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No.18『新世界より』少年少女が世界の秘密、構造に迫っていく物語好きです

いや~王道だけど好き。そんな感じの物語だった。一番最近見たやつで言うと『約束のネバーランド』もそんな展開だったけど。
この作品は上中下合わせてなんと八十万字にもわたるという。そんな作品を手掛けることの出来る貴志さんの頭の中はどうなっているのだろうか。

題名の通り、この話は現在私たちが生きている世界より千年後の世界を描いている。ここでは、物語の設定や考察などを、いつか自分が読み返すという意味も踏まえて自由に書いていこうと思う。ネタバレはガンガンしていくのでまだ読んでいない方は先に読んでからこちらを見ることをお勧めします。

呪力

舞台は私たちが今生きているこの時代の約千年後。そこでは人々は呪力という力を持っていて、人々はそれらを使って生活していた。そんな時代に生まれた主人公・早季は瞬、覚、真里亜、守の5人で仲良く少年、少女時代を過ごしていた。

この「呪力」という力が今作のカギとなる。これはとても便利なもので、ドラクエでいうMPみたいなもの。
火を点ける、電気を流す、身を守る。これらすべては呪力あってこそのものだ。

これがドラクエ含めた王道RPGゲーム、マンガだったら話はここで終わるんだけど、呪力というのは一概にメリットだけではない。今作の面白いところは、呪力の行使によって生じるデメリットが生んでしまった悲劇だ。
呪力が人類に与えられることで被るデメリットは3つある。
 一つ目は、優劣の発生だ。この世界での一般的な人間は呪力を得ることが出来る。しかし、適性や遺伝子、障害などによって呪力を獲得できない、又は呪力の制御ができない人も存在する。そういった人は、主に子供のうちに淘汰される。特に衝撃だったのは、人権についてで、私たちが持っているのと本質は同じなんだけど、人権の付与が満17歳であるという所だ。普通に考えて、17歳まで人権がないってやばくないですか。後述するけど攻撃抑制や愧死機構を持っているので人間が人間を殺すという事象はほとんど起こらないものの、何かを媒介すれば17歳に何をしてもよいという意味にも捉えることの出来る世界。実際に瞬(早季たちの仲間の一人)は頭脳明晰、運動も呪力の扱いもグループの中で随一だったにも関わらず、呪力の制御が不安定、業魔化に近い存在になってしまったために倫理委員会に排除されてしまい、早季たちは瞬の存在そのものを記憶から抹消されてしまった。そこから始まる四章・「冬の遠雷」は第二部の始まり感がすごいし世界が歪んで見えるような描写がとても面白かった。そしてそれに早季が気付いて、穴埋めのためにキャスティングされた男の子を、「これはミスキャスティングね」という所はめちゃめちゃ好き。中巻で一番面白いのは個人的にここだと思う。新世界で呪力を使うのは楽しそうだけど、17歳になるまで安心できないのはちょっとやだなあ。
 二つ目は、呪力の漏出について。呪力というのは基本的には個々人で制御することが出来る。しかし、その制御ができない人もいるという。呪力が漏出するとどうなるか。草木や花に限らず、存在している物質が呪力によって異形化してしまうのだ。瞬の犬は彼の呪力に触れ、異形化してしまった。そしてそれを防ぐために存在しているのが、町の周りに張られている八丁標(はっちょうじめ)だ。八丁標は言うなれば結界のようなもので、早季たちは最初こそ八丁標は外敵から身を守るためにあるのだと考えていた。
だが、物語が進んでいくにつれ、これは内なる敵、つまり呪力の漏出や業魔化を防ぐためにあるという事実を知ることとなる。結界の対象が人間というのも、この世界の不条理さを感じるところの一つだと感じた。
 三つ目は、先述したが業魔化、悪鬼化の存在だ。これらは呪力の漏出が止まらなくなった結果、周りに多大な影響を与え、異形化させるにとどまらず殺戮を行う存在で、彼らの出現は世界秩序の崩壊を意味するという。発生する確率こそ数十年に一回と稀だが、ひとたび現れると甚大な被害を被る。そうならないように町の倫理委員会を中心とした陣営が、業魔になりそうな者の早期発見、排除を行っている。何が恐ろしいって言い換えるとこれは、自分の周りにいる人が大量殺人気になる恐れがあるということだ。業魔化の条件みたいなものは頭の良さなどに起因しない。遺伝子や突然変異など、運と言ってしまってもよいだろう。「運」で大量殺人者が生まれてしまう世界。私たちの世界にも殺人などは横行しているから断定はできないけど、私たちの世界より危険であることは間違いないといって差し支えないだろう。

ミノシロモドキ演説とそこから感じたこと

上巻のみならず、『新世界より』を読んでいて一番ハッとさせられる場所なのではないだろうか。それまでは疑問こそありつつも充実した生活を送っていた5人。”それ”との遭遇は、彼らがキャンプに行った時に起こる。
ミノシロモドキは自立型の図書館のようなものであり、横文字で言うならばデータベースのようなものだ。大人たちが意図的に隠していた先史文明(私たちの今生きている世界)のことや、人間が呪力を持つきっかけを彼等は偶然知ることとなる。

