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ヤフーのデザイン組織を変えていく。大規模組織が直面する「デザインの壁」

第一線で活躍するデザイナーやデザインマネージャーの苦悩や、乗り越えてきた壁を取り上げていくdesigner's Story by Cocoda 。

今回の記事では、インハウスのデザイナーを約400名抱えるヤフー株式会社で横断型全社デザイン組織に所属するデザイナーの森本さん、宮本さんと事業部側に所属するデザイナーの今河さんをお迎えし、2020年4月に立ち上がった横断型デザイン組織についてお話をお伺いしました。

Yahoo_プロフィール

◆森本 恭平さんのプロフィール
ヤフー株式会社 CTO 室デザイナー
Webサービス会社にて制作業務を経て、2014年ヤフー株式会社に入社。現在はヤフー知恵袋のWebフロントエンド開発リーダーを主に、全社のWebフロントエンド技術の取りまとめやデザインシステム構築などに携わっている。
◆三宮 肇さんのプロフィール
ヤフー株式会社 CTO 室デザイナー
2008年にヤフー株式会社にデザイナーとして新卒入社。さまざまなサービスのフロントエンド開発業務を経験、2012年からYahoo! JAPANトップページ担当となり、現在は全社におけるWebフロント技術の推進や全社横断デザインシステムの構築などに携わっている。
◆今河 峻さんのプロフィール
ヤフー株式会社 システム統括本部サービスプラットフォーム本部デザイナー
Webサービス会社にて制作業務を経て、2018年ヤフー株式会社に入社。現在はシステム統括本部のデザイナーとして、社内システムの情報設計やフロントエンド開発を主に、デザインシステム開発運用のプロジェクトオーナーを担う。

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◆目次
1.なぜヤフーで、横断型のデザイン組織が立ち上がったのか?
2.グループ企業全体を巻き込む、デザイン組織のステップとは?
3.大規模なデザインシステムをどのように構築していくのか?
4.ヤフーの横断型組織はどのように構成されているのか?
5.ヤフーのデザイン組織の構想と目指す方向性

なぜヤフーで、横断型のデザイン組織が立ち上がったのか?

ーー今回、4月1日にヤフー全社規模の取り組みとして、横断型のデザイン組織が立ち上がったとお聞きしました。デザイン組織の立ち上げの経緯を教えていただきたいです。

森本:弊社のデザイナーはさまざまなグループ会社などを含めて400人おり、これまでずっと垂直型の組織だけで管理をしていたのですが、全社共通の課題が発生してきたことが背景となっています。
具体的には以下のような課題感があります。

・どのデザインツールを使うのかが、統一されていない
・色々なアナウンスをする際に、デザイナーになかなか伝わらない
・事業部ごとの別々のデザインシステムが走っていて、統一感が出ない

垂直型の組織では解決が難しい課題が出てきていました。そこから、ボトムアップな形で「デザインの横断組織」を立ち上げることになりました。


ーーグループ会社も含めたデザイン組織づくりに取り組まれているのですね。横断組織型組織で、どのような課題を解決しようと考えられているのでしょうか。

森本:デザイン横断型組織で一番解決すべきものは、コミュニケーションの課題だと思っています。表面的なところではなく、かなり下地の部分ですね。

また、コミュニケーションの課題は、⑴情報集約の壁 ⑵認知・信頼の壁 ⑶浸透の壁といった3つのポイントに整理できるのかなと思います。


(1) 情報集約の壁

まず、情報収集の壁だと、組織をまたいだデザイナー同士の繋がりが少なく、全員個々で頑張ってしまっているところが少しあるかなと思っています。

これがエンジニアだと、CTOを中心にいろいろな情報が集約されて、ある程度大きなプロジェクトとかをボンッと動かすことができるんです。

しかし、現状ではエンジニア組織と同様なやり方ができない部分もあるので、そこが課題かと思います。

(2) 認知・信頼の壁

次に、デザイン組織について認知・信頼してもらう壁についてです。この壁を解決することが、横断型組織の成功の鍵になると考えています。

打ち手としては、「適切な課題を抽出し、解決するアクションが社内で可視化されること」、「情報をなるべく発信して、オープンにしていくこと」を意識しています。
横断組織って各部署から見ると「結局何をやっているのかわからない」ということがありがちだと思うんです。だから常に発信をして、何をしているかデザイナー全体で共有しながら進めていますね。
そうすることで、社内のメンバーやデザイナーから信頼を置いてもらうことができ、「あの組織があるから安心だ。」と言ってもらえるのかなと。


