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「からだを温める」だけ。病気知らずの身体になろう!

昨今、色々な健康法が注目されていますね。
先日、ワニブックスより『長生き朝ごはん』を刊行した、芝大門いまづクリニックの今津嘉宏先生が実践するのは、“体温健康法!

毎日検温をされている方も多いと思います。
そこから1歩進んで、自分の体温を調整しながら、病気知らずの身体づくりをしていきませんか?

今回は先生の著書『89.8%の病気を防ぐ上体温のすすめ』の冒頭をご紹介!
すぐに実践可能な健康法、ぜひ今日から取り入れてみてください。

今回ご紹介する作品は、2020年6月30日まで、Amazon Kindle Unlimited参加中!
冒頭を読んで気になった方は、ぜひそちらもチェックしてみてくださいね!!

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書影はAmazonにリンクしています

※本書に記載されている情報は、2014年11月時点のものです。


はじめに

 健康で若々しいからだを保つことは、人類の永遠のあこがれです。
 それが、とてもシンプルかつ簡単な方法で実現できる、と言えば、みなさんは「そんなのウソだ」「怪しい」と思うでしょうか?
 しかし、そんなウソみたいな方法が本当に存在するのです。それが、わたしが提唱する「上体温(じょうたいおん:からだを温め体温を上げること)」のすすめです。
 わたしは今年で52歳になりますが、白髪もほとんどありませんし、肌にしわやシミの類いもありません。何より健康で、病気はおろか風邪ひとつひきません。世間一般の「年相応」よりはずっと若く見えるため、患者さんからは「何か特別なことをしているのではないか?」と思われるようです。
 しかし、わたしはサプリメントや健康食品は利用していませんし、スポーツもしません。「からだを温める」という心がけだけで、肉体と精神の若さを保っていると言えます。
 本書のタイトル通り、病気の約89.8%は体温を上げるだけで防ぐことが可能です。正確には89.796%というこの数字は、日本人の主要な死因(がん、高血圧疾患、糖尿病、感染症、肺炎、脳血管疾患、腎不全、不慮の事故、老衰、自殺など)から「老衰」や「感染症」「自殺」といった避けられないものを除き、独自の計算式で算出した根拠のある数字です。
 つまり、ほとんどの病気は、体温が高ければ罹患を防げるもの、発症しないもの、というわけです。
 日本人の多くが悩まされている生活習慣病――高血糖、高血圧、高脂血症――は、すべて「高い」という字がつく病気です。これらは、ものが溢れ出した状態を示しています。元々の容器の大きさに対して、過剰にものを入れすぎている(食べすぎ)、あるいは捨てることをせずに溜め込んでいる(運動不足)状態です。
 健康管理の要は、この摂取と消費のバランスですが、そのバランスの調整のためにも「上体温」は大きな役割を果たすことが、最近の研究でわかってきました。
 たとえば、先に挙げたような生活習慣病を引き起こす症状は、これまで「メタボリック・シンドローム」と言われていました。シンドロームというのは「症候群」という意味ですが、最近は「メタボリック・ドミノ」と表現されることが多いです。つまり、病気の原因が個々に独立して存在するわけではなく、ドミノ倒しのように、大本の1個が倒れると続けてパタパタパタと倒れていって、病気が現われるというわけです。ところが、体温が高いと、ドミノが倒れる前の「ついたて」の役割を果たし、病気の予防ができるのです。
 病気で苦しむ患者さんの中には、からだの調子が悪いから体温が低くなるのだろうと、低体温であることを「結果」だと思っている方も多いのですが、実はその逆で、健康を脅かすさまざまな症状が起こる「原因」は低体温にあるのです。
 この本では、そんな諸悪の根源となる「低体温」とサヨナラして、健康で活力に満ちた生活を送り続けるためのヒントをご紹介します。
 考え方、心がけを少し変えるだけで、病気とは無縁の「温かいからだ」を作ることができるのです。

今津嘉宏

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プロローグ 「からだを温める」ことは究極の健康管理法


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現代の健康法に警鐘を鳴らす貝原益軒の教え
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 毎日の生活の中で、自分のからだの調子を気にしている方はとても多いと思います。「朝起きたら、体操をして体調を整える」「朝食は必ず取るようにしている」「通勤はウォーキングシューズを履いて早足で歩く」「仕事のストレスをためないように努力している」「からだの疲れを取るために毎日入浴している」「睡眠はしっかり取る」などなど。
 ひとりひとり、自身の健康を管理する上で大切にしているポイントがあることでしょう。しかし、あなたのその健康法、本当にあなたに合っているのでしょうか。
 江戸時代末期、当時の平均寿命が50~60歳だった時代に、83歳でベストセラー作家になった貝原益軒(かいばらえきけん:1630年~1714年)という学者がいました。
 ご存知の方も多いと思いますが、彼は儒学と医学に精通し、健康で長生きするためのハウツー本である『養生訓(ようじょうくん)』を書き上げました。当時の日本人にとって、あこがれの的(まと)でもあった貝原益軒は、生活や食事におけるさまざまな健康の秘訣を『養生訓』にまとめています。
 その本の中で彼は「人の命なんぞ此如くみじかきや。是皆養生の術なければなり。短命なるは生れ付て短きにはあらず。十人に九人は皆みづからそこなへるなり。ここを以て人皆養生の術なくんばあるべからず」と述べています。
 現代語に言い換えると「人の命は、なんと短いものだろう。養生をしないから短命なのだろう。生まれつき短命ということはない。10人中9人は養生をしないので自ら健康を害するのだろう。つまり、人には皆、養生の方法が必要である」となります。
 まだ、抗生物質もレントゲンもない時代。輸血や手術といった治療法もなく、自分の健康は自分で守るしかありませんでした。健康を保つためには、日々の生活の中でいろいろと工夫することがもっとも大切だ、ということに、貝原益軒は気づいていたわけですね。
 さらに季節ごとの気温や湿度などの変化に合わせた体調の管理を徹底することによって、初めて健康なからだでの長寿が得られる、と自身の実体験に基づき執筆しており、その主張が今日(こんにち)の一次予防に繋がるものである、とされています。
 貝原益軒が残した60部270余巻の中で、『養生訓』がもっとも著名であり、写本も増刷されるなど評判を博したことから、いつの時代も人々が健康に気を遣っていたことがうかがいしれます。
 一方、医学が大きく進化した現代では、サプリメントや健康食品に頼る人が増えています。
 しかし、『養生訓』には「薬と鍼灸(しんきゅう)を使うことは、よい方法ではない。どんな薬も、うまく使わなければ害になり、鍼灸も同じで、適応を間違えると害になる」ので、「飲食を慎み、規則正しい生活をして、養生すれば病気にはならない」と書かれています。
 当時、健康のために使われていた民間薬やマッサージに頼るのではなく、食事に注意し、生活環境を整えることが大切だと貝原益軒は力説しています。
 とかく、わたしたちは、簡単に手に入るサプリメントや健康食品を安易に使いすぎているかもしれません。たとえば、疲労回復のためによく飲まれているスタミナドリンクですが、成分に応じてさまざまな値段のものがあることは、みなさんよくご存知だと思います。
 しかし多くの人たちが中身の成分には無関心で、「高いものが効く」と思って選んではいないでしょうか。そのような選び方は、「健康のためにお金をかけた」という事実に満足こそすれ、実際の健康には繋がっていないことが多いのです。わたしは、健康維持のためにお金を使うという風潮にとても違和感があります。
 どんなにからだによいとうたわれているものでも、使い方を間違えれば、害を及ぼすことは明白です。貝原益軒の教えに基づいて、まずは原点に戻り、自分たちの生活を見直すことから始めるべきだと私は思います。

