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ServDes2020 サービスデザインの国際学会にオンラインで参加してみた:ACTANT FRIDAYゼミ


金曜日はゼミを開催

ACTANTでは仕事終わりの金曜日夕方、不定期でビール片手に集まり(今回は緊急事態宣言下だったためオンラインで集合)、最近参加した学会や気になっているテーマなどについて語り合うゼミを開催しています。

ACTANT FRIDAY ゼミ
メンバーの好奇心や新しい視点を育むために、学問的な視点や最近得たデザインに関する知見などについてディスカッションをしています。日々のワークに追われていると、新しいことを学んだり違う視点から考える余裕が少なくなってしまいますが、メンバー全員で集まってゼミをすることで、普段とは一歩離れた視点からデザインについて考えることが狙いです。

今回は、2月上旬にオーストラリアのメルボルンで開催されたサービスデザインの国際学会ServDes2020に参加したメンバーたちから学びを共有してもらいました。


ServDes2020の概要:武山先生より

まず初めに、ACTANTメンバーで慶應義塾大学経済学部教授の武山政直先生からServDesの概要と今大会のテーマについて話していただきました。

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(↑https://servdes2020.org/より)

今年のテーマはTENTIONS PARADOXES + PLURALITY(緊張 矛盾+多元性)

「ServDes(Service Design and Innovation Conference)は、2009年に北欧で始まったサービスデザインとサービスイノベーションに関するカンファレンスです。北欧はサービスデザインの発祥エリアでもあり歴史がありますね。研究熱心ですしサービスデザインの公共プロジェクトや大学院教育なども盛んです。徐々に北欧外からの参加者も増え、2014年以降は、イギリスのランカスターやイタリアのミラノなど、北欧外のヨーロッパ諸国でも開催され、各国から参加者が集まる国際的なカンファレンスになりました。」

ACTANTも創業直後の2014年、創業メンバーで英ランカスター大会に参加しています。

「今年は初めてヨーロッパ以外の国、オーストラリアでの開催となりました。コロナの影響でメルボルン現地での開催が難しくなり、全面オンライン開催となりました。今大会の要は、欧米中心で発展してきたサービスデザインに対して、多民族国家であるオーストラリアとして、異文化・多様性の意識を全面に出していることでした。大会のテーマは「TENTIONS PARADOXES + PLURALITY(緊張 矛盾、多元性)」。多様性を手放しに押し出すだけでなく、そこで生まれる対立やテンション(緊張感)も含めた問題意識が現れていたし、サステナビリティに対する意識も大きく扱われていましたね。」

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/64-how-to-reframe-service-values-in-a-japanese-de-growth-societyより)

武山先生ご自身も、日本の地域パネル「景気減速社会のためになる"サービス"は何だろうか:How to reframe "service" values in a Japanese de-growth society?」に登壇。日本国内の事例に基づいて行動変容のためのデザインについて話されました。「サービスデザインで使われている言葉の多くは外来語。ヨーロッパのフレームワークを吸収していて、何が日本的かというのを日本人の視点から論じるのは意外と難しかったですね。(武山先生)」

ワークショップ紹介01:サービスデザインと戦略的アクションの出会い

続いて、メンバーの津久井から、ACTANTメンバーが参加したワークショップについて紹介していきました。一つ目のワークショップはイギリス・ラフバラ大学のデザインイノベーション・意味論の研究者、Laura SantamariaさんとKsenija Kuzminaさんがファシリテートした「サービスデザインと戦略的アクションの出会い: 変化を活性化するための新しいツールの探求(Service Design meets strategic action: exploring new tools for activating change)」です。

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/83-service-design-meets-strategic-action-exploring-new-tools-for-activating-changeより)

ヒーローズジャーニーというナラティブ(物語)を活用したツールを用いたワークショップ。元々はロンドンで若者が地域社会の意思決定に参加するためのワークショップで使われたツールだそうです。ナラティブを通して、個人が持ってるゴールと社会が持っているゴールの整合性を通じて合わせることで、市民の成長やリーダーシップに繋げるワークショップでした。

ヒーローズジャーニー
世界中の神話の主人公の成長の物語を普遍化したもの。本ワークショップでは、ヒーローズジャーニーの構成を「Concept of Self and relation to Others(自己概念と他者との関係)」「Initiation(イニシエーション)」「Transformation(自己変容)」「Return with Learning(学びを持ち帰る)」の大きく4つのフェーズに分けて活用。

ワークショップでは、インタビュー動画をもとに、主人公がヒーローズジャーニーに沿って成長していくストーリーのアウトラインを作成。主人公が物語のどのフェーズで、どのような状況に置かれているのか明らかにしました。本研究では、現在、物語を通じて人々の意欲をあげる方法のメソッド化を試みているそうです。