(3) 浸透の壁

最後に浸透の壁ですが、壁を乗り越えるためには「使ってもらう側へのサポート」は欠かせません。また、それを用意するだけではなくデザインするような形で「運用しながら一緒にシステムを作っていくこと」が重要です。


今河:自分の部署で担当している社内向けデザインシステムを立ち上げた際、開発をクローズドに進めてしまったことで、周囲とのコミュニケーションが疎かになり、思うように普及が進まなかったことがありました。

普及しづらい問題を解決するために、使ってもらう側に対するサポートをし続けていくことで浸透したことがあるため、文脈の共有やサポートはすごく大事だと思いますね。

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グループ企業全体を巻き込む、デザイン組織のステップとは?

ーーこのような課題に対して、どのようなステップで解決していくのでしょうか。

森本:大きく分けて3つのステップがあると考えています。

⑴ 会社の中にある事業の分類・共通する点の整理
⑵ 行動原則の作成
⑶ グループ会社も含めたデザイナー同士のコミュニケーション設計


⑴ 会社の中にある事業の分類・共通する点の整理

まず最初にやるべきは、会社の中にある事業の分類や、共通する点の整理だと捉えています。

ヤフーは、メディアとコマースというヤフーの中でも毛色の違うサービスがあり、その中でもサービスごとにいくつかのパターンがあります。そのほかにも、一休やZOZOのような少し雰囲気の異なるグループ会社。PayPayのようなグループ会社の中でも社内での立ち上げメンバーがいて、オフィスも一緒の人達というパターンもありますね。

このようなパターンがいくつも重なると、いくつかのパターンに分類された上で、さらにその中にデザインシステムがある...という状態になってしまいます。

まずパターンの整理と、「それぞれのチームとどう進めていくべきかの交渉をどう進めるか」、「どこを共通すべきか」ということを考える必要があります。


⑵行動原則の作成

整理がついた後は、コミュニケーションの課題を解決していくために行動原則から作ろうかなと思っています。

現状、ヤフーの中でさえ10個以上のデザインシステムが乱立している状況です。まず、ヤフーの中でちゃんとデザインシステムを統一し、そこからさらにグループ会社をどうしていくかを考えていくということになるのかなと。


⑶グループ会社も含めたデザイナー同士のコミュニケーション設計

最終的には、グループ会社も含めて、デザイナー同士でコミュニケーションをどう取るかというところにフォーカスしたいですね。

例えば「オフィスが一緒だけど会社が違うという人たち」や、「前期まで同じ部署だったけど、来期からは同じフロアなのに会社が違うみたいな人たち」が出てきてしまうため、行動原則なども切り分けづらいんですよね。

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大規模なデザインシステムをどのように構築していくのか?

ーー「ヤフーの中でもデザインシステムが10個以上乱立している」とありましたが、詳しく教えていただけますか?

森本:そうですね。デザインシステムの話で言うと、今まで垂直統合型の組織だったこともあり、サービスごとにデザインシステムを作らなければいけない発想になっていましたね。

このような状況は非効率なので、全社のデザインシステムをデザイン組織で、きちんと取り組んでいけたらなと。

ーー全社で使えるデザインシステムをつくっていくんですね。

森本:はい。これからヤフーのユーザーに向けたデザインシステムをつくっていく予定です。

ただ、作る上でも各サービスの毛色が違うのでそれを反映させないといけません。例えば、配色の話でいうと、赤色を使うときの基準1つとっても、メディア領域では「命の赤」、コマース領域では「セールの赤」というようにサービスごとに色を使う基準が違うんです。

全社のデザイン原則というものを作ったとしても、デザイン原則が原則として当てはまるサービスと、当てはまらないサービスが生まれてしまい得るんですよね。

だから、具体的な形はまだ模索中なのですが、メディアはこう思うとかコマースはこう思うといったサービスごとの話ではなく、サービスを統合したもう少し高い位置の行動指針のようなデザイン原則が必要なのではないかと考えています。

ーーだから行動原則の作成に取り組むんですね。

森本:はい。組織作りまで考えて、デザイナーのマインドを統一するための行動指針や原則部分をデザインシステムに組み込み、コミュニケーションも設計しなければいけないと思ってます。

ーー本当に、10個以上のデザインシステムをすべて統合できるのでしょうか。

森本:現状ヤフーの中にある複数のデザインシステムを残していくという選択もありえると思っています。ただ、その中でも共通項になる部分もあるはずなのかなと。

共通の部分を抜き出し、「全社でどのように運用していくのか」といった考え方はもちろん、その考え方を元につくられた「横断型のデザインシステム」と「各デザインシステムとのコミュニケーション」は必ず必要だと思っています。

ただこの会社の規模で、これだけのサービス群を持っていると、何がデザイナーにとって指針となるのか、何が共通項になるのかを決めることはすごくむずかしいですね。

横断型組織はどのように構成されているのか?