*貝原益軒の健康への取り組みは現代にも通ずる。


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「自分」と「時代」に合った健康管理
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 貝原益軒の『養生訓』に書かれているさまざまな養生の方法は、食品の選び方から毎日の生活の仕方、春夏秋冬での対応の違いなど、当時の日本人の生活に合った内容となっており、まさに江戸時代における健康管理のバイブルでした。
 しかしながら、現代社会に生きるわたしたちが『養生訓』をそのまま取り入れることは、少しむずかしいと思います。
 では、現代の養生訓として、何が大切なのでしょうか? 
 現代は、インターネットで世界中の情報を簡単に得ることができますし、テレビや雑誌には、毎日、健康に関した情報が満載です。むしろ、情報が多すぎると感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。
 そんな中で、みなさんが、自分でよいと思った「体操をする」「朝食を取る」「ウォーキングをする」といった健康管理は、本当にあなたに合っているのでしょうか? そもそも、ご自身の健康管理は、何をよくするために続けているのでしょう?
「体操をする」ことで、何がよくなっていますか。筋肉がついたのですか。心肺機能が強化されたのでしょうか。毎日「体操をする」ことで、逆に腰を痛めたり、膝を痛めたりしていませんか。
「朝食を取る」ことで体重が増えてしまったり、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病になってはいませんか。
「ウォーキングする」ことで、足首を痛めたり、膝を痛めてしまったりした経験はありませんか?
 どんなに優れた健康法も、目的を間違え、取り入れ方を間違えると、あなたにとって害になってしまうのです。

*従来のあなたの健康法を見つめ直しましょう。


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健康管理はまず「目標」を決める
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 いろいろな健康法を取り入れる時に、大切なことがあります。それは「何を目標に健康を管理するのか?」ということです。
 つまり、あなたが「よい」と考えた健康法で、どんな健康を手に入れようとしているのかを最初に決めるのです。あなたが選んだ健康法は、胃腸を丈夫にする方法でしょうか、筋肉を鍛える方法でしょうか。あるいは、長生きするための健康法でしょうか。それとも、がんにならないための健康法でしょうか。その健康法を行なうことで得られる利点がはっきりとしていることが大切です。
 もし、毎日体操をするのであれば、何年間も長く体操を続けること自体が目標なのではなく、「筋肉を鍛えるために、重たいものをゆっくりと持ち上げる運動を繰り返す」ことで、「年を取っても転ばないからだを作る」ことが体操をする目標となるはずです。
 目標を決めたら、次は、ひとりひとりに合った方法にすることが重要になります。たとえば体操を健康法として選んだ場合、その人のからだの状態に合った方法を工夫する必要があります。腰が悪い人が無理をして体操をすると、逆に腰を痛めてしまいます。ですから、腰が悪い人が体操を健康法として取り入れる場合は、ストレッチをすることにポイントを置いて、「腰回りの筋肉を、反動をつけることなく、伸ばすように意識する」といった工夫をして体操を行なうことが必要になります。こうすることで、腰の悪い人に合った健康管理法となるのです。
 雑誌やインターネットの情報をそのまま、自分に当てはめることは、やめるべきです。どんな健康管理も、自分に合った方法にすることが大切です。そのためには、目標を決め、自分の体調に合ったやり方にしましょう。

*健康法にもカスタマイズが必要です。


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誰にでもできて長続きする健康法
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 いつの時代も、お金や名誉を十分に手に入れた人であれ、貧しい人であれ、人間が最後に望むものは「永遠に元気で健康なからだ」です。
 秦の始皇帝やクレオパトラ、あるいは楊貴妃が望んだような、元気で健康な生活を手に入れるにはどうすればいいのでしょうか。
 始皇帝が、莫大な権力と財産をもってしても手に入れることができなかったものを、わたしたちが簡単に手に入れられるとはとても思えません。また、テレビやインターネットで見かけるような簡単な方法で、たやすく健康を手に入れられるとも思えません。
 健康管理で何より大切なことは、永遠(とわ)の健康は無理だとしても、わたしたちひとりひとりに合った方法を見つけることです。

 では、あなたに合った方法は、毎日努力して、苦労して続ける方法でしょうか。お金をかけて手に入れる方法でしょうか。特別な器械を使ってする方法でしょうか。
 努力して、苦労する方法は長続きしません。
 お金をかける方法も限りがあるので長続きしません。
 特別な器械を使う方法も、誰にでもできる方法ではありません。
 わたしが考える健康管理は、みなさんが毎日の生活の中で、簡単に実践できることでなくてはいけないと思っています。
 つまり、誰でも、どこでも、なんの準備も、努力も、苦労もなしにできる
──そんな健康管理法でなくてはいけません。
 そしてその方法こそが「からだを温める」ことなのです。

