プロスペクト理論01

プロスペクト理論(損失回避の思考):行動経済学とデザイン02

誰しも損はしたくないものです。プロスペクト理論とは端的にいうと「損」が人に影響をおよぼす行動のことです。

プロスペクト理論とは

Prospectは英語で "予想" や "見込み" という意味です。そしてプロスペクト理論は、人は利益と損失に対してどのように期待するかを理論化したもので、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらによる研究です。

プロスペクト理論に関する本はいろいろあるけど、研究の経緯が割と細かく書かれているこの本がわかりやすかったです。

行動経済学入門

行動経済学入門
筒井義郎、佐々木俊一郎、山根承子、グレッグ。マルデワ
東洋経済新報社 2017.04

こんな2つの実験があります。まずは1つめ。

A. 必ず100万円がもらえる
B. コインの表が出たら200万円がもらえる

この実験では、多くの人はAを選びました。計算(期待値)で考えれば同じなのに、人は50%でもらえないリスクの方を高く見積もります。では次にもう1つの実験を見てみると、

A. -200万円の状態から、かならず-100万円になる
B. -200万円の状態で、コインの表が出たら0円になる

この場合は逆にBを選ぶ人が多いようです。Bは50%の確率で状況が変わらない可能性があるにもかかわらず、ギャンブル性のある方を選びます。

この2つの実験での共通点は、人は損失をより回避したいという傾向がみられます。1つ目の実験ではもらえない可能性を減らしたく、2つ目の実験では借金の状態を早く返したいという意識がはたらいています。

なぜ合理的に行動しないのか?

実体験としてはとてもよくわかります。僕もよく、違約金が発生する可能性があるよりは割高でも安心なサービスを選ぶし、ちょっとした賭けごとで負けているとつい熱くなってしまいます。

このメカニズムがはたらくのは、食料がなくなる状況を回避するための生存本能から来ているということです。

ただ現代ではどちらかというと、悪い側面が多く見られるように思います。たとえば射幸心をあおるギャンブル要素のゲームだったり、不安をあおって商材を買わせるセミナーだったり。

プロスペクト理論01

どうすればプロスペクト理論をいい方向に用いられるか、デザイナーが関与できることから考えてみたいと思います。

1. 安心させる

個人的にあまり良いと思わないのが、ネット予約で「いま何人が閲覧しています」や「残り◯席です、急いでください」といった情報提示。

プロスペクト理論に当てはめるとこの状況は、

リスクを回避したい = 予約が取れなくなる損な状況を回避したい

となるので、損失回避でつい予約してしまう人は多くなると思います。

でもこのようなサイトはそれ自体がリスクを意識させるので、他に同じ条件で安心して予約できるサイトがあるなら、理論的にはそっちの方に流れるのでは?と考えます。

なので、そういったサイトは「大丈夫ですよ」とか「ほかにこんな選択肢がありますよ」といった情報に変えて、ユーザーに安心感を与えたほうが、長期的にはサービスのブランド価値を高められると考えます。

※ あるサイトの「あと◯です」の表示が、ただランダムに数を出していたことが発覚していました。ブランドイメージの毀損は大きいと思います。

2. フィードバックしよう

購入してくれたことに対して「ありがとう」の気持ちを伝えることで、決断した気持ちの正当性や納得性がもてると考えます。

購入したあと「もっと他にいいものがなかったのか?(損しているかも)」と思って不安な気持ちになることがあります。そこでユーザーの気持ちをそのままにしていると、損失回避のために次は別の選択肢を探そうとして、定着につながりません。

ジャーニーマップなどでユーザーの行動を考えるとき、購入した直後は必ずしもうれしい気持ちだけでなく、不安な気持ちも入り混じっています。その不安を払拭するのがフィードバックです。

noteも投稿したりスキを送ると、それに対して「いいね」とか「すごい」とかのフィードバックがもらえます。それがあるから僕も続けられています。なので「スキ」をたくさんもらえるとはげみになります。(あざとい)


3. あえて追い込むとリスクが取れる

3つめはデザイナーとして商品開発や事業戦略に関わるときの考え方です。

周囲が守りの経営をしている中でも、あえてリスクをとって踏み込んで成功する会社があります。両者を、冒頭の実験に当てはめてみると

・0円:失敗すると-100万円の損失=動かない方がいい
・-200万円:何が何でも0円にする=成長する(可能性がある)

成功する経営者は、あえて窮地に追い込むことで果敢にリスクを取りにいっているように思えます。逆にいうと、常に0円の状態で考えているとリスクを取らなくなるので、結果的に変化に対応できなくなります。

これは事業戦略からデザイン提案まで、あてはめられる考え方です。多数に受け入れられる案はリスクを取らない無難なものになりがちだけど、もしそのプロジェクトが変化を求められているならば、あえてリスクをとる提案とそのための危機意識の醸成が必要だと考えます。

プロスペクト理論02

まとめ

以上、不安と安心を使いこなすことで、サービスの質や価値を高められるデザインができるのではないかと考察してみました。

リスクを煽るのは短期的に売り上げ増につながるかもしれません。でも長期的にみるとブランドイメージの向上にはならないので、安心やつながりを感じさせるデザインに取り組むことが大事だと考えます。

ちなみに、プロスペクト理論の行動はギャンブルや勝負事に多く見られるので、その世界の一流の人である、プロ棋士、プロ雀士、プロゲーマー、プロスポーツ選手の考え方の本を読むと、リスクと勝負に対する心構えを学ぶことができます。

最後に参考にした書籍などを記載しておきます。

・予想通りに不合理(ダン・アリエリー)
・行動経済学入門(筒井義郎ほか)
・行動経済学〜経済は感情で動いている(友野典男)
・エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守 (石川 智健)



デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。