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なぜ、Kaizen PlatformはGoodpatch, Takramと共にビジョンを作り上げたのか

「未来の働き方は既に変わりはじめている。その流れに乗って、Kaizenは"今日は異端でも明日の常識"になるような新たな働く場所をつくっていく」

2018年7月、Kaizen Platformはビジョンをアップデートした。

このビジョン作りには、2社のデザインファームが携わった。UI/UXデザインカンパニー『Goodpatch』とデザイン・イノベーション・ファーム『Takram』だ。

Kaizen Platformはなぜ、自社のビジョン作りをデザインファームへ依頼したのか。この依頼を受け、3社はどのようなプロセスを経て、アウトプットを作り上げていったのか。

今回、本プロジェクトに携わったKaizen Platform CEO須藤憲司氏、Goodpatch CEO土屋尚史氏、Design Div.マネージャー大山翼氏、PM/UXデザイナー岩田悠氏、そしてTakramコンテクストデザイナー渡邉康太郎氏の5名に、舞台裏を伺った。

自分たちでビジョンを形にするのは限界だった

2018年春、須藤氏は中期経営計画を定める中、ある課題を抱えていた。

どのような数字を目指し、プロダクトや事業を作り上げていくかといった積み上げる議論は難なくまとまった。

一方、「事業を通しどのような世界をつくるか」といった、射程の長い議論が難航。半年ほど掛け目的や戦略の言語化を行うも、そのプロセスを経てまとめ上げたドキュメントからは、未来が見えずにいた。

Kaizen Platform CEO須藤憲司氏 

須藤「正直、強い危機感を持っていました。時間を掛けてビジョンを言語化したものの、仕上がったドキュメントを見ても、議論もイメージも生まれない。我々だけでビジョンを形にするのは限界だと感じたんです」

ビジョンを形にする力を外に求めた須藤氏が思い出したのが、2018年2月に登壇した『ICCサミット』のセッションだった。共に登壇したGoodpatch土屋氏は、抽象的なテーマを具体化するプロセスについて言及していた。同社であれば、抽象的なビジョンを具体化し、議論を生むものにできるのではないかと考えた。

しかし、須藤氏から相談を受けた土屋氏は、当初この話を受けるべきかを悩んだという。

Goodpatch CEO土屋尚史氏

土屋「『ビジョンを整理し、そのビジョンからどういったプロダクトが生まれるかUIをつくってほしい』須藤さんから依頼された内容はそういったものだったと思います。ただ社内でまとめたドキュメントは膨大で、整理し落とし込むには時間がかかる可能性が高かった。しかし、社員総会で発表したいので制作期間は1ヶ月ほど。難易度の高いプロジェクトゆえに、ハードルが高いかもしれないというのが第一印象でした」

そこで土屋氏が考えたのは、ビジョン作りに手慣れたパートナーを引き入れることだった。

白羽の矢がたったのは、同じセッションに登壇したTakramだ。同社は、日本経済新聞社のブランディングをはじめ、ビジョン策定に数多くの経験を持つ。彼らとであれば、形にできるのではないかと考えた。

その旨を須藤氏に伝えた後、土屋氏はTakramへ連絡。3社で肩を並べ、改めて内容を議論した。

Takram渡邉氏は、最初の印象を以下のように振り返る。

Takram コンテクストデザイナー渡邉康太郎氏

渡邉「何よりも、面白そうだと思いましたね。須藤さんが『そもそも“会社とは何か”からリサーチした』というお話をされていたのが印象的でした。単に今後自社がどうなるといった話ではなく、いまの雇用契約がどう変わるべきか、その先にどのような社会があるか、日本の働き方をどう変えなければいけないかを考えていた。これは、きっと面白いプロジェクトになる、と思いました」

加えて、渡邉氏を後押ししたのはUIを作るというスコープがあったことだった。単にビジョンやフィロソフィーだけを決める場合、抽象的な議論が中心となる。UIがあることで、そこに実体を伴わせられると考えた。

渡邉「たしかにビジョンだけではハードルが高いかもしれません。ですが、GoodpatchがUIをつくりTakramがビジョンを言語化する、という同時進行なら、『ものづくりとものがたり』を並走させられる。これなら議論を発散させずに形にできると思いました」

1ヶ月の期間の中、3時間のワークショップを2回と、1.5時間の最終確認。これが、今回のプロジェクトで全員が顔を揃えられる時間だった。

少ない時間で形作るため、渡邉氏はワークショップの枠組みを丁寧に構築した。各回で宿題を設け、議論の土台を用意したワークショップを設計。それぞれが主体的に議論に参加できる場作りを行っていった。

