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技術書典7にサークル参加した時の話(本作り編)

はじめてのサークル参加

2020年2月28日、29日に「技術書典8」が開催されるとのこと。私も早速サークル参加の申し込みを行っています。今回は、「はじめて申し込む!」という方に、自分が経験したことをノウハウとして伝えたいと思い、解説エントリを執筆しました。

私は、2019年9月22日の「技術書典7」に、はじめてサークル参加しています。同人誌を出した経験ゼロから始めたので、結構大変でしたが、いい経験になりました。本記事では、特に労力を要した点について、紹介したいと思います。

何故参加することにしたのか

「(ITの)技術書が好きだった」ということが一番の理由です。

たくさんの技術書を買い、読み、手を動かしてきました。中には、技術を学べるだけでなく、読み物としても興味深い技術書が何冊もありました。今まで読んだ中では、「Effective Java」「RailsによるアジャイルWebアプリケーション開発」「エキスパートのためのMySQL[運用+管理]トラブルシューティングガイド」あたりがとても好きでした。

「技術書典」というイベントとの出会いは衝撃でした。一日で、ニッチでエッジなテーマの技術書が一同に介する同人誌即売会。「こんなに面白いテーマの本があるのか」という思いと、「これなら自分でも書けるかもしれない」という思いが交錯しました。

「自分に書けるだろうか・・・?」という思いはありましたが、最後は「難しさは、書いてみなければわからない!」と申し込みを決断しました。

課題

「技術書典」にサークル参加するにあたっては、いくつかの課題がありました。特に、未経験であるが故に、本を作るプロセスが見通せていない、という点が大きかったと思います。

「書くことを決める」→「フォーマットを決める」→「構成を決める」→「執筆する」→「推敲・校正する」→「印刷する」というプロセスは、仕事で技術ドキュメントを書いている人なら、誰もが経験していることでしょう(ペーパーレスの現場も増えているので、今後「印刷」は減っていくでしょうが・・・)。

一方、印刷所での印刷を前提に、完成形の本を作り、売る、となると、考慮すべき点がかなり増えます。この点は意識する必要があり、対応が大変でした。

また、電子版の扱いも重要です。作るのは簡単なのですが、売るまでには複数のステップがあります。この点も早めに抑えておきたいポイントです。

そこで、課題として感じた以下6つのトピックについて、以降説明していきます。

・テーマ設定
・執筆
・印刷方式
・ツール
・電子版の作成と販売
・告知

テーマ設定

テーマ設定。これは間違いなく難題でした。テーマ次第で、本を作る難易度が大きく変わるのは明らかだからです。

自分は悩んだ末「設計・モデリング」をテーマにしました。フレームワークやミドルウェアは会社を超えた標準化が進んでいますが、設計技法については、割とプロジェクトチーム依存、技術者依存の傾向が強い点があり、そこが不満だったからです。

実際には、検証・解説(テーマはリアルタイムOS)にするかどうかで、かなり悩みました。書籍執筆に適した検証環境を準備できず諦めましたが、いつか本にできれば、という思いもまだあります。可能であればまたの機会に。

1冊目を書き終えて思うことは、「テーマレベルで書けることが多い」テーマを選択することの大切さです。構想段階において書きたいテーマは数あれど、実際に書ける内容はそのうちの、ほんの一部です。スタート地点で着地点のことを考えておくのは悪い話ではありません。

執筆

執筆は予想以上に大変でした。

基本は何を書くのも自由です。技術書典のルールや方針に反しない限りにおいて、何を書いてもOKです。しかし、真っ白なキャンバスに自分の思いを表現するというのは、特に創作初心者にとっては大変です。何をどこまで書くかをコントロールし、そして書き切る、というのは思っていた以上にしんどいものがありました。

今回の私のテーマは設計の「そもそも論」を扱うテーマでした。お手本が無いため、指針がどこにもなく、アイデアを出してはつぶし、出してはつぶし、の繰り返しでした。。。正直大変でしたが、生みの苦しみであり、乗り越えるしかありませんでした。

