レッドブル02

実は正当派マーケティング戦略:レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか?

いつの頃からか、コンビニに当たり前に並んでいるレッドブル。たまに街中でレッドブルの車とともに配っているのを目にしたり、スポーツイベントでも目にすることがあります。

勢いある会社だし何かと話題にはなるけど、実はどういう会社かよくわからないところがあったので、6年前の本だけど読んでみました。

レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか?
ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー (著)、楠木建 (解説)、長谷川圭 (訳)
日経BP社 2013.10

先に言っておくと、この本から企業秘密的や戦略的なことは得られません。というのもレッドブルは派手な印象がある反面、企業としては徹底して自社情報を公開せず取材も受けない姿勢をとっているからです。この本も同様で、ほとんどが公開情報をもとに組み立てられた内容です。

なので正直なところ本文はピンと来なかったけど、最後に書かれている一橋ビジネススクール教授・楠木建先生の解説があまりにも的確で納得感のある内容だったので、その解説をベースにまとめてみます。

実は王道マーケティング

レッドブルというと挑発的・刺激的といったイメージが強いですが、打ち出している施策はマーケティング理論の王道を実践しています。例えば、レッドブルは何を売っているか?という問いに対しては、

飲料ではなく『エキサイティングな体験』を提供している

という内容で、これはマーケティングの世界でよく言われている

顧客が欲しいのはドリルではなく『穴』である

と同じ考え方です。他にも日本では疲れたビジネスパーソンをターゲットにした栄養ドリンクという位置付けに対して、レッドブルはクラブやバーに通う若者にターゲットを絞り人気を爆発させた、という取組みも『顧客の創造こそが企業の究極の目的』というドラッカーの考えによるものです。

ちなみにレッドブルは日本のリポビタンDから着想を得たそうです。知ってましたか?日本にいると思いつきにくい視点ですね。

欲求レベルにリーチする

そんなレッドブルの王道マーケティングですが、他の会社ができていないことの違いは、人の本能的な欲求レベルに設定していることです。

上に書いた『エキサイティングな体験』というのをレッドブルは、クラブやエクストリームスポーツに落とし込んでいます。こららのイベントとレッドブルが組み合わさった体験は、理屈抜きに心と身体を刺激するものです。この体験がレッドブルはカッコイイというイメージにつながり、スタイルとなって話題や人気を集める流れが定着していきます。

デザインストラテジーの文脈で考えてみると、ユーザーが本当に求めているものは何か?という潜在価値をどの深さに設定するかで、提供するユーザーの体験(UX)も全然変わることに気づかされます。もし『楽しい』というレベルだったらコカ・コーラと似通ってしまったかもしれません。

1人のユーザー像を描くペルソナという手法がありますが、ペルソナを設定するときにも、表面的な情報ではなく欲求レベルのところに設定できるかどうかが大事だと思います。この勘所については前回のプロレスでも触れましたが、優等生的な理解では身につけられないもので、デザイナーがビジネスで活躍できる機会だと考えます。

ヨーロッパ的なマーケティングとは

ここまではマーケティング共通的な内容ですが、レッドブルがユニークなもう1つに秘密主義ということがあげられます。

レッドブルの本社はオーストリアです。上場していなくて、アメリカの会社とは違って創業者がヒーロー的にメディアに出ることはありません。本書を読んだ僕の印象も、本人が表に出ることはなく、オープンフレンドリーな感じではなく頑固な面を感じさせるところから、なんとなくヨーロッパの階級社会的な雰囲気を受けました。

うまく言語化できないんですが、これは著者も解説の楠先生も、レッドブルはヨーロッパ的な経営スタイルがある、ということを述べています。

アメリカの合理的で外向きな文化に対して、ヨーロッパはもう少し思想や歴史といったことを重んじるような気がします。前に紹介した『突破するデザイン』もアメリカ的なデザイン思考に対するヨーロッパのカウンター的な考え方と僕は理解していますが、レッドブルはそれをビジネスで体現している会社ではないかと思えてしまいます。

以上、レッドブルのマーケティングをデザインストラテジーの観点から読み解いてみました。海外事例を取り上げたビジネス書はアメリカ寄りになりがちですが、アジアやヨーロッパなど、地域によって考え方やアプローチが異なるのは、多角的な視点を得るうえで学びになります。

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読書感想文

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。