この説明パート、世界観があまりにもよく作られすぎていてびびった。それと同時にこの世界がいかに私たちの世界と違うかということにも。
PK(サイコキネシス、念力)能力者の中にもその力を悪用する人がいるということや、それのせいもあってかPK保持者全体が人類の敵とみなされ淘汰されていくという構図は聞いていて何の抵抗もなかった。
排除されるかと思いきやPK保持者はさらなる力を手にし、結果すべての政府は瓦解、先史文明のリセットが起こった。
その結果インターネットは寸断され、人々は再び物理的な壁に阻まれるようになったという。
わたしはよく、古代文明とかの存在自体が疑問で、昔=科学技術が劣っていると思っていた。
しかしこの物語を読んでいくと決してそんなことはないと感じた。古代文明だから今より劣っているなんてことはないし、今生きている世界が最先端でないことも十分にあり得るはずだと感じた。

あと思ったのは、新世界の秩序はかなり安定している一方で、崩れる時は一瞬だということ。早季たちはむしろ異例というか、特別なグループだったので世界の秘密に近づけたものの、先史文明の存在すら気付かない人もいるのではないかと思った。
この世界は人権を得た大人にとっては非常に生きやすい世界であることは読んでいて感じる。(もっとも、悪鬼や業魔の存在はあるけれど)


しかし、今作で悪鬼やバケネズミの反乱を見て、本当にこの世界が正しいと言えるのだろうか。中、下巻を読んだ方は分かると思うが、この世界においての力関係は、業魔、悪鬼>>>>>人間>>>>>バケネズミである。悪鬼の存在は一旦省くとして、人間は呪力という力を持つがゆえの傲慢、圧倒的な自信から、知性を獲得したバケネズミの思わぬ反乱によって大打撃を受けることになる。最終的に早季たちの活躍によって悪鬼(守と真里亜の子供?)は倒され、反乱軍の首謀であった野狐丸は死刑判決を下される。さらにはその裁判のシーンでは、バケネズミが人間であることと同時にそれを嘲笑する人間たちの対比が描かれている。

『新世界より』は約1000年後の未来を描くSF作品として有名だが、一つ一つの事象を取り出してみると、そこには異種族間の偏見、優劣差別における憎しみだったり、不安定で異質な世界秩序だったりといった様々な問題が見え隠れしている。私が特に感じたこととして、バケネズミは醜く人間より劣るという理由から人間に使役、挙句は奴隷のように惨殺され、殺戮による快楽を得るための道具のように扱われている。これは現代で言う○○~みたいに言うと炎上しそうなんで言わないけれど、こんな未来があっていいのだろうか。

各キャラクターの死について

ここからは少しだけ気になったこと、登場キャラクターの死について。戦争や争いが少なからず登場する本作なので、決して少なくない数のキャラクターが死を遂げてしまう。その中でもなんでここで?みたいなキャラについて考える。

吉美
早季の姉である彼女。一人娘だと信じ込んでいた早季は、「もしかしたら私には姉がいたのではないか」ということに気づく。その設定やそれが倫理委員会含めた異常な世界を解くキーになる展開は好きなんだけど、世界の異常さへのインパクトが強すぎた気がする。姉を失ったという事実そのものが割と薄かった?
って感じで私は姉が割と軽く扱われていたのが気になった。「新世界より」のキャラクターたちは死に対する考え方が私に比べて軽いのかもしれない。

守と真里亜
守が浄化猫に、呪力の制御の問題で殺されそうになったことが理由となり、彼らは人里を離れることになるんだけど、オブラートに包まず言わせてもらうと

”本当に気が付いたら死んでた。”


って感じだった。いやほんとに。早季たちの大事な親友だったはずの彼らと別れるシーンは結構辛かったし、ここから最終話に向けて再会する流れやろ!って思いつつ読んでいただけにマジかと思ってしまった。言うて上巻もほぼ早季は覚と一緒だったから物語上での絡みはそんなに多くなかったけど、彼らは少なくとも数年一緒に生活してきた仲間だ。なんか間接的に「死んだ」という事実だけが羅列されていたために、私は二人の死の必要性はあったのかな?って思っちゃった。

乾さん
下巻限定キャラクターで、悪鬼との戦闘で活躍するキャラクター。多分死んでしまうんだろうなとは思ってたんだけど、その場所がふさわしくないんじゃない?と感じた。
ここまでついてきたんだから、私はてっきり悪鬼との戦闘で戦死してしまうものだと思っていた。しかし作中では、サイコバスターという悪鬼を倒すための武器を取りに行く道中で早季を守るためにその身を犠牲にする。
めちゃくちゃかっこいいのは分かるとして、悪鬼との戦闘を前にしていなくなってしまうのか!っていう若干の拍子抜けがあった。まあこれはそんなになんで?って思う人もいないかもだけど一応。

まとめ

きっかけはTwitterのフォロワーさんから教えていただいた作品。正直言うと私がこれまで読んだ作品の中でトップクラスに面白かった。私と価値観が似てる(と勝手に思っている)方が勧めてくれた作品なので、絶対面白いだろうとは思っていて、そのハードルを越えてきた作品だった。
SFを読み漁っている猛者の方からすればもしかしたらどこか違和感があったり設定に漏れがあったりを感じたりするのかもしれないけど、私はめっちゃおもろかったし、何より主人公たちの年齢が割と自分と近いこともあって、感情移入しやすかったのが幸いだった。

感想も最長になってしまったが今回はこの辺で。私が一回読んで言語化できた情報はここまでだったが、次に読むときは違う方向から読んで、新しい発見が出来たらいいな。
というわけで、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。もしよければスキ、フォロー等々よろしくお願いします。



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