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【デザインシンキング・コンサル③】デザインシンキングを「組織開発」に用いる

こんにちは。DONGURIでデザインシンキング・コンサルをやっています、矢口泰介(@yatomiccafe)です。

ここ数年の傾向として「組織」や「チーム」に、注目が集まっているように感じます。それにともない「組織開発」という言葉にもあらためて光が当たり、需要が高まっているようです。

一方で、需要はあるものの、「組織開発」を担うプレイヤーが不足している、という課題感も耳にします。

いったい「組織開発」とは何なのか・・・?

今回は、私の参加したプロジェクトの事例を混ぜながら、「デザインシンキングと組織開発」というテーマについて、両者のあいだにブリッジが架けられるのかどうか、具体例を手がかりに、私の体感を書いてみました。

1.「組織開発」に注目が集まる要因

「組織」「チーム」に注目が集まる要因は様々あると思いますが、私が独断と偏見で挙げるとすると、以下の3つになるのではないかと思います。

(1).労働市場の課題が顕在化したから
人材の流動性の高まりや、年代・国籍など、組織構成人員の多様化により、企業は「価値観の異質なメンバーのパフォーマンスを上げ、かついかに長く働いてもらうか」を、喫緊の課題として考えなくてはいけなくなった。

(2).サービス開発と組織づくりが接近したから
新規事業開発に取り組む、かつ不確実性への対処のためにリーンに取り組もうとすると、取り組むイシューが必然的に「いかに変化に対応できるチームを作るか」という課題感にスライドしてくる。

(3).事業の継続がコミュニティの成功にかかっているから
企業・商品・サービスが長く存続するために、ユーザーを含めた内外のステークホルダーを、コミュニティとして捉えてマネジメントしていく「サービスデザイン」が主流になるなか、コミュニティ参加者の満足度を高めるプロセスが求められている。

1はマクロな経済動向からの課題感。多くの組織開発のニーズはここから発生していると思います。
2はイノベーション/事業開発が求められている中で、スタートアップ等に表れている課題感かなと思います。
3はこれまでUXで語られてきた文脈に「組織」や「コミュニティ」というレイヤーが入った感じ。

いずれにせよ「変化への対応」をしようとするとき、今いちばんテコの入れどころが「組織」「チーム」ということなのだと思われます!(ざっくり)

2.「組織開発」とはなにか?

では、いま注目を集めている「組織開発」とは一体何でしょうか?

中原淳先生・中村和彦先生の共著「組織開発の探究」では、第1章でいきなり「組織開発とはなにか?の定義はできない!」と述べられており、ぎゃふん!となりつつ最終章まで一気読み必至の名著なのでご一読をおすすめします。(おそらくもう多くの方が読まれていると思いますが・・・)

第1部では、「組織開発とはなにか」という入門編で、なぜ組織開発の定義ができないのか、という歴史的な成り立ちが述べられています。

ただ、「組織開発」の必要性が高まる背景や、「組織開発」の先に、何が目指されているのか、を理解することで、組織開発とは何なのかについて、体感で掴むことができるのではないか、と書かれています。

組織開発とは、人を集めただけではうまく動かない組織をうまく動くようにするための意図的な働きかけと言うわけです。
(略)
①人を集めてもてんでバラバラで、チームの成果が出せない場合に
②あの手この手をつかって、
③組織を「work(成果を出せるように)させる」意図的働きかけであり
④そのことでメンバーにやりとりが生じ
⑤チームの共通の目標に動き始める手助けをすること
を意味します。
(「組織開発の探求」第2章 組織開発を”感じる”ための3つの手がかり)

つまり、「良い組織=人がworkする組織」と捉えたとき、そこにたどり着くための一連のプロセスを「組織開発」と呼んでいる、ということです(私の貧相な頭による理解のため、ご容赦ください)。

3.デザインシンキングを組織開発に適用した事例

私自身の事例でいうと、組織のクレドを作るという半年に渡るプロジェクトに参加したとき、先の「組織開発」の文脈に沿った感覚がありました。

このプロジェクトにおいては、本社と現場との「乖離感」が問題視されていました。

クライアントの「現場」は全国にまたがり、かつ100施設以上の数であり、本社が密接にコミュニケーションや指示をすることは不可能な状態でした。

そこで、各施設が自律的に判断をし、かつ一定のサービス品質を保つための仕組みを構築する足がかりとして、「クレド」(行動指針)開発のプロジェクトが走ることになったのです。

