図1

「タケダ、シャイアー買収承認」から

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三点に注目したい
  1.組織体としての変貌
  2.巨額買収の必然性
  3.真のグローバル化

関連代表記事 朝日新聞 2018年11月21日10時57分https://www.asahi.com/articles/ASLCP33THLCPULFA004.html
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A 「巨額買収せざるをえない」状況であり、クリストフ・ウェバーCEOとしては見事な成果へと突き進んでいる状況。最大の問題は、今後の、真のグローバル企業への転身であり、組織体のあり方を転換できるかいなかだろう。


B 武田薬品工業は買収によりグローバル企業へと転身しようと努力を重ねてきた。長谷川さん時代に、(米・バイオ医薬)ミレニアム・ファーマシューティカルズを8,900億円で買収(2008年)。(スイス・製薬会社)ナイコメッドを1兆1,000億円投じて傘下におさめた(2011年)*1。特に1兆円をかけたナノコメッドの買収では、単に新薬獲得という目的で終わらせずに、ナノコメッドのロシア、東欧、或いは中南米に強い営業・販売力を原資に、新興国市場の開拓を志すものであった。


A 文字に起こすと「買収による企業成長(拡大)」となる。しかし、無借金経営を貫いてきた研究開発系企業が、レバレッジをかけて新たな新興市場の開拓に乗り出すというのは、言葉でいうほどやさしいものではなく、企業文化や感情論との闘いを乗り越えた末でのアクションとなる。即ち、「変わらねばならない」という強い危機感とドライブしきるという気概がそこにあったと推察される。


B (英)グラクソ・スミスクラインのクリストフ・ウェバーを次期CEOに指名した際も、外資乗っ取りという個人的な、そして群としての感情的反発に遭遇したことは想像にたやすい。客観的な経営トップとしての資質とは別に、「従来のタケダ」という心的側面がつよく現れ、「組織が瓦解する」「らしさがなくなる」「外資の乗っ取り」…と変化を嫌う言葉が羅列されたことだろう。それを乗り越えクリストフ・ウェバーCEOが誕生した段階で、武田薬品工業は真のグローバル企業への道を歩み始めたこととなり、それは即ち、世界で戦えるメガファーマの仲間に入る道を歩みはじめたということである。


A タケダのシャイアー買収については、反対意見も多い。小が大を飲み込む買収。説明不十分。株価下落。武田薬品の将来を考える会の結成…。しかし、グローバルには兆単位の巨額買収が続いておりメガファーマが規模を拡大し、経営を効率化し、利益を創出している状況である。国内から海外にはばたき、また、AIやデジタルプラットフォームといったテクノロジー変化を踏まえれば、MRスペックでの勝負に依存することはできなくなる。還元すれば、薬としての力そのもの、が強い競争要素になる。さすれば、メガファーマになるか、メガファーマに買われるか、カテゴリーキラーの道を歩むか…と、選択できる未来が絞られてくる。タケダというブランドとクリストフ・ウェバーCEOの使命を考えれば、メガファーマに変貌するという道を選択するのは、いわば必然である。


B 買収後の状態を単純合計すると、2017年値でシャイアー+タケダ連合はグローバルランク8位*2になる。7兆円買収を行っても世界8位であり、トップ1-3の64%~69%の規模でしかない。またグローバルメガファーマは利益率で20~30%を誇るが、タケダは営業利益率で10%強、純利益率で9%程度である*1。シャイアーの純利益率が28.2%であることから、買収により利益率が押し上げられる*3。この押し上げられる利益率を更に上げ、タケダへも仕組として反映させ維持できるかどうかが重要である。

 1.ファイザー/アメリカ 453億ドル
 2.ノバルティス/スイス 419億ドル
 3.ロシュ/スイス 417 億ドル
 4.メルク/アメリカ 354億ドル
 5.J&J/アメリカ 344億ドル
 6.サノフィ/フランス 341 億ドル
 7.グラクソ・スミスクライン/イギリス 287億ドル
 8.シャイアー+タケダ 280億ドル
 9.アッヴィ/アメリカ 277億ドル
 10.ギリアド・サイエンシズ/アメリカ 257億ドル

A タケダによるシャイアー買収の目的としては、「消化器系疾患領域、ニューロサイエンス(神経精神疾患)領域、オンコロジー領域、希少疾患領域および血症分画製剤におけるリーディングカンパニーとなるため」と強調されている。例えばシャイアーは、ハンター病など希少疾患向けの製品や「パイプライン」を多く揃えていたり、2016年にはバクスアルタを買収し、血友病治療薬の分野でも世界有数の企業となっている。単純には買収により、新薬創出・ポートフォリオに対し、パイプラインを太くそして長くできる。そして重点領域であるがん、消化器、神経精神の3領域に、希少疾患という4番目の柱を加えることになる。


B 重要なことは、確かにシャイアーは、現在12兆円程度の規模で数年後には20兆円以上に伸びるとされる競争性の低い希少疾患薬市場において、希少疾患のバイオ薬で世界のトップに位置する企業であるが、シャイアー自身が小さい買収を重ねに重ね成長してきた企業であるということだろう。そして、タックスヘイブンで有名なアイルランドにその本拠地を構えている*3。アイルランドといえば法人税率が12.5%と低く、4E(EU加盟国・English使用国・Ease of business・Education)の四拍子が揃った地であり、多くの一流企業誘致に成功している土地である。法人税の対GDP比をみれば周辺EU国とそん色ないことが確認できることから、妥当な法人税率の設定で国民への企業貢献も適っていると考えることができる。


A タケダは「TAKEDA」として一丸となり、いわば「群」として組織活動を行い、日本の医薬を牽引してきた。一方のシャイアーは、グローバルに小型買収を重ねて適材適所の思想でフレキシブルにスピーディに動いてきた*3。組織文化・風習・仕組が大きく異なるのは想像にたやすい。買収による合算規模の効果を最低でも維持し、M&Aとして分母を削り分子を和の数十%増にするには、PMIが成否を握る。このPMIは買収後統合作業であり統合前から練り上げ統合後数か月で一気につめ実行すべきものだが、本ケースでは、タケダとしての組織としてのあり方や人財スペックの再定義、或いは人財思考レベルの再教育なども長期的に必要となる。言ってしまえば、タケダは組織の雰囲気や色、文化に風習…全てをグローバル化できなければ失敗する。グローバル前提での外国人幹部を増加させ、社内人財のマインドを変えることができるかどうか。中途半端に日本色を残そうとはしない方がよい。

 

*1 TAKEDA 創業からの歩み https://www.takeda.com/jp/who-we-are/company-information/history/
*2 Pharmaceutical Executive/ Pharm Exec's Top 50 Companies 2018     www.pharmexec.com/pharm-execs-top-50-companies-2018
*3 Shire https://www.shire.co.jp/who-we-are/our-story/our-history

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