ワークショップ紹介02:食品業界におけるサステナビリティのためのトランスペアレンシー

2つ目に紹介するのは「食品業界におけるサステナビリティのためのトランスペアレンシー(Service Transparency for sustainability in the food sector)」。食品業界におけるサステナビリティを高めるために、流通や製造における透明性(トランスペアレンシー)を向上させるフレームワークを使ったワークショップです。ブラジルのパラナ連邦大学デザイン&サステナブルリサーチセンターのAguinaldo dos SantosとMarcella Lombaさんがファシリテーターです。

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/121-service-transparency-for-sustainability-in-the-food-sectorより)

ワークショップでは食品業界におけるサステナビリティのためのトランスペアレンシー度を、規制に対応できるようにする「normative(規範型)」、情報の解釈と理解を可能にする「formative(形成型)」、消費者とのコラボレーションを可能にする「participative(参加型)」の3段階に大別。各段階をさらに3つに分け、計9つの指標項目を作成。各項目についてのレクチャー後に、数値の低い項目に対して、そのトランスペアレンシー度をあげるためのアイデアを参加者で出し合うワークを行いました。

・Normative Transparency 
規範型透明性。規制に対応できるようにする
・Formative Transparency 
形成型透明性。消費者が情報を解釈・理解できるようにする
・Participative Transparency 
参加型透明性。アプリを使って野菜の栽培に参加するなど、消費者がカスタマイズやコラボレーションできる

トランスペアレンシーを、消費者がただ開示情報を受け取るだけでなく、参加型というポジティブで能動的なものとして提示しているのが印象的なワークでした。出し合ったアイデアには、オンラインホワイトボードツールMural上で、ハートマークを使って投票するなど、アイデアの好感度をビジュアライズする工夫もされていました。

ワークショップ紹介03:サービスデザインにおけるエコーチェンバーへの体現的手法の適用

3つ目のワークショップは、オスロ建築デザイン大学(AHO)のJosina Vinkさんらが開催した「サービスデザインにおけるエコーチェンバー(反響室)への体現的手法の適用(Addressing echo chambers in Service Design with embodied methods)」。身体表現をトリガーに、参加者がサービスデザインに対して無意識にもつ視点や思考法・緊張状態を、明らかにすることを試みています。

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/84-addressing-echo-chambers-in-service-design-with-embodied-methodsより)

ワークショップでは、ファシリテーターから「サービスデザインの仮説を提示するので、それに対してどう思うのか身体を使って表現してください」といった指示が出ました。実際に踊り出す人や歌を歌う人もいたり、Zoomの画面越しとは思えないほど様々な方法での表現が出たそうです。思い思いの表現をできるような空気感を作り出すファシリテーターの促しも重要でした。

ワークショップ紹介04:途上国研究プロジェクトにおける前提条件に挑戦するための新しいソーシャルデザインフレームワーク

最後に紹介するワークショップはロンドン芸術大学のAlison Prendivilleさんらが主催した「途上国研究プロジェクトにおける前提条件に挑戦するための新しいソーシャルデザインフレームワーク(A New Social Design Framework to Challenge Assumptions in Research Project in LMIC's)」です。

途上国での研究プロジェクトで、支援する側であるグローバル・ノース(欧米などいわゆる先進国)と支援される側であるグローバル・サウス(アジアやアフリカの途上国)との間に、非均等な権力関係が生まれてしまわないようなソーシャル・デザイン・フレームワークを作成することを試みています。

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/81-a-new-social-design-framework-to-challenge-assumptions-in-research-projects-in-lmic-sより)

インドで行われている実際の開発プロジェクトを例に、「プロジェクトを行う際に、デザイナーが気をつけなくてはならない社会的背景の倫理」について考えたり、「プロジェクトの様子を写した写真から読み取れる『人間・動物・微生物』の関係性についてディスカッションしよう」といったワークが行われました。民族間の多様性や複数性だけでなく、人と人以外の種との関係性についても考えてみようというpluriversal(多元的)な視点を交えたワークショップとなっていました。

以上が、今回のゼミで、メンバー間で共有された内容です。

オンラインで国際学会、どうだった?

全面オンラインで開催されたServDes2020。登壇された武山先生含め、ACTANTメンバーも全員日本での通常業務を行いながらの参加となりました。「切り替えがかなり難しい...」。「結局仕事しながらレクチャーを聞いて、頭に入ってこなかった...」という苦い声もメンバーからは上がりました。オンラインでの開催は、渡航をせずとも国際学会に参加できるというメリットがある一方で、学会のみに集中できる環境といった、現地に行くからこそのメリットも改めて感じさせられました。

集中環境を作り出すという意味では、次回オンライン参加する際は、山に籠ってワーケーションでもしながら参加するのもいいかもしれません。また、今大会では音声チャットアプリを使ったオンラインのネットワーキングスペースが設置されていたのですが、顔の見えない人といきなり会話を始めるのは、気軽に立ち話するよりハードルが上がります。ネットワーキングもやはり現地にいく方が捗りそうですね。

不定期開催のACTANT FRIDAYゼミ、また気まぐれに開催予定です。次回のレポートもどうぞお楽しみに。