖学的な考察ありきのレッスンをしているわけですから、生徒もつい頭でっかちになりがちです。この辺はよく注意しなければいけないところです。

ですから、その場合は積極的にポジショニングの概念で生徒と会話します。タテてユニットを成長させていくときなど、「今どんな感覚?」「鼻に響いてる感じがします」「じゃあそれを保ったまま下降してみましょう」。こういったやりとりです。

うまくいかないこともあります。そうしたら一旦またポジショニングから離れます。うまくいかない、と言うことですから、おそらく舌骨上筋群が関与しているわけです。生徒の姿勢を評価し、舌骨上筋群がよく弛緩するように、うまく促していきます。準備が整ったら、またポジショニングの話に戻っていきます。

最終的には生徒が解剖学を全て捨て去らねばなりません。歌唱時に自分の喉頭(こうとう)をモニタリングして歌うことが歌手として健全な姿とは思えないからです。最終的にはイメージワードが良いのです。抽象性がないと、歌手の世界観を理論がサポートしきることはできないと考えるからです。

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