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夢は”面白い”の仕掛け人。落合陽一氏「メディアアート」展示会・MVP受賞者が語るこれまでとこれから

2020年8月31日~9月6日、デジタルハリウッド大学にて落合陽一特任教授による特別講義 「メディアート」の2020年度成果発表展示会「え、リモートじゃないの?展」が開催されました。

メディアアーティストとして2025年大阪万博のプロデューサーにも就任した落合教授による成果発表会も今年で4年目。講義から展示会開催までわずか2週間弱というスケジュールの中、デジタルハリウッド大学、大学院、スクールなど所属を超えた18名の受講生による作品が集まりました。

そんな今年の展覧会でMVPを獲得したのは、『唇会談』。22枚のモニターと20枚のパネルを使って表現されたさまざまな唇に、訪れた多くの人が足を止めました。

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唇は自らを解放するものである
世界の常識となった四角い布切れのせいで
解放の象徴である人類の唇は失われた
行き場を失った唇が続々と集結し
なにやら会談をはじめたようだ

この作品を生み出したのは、学部4年の平松レイナさん。高校在学中からグラフィックデザイン、映像編集、アプリ開発に取り組み、卒業後は日本ではまだ珍しい「ギャップイヤー」を経験したという異色の経歴を持つ23歳です。

今回のnoteでは、平松さんが『唇会談』を生み出すまでの過程と、「変人」を自称する彼女を形作った過去、そして彼女の思い描く未来に迫ります。

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平松レイナ(ひらまつ れいな)
1997年、名古屋生まれ。 デジタルハリウッド大学在学中。
NHKのドラマに子役として3年間出演。以後、表現に興味を持つ。高校時代に独学でデザインと映像を学び、大学入学を機に本格的なグラフィックデザインとWebデザインを学び始める。大手広告代理店のインターンや、美容メディア、ファッションブランドでグラフィックデザイナーのインターンを経験。そのかたわら、フリーランスデザイナーとしてコミュニケーション領域の仕事を請け負う。趣味はダンス、廃墟、ドヤ街、事故物件。

マスクで隠されているものの存在意義を問う

―今回は唇をテーマにした作品、その名も『唇会談』を展示されていらっしゃいましたよね。もともと作品の構想はされていたのですか?

作品のモチーフを唇にしよう、というのは最初から考えていました。ただ、それをどのように描きたいのかが自分の中でなかなか見えてこなくて。アートって何?っていうのをずっと考えてしまって、なかなか企画に落としこむことができなかったんですよね。

―「メディアアートとは何か」というそもそものところを疑った?

そうです。「わたしが」アートをやる意味を考えました。

というのも、これまでは問題解決をテーマに作品作りをしてきたんです。たとえば、バンダイナムコ未来研究所に展示されたジェネ写では「おばあちゃんになったらおばあちゃんらしくいなきゃいけない」という世の中の風潮に課題を感じ、「どんな年齢でもファッションを楽しめる世界を」というメッセージを込めた作品を作りました。

そんな風に課題解決を大切にしてきたわたしが、突然いわゆる「アート」に走るのって意味があるんだっけ?と。考え続けて、結局落合さんに企画のプレゼンをする15分前までなにも決まっていなかったんですよね。

―15分前!それはピンチですね。

そう思っていたんですけど、朝のデジハリに向かう総武線の中で頭の中に降りてきたんです。「あぁ、わたしが描きたかったのって回りくどく唇を表現したものじゃなくて、唇そのものをテーマにしたものだ」って。

そこで思いついたのが、モニターにバーッと唇を映して、唇に新しい付加価値を与えるという表現でした。唇って生まれながらについているし、日常の中でも当たり前のものですよね。それなのに今はマスクによって隠されていて、その存在意義がわからなくなっている。「唇の存在意義ってなんだっけ?」をそのまま作品に落とし込んだらおもしろいはずだと、15分で企画をまとめあげました。

―唇をモチーフにすることは企画が固まる前から決まっていたとのことですが、何か理由があったんでしょうか?

