詩: 5 手は待っている

 時の道行きのどこかの岐路で
 ぼくらと君らが逢うことがある
 君らが来たのはじつにけわしい道だっただろう
 ぼくらもおなじだ
 それが、君たちのよりもけわしかったとは言えないが
 ただぼくらには これからいっそう
 けわしい道が待っているのだ
 君らに会えたのは僥倖だった
 なによりもいとおしい偶然だった
 けれどわれわれは ことさらなれ合うこともせずに
 ただ互いに礼節と敬意を贈り
 なごやかなひとつの握手を交わそう
 そこから与えられるものがぼくらにはある
 君らにもあってほしいとおもうが
 それはぼくらのわがままにすぎない
 くちづけのような一瞬に
 手のひらと手のひらの平等を知り
 おなじ熱を重ね合ったなら
 ぼくらは行こう 時の階 [きざはし] を
 上りか下りか知るよしもないが
 いずれけわしい、もどれぬ道を
 ぬくもりをただ手のひらにたずさえて

 そうしてぼくらの手はひらき
 差し伸べられて 待っている
 つぎの握手と出くわすことを
 ふたたび君らと逢うことを
 そのときぼくらはぼくらではなく
 君らがぼくらかもしれないが
 時の道行きのどこかの岐路で
 君らとぼくらが逢うことがある
 ぼくらが来たのはじつにけわしい道だった
 君らもおなじだろう
 そしてこれから いっそうけわしい
 もどれぬ道を行くことになる
 君らのために おだやかにひらき
 ぼくたちの手は待っている
 君たちの手とまじわることを
 そこに与えられるものがあるかもしれない
 くちづけのような一瞬の
 平等と平等の交換の
 熱と熱の重なり合いの
 なによりもいとおしい偶然を
 手は待っている

(20221028, Fri.; 13:15)