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はたして株価の予想は可能なのか?

ここに、永い間様々な学者が悩み、また日々多くの投資家やアナリストが必死に取り組んできた、とても古くて新しい命題がある。「はたして株価を予想することは可能なのか?」

ある人いわく「目隠しをしたサルに新聞の株式欄をめがけてダーツを投げさせ、そのダーツのあたった銘柄でポートフォリオを組んでも、専門家が注意深く選んだポートフォリオとさほど変わらぬ運用成績をあげる」。これがランダム・ウォーク理論で、「ウオール街のランダム・ウォーカー」の著者のバートン・マルキ−ルが懇切丁寧にその証明をしている。

また、「ランダム性」に並々ならぬ執着を見せるナシーム・ニコラス・タレブ(「ブラック・スワン」の著者だ)は、ただ運がいいだけなのに、自分が有能だと思い込んで周りの人を小ばかにしているトレーダーが(たまたま運が尽きて)ある日ハデに吹っ飛ぶのを心から笑いものにしている。

ランダム・ウォークというのは「酔っ払いの千鳥足」のことだが、もう少し学問的に言うと「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向を予想することは不可能である」ということである。つまり、証券アナリストやチャートの分析をしても、株価を短期的にどの方向に変化するかを予測することはできない、ということだ。

私たちは、様々な誤解をしている。よくテレビの経済番組や雑誌などで、推奨する「投資信託リスト」や、昨年リターンが大きかったトップ10の「投資信託リスト」などを目にする。その中で昨年一年間で40%や50%のリターンを上げた実績を見ると、なんだかその投資信託に投資をするとすぐに儲かりそうな雰囲気がする。これが曲者だ。実は世の中には何千もの投資信託がある。それだけあれば、これだけの結果を出す投資信託があるのは当然と言えば当然である。投資成績がマイナスだったり、不振のため解散したり、他の投資信託と合流するなりして、すでに消えてしまった投資信託も数多くあるのだ。

ちなみに架空のファンド・マネジャーを考えてみる。1万人のファンド・マネジャーが投資信託をマネージしているとしよう。勝つか負けるかはまったくの運で完全に5分5分だとする。マネジャーの半分は1年後利益を上げる。つまり5000人だ。そして2年目はその内半分2500人が2年連続で勝ったことになる。3年目は1250人、4年目は625人、5年目はそのうち313人。つまり313人は純粋な運だけで5年連続で利益をあげるのである。にもかかわらず、あなたは5年間勝ち続けた、スーパースター扱いのファンドマネジャーに安心してお金を預けているわけなのだ。

また、書店には、「サラリーマンが株式投資で〇億儲けた」という本が並び、その投資手法を解説していたりする。ものすごく賢いかうまくやった人のように見えるが、これも同じだ。何万人のサラリーマン投資家のうち何人かは必ず破竹の勢いで勝つのである、それがたまたまの運であっても。たとえその方法で儲かったとしても、将来、その方法で儲かるかどうかは全く不明なのである。

これがいわゆる「生存バイアス」である。私たちが目にするのは、成功者や生存者だけなのでその情報には偏りがあるということである。失敗して消えた人の言葉は届かないし、またなかったことにされるのである。

さて、このように「たまたまの運」がベースであるとすると、今まで見てきたように、成績優秀な投資信託やファンド・マネジャーも決して「株価の予想がうまい」かどうかはわからないということになる。

それでは、一般的に株価の予想に使われる「テクニカル分析」と「ファンダメンタル分析」はどうであろうか。これらについては前述のバートン・マルキールが「ウオール街のランダム・ウォーカー」において、数多くの研究やデータをもとに詳しく説明しているのでそれを参照願いたい。

私のコメントは次の通りだ。

「テクニカル分析」は、過去の株価データを詳しく分析することで何らかのパターンを見出して、将来の株価を予想することである。時としてチャートなどを使う。確かに過去のデータから、過去のどんな時期にもうまくいった手法を見つけ出すことはできるだろう。しかし、それが現在や未来というほかの期間にも成り立つかどうかはまったくわからない。実際にさまざまな検証データからこの方法で株価を予想するのは不可能だということが明らかになっている。そう、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスもこう言った「同じ川に二度入ることはできない」と。

「ファンダメンタル分析」は、テクニカル分析よりも株価予想に近づいているかもしれない。しかし、それでも株価の予想は不可能である。株価を動かす力があまりにも多岐にわたり複雑かつ予測不能なためである。また、不確実性が当該企業の経営においても、また環境面においても凄まじく多くあり過ぎ、且つブラック・スワン的な大惨事の可能性も常にあるのである。

フラクタル概念を生み出した、物理学者のマンデルブロは「禁断の市場」において次のように、株価の予想は不可能であると述べている。

あらゆる物質は原子から構成されていますが、一つひとつの原子の動きを正確に追いかけることは原理的に不可能です。しかし、分子のもつ平均的なエネルギーと平均的な振る舞いは確率的に計算できるので、巨大なパイプラインを作って大陸の反対側の都市に住む何百万人もの人に天然ガスを運ぶことができるのです。明確な物理法則にしたがう物質だけから構成される世界を扱う物理学でさえ、すべての原子の平均的な振る舞いしかわからないのであるならば、たくさんの人とお金が複雑に絡み合う金融の世界を完全に理解するなどということがどれだけ無謀なことかは明らかでしょう。
 

この稀有な物理学者が見事に指摘していることは、一つひとつの原子の動きでなく、その平均であれば、確率論的な計算が可能である、ということであり、これを金融の世界に当てはめると、一つひとつの株価の動きは追いかけられないが、平均であれば(確率的に)不可能ではないということかもしれない。この点から、市場のすべての平均である「インデックス(指数)」取引の優位性を示唆していると私は考えている。

          (完)


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