唇って自らを解放するものだと思うんです。たとえば化粧するときに、唇を濃い色にしたら強い女に見せたいとか、淡い色にしたら優しい女に見せたいとか、何かしらの想いを込めて色を塗るじゃないですか?それって、自分の中にある感情を唇に”表現させている”、つまり唇って自己表現の手段なんだと思って。そういうのがめっちゃおもしろいな、可能性を感じるなと思っていました。

卒制もそういうものをテーマにしてやりたいなという思いはあって、今回の展示でも唇をテーマにした何かを作りたいなと思っていた感じですね。

―プレゼンをしたときの落合さんの反応は?

プレゼンでは、いまお話したような「平松レイナの唇論」をそのままぶつけました。落合さんははじめは「唇をそんな風に思ったことがないから何言ってるか全然わかんない」と(笑)。ですが最終的には「おもしろそうだからいいんじゃない」と言ってくれました。

メディアアートは「辛いで有名」。だからこそ、ここで作品作りをしたかった

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―メディアアートの授業に参加しようと思った理由を教えてください。

もともとメディアアートはわたしが入学した年(2017年)に始まった授業で、当時から受けたい!という気持ちはありました。ただ、インターンや海外研修、就活などが重なってなかなかタイミングが合わなかったんです。

今年の6月に無事就活を終えたときに、メディアアートを受けるなら今しかない、と思いました。

―就活後の大学生というと、最後のサークル活動に卒業旅行にと楽しい思い出作りに励む人が多い印象です。平松さんはそうしようとは思わなかったのですか?

遊び惚ける4年生にはなりたくなかったんですよね。わたしは高校卒業後に1年のギャップイヤーを設けているので、同じ年齢の友人の多くは、去年の同じ時期に就職活動を終えていました。そのころのSNSには、彼らが就活を終えて遊び回る姿がよくアップされていて……。正直「絶対にこういう過ごし方はしたくない」と思って見ていました。

大学生活では、自分に足りない能力を可視化して自らをアップデートするサイクルを大切にしてきました。だからあえて「超辛い」で有名なメディアアートでの作品作りに挑む。自分にとっては、それが一番有意義で理想的な最終学年の過ごし方だと思ったんですよね。

―たしかに2週間足らずで講義、企画、制作、展示まですべて行うのは相当大変そうですよね。それでもあえて辛い道を選んだということですか?

そうです、「あえて困難に立ち向かうみたいな」ノリ(笑)。今回の展示作品に使った唇も、もともとはフリー素材で揃えればいいやと思っていました。でもそれって面白いんだっけ?チャレンジングだっけ?と考えるとそうじゃなかった。だから、大学生活を通して作った人脈をフルに活かして「唇撮らせて!」とお願いして回りました。実はそこが今回の展示で一番大変で、最後の最後までやっていた作業でもあります。

プレゼンの段階ではモニター10枚を予定していたのに、最後はモニター22枚、パネル20枚の作品に。大変だった分、想像以上の作品ができて満足しています。

自己表現のスタートは「このままでは消えてしまう」という思い

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―先ほどのお話の中に「唇は自己表現の手段である」という言葉が出てきました。自己表現に関しては昔から関心があったのでしょうか?

そうですね。自己表現に関する原体験は、NHKで子役をやっていたころまでさかのぼります。

―子役?

そうです。わたし、アメーバピグというゲームが大好きな子どもだったんです。自分にそっくりなアバターを作って、インターネットの中で人間関係を構築することにドハマりしていました。そしたら少しずつ、インターネットの中だったら本音が言えるのに、表の世界では言えなくなっていって。

インターネットの中の私が本当に私だと感じるようになってきたころ、唐突に「消える!」って思ったんですよ。このままだと、現実世界のわたしが消えてしまう。リアルな世界で自己表現をしなければ――。それで、自己表現の手段として子役を選びました。

