近未来建築診断士 播磨 第1話 Part2-1

近未来建築診断士 播磨 第1話 Part2-1

近未来建築診断士 播磨

第1話 ホワイトムース
Part2 『第1回現場調査』
-1

【前話】

 他人の車の中でソワソワしながら、外を眺める。運転席でハンドルを触ってみるが、それを無視して車は走る。乗り心地は抜群。高い車なのだろう。国道沿いの量販店はあいかわらず派手だ。一方、その後ろに立つ集合住宅群は触媒コーディング外壁に空の色を映している。

 社長とネットワークで出会ったのは2週間前。山田太郎というらしい。最初からビデオチャットもアバターも無し。今もそうだ。ボイスチャット等で声を聞く機会は増えたが、アンドロイド用声帯かもしれない。ようするに、怪しい人物なのだ。
 それでも一応、職務履歴は堂々としたものだった。数年前に起業している。登録書も送ってきた。ビッグデータにより注文者と請負者の仲介をしているブローカー。処理件数は平均的で、手数料も良心的。ネットワークでの顧客満足度も高い。
 だがそれらの評価は補強だ。この妖しげな人物の仲介を受け入れたのは、ぼくの事務所が金欠だというその一点による。

 車は首都高速地下道路に入る。地下道はひび割れが目立ち、道路脇には滔々と水が流れていく。
 ふと思い立ってフロントガラスのモニター化スイッチを押す。こちらの端末とリンク、事務所を展開させた。事業者IDで行政へアクセス、調査対象のバルーンツリーの概要書を出す。
 建物名称バルーンツリー。鉄骨造10階建て、高さ29.8m。概要図面もある。幅16m、奥行22mの歪んだ8角形。それが屋上まで続く。窓はない。狭い鉄製バルコニーが細い手すりを伴って外周を囲んでいる。ツリーと言うよりタワーのほうが近い。そして出発前に確認した、ホワイトムース。電気的可変性壁等仕上材。
 依頼内容を反芻する。電気代の不自然な増加、その原因を究明する。ある程度想像はつく。ホワイトムースの経年劣化で漏電がはじまっているんじゃなかろうか。何しろ『新』素材だから。

『見ずに信じるな』

 電撃のように言葉が甦る。本当に先生が助手席にいる気さえした。

 現場は高速を降りて10分ほど。私鉄駅から徒歩圏内にあるビジネスビル街にあった。調査道具一式を、社長から貸し出された車から降ろして辺りを見回す。車どおりは多い。人通りは少ない。23区内ではあるが、都市部からはやや離れているのでカーテンドームに覆われてはいない。ほこりっぽい風が歩道に巻き上がる。もう少し湿度があればよかったのに。

 葉が落ち始めた街路樹から、徐々に視線を上げる。バルーンツリーは鳥かごのような手すりがよく目立つ、白っぽい建物だった。
 この白がホワイトムースか。だがほこりと日射で薄汚れ、灰と黄のまだら模様みたいになっている。よく見れば手すりも少し錆びていた。両隣の建物はもう少し古い。まだ旧世代のカーテンウォール外壁で、パネルが少し割れたり、曲がっている所もあった。1階が店舗でその上は住居や事務所だ。
ゴミゴミとした雑居ビル街。この印象はきっと一世紀経っても変わらないだろう。

 さ、現場調査だ。

【続く】

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ニンジャヘッズ。最近は忙しさにかまけて停滞気味。 サンダーバードで情操教育された結果、SF好き、エログロやや苦手。 HPラヴクラフトの愚痴がすき。「ウィアードテイルズの表紙は美女のおっぱいをでっかくすることばかりに一生懸命じゃないか!(意訳)」