見出し画像

新しいSNSの作り方、あるいは排他性のデザインについて

本記事は、Dentsu Lab TokyoとBASSDRUMの共同プロジェクト「THE TECHNOLOGY REPORT」の活動の一環として書かれたものです。本記事の執筆者はTHE TECHNOLOGY REPORT編集チームの一員でもある、Dentsu Lab Tokyoの土屋泰洋です。

昨年10月のイーロン・マスクによるTwitterの買収成立以降、その混乱はTwitter社内だけでなく、サービスそのものにも露骨に顕れ始めていますね。突然の機能の追加や停止、APIの有料化など、慌ただしくアップデートを繰り返していたり。ビルの管理者が変わっていつもつかってた裏口がある日突然使えなくなったり、うどん屋の無料の天かすがいつのまにか無くなっていたり、パン屋の定休日がいつの間にか増えている…というような、あの感じ。

こういう状態になってくると、「引っ越し」を検討する人たちが一定数出てきます。最近だと毎日のように、Mastodonはじめたとか(元TwitterCEOのジャック・ドーシーも出資しているという触れ込みの)NostrDamusはじめたとか、Bondeeはじめた、なんていうツイートを見かけます。

「引っ越し」が多発するタイミングというのは、新しいサービス提供側にとっては、大量の新規ユーザーを獲得するチャンスでもあります。そもそもSNSの歴史とは、今振り返れば、Orkut、Friendstar、myspace、GREE、mixiなどなど…さまざまなサービスからサービスへ、こうしたユーザの大移動がインターネットの風景を少しづつ変化させてきた歴史でもあります。

ただ、SNSというのは文字通り、人と人とのつながり自体に価値を見出すサービスですから、これまで利用してきたサービスと同様のソーシャルグラフ(人とのつながりの量)が構築できるくらいの量のユーザが移動しない限り、わざわざ移動するメリットはあまりありません。(これを「ネットワーク外部性」といいます)つまり、本格的にユーザーをまるっと引っ越しさせたいのであれば、「大移動」をどうやって起こすか?というのがポイントとなります。

過去の新規サービスの流行期には、インフルエンサーの移動などによって「引き金」がひかれると、あっという間にスタンピード状態に陥ることが多々ありました。(サービス提供者側は、ユーザの増加に併せて段階敵にサーバーの増強などをする必要があり、このようなスタンピード現象は悩みの種でした。そこで、結果新規ユーザーの増加数をコントロールするために、新規ユーザ数をサービス提供者側からコントロールできる「招待コード」の仕組みが生まれたわけです。)

はたして、今回もこれまでのようなスタンピード現象が起こるのでしょうか?私は現時点では、それが起こる可能性は極めて低いと思っています。

この15年ほど、でインターネット接続者数がケタ違いに増え、大量の小さなコミュニティが各所で構築されており、ネットワーク外部性が分散されている状態になっているということが一番の理由として挙げられます。かつては、SNSの利用者の母集団自体が「インターネットへの接続頻度が高い」という時点で、ある程度の偏りがあったはずです。しかし今や、インターネットに常時接続している状態は(少なくともある程度インフラが整っている国にとっては)もはや普通のことで、現実社会と同様、SNS上にも自分とは全く接点がないようなコミュニティが大量に存在するのが当たり前になっています。かつての井戸端は公園となり、やがて広場になり、そしてもはや都市かそれ以上の規模になってしまいました。(例えば自分が住んでいる街の名前をTwitter検索したりすると、普段接点がないような人たちの会話を覗き見ることができるので面白いですよ:改札前で初対面っぽい若者同士が、ペコペコしながら小さなパケ袋を交換しているのを見掛けてはハラハラしていたのですが、Twitter検索によって「改札前で待ち合わせてダブったキャラクターグッズを交換する」という文化を知り、謎が解けたのでした。)

結局、私も含めた「新しモノ好き」は喜んで新しいサービスに飛びつき、アカウントは作るのでしょうが、Twitterのサービスとしての安定性が著しく損なわれるような改修がされない限り、多くの人はあえて他のサービスには移動しないだろう、ということです。

そもそも、現状どのサービスも提供機能自体には新規性が無いわけですし。例えばプロトコルの話…中央集権型か分散型かという議論には大きな意義があるとは思うのですが、一般的なユーザにとってはあまりピンとこないでしょう。やはり何か新しい体験価値がなければ、人との繋がりだけでは移動する理由にはなり得ません。

かつて、投資家のクリス・ディクソンは、DeliciousとInstagramの成功をとりあげ、「多くの人々は最初ツールを求めてやってくるが、次第にそこに生まれたネットワークが代替の効かないものになり、人々はそこに留まるようになる。」と語りました。これは現在においても有効だと思います。

では、SNSの基本的な機能がコモディティ化した現代において、新しい体験価値はどのように生み出せるのでしょうか?私は、そのヒントは「排他性」(Exclusivity)のデザインにあると考えています。