私は、そのプロジェクトの進行として、プロジェクトメンバー(4名)に対して、以下を行いました。

(1).課題の発見(リサーチ)
(2).対話のファシリテーション

(1).課題の発見(リサーチ)
本プロジェクトにおいて、私は

1. ステークホルダー(本社・現場経験者・プロジェクトメンバー)へのヒアリング
2.代表(社長)からの課題感・プロジェクトへの期待に関するヒアリング
3.過去3年分の事業報告書
4.現場で策定されたドキュメントの読み解き

を行い、そこから課題の仮説立てを行いました。

「組織開発」が必要とされる背景には、各組織に個別の「明確な課題感」が存在します。その「課題感」があるからこそ、組織開発の必要性が生じてくるのだと思います。

ただ、、課題「感」というだけあり、課題そのものは、なかなか姿を現してくれないのが困ったところです。
課題が組織のマネジメントプロセスにあるのか、意思決定プロセスにあるのか、暗黙の雰囲気によるものか、特定の関係者によるものか、あるいはパワーバランスによるものか。

「課題」として現れている現象は、おそらく複数の要因からなる構造的な背景を有しています。

組織開発のプロセスにおいて行われるリサーチは、この構造的な課題を「見える化」するものですが、ここに、デザインシンキングの思考運動の基本(定性情報の取得、情報構造化、仮説立て、検証)を活用しました。

本プロジェクトのリサーチで見えてきた課題は(詳細は割愛しますが)、端的にいうと「言葉の使い方がバラバラであること」にあると私は見ました。

目指す方向性や価値観は変わらないにもかかわらず、使用する言葉があらゆるレイヤーでバラバラであるため、不要な「乖離感」を生んでしまっていました。

(2).対話のファシリテーション
つづいて、プロジェクトメンバー間の対話を通じて、自分たちが行っている仕事が、どのような意味を持つのかについて、掘り下げていきました。

リサーチで上がった課題感が「言葉の使い方がバラバラである」というものだったので、企業理念や事業目標と、発言からピックアップされる現場の感覚のあいだに接合点を見出すことが目標でした。

本社で考えたものを現場に浸透させるときには、ヒエラルキー型の組織である場合に顕著ですが、一定の抵抗に合うものだと思います。

それは仕方がないにせよ、なるべくなら現場の感覚を大事にした上、かつ、会社の目標とも接合した言葉として、クレドを開発したいと考えました。

そこで私が用いた手法が、デザインシンキングの手法を流用した「ファシリテーション」です。

デザインシンキングを用いたファシリテーションのメリットは、その場で生成される定性情報に対して、「わからない」 → 「わかる」の運動をどんどん行うことにより、行われる対話の質(深さ)とスピードを圧倒的に上げることにあります。

さらに、対話の質とスピードが上がると、不思議なことに、参加者し、発話するメンバーの「自分ごと化」の感覚も圧倒的に高まります

具体的な進め方は非常にオーソドックスなもので、各MTGにおいて、私がメンバーに対して質問を投げかけ、そこから上がった発言や情報・単語をピックアップし、ホワイトボードを用いて、その場でどんどん構造化を行っていきます(絵のないグラレコとも呼んでいます)。

そこで表れた情報に対し、深掘りのためにさらに質問を繰り返していき、私が腹落ちした時点で、MTGは終わりです(その点の進め方についてはWantedlyの記事をご覧ください。)

4.まとめ

クレド開発プロジェクトは3ヶ月の「言語化」、さらに現場リサーチを経ての「浸透ツール開発」と、およそ半年にわたりました。一部の施設の方からは「非常に納得感がある」という評価をいただいたようです。

現在はクレドはクライアントに引き継がれ、社員教育プロセスの開発が進められています。

組織開発は、様々な手法の体系で成り立っている割に、先に書いたように決まった定義がありません。また、組織開発には「診断型」「対話型」など、主にマインドセットに立脚したいくつかの系譜があります。

従って、おそらく関わるプレイヤーによって、手法や進め方は異なると思いますし、課題の粒度や組織の規模によっても、プロセスは異なってくると思います。

という前置きはありつつ、デザインシンキングを組織開発に適用することの有用性については、私自身、腹落ちできたところがありました。

デザインシンキングは、前回書いたように、思考運動としての側面を持っています。従って、もともと非常に汎用性が広く、様々な課題の解決に使われており、「組織の課題解決」にも適用できることは、知識としては知っていました。

ただ、今回実際にプロジェクトに関わってみて、振り返ってから言語化してみると、あらためてその有効性が腑に落ちるところがあったというお話でした。

次回もまた、現場で得た感覚を手がかりにしながら、デザインシンキングについて考えてみたいと思います。

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