多分、どんなテーマを選んでもオリジナルを目指すほど、苦闘する局面が増えるだろうと思います。ハンズオン形式で手順を指し示す本であれば、その手順の適切さの検証に時間がかかるでしょうし、今回の本のように一般的な議論を扱う本であれば、その構成にてこずることになるでしょう。

印刷方式

「印刷」こそ、初サークル参加者(特に同人誌初作成者)が気にすべき点だと痛感しました。納期・コスト・作成方式は本を作る上での最大の制約条件になります。

仮にダウンロードカードを作るにしても、コピー本を作るにしても、その特性とコストを知っておく事は重要です。知識ゼロの状態から前日キンコーズで何とかしようとしても、時間的制約から非常に厳しくなるはずです。

技術書典で初めて本を作る!という方は、基本バックアップ印刷所を選択すると良いです。旅行代理店によるパッケージツアーのように、やるべき事が整理されており、現地搬入まで行ってくれます。私は日光企画を選択しました。

パッケージツアー方式で行くとしても、印刷について学ぶべきことは沢山ありました。実際には、休日2日分は印刷についての勉強に費やしています。

・締め切りはいつなのか
・コストはどの程度なのか
・オフセット印刷とオンデマンド印刷の違い
・サイズはどうするのか
・表紙はどうするのか
・データ入力形式は何か

具体的にどんな本を作るのか、がクリアになるように、できれば早い段階で決めきった方が良いです。印刷についての疑問が晴れるほど、執筆により集中する事が出来ます。

以下のサイトは、バックアップ印刷所さんのページではないですが、本当に勉強になりました。こちらを一通り読んでおくと印刷所に書いてある情報の大半を理解できるようになると思います。

日光企画への申し込み

日光企画は見積もり用サイトを用意しており、そこから申し込むことになります。

今回は、以下のような内容で申し込みました。

・スタンダードプランを選択
・印刷はオフセット印刷
・入稿方式はWord PDF
・表紙のみIllustrator
・B5 40頁 100部で、約40000円。(価格を安直に500円(100部売れれば黒字!というノリ)に設定)
・特に料金割増は選択せず。
・締め切りは早割、緊急無しでイベント4日前。

事前振込が前提という点、表紙は1日締切が早くなる点、あたりが注意点になるかと思います(技術書典7の時の話です。最新情報は日光企画さんのサイトを確認してください)。

ツールの話(Word)

本文はWordで、表紙はIllustratorで作ることにしました。

Wordを選択したのは、単に自分の手に馴染んでいたからです。書くことに集中する上で、習熟度の高さは私にとって重要でした。また、そこそこ見た目をコントロール出来る、というのも長所です。特有のクセを理解すればWordでも相当な事が出来るのはもっと知られていても良いと思います。

今回はWordデータをOneDrive上に置きながら、常時保存で執筆をしました。クラウド上にデータを置いておくと、いざという時のデータ損失が最小限になるので、精神衛生上良いですよ。

このやり方で日光企画に出す場合、Wordから保存形式をPDFにして保存したPDFを提出する事になります。Wordで作った通りのデータがPDFになるので、見た目に関するリスクは小さいです。Word、Acrobat以外の各種PDFツールは、文字抜けなどのリスク要因になるので、この用途では避けた方が良いかと思います。

ツールの話(Illustrator)

Adobe Illustratorを本格的に使うのは初めてでしたが、同人誌執筆にはすごく強力なツールです。今回は、表紙とダウンロードカードだけですが、Illustratorを使って良かったと思っています。

・トンボなども含めて、印刷に関する多くの要素を理解できる
・サークルカット、Twitter告知用画像を簡単に作れる(ExcelやPowerPoint、ペイントアプリでも作れるが作りやすさとクオリティに差が出る)
・ダウンロードカード、配布用名刺を作る際にも役立つ。

現在は、Adobe Creative Cloudでサブスクリプションサービスとして使う事ができます。コストは若干痛い(20160円/年、3480円/月)ですが、使った方がいろいろ楽になります。

