息を吸って吐くようにSNSを触る。テテマーチが考える「ユーザーがファン化する」マーケティング
デジタルマーケティングカンパニー・DIGITALIFTの鹿熊亮甫が、第一線で活躍するマーケターとの対談を通じ、デジタル時代のマーケティングを解剖していく連載シリーズ「次世代マーケ論考」。第一回は、SNSマーケティングのプロフェッショナル・テテマーチの大泉駿太郎さんをゲストに招き、「勝てるSNSマーケ」をテーマにお話を伺いました。日本人の80%がSNSを利用する時代において、SNSマーケティングはどのような価値を持つのか。若者の購買活動の変化から、アカウントを成長させるハウツーまで、創業から現在までテテマーチを支え続ける大泉さんの頭の中を覗いていきます。
SNSは「流行り」ではなく「定番」に
鹿熊:SNSの存在感、日に日に増していますね。
大泉:僕は90年生まれなのですが、僕らの世代だと、SNSは「流行り」という感じでしたよね。
高校生のときにmixiが爆発的に流行って、TwitterやFacebookもそれなりに触って、気が付いた頃にはInstagramが若い世代で人気になっている……みたいな。
鹿熊:そうでしたね。
大泉:ただ、今となっては、TwitterやInstagramはメジャーなプラットフォームです。「流行り」ではなく「定番」になっていて、いつかの“お茶の間”として定着しています。
若い世代からしてみれば、「テレビ=お茶の間」ではなく、「SNS=お茶の間」です。
鹿熊:数年前まで、企業には「余ったマスマーケティングの予算を活用してやるもの」といった認識が少なからずあったと思います。最近は、そうした認識も変わってきているんですか?
大泉:扱うサービスによっては、マスマーケティングよりSNSマーケティングに予算を割いている企業さんもいらっしゃいます。
例えば、DtoCでメンズ化粧品を売るときなどターゲットが限定されている場合、マス広告よりもSNSの方が相性がいいことも多々ありますから。
鹿熊:テレビ枠を購入しても、費用対効果が悪いなんて話はよく聞きます。むしろ、インフルエンサーにSNSで投稿してもらった方が売れることもザラにありますよね。
大泉:今後テレビが進化していく可能性は十分にあると思っていますが、テレビだけが最強の時代ではなくなっているとも感じます。
少なくとも「マスがあってWebがあってSNSがある」という上下の関係性ではなく、それぞれを並列の関係性として捉えなければ、マーケティングの成果を最大化するのは難しくなっていくでしょう。もちろん、扱うサービスにはよりますが。
鹿熊:生活様式が変われば、マーケティングの在り方も変わりますよね。
大泉:おっしゃる通りだと思います。結局、人の集まるところが「マス」ですから、マスメディアの定義は時代によって変化していくものかなと考えています。
「本当に欲しいもの」しか買わない時代
鹿熊:SNSが「流行り」から「定番」になったことで、生活者の購買の意思決定基準が変化しているように感じます。
昔は「高級外車に乗ることが男の憧れ」みたいな風潮がありましたが、自分自身を含め、現在はそうした認識がなくなってきているなと。
大泉:自ら情報を発信できる時代になり、パーソナライズされた情報がレコメンドされるようになったので、必然的に自分らしさを追求するようにはなりますよね。
また、自分らしさを自由に表現する人を見て、多種多様な価値観に触れるようになったのも、購買の意思決定基準が変化した要因だと思います。
自分らしさを武器に活躍するインフルエンサーを見たら、「自分がいいと思ったものが一番いい」という当たり前に気が付きます。本当は欲しくもない高級外車を買う必要がないと、みんなが分かり始めたんです。
鹿熊:僕が今一番欲しい車は日産の「LEAF」ですからね。自動運転機能がどうしても欲しくて。