ーーデザインシステムの課題を乗り越えていくため、横断型組織はどのようなメンバーで構成されているのでしょうか。

三宮:現状は複数の事業部にまたがるデザインシステムを浸透させるため、横断デザインシステムチームのメンバーは、サービスの業務をメインでやりつつ横断チームを兼任するような人員配置になっています。

サービス内のキーマンのようなデザイナーだと話が早くていいと思うので。

一方で、サービスのデザイン業務の空いた時間で進行することに留まってしまっており、なかなかドライブできないところは解決したい点のひとつです。

このような人員配置になった背景としては、ヤフーでは各サービスが独立してデザインシステムを作っていたため、社内でもう少し効率化できるのではないかといった課題感を持つデザイナーが多くいました。そのようなデザイナーが集まり、今のデザインシステムのチームは構成されています。

メンバーは各サービスより課題感を持った担当デザイナーが集まってやっていることもあり、まだ実現には至っていないのですが、「全社横断のデザインシステムはどのようにすればできるのか」ということに強く課題意識を持ったデザイナーたちばかりです。

ーー直面している横断型組織における課題感はありますか?

三宮:あくまでサービスへのデザイナーの業務の空いた時間でやるというのに留まってしまっていて、なかなかドライブできないところは解決すべき点ですね。兼任として配置をすると主務であるサービス側にどうしても主力を置いてしまい、デザインシステムチームの運営に当たっては安定するまでなかなか注力がしづらいので。

ーー現場では「横断型デザイン組織」はどのように捉えられているのでしょうか。

森本:配置について補足すると、今期に三宮がデザインシステムの主務になったのですが、彼はヤフーの中でも最も多くのユーザーの目に触れる責任を負う「Yahoo! JAPANのトップページチーム」に所属していたんです。

そのトップクラスの社員が、デザインシステム部門側で主務になったことで「この人がついにここに移動したんだ」という風に見えるので、現場の人間からは、期待感が生まれているな、と。

ヤフーのデザイン組織の構想と目指す方向性

ーー全体的にとても規模感の大きな話なのだと理解しました。何年スパンの構想で、どのような戦略を取って浸透させていこうとしているのでしょうか?

森本:「10年先の、理想の組織はこういう感じになっているかな」「デザインシステムはこうなっていくかな」みたいな想像を少しずつ具体化していっています。

そういう意味で、この取り組みは総合的にすごく難しいと思うんですよね。他の会社よりも規模とか色んなものが違いすぎて、難しくて。まあ、そこが逆に面白いところなのかなとも思います。

ーーこれまで前例があまりない取り組みになるかと思います。この組織の取り組みを通して、どのような未来が生まれるイメージをしていますか?

今河:現場のイメージでいうと、元々ヤフーは社風として社員同士の情報共有がすごくされている印象があります。デザイナーもきっとそういう意欲・意識はすごく強いんだろうなと思っているんですね。デザイナー同士で情報交換やナレッジが盛んに行われるという未来を想像しています。

森本:デザインシステムのようなものを作る目標として、ウェブ上でよく見られる滑らかさのようなものを実現したいと思っています。

カメラとか、車とかでも、見ただけで「あ、この会社のカメラだな。」とか、グリップを握った時に「このカメラはここのだな。Canonのだな、Nikonのだな。」とか感じられたり、車を見ると車種は違っても「あれはどこどこの車だな。」というそんな共通項を感じられると思うんです。それと同じような滑らかさを感じる現象を、ヤフーの中でデザインシステムを通じて実現したいと思っています。

そういった滑らかさの実現に興味があるデザイナーの方にはぜひヤフーにお越しいただきたいですし、現在、ヤフーで働いているデザイナーも実現に向けてどんどん働きかけていってほしいと思います。昔からある車の会社、昔からあるカメラの会社の共通項のようなものを、インターネットの中で表現したいと思っています。

ーー貴重なお話をどうもありがとうございました。事業が成長した先に起こる課題感について、深くイメージすることが出来ました。今後のヤフーの取り組みにも注目しています。

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