*健康法は簡単で継続可能でなくてはならない。


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健康の秘訣は体温調整にあり!
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●外科医として過ごすわたしの生活
 わたしは、大学を卒業してから約25年間、外科医として仕事をしてきました。外科医に求められる資質のひとつは、24時間、365日、休むことなく働き続けることができる健康です。
 みなさんは、外科医がどんな生活をしているか、ご存知ですか?
 外科医の生活は、朝早く、まだみなさんがベッドで寝ている時間から始まります。病院では、まず、前日に手術を受けた患者さんの状態を見て回ります。外科医は、看護師の記録を見ながら、夜の間に起きた出来事を確認していき、さらに血圧、呼吸、体温、尿量、傷の状態などを、ひとつひとつチェックするのです。
 看護記録には、時間ごとの変化が数値で正確に記載され、誰が見てもわかるようにグラフにまとめられています。しかし、この時に大切なことは、実際に自分自身の目で、すべてを確認することでした。紙の上に記載された数値や電子カルテの記録を見るだけでは、手術後の患者さんの状態を正確に把握することはむずかしいからです。
 自分の目で見て、自分の手で直接患者さんの肌に触れ、自分の耳で聞かないと、本当に患者さんの状態を把握したとは言えません。
 そうやって、毎日、朝、病棟を回診して回り、その後、仲間の医師や看護師とのミーティングが行なわれます。
 ここで、自分が気づいた点を確認していきます。この朝のミーティングで、ようやく一日の行動スケジュールが決まるのです。
 外科医の一週間の大まかなスケジュールは、だいたい決まっています。たとえば午前ですと、月曜日は「手術」、火曜日と水曜日は「外来診療」、木曜日は「病棟管理(ガーゼ交換などを行なう回診や点滴など)」、金曜日は「検査」といった具合です。同じように、午後のスケジュールも週単位で決まっています。そして、空いている時間を見つけて、入院患者さんや家族への病気の説明、病院の会議などが予定されており、夕方には再び、入院患者さんを回診します。
 夕方の回診を終えたあと、一日の出来事をカルテに記録していきます。この時、翌日以降の検査の予定や手術の予定などを把握し、その後は雑用が始まります。
 しかし、こんなスケジュール通りの時間を過ごすことができるのは、週に数日です。ほとんどは、産婦人科や整形外科など他の診療科の手術の手伝いに呼ばれたり、救急外来の対応や緊急手術に追われたりと、わたしの携帯電話は鳴りっぱなしで、トイレに行く時間さえもほとんどない状況が続きます。
 気がついてみると、あっという間に夜中になっていた、ということばかりの毎日でした。
 それに加えて週一回の当直業務や、学会の仕事、論文の作成など、仕事の内容は多岐にわたり、わたしの睡眠時間は20年間で平均2時間余りでした。


●回診で気づいた「からだを温める」ことの重要性
 みなさんは、病院の中で、人の死を看取ることが最も多い診療科はどこかご存知ですか? 肝硬変や栄養障害を扱う消化器内科だと思いますか。肺炎や呼吸不全を扱う呼吸器内科だと思いますか。それとも、脳梗塞や認知症を扱う神経内科だと思いますか。答えは、外科なのです。
 外科医のわたしは、年間数十人の方を看取ってきました。がんによって亡くなった患者さん、緊急手術をしたにもかかわらず助けることができなかった患者さんなど、多くの死に接してきました。
 亡くなった患者さんの思い、残された家族の思い、さまざまな思いを受け止めながら診療を続けてきましたが、命の最後の場面に多く立ち会わせていただいたことで、自分の中に、何かはっきりとした基準ができたと感じています。言葉にすることはなかなかむずかしいのですが、死を知ったことで、生きることの大切さ、健康のありがたさを深く感じるようになりました。

 外科医として多忙な毎日を送る中で、毎朝行なわれる回診は、若い医師たちにとっては退屈で刺激の少ない仕事だったようです。彼らは当直で疲れているので、眠い目をこすりながら回診をしていました。しかし、わたしにとって回診は、患者さんひとりひとりの健康状態を知る大切な時間でした。回診は、教科書や参考書には書かれていない、人間の健康状態を見極めるための情報を得る、重要な時間だったからです。
 そして、そこで見聞きしたことで実感したのが、この本でお話しする「からだを温める」ことの重要性です。
 たくさんの患者さんを見てきた経験から、病気になったり、体調を崩したりする原因の根本に「体温の状態」が関係しているということにわたしは気づきました。そして、「からだを温める」ことで、多くの病気が予防できることもわかったのです。
 朝の回診の時、寝相が悪く、布団をかけずに寝ている人や、衣服がはだけてお腹が出てしまっている人を見かけます。寝ている間に体を冷やしてしまった人は、朝、体調が悪く、顔色もさえません。また、いつも手足が冷たい人や、お腹をこわしやすく、冷えるとすぐに下痢をしてしまう人は風邪もひきやすく、とかく体調を崩しがちです。
 このような患者さんたちをたくさん見ているうちに、わたしは、体を冷やすことが体調を崩す原因となり、それがやがて病気へと発展するのだと考えたのです。
 25年余り、本当にいろいろなことを臨床の現場で学んできました。この経験の数々は、医大でも教わることはできませんし、教科書にも載っていません。わたしが実際に目で見て、肌で感じて、積み重ねてきたものです。しかしそれらは、自分だけのものにするにはもったいないほど大切なことばかりで、中でも特にわたしが大切にしていること、それが「からだを温める」ことなのです。元気で健康なからだを作るためには、「からだを温める」ことが大切だと断言します。

