2011年の棚橋と中邑03

マーケティングとブランディングがプロレスしている-選手編:2011年の棚橋弘至と中邑真輔

前回は新日本プロレスの復活の取組みを紹介しましたが、今回はそれを舞台で支えていた、2000年以降の選手に焦点を当てます。

その中でも絶対に外せないタイプとして対照的なこの2人が1冊にまとまっているこの本は、これまでの選手との違いを象徴しています。

2011年の棚橋弘至と中邑真輔
柳澤健
文藝文春 2017.11

この2人知っていますか?特に棚橋選手はテレビなどにもよく出ているので、観たことあるが人は多いかと思います。(ちなみに僕は顔ぐらいしか知りませんでした...ファンの皆様ごめんなさい)そして、今のプロレスを知ってしまった僕は中邑(なかむら)選手のファンになりつつあります。

この2人の取組みは、考え方やアプローチは違えど、結果としてファンを呼び込みプロレスが面白くなっている空気をつくっています。

棚橋弘至

プロレス選手にしてはさわやかな風貌のイケメン。見た目だけでなくリングの上やパフォーマンスも実にさわやか。昭和のこわいおじさんレスラーの雰囲気とは真逆です。

本人のもともとのキャラクターもあれば、意識的にそうしている面もあるようです。それまでのプロレスは特に女性にとっては、野蛮で怖い・血が出て痛そう、といった負のイメージしかありませんでした。こういったプロレスの古いイメージを一新させるために、クリーンでさわやかなパフォーマンスを行いますが、昔からのファンから批判を受け続けます。しかし信念を持って続けることでそれがファンに届き、今では生きるレジェンドとして絶大な人気を誇っています。

棚橋選手には『プロレスはファンのためにあるもの』という考えが根底にあります。なので、ただ強さを魅せるのではなく、相手の良さを引き出すために受けを意識して、ハラハラドキドキの試合を展開で最後にはハッピーな気持ちになってもらう、そのためのプロレスをしています。この考えは総合格闘技全盛の2000年くらいにはまったくなかった視点です。

わかりやすくいうと、めちゃめちゃいい人。子どもやプロレスに興味なかった女性など、今まで入りにくかったプロレス界のイメージを180度転換させた選手です。本人は自分で「100年に1度の逸材」と自己紹介していますが、本当にそのくらいすごいことをやった人です。

中邑真輔

あやしい風貌、ヘビのような不気味な動きと表情。あるファンいわく「はじめはちょっと気持ち悪いと思ったけど、だんだん中毒になってく(笑)」そんな存在です。現に僕もメチャメチャはまってます。クセになるんです。

中邑選手は2016年に北米に移籍してしまいますが、海外での人気もすごいんです。アメリカ人レスラーに対して、クネクネ動きながら不気味に笑うしぐさ、アジア人のなんともいえないミステリアスな魅力が満載、松田優作に匹敵するような存在感を放っています。パフォーマンスだけでなく試合の技も超かっこいいです。大柄なのに長い足が伸びる技はマイケルジャクソンがプロレスをしているかのよう。

そんな中邑選手ですが、実はすごく真面目な人柄のようで、苦労に苦労を重ねてます。時代に翻弄され、若くして持ち上げられたため活躍したものの人気がついてこなかったり、総合格闘技に割り当てられたり、棚橋弘至という存在の中で存在感を発揮できない時期もありましたが、常に悩み自分の可能性を探し、長い時間をかけて今のスタイルに至ります。

中邑選手はよくコメントの中で『芸術』という言葉を使います。プロレスを通じて何を表現できるか、創作活動は自分の生き様が現れる、といった考えをから「プロレスはお客を魅了させる場」と捉えることでファンが集まります。個人的にはグレート・ムタを超える存在感を感じさせます。

対極的な2人のアプローチ

僕は2人のファンアプローチをこのように捉えています。

棚橋弘至:外→内の視点 = マーケティング・センス
中邑真輔:内→外の視点 = ブランディング・センス

棚橋選手は常にファンが試合をどう観てどう感じているか、ということからプロレスのことを考えて地道に取り組んできました。対して中邑選手はどうやったら自分の魅力が最大限が表れてファンに伝わるか、という探索を繰り返していました。アプローチは違えど、どちらも結果としてファンの心を強くつかんでいるのが本当に素晴らしいです。

ここからは勝手な深読みですが、思うにどちらか1つだけだと何か足りなさがあって、色の違う2つが混ざり合っているからこそ、何ともいえない魅力が生まれて新日本プロレスが再び盛り上がったのではないかと考えたりします。タイプが逆だからこそお互い欠かせない存在。

もとよりプロレスは二項対立のテーマがあります。日本vs海外、正義vsヒール、内部vs外部団体、チャンピオンvs若き挑戦者、などなど。この関係は白黒ではなく、例えばヒールだけど何か応援したくなる、とか、チャンピオンが負けるのをどこかで観たい自分がいる、とか複雑な心境が同居してます。

ここに心がざわざわするものが生まれます。それがクセになる体験になって多くのファンを虜にする、というすごい高度な難しいことをプロレスはやっているわけです。勉強になりまくりです。

飯伏幸太とオカダ・カズチカ

わかりやすく構成するために2人に絞りましたが、でもやっぱりあとこの2人を紹介せずにはいられないので、書かせてください。前に紹介した本にもこの2人のことは掲載されています。

飯伏幸太を語る上で欠かせないのは路上プロレス。路上プロレスとは本屋や遊園地などリング以外のところでいきなりプロレスを始めるパフォーマンスです。これも、少しでも多くの人にプロレスに興味を持ってもらいたいという思いからはじめたものということです。棚橋選手と似た雰囲気でさわかやなので、はじめて偶然見たプロレスが路上プロレスが、明るくポップに感じられることから興味を持ってもらうことに一役買った選手です。

オカダ・カズチカは新日本の若きエースです。レインメーカー(金の雨を降らせる男)として突如、海外から戻ってはじめての大きい試合で勝利を収め話題をつくりました。金のコスチュームをあしらい、若い選手らしくこれまでの日本プロレスのしがらみをまったく無視して、謎の大物感(名前がカタカナなのもいい)を漂わせており、完璧なセルフブランディングができています。2000年ごろに総合格闘技に目がいった選手とは違い、芯がぶれていないのでオカダの世界観に酔いしれることができます。

2019年のG1クライマックスは、飯伏がオカダを破り優勝しました。棚橋と中邑にはない新しいヒーローが生まれています。

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以上、選手にフォーカスしてまとめてみました。

プロレスにはまった想いを書けただけで個人的には満足だけれど、このブログのテーマであるデザインストラテジーとしてプロレスから学べることは何か、がまだ整理できていないので、もう1回だけ同じプロレスをテーマに、考察編を次回書いてみたいと思いました。

あと、できれば実際に観戦にいって気づけたことを書けたらな、とも思ってます。誰か一緒に観たい人いましたら、行きましょう。


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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。