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企業の組織横断的取組の方法としての「統合」と「共同責任」              ~メアリー フォレット(1868-1933)の経営思想~

企業を中心とする現代の組織においては、権限がいたるところに存在し、様々なリーダーが組織の上から下までいろいろな立場にいてコントロールをしている。その中で、これらの分散された権限やリーダーシップをどのように結合するかが現在のビジネス組織の重要問題となっている。

フォレットは、「私が調査した企業では、最大の弱点は部門間の関係にあった。多くの工場の能率は、不完全に作られた調整のシステムによって低められている」と言う。そして、あらゆる調整は、部門の長たちの間の親密さの程度に、つまり、彼らが進んで協議するかどうかに依存している、と。

フォレットは、ある会社の工場管理者と販売管理者の話を具体例として出す。生産部門は、顧客の考えを聞く必要があり、販売部門は生産の方法や難しい点をもっと知る必要がある。そして、両者の会議において、互いに相手の仕事をよりよく理解することによって、相互に助け合う方法について多くの例があげられた。また、どちらも指揮してはいけないこと、彼らは一緒に仕事をしなければならない、チームを形成しなければならない、と。

これは、現在ほとんどの企業で議論されている、部門間の横断的機能(cross-functioning)の重要性である。両部門の定期的な会議であったり、調整するための調整部門が設置されることもある。

ここで、フォレットは、通信会社の例を出して説明する。ある問題について、それぞれの段階で、部門間の調整をするために協議を行うが、解決しない場合はさらにそれぞれのラインの上へあげられ、そこの長どうしで協議が行われる。そこで合意が得られなければ、さらに上にあがり最後はトップまで上がることになる。これをラインの横断とラインの上昇の2つが結合したものと捉えている。これは、垂直的権限水平的権限とも言える。

フォレットは、このラインの上昇と横断について、横断的な機能がより重要であると考えており、異なる両部門の実務責任者が「直接接触の機会」を持てば、誤解が生じる機会は非常に少なく、諸問題や諸困難を相互に説明する機会がもてることになる。

この横のライン、つまり水平的権限を重視した場合、両部門の責任者がそれぞれの立場を主張したとして、お互いに同じレベルで、どちらかがどちらかよりも上で、決定の権限があるわけでもない。ここで意見の相違が出た場合、どのように解決すべきなのであろうか。

ここで、フォレットの相違を解決する「統合」が、たいへん重要になっていくる。フォレットは、相違を解決する方法として、「支配による方法」「妥協による方法」「統合による方法」をあげている。

「支配」においては、一方のみがその欲するものを獲得し、もう一方は何も得ることなく、次に勝てる機会を狙うだけである。「妥協」においては、両者ともに不満が残ることになる。それは議論を終結するための方法ではあるが、実際のところだれも妥協することを真に望んでいないのである。

ここで、第3の方法である「統合」の意義を説明すると以下のようになる。

「統合」は相異する両者のどちらも満足させる解決法のことである。つまり、「統合」は両者にとってプラスになるものでなければならない。これは片方の主張がA、もう一方の主張がBの時に、新たにCを作り出すことであり、一種の「創造」であり、言い方によっては、「発明」なのかもしれない。

この「統合」については、別の記事にも記載したが、フォレット氏の示した次の製紙メーカーでのシンプルな例話が理解しやすい。

最近、私たちの製造委員会の会合において、次の問題が生じた。私たちの製造する紙の価格は6セントであった。それに対して、競合相手の会社は、その価格を5セント4分の3に引き下げた。そこで私たちが、5セント2分の1に引き下げると、相手は、5セント4分の1の価格で応じてきた。それで、私たちは、さらに値を下げるべきかどうかという問題に直面することになった。一部の者は値を下げることに賛成であり、一部の者は反対であった。解決は全く違った事柄が提案されたときにもたらされた。すなわち、私たちは、より高い品質の紙を作り出すという考えにたち、そして、その紙に見合う適切な価格を設定すべきであるという提案がなされたときに、解決がもたらされた。(「創造的経験」第9章 創造としての経験(166p))

この「統合」とともに、フォレットが指摘している点は、「集団責任」の意識についてである。複数の部門がプロジェクトを進めたり、共同で決定をする場合、あるいは品質における生産部門の研究部門の関係、さらには、スタッフ部門と事業部門の関係、そういう中で、最近のビジネスの現場において、ますますこの共同責任の意識が高まっていると主張するのである。これがひとつの水平的権限の形と言えるのである。

さらに、フォレットは、こういったより広い範囲で責任を考えるようになることで、「人びとまたは諸集団が、自分たち自身の仕事に対してだけ責任があるとするのではなくて、企業全体に対する責任も共有するものとして自らを考えるところではどこでも、その企業が成功するためのきわめて大きな機会が存在しているのである」と言う。

また、フォレットは、次のように問題を指摘している。

全ての人は、割り当てられた自分の特定の仕事を、誠実に遂行すべきであるということを幾度となく説教されてきたのであるが、このことはおそらく、全体に対してもまた責任があるのだということをわれわれに忘れさせがちでる。(「管理の予言者」)

そして、フォレットは、共同責任のもとでは、われわれは自分一人では決して問題の解決ができないことを指摘する。それは「われわれ自身の役割は全体の断片でなくて、ある意味においては全体だからである。共同責任があるところではどこでも、それは共同的にのみ解決されうるのである」とする。

まとめるとフォレットは、企業の統一化を助成するための方策として、3つのポイント、つまり、「統合」は相異を解決する方法であること、横断的な機能、そして「集団責任」の意義を挙げているのである。