物を足がかりに、未来の働き方へ

ワークショップ1日目は、2つの宿題が用意された。

1つは、アイスブレイクのために「10年後にすっかり変わってしまっているであろう物」と「10年後も全然変わっていないであろう物」を持ってくること。もう1つは、KAIZENの目指す世界観とプロダクトの「抽象アイデア」「具体アイデア」を言葉とスケッチで各3案持ち寄ることだ。。

まとめ上げるのは企業のビジョンだ。ただ、須藤氏はその前提にある未来の社会を知り、その上でKAIZENがどうあるべきかを考えていた。そのため、議論の入り口をビジョンにするのではなく、社会がどのように変化するかを考え、その中でKAIZENのあり方を議論する、という順序で進めた。

まずはアイスブレイクの「10年後に変わっているであろう物」と「10年後に変わっていないであろう物」が話された。各々、万能薬に変わっているであろう"栄養ドリンク”、100年前から変化していない"コーラ”、利便性は特に変化していない"洋服"など、様々な観点で、多様なアイテムを持ち寄った。

渡邉「“物”を持ってきてもらったのは、議論の足がかりを用意したかったからです。突然10年後の世界を考えろと言われると、ハードルが高い。しかし、具体的な物があれば、それを足がかりに言語化・自分事できるんです」

物で議論のエンジンをかけ、続けて、本題となる理想とする働き方やビジョンを表すアイデアに話を移す。集まった多様なアイデアを並べ、その上で、KAIZENの二人がアイデアやビジョンに対して語る。

その中で出たキーワードを渡邉氏は次々と付箋に書き、近い内容が含まれるアイデアへと貼る。このプロセスでビジョンに近いアイデアが可視化される。そこで、フォーカスが当たったアイデアに対し、さらに議論を重ねていった。

須藤「宿題を通しできないなりに絵を描くと、情報量は落ちる一方、本当に大切なものがブレイクダウンされます。その上でワークショップに参加すると、多様なアイデアや未来像が『こういうつながりがあるのか』といった発見ができる。1日目が終わった時点で、自分の考えや描いていた未来の解像度が格段に上がっている実感を強く持ちました」

理想とする働き方に関するトピックの中では、1つの組織に属するのではなく、様々なプロジェクトに属する方が一般的になるのではないかという議論が広がった。

Goodpatch Design Div.マネージャー大山翼氏

大山「『部活以上、会社未満』『緩やかな同盟』『ギルド』など、プロジェクトに基づいた働き方に関するキーワードがいくつも生まれました。このあたりから、徐々にプロジェクトベースの働き方に議論が絞られていきましたね」

このプロセスを経て、1日目、最も注目が集まったのは「ウォールーム」というキーワードだ。

渡邉「ウォールームはデザインプロジェクトで利用する作業部屋のことです。目的やスケジュール、インタビュー結果やリサーチ情報、試作品等をすべて壁に貼りだし、作業や打ち合わせもそこで行い、プロジェクトに集中する場として利用します。リモートワークや副業等で時間や場所の制約なく働くことになると、ウォールームもデジタル化するのではといった話から、ウォールームに軸を置こうという話になったんです」

仕事のやり方も、選び方も、関わり方も多様化する。その中でKAIZENは何をすべきか。ウォールームを軸に、この問いは2日目のワークショップへ引き継がれた。

“人”の議論から『ギルド』へ

2日目までの間、ウォールームの理解を深めるため、須藤氏はGoodpatchが開発するプロトタイピングツール『Prott』のチームが使うウォールームを見学。GoodpatchとTakramは、ウォールームをテーマにそれぞれUIとプレゼンテーション資料を作成した。

しかし、議論の中心は、ウォールームから変化していく。1日目は、ウォールームという“場”に焦点を当てていたが、議論が深まるにつれ、働く仕組みや働き方自体が重要ではないかと考えた。

須藤「最初は場所を軸に考えていたのですが、その場所で働く“人”について考え始めると、ひとつの組織に属する働き方から、いきなり個にはならないと思ったんです。その中間となるグループのような関係性が必要ではないか。それが1日目にも出た、プロジェクトごとに繋がる『ギルド』でした」

1日目の議論では、主軸はウォールームにあり、その背景にある働き方のひとつとしてギルドが据えられていた。2日目では、ギルド的働き方に主軸を置き、実現するために何が必要かを考えるようになっていった。

Goodpatch PM/UXデザイナー岩田悠氏

岩田「ウォールームという手段ではなく、その一歩手前を支えるものが必要ではないか。複数のコミュニティに所属しているのが当たり前の時代を作るために、KAIZENがやるべきことへ議論は変化していきました」

新しい働き方や仕事は社会から理解を得るには時間がかかる。そこで必要になるのは、後押しするプラットフォームだ。プロゲーマーやYouTuberといった新しい仕事も、ゲームの大会やYouTubeといったプラットフォームによって生まれた。KAIZENは“新しい働き方”を支援するプラットフォームになるべきではないかと議論は広がっていった。

