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シビックテック チャレンジ YAMAGUCHI成果報告会

デジテック for YAMAGUCHI運営事務局 兼 Y-BASEスタッフのハラマルです。昨日開催されたレノファ山口の試合は、今シーズン初のナイターでした。J1昇格候補の相手と互角の勝負も楽しめましたし、夜に出店が出ている雰囲気がお祭りのようなので、一緒に行った方も喜んでくれていました(と思います)!え?そんな雰囲気なの?と思われた方もいらっしゃると思います。是非、一度、スタジアムに足を運んでみてください。会場のどこかに、きっと私もいます!

今回は、3月25日(金曜日)に開催した「シビックテック チャレンジ YAMAGUCHI」の令和3年度の成果報告会の様子をお伝えします。

シビックテック チャレンジ YAMAGUCHIとは

さて、今回ご報告するこの取組、「シビックテック」を名乗っていますが、シビックテックそのものではありません(紛らわしくてすみません)。シビックテックは、市民の方自ら(civic)がテクノロジー(tech)を活用して課題を解決していく取組ですが、「さあ、どうぞ、お願いします」と言ったら始まるものではありません。

デジタルで行政サービスを改革していくためには、行政サイドとしては、「行政側が思い描くゴールを設定し、それに向けた仕様書作成・業務発注、成果品をもらう」という従来のやり方ではなく、課題をベースにして、民間の方と一緒にアジャイルでモノを創り上げていくという体験・考え方を持つことが必要です。まずは、ベースの部分を作るというところでしょうか。

ただ、それだけでも、じゃあ行政と一緒に課題解決にチャレンジしてみますよと言う方が自然と集まる訳ではありません。参加する側のことを考えると、行政と一緒になったチャレンジをして、自社製品等のブラッシュアップや新事業展開、他の自治体への横展開が期待できるということも必要です。

神戸市で始まった「Urban Innovation Kobe」という取組は、この両者に対して働きかけて、持続的な取組展開が期待される、非常に先進的かつ素晴らしい取組です。この取組を山口県に導入したのが、この「シビックテック チャレンジ YAMAGUCHI」です。「チャレンジ」と言うように、今後、シビックテックが自発的・継続的に行われるようになるための環境整備、リーディング事業と考えています。この辺り、以前にも書かせていただきました。

今年度は、マッチングの結果、7つの課題について取り組みましたので、その成果を皆さんに知っていただき、自分たちもやってみようと思っていただくことを期待し、オンライン配信も行いました。

阿武町×(株)アイシン 「聴力の弱い方ともスムーズな意思疎通ができる相談支援ツールの開発」

阿武町

さて、報告会のトップバッターは、阿武町さんと(株)アイシンさんの取組です。これは、いつくか報道にも取り上げていただいたので、既に御存知のかたもいらっしゃるかと思います。話題になって、わざわざこれを見に来るためだけに来庁される方もいらっしゃるそうです。

阿武町では、聴覚障害のある方が来庁されたときに筆談だけではうまくコミュニケーションが取れなかったことをきっかけに、高齢者も含めて聴力の弱い方との意思疎通をスムーズにできるようにしたいと考えていたそうです。

今回、職員の発話内容を文字におこし、来庁者に伝達するシステムの開発に挑戦されました。相談者のプライバシーも考慮し、相談者側の音声は拾わないように指向性マイクを採用したり、お互いの顔を見ながらコミュニケーションが取れるように透明ディスプレイを採用したり、当初想定していなかった事態に現場の状況を踏まえながらアップデートを重ねています。slackのやり取りでは、毎日のようにアプリをアップデートしたという報告があったそうです。

なんと、この報告、町長さんが目の前で聴講されていました!気合の入り方が違います!令和4年度も実証を継続するということですので、利用シーンに合った実装を、さらには県内の他自治体への横展開に期待です!