Illustratorの学習も休日2日分程度を割り当てました。今はYouTubeで公式の解説動画があるので、これを有効活用しましょう。

公式だけあって、すごくわかりやすい内容です。この動画一式を見ながら手を動かしていれば、書籍やセミナーなどでトレーニングせずとも、印刷所に持ち込むデータを作れるレベルには到達すると思います。

上記動画シリーズは、以下のサイトからもアクセスできます。

入稿後

日光企画は提出後、結構細かくチェックしてくれました。「このやり方で印刷すると、印刷後●●に見えますよ〜」など、細かく確認をしてくれたので、印刷後の心配をする事なく、当日に臨む事ができました。

電子版

電子版は間違いなく作った方が良いです。なぜなら、執筆データの流用により、簡単に作れるからです(笑)紙媒体に仕掛けを施している、などの特殊な理由がない限り、電子版を作りましょう。こだわりがない限り、形式はPDFでよいと思います。私は技術書典前日にあわてて作成しましたが、何とかなりました。

一番簡単な販売方法は「技術書典」における電子決済「かんたん後払いシステム」です。電子版を登録しておくだけで、電子書籍としての販売が可能になります。このやり方を採用すると、はじめは「書籍+電子版」を販売し、書籍が売り切れたら「電子版」のみで販売する、というアプローチも可能になり、売り切れても販売を続ける事が可能になります。

↑技術書典8では、上記内容から変更される可能性があります。予めご承知おきください。

なお、このやり方は、電子決済「かんたん後払いシステム」を利用するお客さんにしか販売できない点に注意が必要です。現金決済を希望する方への対応のため、電子版専用データカードと頒布用のサイトを準備すると良いでしょう。

データカードによる電子版の販売

電子版のもう一つの販売方法として、配布用サイトに暗号付きzipファイルを配置し、データカード(の裏面)に、ダウンロード用URLとzipファイルのパスワードを記述する、というアプローチを取りました。セキュリティレベルは正直低いですが、頒布規模(多くとも3桁)を考えると、このアプローチで十分ではないかと思っています。

データカードの印刷はキンコーズの名刺印刷を使いました。残念ながらコピー機を使う、というアイデアは思い浮かばず、3時間での特急印刷でお願いする事になりました。

・ダウンロードカード(表カラー、裏白黒) : 100枚
・電子書籍紹介用カード(表カラーのみ片面) : 100枚 ※実際は1枚だけ配布

を印刷して、約14000円でした。時間を確保しておけばもっと安くすませられたなと、反省しています。。。

電子版の販売

せっかく電子版を売る流れを作ったので、BOOTHにPDF版のダウンロードショップも開きました。技術書典終了後にも売り続けられますし、また、当日来場できなかった方にも自著を届けることができます。

ほぼメリットしかないため、面倒くさがらずに技術書典開催と同時に開設すると良いと思います。

告知とSNS

告知については十分できたとは言い難いです。。。ここは次回の課題と思っています。その前提で、今回行ったことを書きます。

告知と問合せ受付用にTwitterアカウントを開設しました。

↑休眠アカウントを流用しているため、2012年8月登録です。

最初に表紙画像をつけてツイートしてみたところ、スマートフォン上での見栄えがイマイチよくない、という事がわかりました。

やぎっち(@yagitch)さんのエントリで告知画像は16:9がよい、とあったので、修正版を作成。

↑これは当日版。前日に電子書籍の対応を進めたので、告知画像を1日の間に何度もアップデートしています。

Twitterではハッシュタグ「#技術書典」「#技術書典7」をつけて呟きました。これだけでも結構拾ってくれる方がいました。

ちなみに、技術書典では公式に「推し祭り」を行うので、そこに合わせて告知をできれば良かったと今更ながら思っております。最後の追い込みで正直それどころではなかったのですが(汗)

公式サイトの情報を更新したのも開催直前、という有様。次回参加の際は、告知もきちんと体制を作って行いたいな、と考えています。

次回予告

ここまで書いて燃え尽きたので、以下はエントリを分けます。予定している内容は以下の通りです。

・売り場設営に向けての準備
・技術書典7当日に行った事
・チェック数と売り上げ
・振り返り

次回エントリもよろしくお願いいたします。



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