昨今発生する炎上の多くは、内輪の過激な発言や、悪ふざけが内輪のコミュニティの外側に広がってしまうことに起因するものが多いように感じます。良くも悪くもSNSは大きくなりすぎて、半ば「公」な場所になってしまった。

最初から街をつくろうとするサービスではなく、あえて、知る人ぞ知るレストランや、一見さんお断りの飲み屋のような、スケールしないことによって、ほどよいサイズの島宇宙を維持することにフォーカスをあてたサービスが出てきてもいいのかも、と思うんです。そのようなサービスをつくろうとする時に重要になるのは「排他性」です。

こうした排他性について考えたのは、2014年ごろ、江渡浩一郎さんとの対談の中で「いい島宇宙をつくって、その中で生まれた物を世の中に広め、良い影響を与えていけばよい」というお話があって、これがすごく自分のインターネット観にしっくり来たんですよね。でも「いい島宇宙」をつくるためには、昨今のSNSは少し開きすぎているんじゃないか、と。

ご存じのように、排他性はサービスを成長させるためのドライバーとしてこれまでに活用されてきたアーキテクチャの一つでもあります。Clubhouseが急速にユーザーを伸ばしたのも、ALSの認知を高めるための活動アイス・バケツ・チャレンジに多くの人が参加したのも、Facebookがその初期に急速にそのユーザー数を伸ばしたのも、招待制、紹介制、特定のドメインのメールアドレスを持っているといった「入りたくてもなかなか入れない」「限られた人しか参加できない」という「排他性」を持っていたからに他なりません。人は、排他的であればあるほど、その中をのぞいてみたくなるものです。限られた人しか入れない「あの場所」の噂ばかりのある日、友人の誰かからの指名や、招待コードが送られてくる…そうすると大喜びで参加してしまうというわけです。ただしこれは、人を駆り立てるためのマーケティング戦略としての「排他性」の話です。

全ての人に対して排他的にしてしまうと逆に興味を刺激してしまう。興味がある人にはものすごく魅力的でオープンだけど、興味が無い人にとっては硬くドアを閉ざしているというような「ほどよい排他性」をデザインできないでしょうか?例えば、とあるサービスが日本語だけで構築されていたら、日本語話者以外のユーザーへは閉ざされたサービスとなりますし、日本語話者以外はそもそもそのサイトに入ろうと思いにくいですよね。言語以外でこうした仕組みをどうやったら作れるでしょうか。

ウェブサイトなどでリクエストを送信しているのが、プログラムなのか、人なのかを判断するために利用されるCAPTCHAと呼ばれるプログラムがヒントになりそうです。CAPTCHAとは、簡単にいうとロボット(プログラム)では解くことが難しいが、人間であれば解くことができるクイズのようなものを出題して、ロボットなどのアクセスを遮断する手法の一つです。おそらく誰でも一度は「私はロボットではありません」という有名なフレーズを見たことがあるでしょう。SF好きなら、ブレードランナーがレプリカントを判別するために使う「フォークト・カンプフ検査」といえばピンと来るかもしれません。

CAPTCHAは「人間にとっては簡単だけどロボットにとっては(今のところ)難しい」文字列を出題することで、ロボットを排除するわけですが、同じような考え方で、「とある特性を持ったユーザにとっては簡単だけど、そうではないユーザにとっては困難」なタスクをサービスのオンボーディングに入れることによって、ユーザの特性を制限した、ほどよく排他的なSNSを作れるかもしれません。

2015年ごろ、実際に機能する、「できすぎたジョーク」としてリリースされた「Metal Captcha」というサービスがありました。これは、ヘヴィメタルバンドのバンドロゴが「過度におどろおどろしく装飾された結果、そもそもバンド名を知らなければ解読することが困難なタイポグラフィ」を採用する傾向があることに着目し、ヘヴィメタファン以外は読めないバンドロゴをCAPTCHAとして利用することによって、ロボットおよび非ヘヴィメタファンを排除するという天才的なサービスでした。このサービスでは、先にあげた特定の言語だけ提示するといった言語コードをベースにした排他性ではなく、文化コードを利用した排他性がデザインされています。

このようなアクロバティックな仕掛けを考えずとも、特定の物を購入した人限定、特定のイベントに参加人限定のコミュニティを作る、といった仕組みは、最近ではブロックチェーンの典型的な応用事例としてよく挙げられる事例です。でも、ブロックチェーンウォレットの導入者がそもそも少ない現時点では、Metal Captchaのようなクリエイティブなアイデアで、特定のユーザ層のみが共有しうるコードを割符として使うというのが、しばらくはスマートなやり方なのかもしれません。

試しにChatGPTに「90年代テクノ好き」という同世代のニッチな人たちを判定するためのテストを考えてもらいました。悪くないけど解答がばらけそうだし検索したらわかりそうだから微妙かな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?