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ホン雑記 Vol.578「表す者である以上に汲む者でありたい」

すんばらしいツイートが回ってきた。まさに今のオレのためにあるような金言だ。

とある90歳のおばあちゃんの「人生で一番後悔していること」。それは、
「60歳の時にバイオリンをやりたいと思ったのに、もう遅いと思ってやらなかった。もしあの時はじめていたら30年も演奏できたのに…」
オレはしばらくこれを金科玉条と掲げよう。


今おそらくは人生一鍵盤弾きにハマってるけど、上達がわかってニマーッとするたびに毎回思う。「なぜこれを、燻りはじめた20代の頃からやらなかったんだろう」と。それも、鍵盤にハマればハマるほどより強く思う。毎回毎回。
でもそれはそういうもの。それはオトンの死でもそう悟った。「なぜ生きてる時に、今ほどに考えてやれなかったんだろう。今の自分なら止められたのでは…」とホントに数百回は思った。だけど、それは叶うことも…いや、ウソ、やっぱちょっと盛った。数十回ぐらいだわ。たぶん。

ま、とにかく学んだ。それはもう、そういうものなのだと。そうやって生涯心に刻まれてくれるのだと。生きてたらどうせ喉元過ぎて熱さをバリバリ忘れるんだから。バリバリに。

とするならよ、オレは未来から帰って来たこのおばあちゃんだとリアルに想像してみたらどうだい。超リアルにさ。夢見るほどにさ。誰にしゃべってんのさ。
ここをリアルに、超リアルに考えられるかどうかが人生の大きな岐路になる。もちろん出来ない側の路だって、それが悪い人生ってわけじゃない。それももう、そういうものなのだ。

そういうものなんだけど、オレはイヤだ。オレが悔いたくないのはもちろん、誰かの後悔というとんでもない財産をオレが野放しにしておきたくない。そんなのはもったいなさすぎる。
あ、もったいないと思う心って完全に自分のわがまま(我のまま的な意味で取ってね)なんだけど、これって意外と利他愛なんじゃなかろか。自分で言うこっちゃないけどもさ。もったいないは彼我の結節点だね。何を言うとんのか自分でもちょっとしかわからん。

それともうひとつ、もうひとつってか、オレにとっちゃこっちがメインと言えるんだけど、
「30年も演奏できたのに…」
ってことなんだよ。
後悔はこんな形でやってくるよ、だとか、何かはじめるのに遅いことなどないよ、ってことが教訓になって数万いいねが付いてたんだけど、オレにはこの「演奏できた」ってのがもうね、「ははーーーっ」でしたよ。

どうも音楽において、何かをせねばならない、何かに届かねばならない、著名にならねばならない、技術を磨かねばならない、と思ってるフシがもう強烈にある(そのくせそんなにやってない)。これによってここ数年のオレはだいぶ疲弊してきた。
でもよく考えたら、音楽なんて「やらねばならない」なんて性質のものであるわけがない。これって人生も意外と同じなのかもしれない。「ねばならない」にまとわりつかれて、別にどうでもいい(どこにたどり着いてもOK的な意味で取ってね)かけがえのない人生を「ねばならない」で終わらせてるのかもしれない、逆に。良くしようとしてんのに、逆に。

殊に、音楽なんて何が良くてやってるのかわからんものだ。
絵画や彫刻は神(自然)の中の模倣を、文芸は言葉という道具を使ってあらゆることの表現を、料理は摂取者の甘美(脳(自然のネットワーク)の成長や、摂取される側の子孫の拡散のためにあらゆる「おいしい」がある)を、スポーツは我々がどこまで届くのかの驚嘆を、芸術として担っている。担っているところがある、にしとくか。
だけど、音楽だけは意味がわからない。旋律の組み合わせによって、鼓舞されたり癒されたり、土臭かったり清涼感あったり、とりわけ悲しみを引き出すのに万物の中で最高峰(だいぶ人によるが)であるのはなぜなのか。長調よりも短調のほうがいい意味でショボーンとなるのはなぜなのか。その反応はほぼ世界共通なのに誰も説明できない(しようとしてる論はいくつもあるけど明らかにズレてる)。

そんな意味のわからない得体の知れないものに、人間の「ねばならない」を持ち込むほうがどうかしてたのだ。音楽とは何よりも、それをやること自体が目的のはずだったのに。



この90歳のおばあちゃんにとっては、何かをやろうとしてやらなかったというだけのことかもしれないけど、オレにとってはやろうとしてやったこと、つまり、優れた芸術作品と同質の崇高さを感じる。

なんでだ。
どこだ? 共通点は。
うーん、本気っていうのがひとつあるっぽいな。


こういうことのために、こういう時のために、他者の人生はある。
それは人の振りを見て我が振りを考えはじめるといった安易な意味でではなく、もっと意味のわからない壮大な話。

本物の後悔は美しい。




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