*冷えは万病のもと。体を温めれば病気は予防できる。


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健康になるための、ただひとつの方法
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 春夏秋冬、季節が変われば、体調も変わります。それでも毎日同じ方法で健康管理をしていてよいのでしょうか。北海道や沖縄に旅行へ行けば気候が変わります。それでも、同じ方法で健康管理をしてよいのでしょうか。海外旅行へ出かけます。国が替われば食材も調理法も変わります。それでも、同じ方法で健康管理をしていてよいのでしょうか。
 時と場所によってやり方を変えないといけなくなる健康法は、理論的に間違っています。自然の法則は、春夏秋冬、北海道と沖縄、日本と海外で変わることはありません。そして、わたしが患者さんから学んだ普遍的な自然の法則が「からだを温める」ことだったというわけです。
「からだを温める」ことは、いつでも、どこでも、簡単に行なうことができます。たとえば、呼吸はゆっくりとする、食事は温かいものを先に口にする、食材は季節のものを選ぶ、衣食住を活用する、漢方医学を活用する、などといったことです。
 わたしが50歳を過ぎても、元気で健康に過ごせているのは「からだを温める」ことを意識して生活しているからです。
 これまでサプリメントも健康食品も使ったことがありませんし、外科医としてハードな25年余りを過ごしても、病気らしい病気ひとつせず、元気に毎日生活しています。さらに白髪もしわもなく、実際の自分の年齢を伝えると、患者さんにビックリされたことは一度や二度ではありません。それは「からだを温める」ことを大切に考え、実行しているからです。
 どんな優秀な医師よりも、あなたのからだのことは、あなたが一番よく知っていると思います。子供の頃からの長いつきあいだからこそ、最新の検査機器を使っても見つけることができないほんの少しの異常も、あなただけは感じることができるはずです。
 わたしも、自分のからだの変化をチェックすることを毎日行なっています。朝起きて、まだ目がはっきりと覚めていない時は目の周りをマッサージする。口の中を歯ブラシで掃除する。うがいをしてのどをきれいにする。時間がある時は必ずシャワーを浴び、からだの汚れを落としてから仕事へ出かける。仕事場への道のりでは、指を一本ずつ伸ばしたり曲げたりして、手の動きをチェックする。肘を伸ばし、肩を回し、運動をしながら歩くことで、大きな関節の動きを確認する……。
 ウォーミングアップのための特別な時間は使わず、歩きながら、からだのあちこちの状態を意識し、目的地を目指します。ひとつひとつの行動は簡単で、時間もかからず、お金もかかりません。しかし毎日続けることで、より早く、その日の自分の体調を知ることができるのです。
 さて、次章以降では、上体温の重要性はもちろん、私が25年以上にわたり実践してきたお金いらず、手間いらず、運動いらずの簡単生活習慣をみなさんにお伝えしていきたいと思います。

*からだを温めて健康と若々しさをキープ!

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第1章 病気・加齢知らずのからだを作るために

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あれもこれも「冷え」が原因だった!
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●原因不明の体調不良
 本章では、実際の患者さんや症例をいくつか交えながら、上体温の重要性をご紹介していきましょう。
 最初の方は、長年、体調不良で苦しんでいた30代の女性です。わたしのクリニックに来院する前に、いくつもの大きな病院で精密検査を受けてきましたが、「原因不明の体調不良」と診断されていました。病院によっては「自律神経失調症」「神経症」「身体表現性障害」などといった病名をつけるところもありました。しかし、本人も家族も、決して気のせいではなく何か原因があると考えて、わたしの外来を受診されたのです。それまでの検査結果は、丁寧にノートにまとめてありました。血液検査、レントゲン検査、CT検査やMRIといった画像診断情報もありました。たしかに、どの検査結果を見ても、異常値や異常所見は見当たりませんでした。しかし、長年「体温を測ると35℃前後」「秋から冬になると、風邪を何度もひいてしまう」「冷房が苦手」といった、からだの「冷え」に特有な症状を訴えていたことに、わたしは注目しました。
 そこでわたしは、彼女に「からだを温める」方法を教えることにしました。食材の選び方、食事の仕方、そして、季節ごとの注意事項、衣服、住居の環境についてなど、その内容は、毎日の生活を送る上でのポイントを簡潔にまとめたものでした。
 その後、彼女が2週間ごとに来院するたびに、実際に作った食事の内容や生活の状況など、いろいろとお話しいただきました。「夏休みになったので、海外へ旅行に出かける予定があるが、食事はどうしたらいいのか?」「家族に不幸があり、しばらくは忙しいので外来へ通えなくなるけれど、何に気をつければいいのか?」といった、具体的な相談も受けました。
 体調管理がうまくいかない時もありましたが、春が過ぎ、夏を迎え、秋になる頃、彼女から、こんな嬉しい言葉を聞けるようになりました。「最近、体温が35・5℃以上になってきました」「朝、すっと起きられるようになりました」。そして、冬。「いつもなら、風邪をひく時期なのに、まだひきません」「寒さで食欲が落ちるはずなのに大丈夫です」と、病気の予防ができるようになってきました。
 そして、一年が過ぎる頃になると、体重も増え、頬の色もよくなりました。初めて来院した時とはまるで別人のような、元気な女性に生まれ変わっていたのです。


●手術後の食欲低下
 次の症例は、胃がんの術後から、冷えると必ず具合が悪くなり、食欲低下や吐き気、嘔吐に苦しむ60代の男性です。彼は胃全摘術の手術を受けて以来、からだが冷えると調子を崩し、食欲がなくなってしまいます。ひどい時は吐き気に襲われ、嘔吐を繰り返していました。知人の紹介でわたしのところへ来院した時は「これさえなければ体調はすこぶるよいのだけれど」と話していました。
 この厄介な症状について、主治医へ10年間、相談を繰り返してきたそうですが、「原因がわからない」と言われてしまっていたそうです。ただただ、苦しい症状を我慢するしかなかった、と暗い顔で振り返っていました。そんな話をいろいろと伺ううちに、胃腸を冷やすと問題の症状が出現することがわかりました。
 そこでわたしは彼にも「からだを温める」方法をお教えしました。
 最初の1ヵ月は、今までよりは症状が出なくはなっているものの、依然として食欲がなくなることが多く、体調も不安定でした。しかし、2ヵ月、3ヵ月と経過するにつれて、食欲低下などの症状が出なくなってきました。そして半年が過ぎた頃、彼から「先生、もう大丈夫です。10年間悩み続けた症状はなくなりました」と嬉しい報告がありました。原因不明の消化器症状も「からだを温める」ことで解決することができたのです。

*体温を上げるだけでつらい症状は改善する!


