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小さい工夫、大きな変化。「書体」の進化にみる兆し。【Dentsu Lab Tokyo】

こんにちは、Dentsu Lab Tokyoの高橋鴻介(@ootori_t)です✋
普段はプランナーとして、企画の仕事をしています。

私は、大学でデザインを学んだことをきっかけに「伝えること」に興味を持ち、「コミュニケーション」をテーマに、言語、文字、グラフィック、その他様々な意思伝達方法を、個人的にリサーチしています。

中でも、特に注目しているのが「書体」です。
ここ数年は、世界中の書体をリサーチし、購入して使ってみるだけにとどまらず、年に1つ自作の書体を作るのが個人的な習慣になっています。

今回はそんな書体マニアな私が気づいた「とある兆し」について書いてみようと思います。
それは「書体が、情報や印象を伝達する媒体としてだけでなく、社会の課題を解決する道具になっていくという兆しです。

そもそも、書体とは?

書体といえば、日々のちょっとした文章作成から、企業活動のブランディング、広くは大統領選のメッセージングまで、様々な場所で使われ、現代社会で目にしない日はないくらい身近なメディアですよね。

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書体とは、共通した表情をもつ文字の集まりである。と定義されるように、書体には、①文字として情報を伝える②その情報の背景にある印象を伝えるという2つの役割があります。

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例えば、同じ内容の文章でも、ゴシック体で書くのか、明朝体で書くのかで大きく印象が異なるように、語るべき「情報」と、それがまとう「印象」を表現する。それが従来の書体の定義だったように思います。

しかし世界には、その定義に囚われない、全く新しいコンセプトで作られた書体が存在します。

忘れないための書体『Sans Forgetica』

2018年、ロイヤルメルボルン工科大学デザイン学科から「記憶への定着」を狙ってデザインされた世界初の書体Sans Forgeticaが発表されました。

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この書体は、人間の脳の仕組みを上手に使って作られています。あえて書体の一部を切り取って読みにくくデザインし、脳からの記憶の読み出しを困難にすることで、逆に定着力を上げ、記憶に残りやすくするという仕組みだそうです。

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つまり、この書体には、先程紹介した「情報」と「印象」を伝達する機能に加え、「それを記憶する」という、「効能」が付加されているのです。

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例えば、この書体を、教科書に使ったら。
流れていってしまうSNS広告に使ったら。
忘れてほしくないラブレターに使ったら。
記憶に効くという「効能」は、ちょっと考えただけでも、様々な使い道が想像できます。

見える人と見えない人をつなぐ書体『Braille Neue』

同じような事例をもう一つ紹介します。これは私自身が発明したプロトタイプで、点字と文字を重ね合わせた『Braille Neueという書体です。

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視覚障害の友人ができたことをきっかけに、同じ国で暮らしているのに、街なかの点字にどんなことが書かれているのかすら知らない自分に違和感を覚えました。

それをきっかけに「視覚障害者と晴眼者が同じツールを使えたら、お互いの生きている世界について知れるかもしれない」という仮説を立て、その友人とともに開発を進めてきました。

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この書体にも、同じ場所で同じ情報を共有できるようになることで、「見える人と見えない人の出会いのきっかけになる」という「効能」があります。

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この書体は現在、その「効能」に共感してくれる人のおかげで、渋谷区役所を始めとする施設のサイン計画への採用はもちろん、ファッションゲームなど、様々な分野に広がり始めています。

先程の『Sans Forgetica』もそうですが、どういう「印象」を人に与えるかのために書体を作るのではなく、どういう「効能」を人に与えるかという視点で書体を考えることで、情報や印象を伝達するパッシブな存在から、情報を通じて人に力を与えるアクティブな存在に変わっていくのではないでしょうか。

小さな工夫、大きな変化

書体は、TV、書籍、SNSなど、世の中のあまねくメディアに広く浸透し、世界中で使われているツール。だからこそ、小さな「効能」でも、それを幅広く展開できるという利点があります。

例えば、情報を省スペースに印刷できる書体を作ったら、世界中で紙の消費が減るかもしれません。
例えば、入力したときの感情が伝わる書体を作ったら、世界中でミスコミュニケーションがなくなるかもしれません。
例えば、汚い言葉が消える書体を作ったら、世界中でネットいじめが消えるかもしれません。

今までの書体に「効能」というレイヤーを一つ足すことで、人の行動を変え、課題を解決するツールになる。それが、社会を変える大きな力に変わっていく。そう考えると、書体という小さなメディアについて考えることは、とても大きなインパクトを生む気がしませんか?

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高橋鴻介
コミュニケーション・デザイナー/発明家

1993年、東京生まれ秋葉原育ち。慶應義塾大学 環境情報学部卒。卒業後は株式会社電通で、インタラクティブコンテンツの制作や公共施設のサイン計画などを手掛けつつ、個人的に発明家としても活動中。発明を通じて、異なる世界をつなぐデザインを得意としている。主な発明品に、点字と文字を重ね合わせた書体「Braille Neue」、身体の機能をシェアするロボット「NIN_NIN」、リモート下における運動不足とコミュニケーション不足を解消する「ARゆるスポーツ」など。
Portfolio 👉 https://ootori.co/

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Dentsu Lab Tokyoは、研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織です。日々自主開発からクライアントワークまで、幅広い領域のプロジェクトに取り組んでいます。是非サイトにもお越しいただき、私たちの活動を知っていただけると幸いです。

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