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『となりのトトロ』の糸井重里さんの演技の話

1988年。『となりのトトロ』を吉祥寺の映画館で観たときは、糸井重里さんのお父さんの棒読みの演技には、ま〜ビックリさせられたものですw。
え?これって・・・タイアップだから?みたいな(笑)。アニメ業界の知人に非声優のリアルな演技が〜とか色々説明されたけど全然飲み込めなかったなあ。だって棒読みはリアルじゃないからね。しかもサツキとメイがバリバリ声優さん声だったので、その横でボソボソと抑揚の足りない糸井さんの演技は大失敗にしか思えなかったものです。

…それからン十年間、トトロは見返してなかったんですが、先週テレビでやっててふと観たんですね。そしたら・・・印象が全然違って見えたんです。

糸井さんのお父さんの演技が、正しく感じる!

いや、棒読みは棒読みだし下手は下手なんだけど、なんというか「正しい」のですよ。人物像の表現として。 ようするに彼はいわゆるお父さんじゃないんですよね。彼の人物像は・・・親戚の優しいお兄さんですよ。
会えばすごく優しく接してくれるし、面白い話をしてくれるし、子供の話も聞いてくれる。何より怒らない!だから子供達は大好き。でもね、スーッといなくなっちゃうんですよ親戚のお兄さんって。お兄さんにはお兄さんの大切なことがあるから。

そんな「親戚のお兄さんみたいなお父さん」草壁タツオ像をあの声がくっきりと表現してくれているんです。

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トトロ06

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なんで今回この糸井さんのお父さん像をスッキリ受け入れることができたのか?・・・じつはこの人物像、すごい既視感があったんですよね。

研究者で、やさしくて誠実な人なんだけど、いまいち家族の言うことに真剣に取り合ってくれてないなー、微妙に他人事だよねーという。・・・これって『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎とほぼ同一人物じゃないですか!そしてその堀越二郎の声はやはり超優しいけど棒読みの庵野秀明!!!

・・・ってことはですよ。宮崎駿的にはやはり糸井重里のあの喋りは大失敗どころか大正解だったんですよ。そう、あの声は「とても優しいけど、いつもどこか他人事で、じつは自分の世界に没頭している男」の声なんです。

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そしてじつはボク今回は、逆にサツキとメイの演技が不自然に感じたんです。もちろんアニメの子供の声として素晴らしいパフォーマンスなのですが・・・心の距離感とか、相手への声のかけ方・・・つまり演技のコミュニケーションの部分が、これ大人だな、と感じてしまったんですよね。過剰にいい子なんですよ。

サツキは基本「クラリス喋り」「ナウシカ喋り」でwいい子、喋る相手に対する気の使い方がハイティーンぽい。例えば「おばあちゃんの畑って宝の山みたいね」というセリフとか、サツキ自身の感動や衝動で喋っているのではなく、おばあちゃんへの気遣いでそう言ったみたいなトーンなんですよね。大人。

メイも雰囲気は天真爛漫っぽいのに、言葉を理路整然と、目の前の相手にしっかり伝えようとして使っている。「もう少しって明日ぁ?」のニュアンスが「明日だよね!」と自己中心的に発するのではなく、「明日なの?」ときちんと相手に質問しているんですよね。 2人とも大人のコミュニケーションだと思いました。

でも映画のラストあたりで、この点に関してサツキとメイのお母さんが「あの子たち、見かけよりもずっと無理してきたと思うの」と種明かしをしてます。つまり病弱なお母さんと、あの自由なお父さんの間で、気を使って生きてきたということなんでしょう。もしかしたら、それを声優さんたちが多少説明的に強調して演じてしまったのかもしれませんね。

だからボクは映画の吹き替え版のディレクションをする時に、子供の声を吹き替える大人の声優さんに「あまり相手に言葉を伝えようという社会性を演じないでください。子供は子供の超主観的な世界観があって、その小さな世界を信じているので、子供の言葉は半分も大人に伝わらなくてもいいんです。」とお願いしたりします。そうすると、まさに子供らしい声になったりするんです。

サツキ01

メイ01

しかしさすがにジブリのアニメは、声優さんの演技もかなりリアリスティックに演出されていますよね。すごい。すごく興味深く見ることができました。

あと単純に映画の感想として、『となりのトトロ』って以外と怖い映画なんだなって今回思いました。最初のマックロクロスケのシーンとか完全にホラーの演出ですよね(笑)
猫バスのシーンとかもじつは音を消して画面だけ見てると超怖いですよ(笑)。生々しく躍動するモノノケ描写。・・・でもそれにマーチっぽい楽しいBGM を載せて、楽しいシーンみたいに見せてしまっているんですよねー。

トトロの楽しい音楽がかかってるシーンは、一度音を消して観ることをオススメします。意外と怖いからw。

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猫バス02

トトロ02

あーちょっと長くなってしまった。
なかなか短く簡潔に書けないものですなあ。
最近洋画の日本語吹き替えの演出をやるようになってから、声優さんの演技についてもすごく色々考えてしまうようになったので、今回は『となりのトトロ』のその辺りを集中に書いてみました。

次回は何の演技について書こうかな〜。ではまた!

小林でび <でびノート☆彡>

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