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「温かいからだ」がよい理由
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●やせていると冷えやすい?
 やせているとからだは冷えやすいのでしょうか。それとも逆に、太っているほうが冷えやすいのでしょうか。
 からだの熱を作っているのは筋肉です。筋肉が多いとたくさんの熱が作られます。つまり、やせていても筋肉がたくさんあればからだは温かく、太っていても筋肉がなければ、からだは冷えてしまいます。たとえば、鶏ガラのようにやせている場合、筋肉は少なく、皮下脂肪もありません。この場合は、熱を作る筋肉が少ないため、からだは温まりません。やっと作られた熱も、皮下脂肪がありませんから、簡単に肌から外へ放散されてしまいます。このため、からだは冷えやすく、すぐに風邪をひいてしまうことになります。
 相撲取りの場合は、一見太っているように見えますが、筋肉がたくさんあります。筋肉によって作られた熱は、皮下脂肪で保護され、肌から外へ放散されづらい状態にあります。このため、からだは常に熱く、いつも汗をかいている状態になります。
 ところが単に太っている場合は、筋肉が少なく皮下脂肪が多いため、熱を作ることができず、からだは冷えてしまいます。さらに皮下脂肪が冷えたままの状態を保ちますから、体温は下がる一方です。
 つまり、筋肉をつけたほうが「からだを温める」ことが簡単にできるようになります。とはいえ、わたしは、みなさんに相撲取りのようなからだをおすすめしているわけではありません。今より元気で健康な状態になるためには、どうすればいいか、そのヒントをお教えしたいのです。

*筋肉はあなたにとって熱の製造工場!


●車も人も、温かいほうがよく動く
 人のからだも、車のエンジンも、しっかり温めてから使わないと壊れやすくなります。「人間と機械を一緒にするな」と、お叱りになる方もいるかもしれませんが、わたし自身も、人のからだのしくみは機械よりも複雑だと考えています。
 しかし、精密機械を使って検査をしたり、ものを作ったり、車のエンジンを動かしたりする時は、必ず機械がちゃんと動くかどうか確認をしておく必要があります。それぞれの歯車がうまく回り、寸分の狂いもなく動くためには、慣らし運転を繰り返さなくてはなりません。
 部品ひとつひとつの温度が安定しないうちは、歯車自体がうまく噛み合わないことがあります。金属でできた歯車は、温度によって大きさが変化するからです。すべての歯車が一定の温度になるまで慣らし運転を続けたあと、ようやく検査を行なったり、ものを作ったりすることができるようになるというわけです。
 車のエンジンも同様です。冬の寒い朝は、エンジンを温めるため、しばらくアイドリングをするという人は多いでしょう。車の運転を始めるまえに、しっかりエンジンを温めておくことで、安全に車を動かすことができるようになります。

 人のからだも同じで、からだが冷えたままで急に走ったりすると、筋肉を痛めたり、関節をおかしくしてしまいます。
 スポーツをする人はおわかりと思いますが、準備運動をした時と、しなかった時では、からだの動きにはっきりと違いが出ます。
 準備運動をせず、からだが冷えたまま動かすと、思い通りに動かないばかりか、けがに繋がりかねません。
 どんな簡単な運動でも必ず準備運動をして、からだを十分に温めてから行なうことが重要です。

*ウォーミングアップでロコモ知らず!


●からだが冷える意外な原因
「冷え」の原因はさまざまです。たとえば、春夏秋冬を基準に考えてみましょう。
 春、新しい職場で慣れない仕事を始めたり、新学期、ストレスでからだの調子を崩したりすることがあります。
 精神的ストレスと体温には関係があると認知されるようになってきました。現在、科学的にわかっている精神的ストレスと体温の関係は、「ストレス性高体温」と言われています。たとえば、原因不明の微熱が続く時、その原因のひとつにストレスが挙げられます。しかし中には逆に、体温が下がってしまう人もいます。精神的ストレスによって、からだに冷えが生じてしまうわけです。
 小さい頃、夏に「冷たいものばかり食べているとお腹をこわすよ」と、母親に言われたものです。きっとみなさんにも経験があることでしょう。食べ物によって胃腸を冷やすことが不調の原因となるのです。
 秋は一年の疲れがだんだんとたまってくる季節です。夏の疲れも重なって、秋になるとからだが思い通りに動かせなくなったり、仕事の効率が下がってきたりすることがあります。同時に、手足が重くて、だるさがこたえる……指や足がむくんで、足下から冷えるようにもなってきますが、それは体力の低下が原因による冷えです。
 冬、気温が下がってくると、手足の先が赤くはれ上がってかゆくなる「しもやけ」になる人がいます。手足が冷え、調子が悪くなる人も多くいるでしょう。環境がからだに影響を与え、冷えることが体調を崩す原因となります。
 このように、「冷え」の原因は、いろいろとあります。肉体的なストレスから冷える場合もあれば、精神的ストレスから冷える場合もあります。生まれつき冷えやすい体質の人もいますし、年を取るにつれ、だんだんと冷えやすくなる人もいます。「冷え」の原因はひとつではないのです。このため、からだを冷やさないようにするには、原因に応じた対応が必要となります。

*ストレスが冷えの原因になることも。


●低体温がもたらすさまざまな病気
 低体温の影響がからだ全体に及ぶ最悪の例は「凍死」です。
 雪山で遭難すると、低体温によって重要な臓器の機能障害が起こり、最悪のケースでは死に至ります。凍死とまではいかなくとも、慢性的な低体温はからだにさまざまな悪影響を与えます。
 日常生活において、からだを冷やすことが原因で起こるもっとも身近な病気は「風邪」でしょう。風邪はウイルスによる感染症です。つまり、からだが冷えることで免疫力が低下して、ウイルスに感染しやすくなり、風邪にかかってしまうわけです。
 免疫力が低下すると、肺炎や膀胱炎にもなりやすくなります。どちらの病気も細菌による感染症です。つまり、病気にかかりづらくなるためには、免疫力を保つことが重要なのです。
 大病で入院している時にからだを冷やすと、病気の状態が悪化してしまいます。免疫力が落ち、微熱が続き、体力がなくなって治療の効果が得られなくなってしまうためです。場合によっては余病を併発して、危険な状態に陥ってしまうことさえあります。
 このため、病室の温度は、普通の家庭よりも高く保たれています。からだを冷やすことが、病気の治癒に影響を与えるからです。