山口市×(株)G-Place 「スマホで完結!粗大ごみ申込の市民負担を減らすツールの開発」

山口市

続いては、山口市さんと(株)G-Placeさんによる粗大ごみ収集申込のツール開発です。

山口市では粗大ごみの戸別収集について、電話で申し込みを受け付けているので閉庁時間には申込ができない、手数料は窓口で現金納付することしかできない、といった課題があったそうです。特に、学生さんが多く住まれている地域では、引っ越しシーズンは応対する職員の負担も重かったそうです。

今回、キャッシュレス決済システムをベースに、戸別収集のオンライン受付システムを提供するサービスの開発に挑戦されました。期間を限定して実施した実証実験では、このシステムを使ったオンライン申込利用率は19.5%にとどまったもの、利用された方の全員から、今後も使いたいと思ったという反応をいただいています!市民の方への周知や、サイト上での分かりやすい誘導などが今後の課題です。実証を継続して、市内全域で実装されることを期待したいです。

山口市の方からたくさんの要望をお伝えしたそうですが、開発企業側としては、利用者目線での新鮮な指摘で得るものが多かったとお話しされていました。このように、行政・開発者(企業)にとって、お互いメリットがある形で進められるのが、この取組のいいところだと思います。

周南市×あっとクリエーション(株) 「全長1,200kmの市道メンテナンスを官民まるごとDXしたい!」

周南市1

周南市2

続いては、周南市さんと、あっとクリエーション(株)さんによる、市道メンテンナンス情報の共有システム開発です。

周南市では、「しゅうなん通報アプリ」などで、市民の方から道路の異状に関する通報を受け付けていますが、それを市役所で受け付け、現地確認して、計画を策定して、施工業者に指示、次は施工業者が現地確認して段取りして修繕といったフローであったため、タイムロスが発生していたそうです。年間で、小さいもので5~6百件、全体で千件を超える通報があるということなので、かなりのボリュームですね。

この取組では、リアルタイムで市と施工業者が情報共有するためクラウドを利用することとし、指示や報告も「kintone(キントーン)」を使うことにしました。さらに特徴的なのは、市の管理を減らし、直接住民と施工業者がオンタイムでやり取りができるような包括的な委託を検討しているそうです。実現すれば全国で3番目の事例になるということで、市と企業が一緒に先進地視察に行くなど、システム導入だけでなく、その後を見据えた展開に両者が協力して進めています!是非、実現してほしいですね。

防府市×(株)ワイズリーディング 「近くの公民館(出張所)をもっと便利に。誰もが使いやすいオンライン窓口を作りたい!」

防府市

防府市さんと(株)ワイズリーディングさんの取組は、市民の方が市役所に訪れずとも、公民館で様々な手続きができるようなサービスの構築に挑戦されました。

元々、チャットボットを想定していたそうですが、実証をしてみると、利用者の求める回答まで辿り着かないケースもあり、オンライン相談窓口の方が良いのではないか?ということが分かりました。また、文字や画面の大きさについても高齢者への配慮が必要という課題も明らかになりました

新型コロナウイルス感染症の影響により、公民館が閉館になってしまってテスト期間が短くなったという影響もあり、市の方は、市民の意見を反映させることができる良い手法なので、もう1回テストしてみたかったという感想を話されていました。

企業の側も、普段、システムをある程度知っている方とやり取りしているが、全く知らない高齢者の方の反応が分かり、新たな知見が得られたと話されていました。

県観光政策課×Intelligence Design(株) 「主要観光地の訪問者数をタイムリーに把握し、観光対応に活かしたい!」

観光

ここからは、県庁の取組です。県の観光政策課さんとIntelligence Design(株)さんは、主要観光地の訪問者数や人流の情報をタイムリーに把握するシステムの開発に挑戦されました。

具体的には、山口市の香山公園(瑠璃光寺五重塔がある公園です)と防府市のまちの駅うめてらすに、「エッジAIカメラ」を設置して、カメラ映像から入退場者を計測しました。カメラ1台で、AIが入場者と退場者を検知して計測するそうです。このほか、実証の結果、性別や年代も把握できることが分かったそうです!