大泉:先日20代前半の社員が「僕はウェルビーイングを求めているんです」と言っていました。鹿熊さんが「LEAF」に乗りたいのは、まさにそういうことですよね。
鹿熊:そうです。見た目がかっこいいとか、ステータスだとか、そういう話ではなく、シンプルに生活しやすいからです。
大泉:「こうあるべき」な価値観は、きっと今の時代には存在しないんです。
例えば、「大企業に入社して、マイホームを購入すれば幸せになれる」といった画一的な価値観は、もうとっくに崩壊しています。
むしろ、働き方だけでなく、生き方も、自分自身の幸せにひも付けて選択するようになっているようにも感じます。きっと、誰もが「それぞれの在り方」を求める時代なんです。
鹿熊:だからこそ、特定のクラスターにコストパフォーマンスよく訴求できるSNSが注目されているわけですね。
でも、大きな売り上げを立てるには、やはりマスを捉える必要があると思います。細分化されたクラスターに深く刺すSNSマーケティングだと、やはり難しさもありますか。
大泉:もちろん難しさはありますが、不可能ではないと思います。
これまでも、限定されたクラスターに向けたSNSマーケティングで盛り上がった商品が、マスメディアに取り上げられ、一気に広がるという現象は何度もありました。
そうした事実は、「マスマーケティングかSNSマーケティングか」というHowではなく、「どのような価値を届けるのか」というWhatが重要であることの示唆ではないでしょうか。
また、マスを捉えるには、手法の話をするより、オンリーワンを目指すことの方が大事だと思います。
例えば、iPhoneが発売されたときは、多くの人が「なんだこれ?」状態だったと聞きました。でも、今では誰もが欲しがる商品ですよね。彼らは自分がつくりたいものを、ユーザーが欲しいものに変えたんです。
SNSマーケティングの勝ち筋も一緒で、継続的に売り上げをつくり続けるという目的を果たすためには、「自分たちが売るものをユーザーが欲しがる状態」をつくらなければいけないと思います。
鹿熊:通常の発想だと、例えばペルソナを定義するなり、ユーザーヒアリングをして、すでに存在するクラスターに向けて商品をつくりますよね。
大泉:そのほうが目先の売り上げをつくりやすいですからね。でも、たいていの場合は模倣されます。
創業者の思いなのか、手に取ったときの高揚感なのかは分かりませんが、「私たちのサービスは他社とは違う」という明確なる差分をつくらないことには、ナンバーワンになるのは困難です。
翻って、オンリーワンになれば、必然的にナンバーワンになっていくんだとも思います。
鹿熊:キャリアに似ていますね。偏差値を追求するのではなく、ユニークネスを追求することで、唯一無二の市場価値がつく。
大泉:すごく近い考え方だと思います。誰もがナンバーワンを目指す時代ではないですからね。
失敗するSNSマーケの共通点
鹿熊:今までのお話を受けると、SNSも例外なく、手段としてではなく戦略としてマーケティングを捉える必要があるということですよね。
大泉:おっしゃる通りです。ただ、必ずしもアカウントの運用担当者が、戦略としてのマーケティングに精通している必要はありません。
そもそもSNSマーケティングの成果は「戦略の精度」と「実行力」のかけ算で導かれるので、戦略と手段に分けて考え、双方に最適な人材を配置するパターンはよくあります。
例えば、若い世代向けの商品を扱っているのであれば、その商品への理解や愛情があるSNSネイティブ世代を運用担当者として採用するのが一つの解です。
一方、購入ハードルが高い高単価商品は、広義なマーケティング戦略を自社で設計し、手段としてのSNSマーケティングは外部に委託してもいいでしょう。
鹿熊:SNSマーケティングの場合、戦略と実行の双方を担える人材は多くないんですか?
