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母の身体の傍らで新しい時が流れる

母の身体の傍らで新しい時が流れる

はじまり

 それは、母の身体の傍らで流れ始めた、新しい時の始まりだった。

 母の身体の力が次第に弱っていくのが感じられる。母の眠りの訪れは、その始まりが定かではなく、始まりと終わりの区別も失われ、目覚めの時と眠りの時との違いがよくわからない。横たわり眠りについていくその時間はいつまでも引き伸ばされ、流れる大気のように持続している。いまこのとき母は眠りについているのか?

 日々の生活のあれこ

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『ゼロ-アルファーー<出来事>のために』 断片②-2

『ゼロ-アルファーー<出来事>のために』 断片②-2

………予定されていたはずの、文書の無限反復は余計なものだった。それは出来事を抹殺するための最も古くさい戦略だったのだ。なぜなら戦争と呼ばれるものは常に、この文書の反復の避けがたい腐食から、この同じものの反復の超-飢餓状態から、あらかじめその挫折が宣告されている再生のための触媒としての差異を渇望して生まれてきたからだ。

 自ら生み出した砂漠を逃れ生き延びるために、この文書化の装置は必ず戦争を体内か

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道の系譜学 あるいは「民族浄化」の記憶

道の系譜学 あるいは「民族浄化」の記憶

「潮流詩派」掲載作品 202号作品 [詩篇] 2000年頃創作

嘗て見たこともない村外れの道端に佇む私に

一つの記憶が呼びかけていた 

やがて私はこの道を想い起こす 

未だ一言も発声できなかった頃 

確かに

未だ生まれてさえいなかった「私」にこの道を教えた者がいた

村外れの曲がり角で

今私が佇んでいるこの方向へと

未だ生まれてさえいなかった「私」を誘った者が

確かにそこに誰

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空とテロリズム  

空とテロリズム  

詩誌「潮流詩派」190号 作品1 詩篇(状況詩篇)掲載作品 2000年創作

あの空の両端に張り渡された綱から

この世界の最も陳腐な解釈が

転落していくのが見える

かつて何度も見たそんな光景の中では

あらかじめ「存在」が絶対化されている

何よりも 破壊すべきものの「存在」こそが

絶対的なものとされる

したがって

あらかじめ「絶対的なもの=敵」への敗北も織り込み済みであり

正当化

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Dialogue with nobody

Dialogue with nobody

何時もの光景の中で

人々は何時ものように通り過ぎて行く

あまりにありふれた光景こそ

誰一人見ることのできない恐れを孕んでいる

人々に召喚され

確かに裁かれる私は

その法廷にはいないのだ

そしてもちろん彼も

何故なら

私と彼がともに召喚される時

その法廷は

すでにそこには無いのだから

以上の作品は2005年07月9日に私のブログにアップされた。オリジナルの90年代半ば頃に書か

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Dialogue avec……

Dialogue avec……

ディスプレイ画像の縁すれすれに<外>からの声。

それは、どんな超管理回路にも除去不可能な条件として組み込まれている見えない亀裂、言い換えれば、何時しか我々に植え付けられ感染してしまった『自己免疫不全ウイルス』から贈り与えられた触発因子だ。

――今夜、私は裁かれるのだという。

いや若しかしたら、裁くのは私の方かも知れない。

私は、その法廷が、何時しか超コントロールの空間へと移行していくのを見

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Pro-logos.1

Pro-logos.1

かつて

私がまだ幼かった頃

部屋の外には

昼と夜があった

午後の青空の

彼方から

星の瞬きが降り注いでくるのを見た



……いや 違う

かつては

部屋の外など無かった

私はテラスに立ち

暗黙の了解と呼ばれる領域に

問いかけていた

そこは

部屋の中だったのだろうか?

恐らく

そうではなかった

私は

部屋の中で

誰かと暗黙の了解を共有していたわけではなかった

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あの日いなくなった私へ

あの日いなくなった私へ

2013/9/12-13創作


あの日いなくなった君が

いつかどこかの街路で歌った

最初は一人で

そしてそのあとで一度立ち止まった

振り返り

何人かの君が歌っているのを見ると

時の流れの渦のなかへと片足を浸した

そのときから

その水の感触が忘れられない

苦痛でもなく

悲しみでもなく

ただそこにある疲労でもなく──

ただ君が

何人かの別の君たちと歌うのを感じた

沈黙の

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ニッポンの食卓

ニッポンの食卓

詩誌「潮流詩派」掲載作品 2000年創作

冬の日の午後零時10分ちょっと前に冷蔵庫から取り出した冷凍加熱食肉製品(包装後加熱)『焼鶏丼の具 炭火焼』を無論冷凍のまま封を切らずに袋のまま熱湯の中に入れ約10分間加熱した後初めて封を切り朝食の残りご飯にかけて食べた 腹が減っていたのでかなり美味かった ふと目に入った「原産国 タイ」という文字

そう言えば次のことは私にはとてもできそうにない

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マスメディアとその影

マスメディアとその影

初稿2013年(一部改変)

彼女はみずからの身体を 
数知れない他の者たちに惜しげもなくさらけ出し 
切り売りしているように見える

だが
彼女はその身体を
みずからの手の届かないところに投げ与えることで
手離してしまうのではなく
むしろ数知れない他の者たちを介して
取り戻しているようにも見える

それこそが
若き日の彼女にはできなかったことなのだろう
それは
彼女が生身の身体を生きながら
それ

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「自覚」した「詩人」     

「自覚」した「詩人」     

詩誌「潮流詩派」掲載作品  2000年創作

2000年にもなって

――なにかの間違いで――

もし 誰かに

私は「詩人」だ

なんていう「自覚」が

生まれてしまったとしたら

それは危険な徴候だ 

「私はなんて崇高なんだろう」 

 いや

「私はなんというクズなのだろう」 (以下反復)

「ああ 苦しい 切ない」とか

「ああ 水が足りない」とか――

 たえず揺れ動くことになる

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生き延びること

生き延びること

生き延びること
それは

没落する者たちを背後に
自らは没落を免れているのではない
そうではなく
それはまさに没落の反復であり
またそうしたものとしての終わりなき試練=訓練である
どこまでこの没落を反復することができるのか
そしてそれを耐え続けることができるのか

生き延びることは
この没落の反復というプロセスであり
この没落の中から生まれてくる

だがそれは
没落とは異なる何かが
そこから離脱す

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賭・広場・貨幣

賭・広場・貨幣

version1

二人の者が出逢い
牛と馬を交換する

いつの日か
彼らはある開かれた
約束された場で
牛と馬を売り買いする者たち
博労/馬喰/伯楽と呼ばれる
ようになるだろう


すなわち
規定された交換の一歩手前に生成する
分散の反復

牛と馬を交換した二人は
まだ可逆的で可塑的な関係のうちにある
彼らの生きる場は
まだ変容する生命にあふれている

確かに博労たちは
交換に対して超越的な

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確率統計的な世界の死の終焉に 新しい時が始まる

確率統計的な世界の死の終焉に 新しい時が始まる

2013/10/01初稿 2022/1/01,1/03改訂

世界システムの財政が最終的に破綻し 過去のテロリズムが現実の出来事のただなかで再定義される 

それは世界の再定義をもたらすことはない不発のテロリズムだ 

ある不可視の境界域で 世界戦略のヘゲモニーがリセットされた

そのとき 再定義されたはずのテロリズムが確率統計的な相貌を取り戻したかに見えた 

確率統計的な世界 そのあ

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