 膠原病(こうげんびょう)の患者さんは、低体温になると手足が血流障害を起こして、指先が白くなります。これを「レイノー現象」というのですが、重症になると指先が壊死(えし)してしまいます。
 関節リウマチの患者さんは、関節に炎症を起こしています。このため、低体温となると関節痛が悪化し、身体の動きが悪くなってしまいます。
 低体温が消化器系に影響を与える一例として「下痢」があります。みなさんの中にも、冷たいものを食べるとすぐにお腹が痛くなり下痢をする人がいると思いますが、手足を冷やすことが腹痛に繋がり、下痢を起こす場合もあるのです。
 また、呼吸器系に影響を与える例としては「気管支ぜんそく」があります。気管支ぜんそくは、体温の低下や自律神経の乱れによって引き起こされると言われていますが、実際、ぜんそくの発作に苦しむ患者さんには、低体温の人が多いのです。
 筋肉に影響を与える場合としては、「肩こり」があります。肩こりになりやすい人が筋肉を冷やすと、肩こりがひどくなります。場合によっては、肩こりから頭痛になったりもします。
 また、低体温は脳の機能にも影響を与えます。脳というのは電気信号で動いているため、温度が下がりすぎると神経同士の接触が悪くなります。神経系の動きが悪くなると、ものを考える力が低下し、それに伴ってやる気も下がってくるのです。
 こうしてみると、低体温がわたしたちの健康にさまざまな悪影響を及ぼすことは明白なのです。

*低体温、百害あって一利なし!


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からだを冷やさないための基礎医学
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●日本の医学の特徴
 日本人の平均寿命は世界一長く、アメリカやイギリス、フランスといった他の先進国よりも長生きの人が多くなっています。
 日本人が長生きできる理由には諸説あります。魚中心の食生活、国民皆保険制度、上下水道の環境が整備されていることなど、さまざまな要因が重なり合った結果と考えられていますが、医療の面から考えると、日本全国、どこでも同じ医療が受けられる保険制度が最大の特徴と言えるでしょう。北海道でも、沖縄でも、離島でも、保険証さえ持っていれば、いつでも医療が受けられます。24時間、365日、片時も休まずに国民に対して提供される救急医療サービスも充実しています。
 世界でトップクラスの医療体制を持つ日本が、もうひとつ、世界に誇れるポイントとして「漢方医学」があります。
 中国や韓国など、伝統医学を行なっている国は多くありますが、西洋医学と日本の伝統医学である漢方医学の両方をひとりの医師が処方できるのは日本だけです。
 中国も韓国も、西洋医学と伝統医学の医師国家資格は別々に分かれており、このため、西洋医学は西洋医学の資格を持った医師に診断と治療をしてもらい、伝統医学は伝統医学の資格を持った医師にお願いしなくてはいけません。しかし日本では、ひとりの医師に西洋医学と漢方医学の診断と治療をゆだねることができます。
 このすばらしい医療制度を持つ日本で、漢方医学の恩恵を受けないのは、もったいないと私は思います。ぜひ、みなさんも、機会があれば、一度、漢方医学のよさに触れていただきたいものです。

*日本ならではの医療の恩恵を受けない手はない。


●「漢方医学」=中国は間違い
「中国へ行って、本場の漢方薬を処方してもらった」「韓国の漢方専門医に診察してもらった」という話をよく耳にします。中には、「本場中国で買ってきた貴重な漢方薬」を分けてくれる人もいらっしゃいます。
 実は、漢方医学の本場は中国ではありません。韓国でもないのです。漢方医学の本場は日本です。驚かれる人も多いと思いますが、漢方医学とは、日本で培われ育てられた、日本独自の医学大系のことを言います。
 世界の医学は、3000年前に古代エジプトから始まったと考えられています。その後、インド、ギリシャ、アラビア、中国など、各地で独自の医学が発達し、日本にも、朝鮮半島から医学が伝来しました。その後、島国である日本では、日本人の体質に合わせた日本独特の医学が発展してきました。これが漢方医学です。中国で行なわれている伝統医学は中医学(ちゅういがく)、韓国で行なわれている伝統医学は韓医学(かんいがく)と呼ばれています。中国でも韓国でも、漢方医学で使われる薬草を中心とした治療法が行なわれていますが、薬草の分量や組み合わせ方が、それぞれの国で異なります。また、漢方医学と中医学、韓医学とでは診断方法から治療法までもが異なっているのです。
 つまり、「本場中国の漢方医学」という言葉を正しい日本語に直すならば、「本場・中国の中医学」あるいは「本場・日本の漢方医学」となるわけです。


●わたしが漢方医学を始めた理由
 漢方医学が日本の伝統医学である、ということを知ると、みなさんも俄然興味がわいてきたと思います。わたしも、今から約20年前、外科医として毎日手術をしていた頃、「漢方医学ってなんだろう」と大変興味がありました。というのも、当時の医学部では漢方医学は教えてもらえなかったからです。
 当然、漢方医学の知識は、全くありませんでしたが、日々の外科治療で、手を尽くしても治らない患者さんを「なんとか治せないだろうか」と考えた末に、最先端医学とは全く違った理論体系を持つ漢方医学を学んでみようと考えたのです。
 腹腔鏡(ふくくうきょう)手術やがん化学療法など、慶應義塾大学病院の研修で身につけた最先端医学は、それまで治すことができなかった病気を驚くほど簡単に治してくれました。
 しかし、中には合併症や副作用で苦しむ人もいます。そんなジレンマの中でわたしは、漢方医学を学べば、患者さんの合併症や副作用を軽くしたり、からだの状態を整えたりすることができるかもしれないと考えたのです。
 漢方医学の難解な専門用語を前に、何冊かの本と格闘をしながら勉強を進めるうちに、「漢方医学だけで治すことができる病気がある」ことや、「漢方医学と西洋医学を合わせることで治すことができる病気がある」ことを知りました。
 そして、わたしの専門分野であるがん診療に漢方医学を取り入れた「がん漢方」を用い、診療を始めたのです。

