見出し画像

ゲーム屋人生へのレクイエム 35話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。ブラジルの子会社が崩壊してそれを何とかするためにブラジルへいったころのはなし

「モグモグ。ごちそうさまでした」

「何を食べたんですか?」

「ブラジルのチーズパン、ポン・デ・ケイジョだよ。さて、これからどうしようっていくら考えても答えが出なくってね。会社を存続するにはヒト、モノ、カネ、この三拍子が欠かせないのよ。ヒトはいるけど資金と商品が無い。会社を閉めるにしても滞納した家賃、電話代、水道光熱費を払う金もないから倒産するしかない。でも弁護士を雇う金もない。本当に八方ふさがりだったのよ。そんな時に税関から連絡があってね。日本からゲーム機が届いているって。これ、俺が日本に居た時に調達したゲーム機だよ。32話を読んでみればわかる」

「ああ、そういえば売れ残りの機械を見つけたって、あの話ですね」


「そう。その機械をサントスという港で税関が差し押さえたって言うのよ。違法な賭博機械だって。見た目が何となくルーレットに見えるって言うだけの理由なのよ。どう考えても言いがかりでね。それで子会社の社長が言うには税関の担当者が賄賂を要求しているって。ブラジルではよくある話らしくて、役人がなんだかんだと賄賂を求めるそうなのよ。それでこの機械もそうなってね。ひょっとしたらこの機械が会社を存続させて起死回生になるかもしれないって時に面倒なことになったのよ」

「賄賂を渡せばいいじゃないですか」

「子会社の社長も同じことを言ったよ。社長から預かった現金があるから払えなくはない。けど絶対に払いたくなかった。社長から預かった貴重な現金をそんな事に使うのは絶対に許せなかったのよ」

「じゃあ機械はどうなるんですか」

「税関のクズ役人曰く、機械は没収する。そして競売にかける。欲しけりゃ自分で競り落とせ」

「ひどいはなしですね。差し押さえの機械を競売にかけるって話がおかしくありませんか?」

「そのとおりなのよ。ブラジル国内に入れちゃだめだから差し押さえるのに、それを売るってめちゃくちゃな話しでしょ。このことからもこれが単に賄賂を要求する言いがかりだという事がわかるでしょ。十分に困った状況なのにさらに困ったことが上乗せされて本当にまいったよ」

「で、どうしたんですか?」

「ムカつくけど、競売で競り落とそうかと考えたんだけど、子会社の社長がちょっと待ってくれって言ってね。ある人にどうにかならないか頼んでみるって。

それでその日の夜にその人が訪ねてきてね。この人は子会社の社長の義理のお父さんで、サンパウロ市の警察長官だって紹介されてびっくりだよ。事情を説明したら、ちょっと待っててと言われてその場で携帯電話で誰かと話をして、電話が終わるなり、話はついたって言うのよ。え?どういう事って思ってさ。そしたらこのおじさん、以前にサントスの税関の所長をやってたことがあって、その税関の今の所長に電話したって言うのよ。それで機械は問題なく通関して明日配送されるって約束させたよって言ってね。すげーこの人ってまたびっくり」

「そんな人がいるんですね。だったらこの人になんでも頼めばいいんじゃないですか?逃げたパートナーを逮捕するとか」

「俺も同じことを考えたよ。でも、そんなことを頼むのは筋違いだし、この税関の一件だけでもすごく助けてくれてもう十分だって思ってね。お礼を言ったら困ったことがあれば何でも言ってくれって。じゃあ、やっぱり逮捕をお願いしようかと一瞬考えたけどやめた」

「それで機械はどうなったんですか?」

「警察長官おじさんの言ったとおり、翌日には会社に配達されていたよ」

「ブラジルってすごい国ですね」

「善も悪も夢も欲望もすべてを抱擁する国だな」

続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?