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漫画「廃墟少女」推薦文~退廃的雰囲気と超絶感情移入~

廃墟少女という漫画を紹介したい。このマンガを一人でも多くの人に布教したいというつもりでこれを書いていく…

…が、この漫画の特性上、文字だけで魅力を伝えることは私には難しいので、最初の段階で写真を載せておくので、雰囲気を感じ取ってほしい。おそらくこの段階で致命傷なほど刺さる人がいるはずだ。

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どんなマンガなのか

短編集であり、「廃墟」「こわれゆくもの」をモチーフにした四つの物語が収録されている。作者は尚月地で、他の代表的な作品に『艶漢』(アデカン)がある。

言語化不要の感情移入

この漫画の最大の特徴は絵にある。本当にすさまじいほど絵がうまく、作者の圧倒的なセンスで描かれる作画は神話的ですらある。とにかく圧倒的なビジュアルで読者を引きずり込んでくる画力ブラックホールなのだ。

※同作者の画集のリンクを貼っておく。一度リンク先を見ていただけると、画力云々に関して書いてあることがスンナリ入ってくると思う。


4つの短編はそれぞれ全て、人生が停滞している主人公がなにかに巻き込まれるところから動き始める。我々の暮らしとは少し違う独特な世界観だが、その中で普通に生きていた主人公が不思議な人物の影響で奇妙な状況に取り込まれる。
そして何とかしようともがき続け、結果自分が人生単位で抱えている問題に気付き、前へと進み始める。全て主人公が成長するハッピーエンドだ。

ここで重要なのは主人公が前を向くきっかけになる描写だ。

大ゴマいっぱいに描かれたそれは、卓越した書き込みとモノの組み合わせのセンスでこちらの視覚を力いっぱい殴りつけてくる。

物語内で起こっている現象に主人公は思わず息をのむ。我々は主人公と同じものを見ている。そして、同じく息をのむことになる。
そのとき、感情移入先である主人公と、我々に流れる感情・空気がリンクするのだ。その瞬間、一つの漫画という枠を超えて次元を突き破り我々自身が主人公を体験する。そしてその瞬間我々読者は世界観という沼に受け身も取れずに落ちていくのである。やったなオタク、二次元と同化できるぞ。

ここまで「普通のことじゃない?」と思った方もいるだろう。しかし違う。「ここまではただの感情移入!でも、ここからがマグマなんです!」というわけではないが、特筆すべきは、この感情移入がもっと根源的感覚で行われているということだ。

少年漫画を読んでいて、その王道で燃えるストーリー展開に震えたことは何度もある。しかしそれは、状況を理解し、主人公の気持ちに共感したことでの感動である。

一方、この漫画は少し違う。主人公が目で見て感じた言語化する以前の原始的な感覚を考える間もなくビジュアル的表現によってそのまま味わうのだ。理解する以前の部分、名前のない感情。きれいな景色を見たときの心の変化を主人公と共に味わうのだ。この点で一線を画していると私は思う。

よく絵本や小説には挿絵が入っているが、この場合は挿絵に物語がついているというのが正しいように思う。漫画に挿絵が入っているという表現が一番近いかもしれない。クライマックスに至る数十ページは壮大な前振りであり、もはやストーリー自体が絵を魅せるための下準備といっても過言ではない。個人的には画集としても使用に足ると感じている。
現に、作者はコミックス内コメントを書いているが、まとめると

「描きたいシーンから膨らませて書いた」

というようなことを言っている。


馳せる思いは夢の跡

読んだ後だが、美しいものを見た後の溜息と、作品全体が帯びる退廃的でどこかもの悲しい感覚が残る。

[廃墟][こわれゆくもの]をモチーフにした、稀代のヴィジュアリストによる超幻想オムニバス4編。

これは表紙裏面を引用した。廃墟が纏う残り香は、かつての姿を示唆するが、その姿は記憶や幻想、空想のなかにしか存在しえない。そして今を生きる我々はひと夏の思い出のようにその感傷に浸り、味わう。

これは松尾芭蕉が平泉で兵たちに思いを馳せたのと同じことだと思う。
この本の読後感は廃墟を見て思いを巡らせるのに等しい。

自分の空想込みで思いっきり浸りたい方へおすすめ

「退廃」「こわれゆくもの」といった一風変わったコンセプトの漫画であるため人を選ぶ。「ニーアオートマタ」が好きな人はおそらくかなり肌に合うだろう。また、廃墟の写真を見るのが好きな人や、「白いワンピースを着た少女があぜ道の上でこちらに手を振ってるイラスト」に異様にノスタルジーを感じる方など、切り取られたものにたいして自らの想像力を盛り込めるタイプなら刺さると思われる。

とにかく相性さえ合えばイラストを眺めているだけでも思いっきり浸っていられる。表紙を見て刺さった方(私と同類)や、これを読んで興味を持った方是非一度、手に取ってみてほしい。


おわり

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