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『シン・ウルトラマン』外星人から見える景色、の演技。

『シン・ウルトラマン』
もっと映画館が空いてから見に行こうと思ってたんですが、YouTubeで最新の予告編を見て、コレは今すぐに見なきゃ!って・・・それは例のブランコでの斎藤工さんと山本耕史さんの会話のシーンでした。

ふたりとも地球人に見えない!(笑)

「人間のふりをしている外星人」の芝居が素晴らしかったんですよねー。
ふつう宇宙人とかを演じる時はどう振舞ったら宇宙人っぽく見えるかなーっていう工夫をしたりするじゃないですか。それをやってる気配がほとんどない。
斎藤工さんも山本耕史さんも、ウルトラマンやメフィラスを演じて見せようとしていないんです。

「外星人に見えるように」演じるのではなく、むしろその逆で、おふたりは「外星人の目で世界を見て」演じているんです。

外星人の目で世界を見る、の演技。

山本耕史さんはメフィラスの目で見て、メフィラスの心で感じて、メフィラスの頭で考えて言葉を喋ったり、名刺を出したり、ブランコに乗ったり、居酒屋で飲んだりしている。
メフィラスとして地球人の仕草や習慣を徹底的に調べたんでしょうね、それらを完璧に地球人っぽくやってみせる行為をメフィラス星人自身が楽しんでいることがビンビンに伝わってくる芝居なんですよw。

斎藤工さんもそうです。ウルトラマンは地球人と融合して日が浅いので、地球人のことをまだまだ勉強中なんですよね。だからまだいろいろ探りながらやっている。
ブランコの乗り方は見れば理解できるのだけど、地球人がブランコになぜ乗るのか?地球人はブランコに乗ったらどんな気持ちになるのか?まではまだ理解できていない。だからメフィラスのようにブランコを楽しんで見せるところまではまだいけないので、ウルトラマンはブランコにボーっと座っている・・・超面白い!!!

メフィラスもメフィラスで、ブランコを上手に漕いで見せることで「自分のほうが地球のことにかけては圧倒的に詳しいのです!」ってことをウルトラマンに自慢しているんですよ。バカみたいで最高じゃないですかw。 こういう小さな日常描写で大きな設定を表現する演出はホント素晴らしいと思いました。

メフィラスとのブランコでの戦い!

まあこのブランコのシーン、そのことをもっと露骨に観客にわかりやすく見せる流れにしてもよかったのではないか?とも思うのですけどね。

例えばカメラワーク等をもっとウルトラマンの心情に寄せて・・・まずメフィラスに公園に連れていかれたウルトラマンは、そこにあるブランコが何なのかがわからないw。しかしメフィラスがそこに座って見せるので、あ、これ椅子なのか!しかし何故こんな不安定な…座りにくい椅子だな。 座るのに苦戦するウルトラマンがようやく座れたら、メフィラスが急にブランコを漕ぎ出すんです!これ見よがしにw! え?え?え?なにそれ? そこでメフィラスが言います。

「ブランコです。楽しいですよ? 私の好きな椅子です」

これくらいやってくれたら爆笑しながら外星人の設定がバンバン頭に入ってくるんだけど・・・まあこんなこといちいちやっていたら2時間に収まらないですよねw。

メフィラスの役作りは「黒船のヨーロッパ人」。

以上のように、今回の山本耕史さんのメフィラスの演技が素晴らしかった点は、「山本耕史さんがメフィラスを演じている」という姿ではなく、「メフィラスが地球人を演じている」その姿の詳細を我々観客に見せてくれたことです。

つまり山本耕史さんはすでにメフィラスになっている。メフィラス脳で見えるもの感じるものに反応しながら芝居している。観客には彼の演技だけでなく反応も見えている。その「反応」の部分から、彼がどんなに地球人の真似をすることを楽しんでいるのかがビンビン伝わってくるんですよね~。名刺の出し方とか、居酒屋での箸やら何やらの所作とか、格言を言うその言い方とか(笑)、そのうさんくささが外星人として超リアルなんです。

「わたしは地球人が大好きなんです!」と言いながら、確実に地球人を見下している。
・・・かつての黒船に乗ったヨーロッパ人が、未開人の島に来て、それこそ郷に入っては郷に従って未開の風習を楽しんでみせながら、同時に笑顔で気前よくヨーロッパの文化をふるまって、未開人の世界を破壊してヨーロッパ人に依存しなければ生きてゆけない状況を作っていったように。

オタク層の票を勝ち取りたい政治家が、アニメのセリフとかを勉強して発言に絡めて喋って見せたりして、「わたしもアニメ大好きなんです。みなさんの仲間ですよ~」みたいな笑顔で振舞ったり。

武器商人が、他国の内戦の不利なほうに「応援してますよ!」と武器をバンバン援助して、戦争を激化させてより大きな利益を得ようとするように。

結婚詐欺師が「わかるよ」と相手のすべてを肯定しながら、親身になって悩みを聞いてあげたり助言したりしながら、相手が自分に依存せざるを得ない状況を作っていくように。

彼らのウソのつき方には共通して「笑顔のウソつきハイ」みたいなテンション上がった感じがありますよね(笑)。

地球人が禍威獣と外星人の圧倒的な暴力と科学力に怯えている時にさっそうと現れて「わたしは地球人が大好きなんです!」といいながら超文明の譲渡をちらつかせる、そんなメフィラスを黒船ヨーロッパ人の「笑顔のウソつきハイ」で演じきった今回の山本耕史さんの、役作りの勝利ですよねえ。最高に意地悪な芝居でしたw。