*漢方医学は日本が育んだ、人間の生理に合った治療法。


●「からだを温める」万能健康法
 わたしは、これまで数多くの「がん」を診察してきました。
 脳腫瘍、耳下腺がん、皮膚がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、虫垂がん、直腸がん、肛門がん、舌がん、咽頭がん、喉頭がん、気管がん、肺がん、悪性胸腺腫、乳がん、肝臓がん、胆管がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、脂肪肉腫、骨肉腫、白血病、悪性リンパ腫など……20年余りの間、数々のがんを診ているうちに、「がんの治療に欠かせないのは、からだを温めること」だと気づいたのです。
 がん漢方では、胃腸のバランスを整え、体調管理をすることで、免疫力を高めるようにします。そのためには、からだを冷やす努力をするのではなく、「からだを温める」努力をしてもらいます。からだのバランスを取るためには、からだが持つ自然の力を活用することが大切だからです。
 人間が本来持っている自然治癒力を高めるためには、からだのはたらきをスムーズに促すことがよいと考えています。よかれと思って大量に栄養剤を使ったり、サプリメントや健康食品をたくさん使ったり、強い薬を使ったりすることは避けるべきです。「よいものだから、たくさんあったほうがいい」というのではなく「過ぎたるは及ばざるがごとし」と考えて、控えめに、少しずつバランスを取っていくことが大切になります。
 そのためには、細胞レベルでの活性を最大限に活かす環境作りが大切です。細胞内で行なわれる反応には、ビタミン、ミネラル、酵素などが関係しています。この反応が効率よく行なわれるには、ひとつひとつのビタミン、ミネラル、酵素などを補充するのではなく、からだ全体の環境を整える努力をすることで、バランスの取れた状態へ近づけることができます。
 そしてその環境作りの鍵を握るのが「からだを温める」ことなのです。

*自然治癒力を高めること=免疫力アップ!


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上体温でがん細胞をやっつけよう!
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 がん細胞が、42℃以上になると死滅することは、よく知られています。ハイパーサーミア(温熱療法)として、医療現場でも応用されています。
 温度によって、細胞の活動性は変わります。温度を下げていくと、細胞の活動性は次第に低下していき、冬眠状態になることもあります。逆に温度を上げていくと、細胞の活動性は増し、活発にはたらき始めます。この習性を使って、自分自身のからだの調子を整える方法が「からだを温める」ことなのです。
 みなさんの中には、「正常な細胞が活発になるのはわかるけれど、がん細胞も活発になるのでは?」と心配する人もいると思います。
 たしかに、がん細胞も適切な温度で培養すると活動性を増します。しかしそれはがん細胞だけの環境の場合です。現実には、がん細胞だけの環境など存在しません。からだ全部ががん細胞に支配されるという状態はあり得ないからです。
 心臓が拍動し、肺が呼吸し、肝臓が代謝し、腎臓が尿を作り、脳がものを考えて、生命活動をしているからだの中に、がん細胞は存在します。ところが、生きているからだの中では、がん細胞の数に比べて、正常にはたらいている細胞の数のほうが圧倒的に多いのです。正常にはたらいている細胞は、がん細胞に比べて増殖力もなく、転移することもできない、非力な細胞かもしれません。そんな無力な正常細胞ですが、からだ中のたくさんの正常細胞が集まれば、大きな力になります。
 無秩序に広がっていくがん細胞に対抗するためには、小さな力を結集して戦う必要があります。正常にはたらいている細胞の活動性を増し、がん細胞をやっつける──それは「からだを温める」ことから始まるのです。

*正常な細胞をパワーアップすれば、がんは消滅する。


●「がん漢方」のポイント
 がんの三大治療法は「外科治療」「薬物治療」「放射線治療」と言われています。つまり、外科治療である手術のことがわかっていないと、がん診療は行なえません。
 わたしは、外科医として多くのがんの手術を手がけてきました。実際にからだの中にあるがんを目で見て、手で触れた経験から、がんの性質をしっかりと理解していると自負しています。
 また、薬物治療も、抗がん剤や分子標的因子などのことがわかっていないと行なえません。攻めの薬としての抗がん剤ばかりでなく、守りの薬である痛み止めや睡眠薬など、すべての領域の薬剤を使いこなす必要があります。
 わたしは、救急医療や集中治療室の医療を担当する中で、さまざまな領域の病気を診察してきました。
 高血圧症、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症(痛風)といった生活習慣病から、難治性疾患といわれる膠原病、リウマチ疾患、潰瘍性大腸炎など、さまざまな病気の薬物治療も経験してきました。放射線治療も、外照射法、内照射法といったものから、サイバーナイフ(放射線治療に使用する装置)、重粒子線療法(がんをピンポイントで狙い撃ちする最先端の放射線治療法)まで、外科治療や薬物療法と組み合わせて行なってきました。
 そうした25年余りの医師としての経験を最大限に活用したのが、「がん漢方」です。ただし、漢方医学だけでは、がんは治りません。もし、がんが漢方医学で治るのならば、もっと昔からがんの治療法は確立されていたはずです。
 しかし、西洋医学と漢方医学を組み合わせることで、がんを治すことは可能だとわたしは思います。西洋医学のよいところを最大限に発揮し、悪いところを漢方医学で補う。漢方医学のすばらしいところを最大限に発揮し、足りないところを西洋医学で補う。西洋医学と東洋医学の利点を活用すること、これが「がん漢方」のポイントです。

*〝いいとこ取り〟で生まれたがん漢方は最善の治療法!


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体温を整えて健康になる
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●ありそうでなかった万能健康法
 わたしの目には、お金をかけて健康を手に入れる現代の風潮は、どこか滑稽に映ります。テレビショッピングで買ったサプリメントや健康食品を、毎日せっせと飲み続けている人や、雑誌に載っている記事を読んで行なっている健康法など、たしかにひとつひとつは、健康のために役立つでしょう。しかし、その方法は、本当にあなたに合った方法なのでしょうか。あなたとは、生まれも育ちも違い、生活環境も仕事も収入も違う人が「健康によい」と唱えた方法が、あなたに本当に合っているのでしょうか。わたしは、そんな情報を鵜呑みにすることができないのです。
 いろいろな雑誌やインターネットの情報から、いろいろな健康法を集めても、それぞれ全く違った理論をもとに解説されていたりするものです。そんな方法を組み合わせたところで、効果が出るとは思えません。
 たとえば、食べ物ひとつとっても、同じ食品について「健康のために、どんどん食べるべき」と書いてある本もあれば、「病気にならないよう、極力食べてはいけない」と書いてある本もあります。そんな時、あなたはどちらの理論を信じるのでしょうか。
 そのような矛盾をはらんだ健康法はさておき、わたしは、この本で、「からだを温める」こと、つまり上体温が、健康に一番大切な方法だということを説明させていただきます。なぜなら、それこそがどんな体質、どんな境遇の人にも共通して有効な健康法だからです。そのためには、サプリメントも健康食品も、高価な運動器具もいりません。「からだを温める」だけでいいのです。

