ビジネスマンのためのブラックスワン対策講座【完】(11) 人生のアップサイド(幸運)をつかめ!

脆いものは、変動を嫌います。機械やモノはみな変動性、ランダム性を嫌います。それに対して、私たち人間は「反脆い」ところがあるので、小さい変化やランダム性をなら、それをワクワクして楽しむことが出来るのです。

芸術やイノベーションも、ランダム性から生まれます。自らリスクをとって不確実性にチャレンジした者だけが、人類を進歩させ、自分自身を高めることができるのです。

1.ベンチャー投資

ベンチャー投資は、アップサイドのオプションです。場合によっては、莫大なペイオフが期待できます。しかしながら、事前にどのベンチャーが成功し、どのベンチャーが失敗するか、を推測するのはたいへん難しいのです。

ここには強いランダム性があります。ですから、ベンチャーキャピタルは、そのランダム性を理解しており、なるべく多くのベンチャー企業に同じ程度の金額の投資を行います。そして、100社に1社うまくいくだけで、莫大な利益を得ることになるので、それで十分なのです。投資先の企業によって投資額に差をつけないことがミソであり、これがランダム性・不確実性の正しい扱い方なのです。

それと比較して、企業によるベンチャー投資は難しいと言わざるを得ません。それは投資先が限られているため、ランダム性を利用できないからです。たとえば、その企業の技術との関連があったり、ビジネスが近かったり、顧客が共通であったり、という制約を設けるからです。

しかしながら、ベンチャーの場合は本体企業とのシナジーはあまり期待できないし、ベンチャー投資の成功のカギであるはずの「多くの企業に幅広く同額の投資すること」ができない以上、投資の成果の実現は難しいのです。これは多くの方が経験されていることだと思います。ランダム性を生かし切れていないと言えます。

2.企業の新規事業

ベンチャー投資のように、当たったときに莫大な利益があるわけでないですが、企業の新規事業には成功する可能性がかなりあると思われます。それはまた別の形でランダム性をうまく活用しているからです。

特に、経営に十分な余裕があれば、ランダム性から生まれてくる様々なビジネスチャンスを見逃すことなく活用することが出来ます。不確実であるが故に、新たなニーズが生まれたり、時として驚くほどのビジネスチャンスを発見したりすることがあるのです。

また、ブラックスワンで大きな衝撃があったとしても、基本的な人の衣食住については変わらぬ需要があるので、従来のビジネスモデルから少し形を変えた新たなビジネスが生まれたり、周辺のビジネスが成長する可能性は十分あります(例えば、新型コロナウィルス蔓延による自粛中、衣料や食品の通販や出前のニーズが激増した)。

更にブラックスワンで傷んだ企業を買収したり、統合したり、資本参画するなど、逆にブラックスワンを活用した企業再編を仕掛けることも可能です。

リアル・オプション理論についても説明しました。この理論においては、不確実性のもと新規事業を段階的に進めることで、リスクを調整しながら、ダウンサイドを抑えて、アップサイドをすべて実現するということが可能になります。

3.社会に余裕を

芸術や文学を時間をかけて極めるには、すでに説明したように「バーベル戦略」が有効です。つまり「変動」と「安定」の両極端のポジションをとることです。

芸術や文学のような文化はどれも、ランダム性からしか生まれません。また、イノベーションもそうです。ベンチャーの起業家は皆、自分こそは成功すると信じているわけです。そして、その中の一握りの誰かが成功するのです。芸術家もまったく同様です。

企業に余裕がないと、ランダム性から生まれてくるるビジネスチャンスを掴めないのと同様に、社会にも余裕がないと、ランダム性から生まれる文化やイノベーションを見出し、社会が認知することはできません

生まれた文化やイノベーションが認知されれば、そのひとつひとつが私たちの社会に進化を生み出し、より豊かでわくわくする生活をつくっていくのです。

しかしながら、現代の世界は、効率化、最適化、機械化、大都市化、IT化、グローバル化、を日々追及していて、ますます社会全体から「余裕」や「冗長性」を失いつつあるようです。

今こそ私たちは私たち自身のためにも、このような社会の流れを食い止め、「冗長性」や「小規模化」により、ランダム性を許容できるだけの「余裕」を実現する必要があるのです。

4.少しの勇気と心に遊びを

人間の本質的な性質としては「変化」を好みません。それは現状維持バイアスと言われる本能的なものです。かつて人類はさまざまな環境の変動に対して、苦労をしながら生活を守ってきたという過去の長い経験があったということも容易に想像がつきます。

しかしながら、古代においても「変化」を恐れなかった人たちが、新たなる土地を発見し、また新技術を生み出して自然との共存をますます深め、人類の進化を支えることによって、私たちはここまできたのです。また、果敢に「変化」に挑戦したものの、残念ながら失敗した者たちはその何十倍もいて、名も知られることなく消えていきました。

今、私たちは、古代に比べてより大きな「変動」「変化」の起こる「極端な世界」にいるわけですから、ますますランダム性は強く、頻繁に起こります。

そして、私たちの周りには、気がついていないかもしれませんが、たくさんのアップサイドのオプションが存在します。もうすこし頑張れば、また思い切って実行すれば、思いがけない幸運(アップサイド)が待っています。

今まで、ブラックスワン、不確実性、ランダム性などの変動について、その特徴、生まれ方、人の認知の限界など、またそれらに対する「脆さ」「反脆さ」「頑健さ」などの詳細を論じてきました。

そして、今こそ私たちは個人としても、「変化」「変動」「ランダム性」を好きになって、そこから生まれるアップサイドを取りにいくことを考えるべきなのです。そのためには、「少しの勇気」と「心に遊び(余裕)」をもっていれば大丈夫です。

さあ、昨日までと違う新たな第一歩を「変化」に対して踏み出し、アップサイドのオプションに果敢に挑戦しようではありませんか。