須藤「働くことの場所の流動性がとてつもなく高くなる。そのとき、個人ではできないような仕事でも、チームのような受け皿が必要になるでしょう。丁度、今回土屋さんがTakramに声を掛けたように、同じような構造が個人レベルで起きるよう手助けすることがKAIZENのやるべきことではないかと整理されていきました」

この議論を元に、コンセプトシートやプレゼン資料等をTakramが制作。ギルドを作るサービスのUIをGoodpatchが制作という形で2日目の議論を終えた。

社員総会の場に3社が揃い、そのプロセスを伝える

2日間の議論を経て整理されたUIと資料は、3日目のチェックを経て完成した。

ただ、ビジョンは社員間に議論を生み変化を起こすものでなければならない。完成後の影響が肝だ。ゆえに、須藤氏は発表方法にもこだわった。

須藤「僕は今回、プロセスの中からも数多くのことを学びました。プロセスにも質が宿っている。だからこそ、ビジョンと共にその経緯も伝えなければと考えました」

プロセスを伝えるため、須藤氏は土屋氏へ依頼する経緯から、制作プロセスをまとめたショートドラマを制作。その映像を冒頭で流した上で、Goodpatch、Takramを社員総会の場へ招待し振り返る時間を設けた。

須藤「僕が伝えられるのは、ごく僅かです。ですが、様々な人が話すことによって入り込み方が変わるし、話に立体感や具体性が生まれる。いくら良いアウトプットができても、浸透しなければ意味がない。できることは全部やろうと考えていました」

様々なビジョン作りのプロジェクトに携わってきた渡邉氏も、この姿勢には驚いたという。

渡邉「確かに、プロセスの追体験は重要です。でも本来は社外秘のイベントに外部の人を呼び、皆にプロセスを開示するという場作りは珍しい! その一点を取っても、Kaizenの働き方、カルチャーはとても面白いと思いましたね」

これがどのような影響を与えたのか。成果は、社員の行動に現れた。

須藤「実際、ギルド的な働き方を試すメンバーがいたり、『パートナーシップを試してみよう』と、動画広告を改善するチームが動画クリエイターに仲間を紹介してもらう制度を作ったり、といった動きが出始めているんです。しかも、動画クリエイターの紹介制度は精度も高く、これまでの探し方よりもパフォーマンスが高いという成果にもつながりました」

社員の行動は、ビジョンや資料などから、ギルドといった機能をそのまま持ってくるだけでない。その中から、要素を抽出し、今の業務に落とし込む。見える範囲から、小さなトライアンドエラーが生まれはじめていた。

須藤「未来はいきなり作れないんですよね。今の中にある“未来の裂け目”のようなところを見つけ、そこから未来を入れ込んでいくことが必要になる。それが、発表からの2ヶ月ほどで形になってきているのは、期待を上回る成果でしたね」

求めていたものは、没入して考えるプロセスや共に考えてくれる仲間かも知れない

わずか2ヶ月で、成果が見え始めてきた今回のプロジェクト。

須藤氏は「今思うと、我々は当初解決したかった課題が見えていなかった」とを振り返る。これに対し土屋氏は、見えていなかったからこそ、大きな枠組みで相談したことが功を奏したと語る。

土屋「ビジョン作りを他社に依頼すること自体、とても勇気がいることです。普通であれば、ビジョンは自分たちで固めUIだけ発注するでしょう。それをあえて外に出し、課題をあぶり出すところからはじめた。今思えば、課題設定が素晴らしかったと思います」

また、座組について渡邉氏も言葉を重ねた。今回のプロジェクトは3社が受発注的な関係性ではなく、フラットに一つの目的を追求した。このプロセス自体が、“ギルド”的な取り組みだったことも興味深い。

渡邉「一般的には、複数社が参加するとコミュニケーションコストがかかったりいびつなパワーバランスが生まれたりします。一方、今回は皆が主体的になり、良いバランスでプロジェクトが進んだ。言うなればギルド的な関係性をうまく実践できましたね」

今回皆がフラットにプロジェクトに向き合い、アウトプットにある「ギルド的な働き方」を体現した。各々がその価値を体験していたからこそ、アウトプットにも迷いがなく、強度のある形にまとまったのかもしれない。

取材を通しプロセスを振り返った須藤氏は、改めて“このプロジェクト自体”が学びだったと語り、場を締めた。

須藤「このプロセスがなければ、同じアウトプットでも今の結果には繋がらなかったでしょう。もしかすると、僕が本当に求めていたものは、没入して考えるプロセスや共に考えてくれる仲間だったのかも知れませんね」

Text: Kazuyuki Koyama(@kkzyk
Photographs: Shunsuke Imai(@_shunsukeimai

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