*氾濫する情報よりも「からだを温める」ほうがいい。


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からだを温める「衣食住」
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 では、次に「からだを温める」具体的な方法を、「衣食住」という生活の基本の中で考えていきましょう。

 まず「衣」ですが、わたしたちは、毎日必ず服を着ます。起きている時、仕事をしている時、布団に入る時、それぞれの状態に応じて、服を着替えます。
 最近は、着るだけで涼しく感じるものや温かく感じる下着が開発され、肌にやさしい素材も増えたことで、快適な生活ができるようになりました。
 衣服を選ぶ際の大切なポイントは、交感神経(からだを活発に動かす時にはたらく神経)と副交感神経(からだを落ち着かせる時にはたらく神経)の関係を意識することです。からだが持つ神経のバランスを知ることで、自身の状態に合った服選びができるようになります。
 冷房の効いたオフィスで座り仕事をしている人は、夏でも長袖、靴下を着用する。夜寝る時は布団の中に入った時に最適の体感温度になるような、心地よく、リラックスできる素材やデザインのものを……という具合です。

「食」では、自分の食生活をいま一度見直して、食材の選び方から調理方法までを考えます。
 みなさんが、常識と思っていた香辛料(トウガラシ、コショウ、わさび、ショウガなど)の効果を科学的な面から検証し直し、さらに、食材の選び方、調理法、食べ方など、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。どれも今日の食事から改善することができる、簡単な方法です。
 特に「食」については、次章以降で、漢方医学的要素も加えてくわしく解説していこうと思います。

「住」では、生活環境を整えて、過ごしやすい生活の方法を考えます。
 現代に生きるわたしたちは、一年中、冷暖房で部屋の温度を調整した空間で暮らしています。指先ひとつで、自分の好みに合った温度に調整し、24時間・365日、快適な空間で仕事をすることができます。
 しかし、この恵まれた環境にも、大きな落とし穴があります。それは「部屋の温度と外気温の格差」です。
 どんなに自分の部屋の温度を一定に保ち、住み心地のよい環境を手に入れたとしても、天気まで調整することはできません。自分の部屋の外は、灼熱の太陽に照らされた真夏であったり、しんしんと雪が降る真冬であったりします。どんなに便利になろうとも、「部屋の温度と外気温との格差」までは変えることができません。この変化に、どうやって対応するかは考える必要があります。
 通勤列車の中は6月から冷房が効いています。汗だくのまま電車に乗ると、汗が冷えてしまい、体調を崩してしまうことがあります。歩いて会社に入った時、冷房が効いたデスクに座ると、サーッと汗が引いていくのがわかります。しばらくすると、今度は足下から冷えてきます。冷房が効きすぎているためです。夏の暑い時に、会社のデスクで膝掛けを使っている人もいます。
 このような温度の変化に対応するためにも、自分自身の体調は自分で積極的に管理することが求められます。
 春夏秋冬、冷暖房など、環境に左右されない健康管理です。そのためにはまず、外の環境に左右されにくいからだを作ることが大切です。外の環境に影響されないからだこそが、元気で健康な生活を送る基本なのです。

 もうひとつ、「住」で大切なポイントは、温度と湿度の管理です。理想の住環境を整えるための最適な方法を学びましょう。

*「衣食住」の質を意識して、健康生活の基盤を整えよう


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<コラム①> 肉体年齢と「上体温」
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 人間は、赤ん坊としてこの世に生まれた瞬間から「老化」が始まります。どんなに抗っても暦の上での加齢を止めることはできません。しかし、実質的な体力や容貌の若さである「肉体年齢」の加齢をゆるやかにすることは可能です。それが昨今、美容界はもとより医学界でも話題になっている「アンチエイジング」です。
 一般に、人間の見た目は、同年齢であっても30代後半ぐらいから「若く見える人」と「老けて見える人」の差が出てきます。老化の原因はいろいろありますが、一番影響が大きいのは、やはり仕事のストレスや肉体的な負担(徹夜や暴飲暴食、睡眠不足など)でしょう。つまり逆の言い方をすれば、老けているということは、からだの内部で何かよくないことが起こっている何よりの証拠。ストレスのない状態は健やかな容貌を作ります。そしてそのストレスを「上体温」が緩和するのです。
 読者のみなさんも「上体温」で、いつまでも若々しい見た目を目指しましょう。そうすれば、健康もおのずとついてきます!

* * *

以降の章では、バランスよくからだを温める方法や、適切な食材選びなど詳しく綴られています。

<収録内容>

はじめに
プロローグ「からだを温める」ことは究極の健康管理法
 現代の健康法に警鐘を鳴らす貝原益軒の教え
 「自分」と「時代」に合った健康管理
 健康管理はまず「目標」を決める
 誰にでもできて長続きする健康法
 健康の秘訣は体温調整にあり!
 健康になるための、ただひとつの方法
第1章 病気・加齢知らずのからだを作るために
 あれもこれも「冷え」が原因だった!
 「温かいからだ」がよい理由
 からだを冷やさないための基礎医学
 上体温でがん細胞をやっつけよう!
 体温を整えて健康になる
 からだを温める「衣食住」
第2章 からだの中から温める
 からだを冷やすとどうなる?
 「低体温」による、からだの変化
 からだを「冷やす」意味
 人間と温度の関係――やけど
 「熱中症」によるからだの変化
 からだを温めましょう
 温かいからだは臓器のはたらきもよい
 漢方医学から上体温を考える
第3章「からだを温める食べ物」の新常識
 優秀なからだの温度センサー
 トウガラシはからだを温める?
 コショウとわさびの気になるはたらき
 上体温の強い味方・ネギとニンニク
 ショウガは最強のあったか食材
第4章 体温が上がる食べ方(実践編)
 1・食材の選び方:野菜編
 2・食材の選び方:肉編
 3・「からだを温める」メニュー
 4・食べる順番
 5・「からだを温める」食べ方
第5章 体温が上がる裏技
 1・「衣食住」のバランス
 2・衣服をうまく活用する
 3・からだを冷やさない着方
 4・旬の野菜を活用する
 5・あなたの住まいを活用する
 6・「電位療法」を活用する
 7・健康になるための呼吸法
 8・漢方医学を活用する
 9・からだは親がくれた財産と考える
おわりに


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