―そのまま役者やタレントになるほうが自己表現の場は多かったのではと思うのですが、その道は選ばなかったのですね。

そうですね。高校を卒業するころには演技ではない表現を学びたいと思うようなっていました。きっかけになったのはNHKのドラマの編集室に連れて行ってもらったこと。編集室をのぞくと、編集マンが地道にチクチク編集をしているんですよ。映像をつないだり、音をつないだり。

それをみて感動したんですよね。演技とか歌とかいろんな表現があるけど、こういう見えないところでモノづくりをしている人がいるんだ。わたしが知っている表現と形は違えど、これだって素敵な表現だ。わたしはこういう人たちみたいになりたい、と。

それから「表現の勉強」に方向転換をして一旦役者をやめ、ギャップイヤーを経てデジタルハリウッド大学に入学しました。

―表に立つ人間から、裏方の側(がわ)に回りたいと。

そうです。裏方ってよく言われますけど、わたしのなかでしっくりくる言い方は「仕込む人」とか「仕掛ける人」。自己表現の入口こそ役者でしたが、編集室での感動体験をキッカケに、表に立つ人ことよりも裏で何かを仕込むことに惹かれるようになりましたね。

平松レイナのこれから

―来年の春(2021年3月)に卒業を迎える平松さん。卒業後はどのような道に進まれるんでしょうか?

卒業後は、大手のデジタルマーケティング専門会社に就職します。「入るなら今しかない」と思って。

―というと?

ここ数年で、インターネット広告の業界は急速に成長しているし、新しい表現も次々に生まれています。きっと10年後には「広告」が持つ意味も変わっているはず。逆に言うと、今の表現の手段やクリエイティブは今しか見られないし、今活躍している方たちの姿を間近で見られるのも今しかないかもしれません。

大手の広告代理店に入社すれば、そういう人たちの近くで学んで、勉強ができる。「自己表現する人」「仕込む人」として、今しかできない選択をしたつもりです。

―攻めの姿勢ですね。将来的にはどうなっていきたいですか?

「面白いものを仕掛けまくる人間」になりたいですね。10年先、20年先にどの業界にいるかはわからないけど、たぶんプランナーみたいな仕事をやり続けているんじゃないかな。いつも何かに対しての好奇心が溢れまくっているので、それを生かした仕事を続けていけたらいいなと思っています。

そのためにもまずは広告業界で、新しいデジタル表現を追求しながら「面白い」を仕込んでいきたいです。

広告って、気にも留めてもらえなかったり、逆にウザイと思われたりするものじゃないですか。誰も期待していないというか。だからこそ、面白いものの作りがいがある。誰かが1日を振り返ったときにわたしが作った広告を思い出して、「あれちょっと面白かったな」って感じてくれるようなコンテンツを作れたら幸せだなと思っています。

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▲本人曰く「謎だけどお気に入り」の会期中のひとコマ

デジタルハリウッド大学で育んだ「複合的に物事に取り組む力」


「もっと広い世界が見たい」。そんな思いとともにギャップイヤーを過ごした平松さんがギャップイヤー終了後に入学を決めたのは、デジタルハリウッド大学でした。彼女はその理由をこう語ります。

「今後社会に求められるのは、複合的に物事に取り組む力。デジタルハリウッド大学でなら、さまざまな力をつけて柔軟に変化できる人間になれると確信したんです」

デジタルハリウッド大学では一学部一学科。デジタルコミュニケーションを横断して学べるカリキュラムを設置し、複数の専門領域から学びたい科目を選択できます。そのため、平松さんのように高校時代からすでに「得意」がある学生でも、自分に合った専門を組み合わせて、幅広い力を身に着けることができるのです。

デジタルハリウッド大学では、2021年4月入学を希望する方向けに入学試験ガイドを公開しています。

https://www.dhw.ac.jp/p/admissionguide/

今年から導入される基礎学力テストのサンプル問題や一般入試の過去問、オンライン受験時の準備方法なども記載されていますので、デジタルハリウッド大学が気になる!という方はぜひご覧ください。


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