メフィラス、「割り勘で」とか言ってみたかったんだろうなあ(笑)。
そう考えるとあの財布にはじつはお金はたくさん入ってたのかもしれませんね。いや、最初から「割り勘で」と言うために最初から使うであろう額の半分だけ入れてあったのかも・・・あのメフィラスならあり得る!!!
脚本にその辺がどう書かれていたのか、超知りたいです(笑)。

神永新二とウルトラマンとリピアと。

斎藤工さんは今回大変だったと思うんですよね。
なぜなら1つの身体で3つの人物を演じなければいけなかったから。それはウルトラマンと、神永新二と、リピアです。

しかも「リピア」は「神永新二」を好きになるんですからね(笑)。
神永新二の身体に入った「リピア」が「神永新二」的な要素を学んでいって、映画後半ついに「ウルトラマン」としての意識になってゆく・・・これって役作り激ムズじゃないですか?

しかもこれらのことって、映画終盤のゾーフィとの会話とかで示されるだけで、そこまではセリフとか、目に見えるエピソードで語られるわけじゃないですからね。基本、斎藤工さんの芝居のディテールだけで語られるわけですよ。無茶ですw。なんという脚本を書くんでしょう。

これアニメだったら後で、リテイクリテイクで適切な表情とか動作を修正して人物像を作ってゆくこともできるんでしょうけど、俳優の演技はライブですからね。あとで演技のさじ加減の調整が出来ない。

斎藤工さんは、各シーンを演じる時に「まだ融合前なので100%神永新二」「融合していまはまだ98%リピア、なので不愛想」とか「地球人の感覚がかなり入ってきたのでいまは65%くらいウルトラマン、なので笑顔でコミュニケーション」とか「いまはもうリピア0%なのでゾーフィと意見が合わない」とか考えながら演じてたんでしょうか?

斎藤工さんってもともとちょっと宇宙人っぽいというか、ちょっと相手役とのコミュニケーションにベールが一枚かぶってるみたいな芝居をする俳優さんじゃないですか。それが映画前半のリピアの意識の神永新二を演じるのにピッタリだ!というキャスティングだったと思うんです。なので斎藤工さんのリピアの演技は素晴らしかった。

ところが、融合前のもともとの神永新二もほぼ同じ演技に見えたんですよね。

元公安の作戦立案担当者にしてはボンヤリしてるというか不自然・・・すでに宇宙人っぽかった。ボクは観てて、これはもう最初からすでにウルトラマンと融合済みという設定なのかな?と思ったくらいです。
無機質すぎて、子供を助けについ作戦室から飛び出して行ってしまうような男には見えない・・・いや、のちにリピアに意識が入れ替わっても周囲が気づかないくらいもともと無機質な男だったという設定だったのかもしれないですが(笑)

でも最終的にゾーフィが「そんなに地球人が好きになったのか、ウルトラマン。」と驚くくらい、リピアが惚れこんた神永新二がどんな魅力的な人物だったのか?・・・はもう少し具体的描写で脚本的にも演技的にも描いてもよかったんじゃないかなと思いました。

「ウルトラ映画」としての『シン・ウルトラマン』

今回の『シン・ウルトラマン』は想像していたものよりもずっと、平成以降の「ウルトラ映画」的でした。最新の「ウルトラ映画」としては最高だったんじゃないでしょうか。そのことが一般的なウルトラファンを歓喜させたし、映画館で子供たちも盛り上がっていたし、だから興行的には大成功なんでしょう。

でも『シンゴジラ』みたいなエッジのきいた特撮映画や、サイエンス・フィクションを求めて観に行った(ボクみたいな)観客はちょっと肩透かしを食らった感じがあって、だから賛否両論なのかなーと思います。

ボクとしてはですね・・・やはりリピアという外星人の内面にもっと寄り添って、出会ってゆく地球人のすばらしさを観察してゆくような、そんな「外星人視点」の演技と描写が見れるような映画だったらもっと嬉しかったなあ!と。

でも三部作構想があるらしいので、そのあたりは今後に期待します。今後も次々登場するであろう様々な外星人が「どんな目で地球を見るか」も超楽しみです。

小林でび <でびノート☆彡>

【追記】
外星人の演技について、もう一点だけ言わせてもらってもいいですか。
山本耕史さんが演じたメフィラスの所作があんなにもディテールたっぷりだったのに対して、本当の姿をあらわした細っこいCGのメフィラスのあのツルンとしたモーションはいったい何だったんでしょうか?
ディテールゼロ!!!
あれはずーっとウソを演じ続けていた「メフィラスの本性」を見せる時間だったと思うし、見たかった!「外星人の本音」が!
CGキャラのモーションがアクションになってしまっていて、芝居になってなかったということだと思います・・・そのあたりも続編での改善、期待しております!


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