こうした情報が分かれば、滞在時間も分かりますし、混雑情報も発信することができます。また、データを分析することで、例えば、子育て世代の利用が多いことが分かれば授乳スペースを拡充するとか、高齢者の利用が多ければバリアフリーに取り組むといった、利用者の満足度を高める施策も構築できます。行政だけでなく、観光客や観光業者にとっても、とても有用なデータになる可能性がありますね。

担当者の方は、費用対効果の部分での検証を進め、コストを上回るデータの有効性を示していく必要があるとのことで、どこか、一緒に実証を継続してくれるところはないかな?と探してらっしゃいました。興味がある方は、事務局まで御相談ください。

県環境政策課×(株)TAGRE 「ナッジやゲーミフィケーションで、子どもたちの環境学習を行動変容につなげたい!」

環境

県の環境政策課さんと(株)TAGREさんは、これまでのインプット重視ではなく、実際に行動変容までつなげる環境学習ができるシステムの構築に挑戦されました。

3つの小学校を実証の対象とし、学習端末PCを使って、自分がゲームの主人公になって、学習や行動変容という課題(クエスト)をこなしていくシステムを利用してもらいました。子どもが、クエストがなくなると面白くないだろうということで、かなり多めのクエストを用意したそうですが、1人当たりのクエスト達成率は83%ということで、多くの子どもが楽しみながら取り組んだ様子がうかがえますね。

同じ目的を達成するのにもいろいろなやり方があるかと思いますが、なるべく学校の先生の負担とならないことや、昨年、県で実施した「宇宙兄弟」をテーマにした学習の継続となるテーマ設定など、担当者の方も苦労されたそうです。

エコ活動は「小学生には関係ないことだと思ったが、自分たちにもできることがあるんだと思った」といったアンケート回答があったそうで、こうした苦労も報われているように思います。令和4年度も環境学習の一環としてチャレンジしてみるということですので、将来的には全県的にに広がっていくことを期待です!

県農業振興課×サグリ(株) 「衛星・ドローンを活用し、農地の作付状況をスマートに把握したい!」

県農業

最後に御紹介するのは、県の農業振興課さんとサグリ(株)さんによる衛星・ドローンを活用した作付状況の把握システムの開発です。

地域では、国の交付金事務の1つとして、ほ場1枚ずつ作付状況を、目視で確認して回る現地確認があるそうです。聞くだけで、気が遠くなるような作業ですね。しかも、現地確認に行って、作物の育成状況が不十分だと、確認が「空振り」になることもあるそうです。省力化したいというのは、もっともだと思います!

サグリさんは、元々、衛星データとAIを活用して耕作放棄地を把握するアプリをお持ちなので、それを活用して作付状況を判別しようという実証です。

その結果、麦・大豆等の、ほ場数の多い品目は、約8割の精度で作付状況が確認できるモデルができたそうです。モデルが作成できなかった品目もあるそうですが、データ数を増やしていくことで精度の向上が期待されますね!

課題として挙げられていたのは、水田台帳や地図データなど、違う部署が所有するデータの突合が難しいということでした。逆に、そうしたデータが整理されると、様々な場面で衛星データが使えるようになることが期待されます。

神戸市の取組

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最後に、「Urban Innovation Kobe」(現在は「Urban Innovation JAPAN」に発展)を創り上げられた神戸市から、織田様を講師に迎え、スタートアップ企業育成の先進的な取組についてご紹介いただきました。

神戸市って、外部人材が106名も活躍されているそうですが、こうした民間の考え方・ノウハウを、行政もしっかり採り入れていくことが肝心なのですね。

終わりに

初めて挑戦してみた「シビックテック チャレンジ YAMAGUCHI」ですが、年度当初の取組開始前に神戸市さんとミーティングした際、半分うまくいけば大成功と教えていただきました。実装にはつながらないものもあるかもしれませんが、現場の課題感を整理し、それを民間の方と一緒に解決に向けて取り組んでみるということは、非常に重要なチャレンジだと思います。そして、まずは実証をしてみて、住民の方の反応を踏まえ、さらに改良していくという手法は、これまで行政が取り組んでいなかったものですが、住民の満足度向上に向けて必要なステップです。

令和4年度も引き続き実施したいと思いますので、興味のある自治体の方や課題解決していただける企業さんは、是非、参加してみてください。また、こうしたアプローチが文化として根付き、シビックテックが推進していくことを願い、一層、努力していきたいと思います。

かつてない長文となってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。