会話を瞬時に字幕化し、高齢者や耳が不自由な人との円滑なコミュニケーションが可能に!
デジテック for YAMAGUCHI 運営事務局のアナログ担当です。
昨年度の「シビックテックチャレンジYAMAGUCHI」では7つの地域課題に取り組みました。それぞれの取組の概要は、先日ハラマルさんが紹介してくれましたが、より詳しい内容をお届けできればと思い、改めて順次紹介していきたいと思います!
まず第一弾となる今回のレポートは、山口県阿武町 健康福祉課の課題「聴力の弱い方ともスムーズな意思疎通ができる相談支援ツールの開発」に取り組んだ記録です。
課題解決に向けてサポートしていただいたコミュニティリンクの小野耕一さん(プロジェクトマネージャー)と狩野哲也(インハウスエディター)さんと一緒にまとめてみました。
高齢化率50%のまち、山口県阿武町
今回の実証実験の舞台は山口県阿武町(あぶちょう)です。阿武町は、山口県北部に位置する人口3,300人の小さな町です。
美しい海と緑の山々に恵まれ、農林水産業で栄えた町ですが、高齢化率は50%に達しているため、聞こえが悪くなっている高齢者も多い地域です。
あるとき、聴覚障がいのある夫婦が町に転入した際、町職員が対応する方法がわからず、意思疎通が難しかったという出来事がありました。筆談などで煩雑な行政サービスを理解してもらうには限界があると感じたそうです。
そこで聴力の弱い方とも円滑なコミュニケーションが取れる仕組みをUIJとともに「シビックテック チャレンジ YAMAGUCHI」で模索しました。
聴力の弱い方ともスムーズな意思疎通ができる相談支援ツールの開発 | Urban Innovation JAPAN
自社の耳の不自由な従業員向けにアプリを開発した、株式会社アイシン
山口県阿武町の課題解決に手を挙げた企業が株式会社アイシンです。愛知県を拠点に、主に自動車部品を製造して事業を拡大してきた企業ですが、ハンディキャップのある従業員を積極的に採用してきた背景があります。
特に聴力の弱い従業員が多いため、彼らとコミュニケーションがしやすいように2019年から独自に自社開発で「声」を識別する されたシステムがすでに活用されていました。これが後にiPhoneアプリとして市販されたリアルタイム文字起こしアプリ「YYProbe」(ワイワイプローブ)です。
リアルタイム音声認識アプリYY probe - iPhoneアプリを使って会話を記録、保存、分析 | YY System(ワイワイシステム)
https://www.yysystem.com/
もともと工場の騒音の中でも素早く正確に声を識別するために開発されたシステムがあり、アイシングループの「アイシンウェルスマイル」が耳の不自由な人が働きやすい職場のコミュニケーション支援に使えると考え、2021年3月から、アイシンで勤務する聴覚障がい者約300人にYY Probeをインストールしたデバイスを配布して運用を開始し、実用面で問題ないと太鼓判が押されたアプリが生まれたのです。
実証内容
2021年9月にアイシンが採択され、阿武町とSlackを活用して情報共有していきました。
実際の窓口にiPhoneを設置してみる案を試してみました。
実証実験は阿武町役場の窓口と、役場外の施設で行いました。最初の実験は11月中旬〜スタートしました。
マイクを職員が装着し、来庁者にiPadを見てもらう方法を試してみました。
課題となったのは2つです。
・マイクは装着式で使い勝手が悪い。
・iPad設置場所と職員との間を視線移動で行き来しながらコミュニケーションをとるのはスムーズとはいえない。
役場外では職員がiPadを手に持って話す方法を試してみました。
この方法の課題は特に見当たりませんでしたが、対象の方は読唇もできる方でしたので、字幕をじっと見るというよりは、補助的に見ているといった様子でしたが、理解を促すのに役にたちそうです。
この試行錯誤のプロセスをNHK山口放送局に取材いただいたことで放送(2021年12月10日放映)、さらにチームのギアが上がりました!
町民の方に応対する際、毎回ピンマイク装着するのは手間がかかるので、置型の指向性マイクを導入し、アプリの感度をマイクにあわせて最適化するなど工夫しました。
さらに、2022年1月からの2度目の実証実験では視覚的な観点から透明ディスプレイに表示するように改良しました。また、専用辞書を充実させるために、600ワード以上の情報をあらかじめ登録し、認識率を向上させました。
実際に窓口業務でYY Probeを使用した阿武町健康福祉課の宇佐川大貴さんからこんなメッセージをいただきました。
「1/28に聴覚にハンディキャップのある方が来庁されたので透明デイスプレイをさっそく活用してみましたところ、話した言葉がきちんとディスプレイに表示されて、とてもわかりやすかったとの好評をいただきました。職員たちも『感動した!』と話していました」
アンケートに記載いただいた「コロナ禍の今、全国に広がれば良いなと思う。そのためには情報発信が必要かなと」という言葉に感動しました。ますます広げないと。
3月25日の成果発表会では山口県の村岡嗣政知事も熱心にデモに聴き入っていました。実証をきっかけに全国に広まってほしいです!
もちろん技術も素晴らしかったのですが、仕事の中で感じた「これ何とかならないのかなあ」という気持ちを意識にとどめていてくれた職員のファインプレーだったと思います。
自分の周辺だけを見ていると小さな町・小さな職場で働く、ひとりの職員の小さな悩みにしか見えないかも知れないけれど、それはひょっとすると、この国のあちこちで起きている社会共通の大きな課題かもしれない。その課題を解決するテクノロジーを持っている企業がこの国のどこかにいるかもしれない。その可能性を一つの事例としてしっかり示すことができたプロジェクトでした。
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