大泉:事業戦略としてのマーケティングも、そこに内包されるSNSマーケティングも、求められる素養にさほど差はありません。
しかし、やはり好き嫌いはあります。
本当にSNSが好きな人と、そうでない人の間には、少なからず差が出るんです。その認識を持ったうえで、戦略から実行までをシームレスに行える体制を築くことが大切だと思います。
鹿熊:上層部はフォロワー数で判断したいけど、最も重要視すべきはエンゲージメントだったりする場合もありますからね。
大泉:まさに。「SNSマーケティングがうまくいかない」というご相談の大半は、目的と目標を正しく設定できていないケースがほとんどなんです。
ですから、まずは戦略を正しく定めたうえで、それを理解して実行に力を入れることが必要になります。
息を吸って吐くようにSNSを触るべき
鹿熊:テテマーチはコンサルティングだけでなく、アカウントの運用もされていますよね。
手段の話に寄ってしまうかもしれませんが、アカウントを成長させるために、どのような工夫をされているんですか。
大泉:アカウントの運用目的もさまざまで、フォロワー増加を目指すのか、エンゲージメントを重視するのか、商品やサービスの認知を高めるのか、アカウントの成長フェーズによって異なります。
弊社がまず最初に着手するのは、最も注力すべき項目を選定することです。
ただ、どのようなフェーズのアカウントを運用する場合でも、共通していることがあります。
それは、「潜在的なファンは何を考えているのか?」「どうすれば喜んでくれるのか?」を徹底的に考えることです。
ファンというのは、小手先のテクニックで「つくるもの」ではありません。むしろ、気付いてもらったり、見つけてもらったりすることが大切です。そのためには、発信する側が、商品やサービスが持つ「真の価値」を理解している必要があります。
テテマーチが大切にしているのは、息を吸って吐くようにSNSを利用することと、世の中のあらゆる事象に興味を持って、実際に体験することです。
自分がターゲットではない場合、想像だけで潜在的なファンが求める投稿を導き出すのはあまりにも難しい。でも、理解することはできます。彼らが何を欲していて、どのような思考をしているのかを身を以て体験することで、自分を寄せていくんです。
ヒアリングも頻繁にします。例えば、SNSでコンタクトレンズを売りたければ、メガネを利用している人に「コンタクトではなくメガネを使う理由」を徹底的に聞きますね。
鹿熊:まずは、ターゲットを知ることから始まると。
大泉:そのうえで、SNSを日頃から利用しているからこそ分かる昨今のトレンドを盛り込んだり、業界や商材ごとの傾向をデータから導き出したりして、理論と感性の両軸でアプローチしています。
鹿熊:アプローチの方法は、いわゆるマーケティングと変わらないんですね。
大泉:SNSならではの傾向はあれど、本質的なマーケティングをある程度理解していなければ、成果を出すのは難しいと思います。
鹿熊:やはりロジックで考えられる人材の方が「中の人」には向いているんですか?
大泉:ファクトをベースにPDCAを回していく必要性はありますが、理論タイプと感性タイプで分けるなら、後者の方が向いていると思いますよ。
共感される投稿をつくりだすには、ユーザーのインサイトをつかむ力や、印象的なクリエイティブを生み出す力が求められますから。
SNSはマーケティングの核になる
鹿熊:SNSマーケティングの存在感が大きくなっているとはいえ、企業側からすれば「まだまだメインストリームにはなっていない」というのが実際のところだと思います。
これから本腰を入れようと考えている担当者に向け、大泉さんから伝えたいことはありますか?
大泉:もちろん商材によりますが、SNSは今後ますます、認知拡大から売り上げ創出までに欠かせないチャネルになっていくと思います。
自社商品にアクセスする導線になるだけでなく、ユーザーと直接コミュニケーションを取れるという点においては、他のチャネルよりも優れています。ポジショントークのようになってしまいますが、やらない手はないと思います。
少し前に「ググるからタグるの時代」なんてことが言われていましたが、若い世代は検索エンジンではなくInstagramで商品を検索するそうです。特にコスメや飲食は、確実にSNSがタッチポイントになります。
もちろんBtoB領域でも、低い単価でリードを獲得できる非常に優秀な媒体です。
SNSは今後、マーケティングチャネルの中核になっていくでしょう。もし、どのようなアプローチをすればいいか悩んでいるようであれば、テテマーチにご相談していただけたらうれしいです。
鹿熊:どうもありがとうございました。
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