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[奇談綴り]気配の出し方

これは、私自身に関する話。

私は親きょうだいとあまり仲が良くない。
理由は色々あるが、その一つが「理不尽におどかすなと叱られる」からだった。
居間とトイレに向かう廊下の境目、すりガラスでぼんやりと向こうが見えるようになっている引き戸とギシギシ鳴る廊下なのに、向こう側に家族がいるタイミングで引き戸を開けた瞬間「なんだ! びっくりした! おどかすな!」と怒鳴られるのだ。
こちらが開けても家族が開けるのを待っても同じように怒鳴られる。
ものすごく理不尽で、嫌われているからわざとやられているのだと思っていた。

その後大人になり、家族と全く関係ないくつかの場所で「気配がない」と言われるようになった。
喫茶店で店員に長時間気づかれないというのは序の口で、あるドラッグストアのレジで目の前で品出ししている店員さんに何度声をかけても気づかれず、叫ぶように声をかけた瞬間「わっ、びっくりした!! お客様、気配がないから…。」とまで言われた。
普通のお客様にはあるものなのか、気配。

こういう事もあった。
とある会社でのコピー機の空き待ちで、自席に戻るのも面倒で直ぐ側の椅子に座ってボーッとしながら待っていたら、先にコピーをとっていた同僚が急に振り向いて「今どこかに行ってたでしょ?! 急に気配が消えて怖かった! どこ行ってたの?!!」と叫んだ事もある。
どこにも行ってない、ずっとここに座ってボーッとしていたよ、と説明しても「絶対どっか行ってた! びっくりさせないで!」と言い張る。

こういう事が続くと、もしかして自分はいわゆる「気配」というものが薄いのではないか、という気がしてきた。
薄いというか、場合によっては完全に消えている可能性もある。

そういえば、高校でも変な事があった。
昼休み、自席でマンガを読んでいたら、同級生が急に私を探し始めた。
私はいつもどおり席に座っているわけだし、すぐ気づくだろうと思ったのだが、なぜか「居ない、どこ行ったんだろう」「探しに行こうか」と話が大きくなっていく。
冗談なのかな、と思っていたが、一人が「先生の所に」と言い始めたので、さすがに立ち上がって「どうしたの? ずっとここに居るけど?」と声をかけた。
ものすごく驚かれて「だってずっと居なかったよね?」と言われたが、こっちはずっと座っていたわけで、全く意味がわからない。
そのまま有耶無耶になったのだが、あれも確かに「気配がない」せいだったのかもしれない。

「実際、未だに赤外線センサーと相性が悪いし、目の前に居るのに探されちゃったりするんだよねえ。」

その日は件の視える友人が私の部屋に遊びに来ていて、酒のつまみにそんな話をした。

「うん、よく気配が消えてるよね。びっくりする。わざとだと思ってたけど違ったの?」
友人までごく普通にそんな事をいうのだが、わざと気配を消すとか忍者でもあるまいし、全く納得できない。
実家での話をすると「本当に脅かしてると思われてたんじゃない? だって気配がないから。」という。

「わざと出来るわけないじゃん。じゃあさ、試してみようよ。
今からそこの部屋に入ってじっとしてるからさ、気配が消えるかどうか、確かめてみてよ。」
「いいよ! 知ってると思うけど、自分、ものすごく勘が鋭いからね!
そこに人が居るって分かってるのに、気配を間違うわけ無いじゃん!
ぷぷー!」

なんだかムカつくな…。
言い出したのはこちらなので、酔い醒ましに温かい緑茶を持って隣の部屋へ入り、適当に座り込んで伸びをする。
バカバカしい事をしているなあ、と緑茶を一口飲んだ時、急にドアが開いた。

「なに? どうしたの? なんか忘れた事でもあった?」
友人はとても戸惑った顔で、こちらをじっと見ている。なんだか様子がおかしい。
「今ずっとそこに居た?」と当たり前の事を聞いてくる。

「当たり前じゃん。始まったばかりだし、この狭い部屋からどこに行くって?
他に行くところなんかないでしょ?」
「いや、急に気配が消えたから、どこかに行ったんだと思ってドアを開けたんだよね…本当にずっと居た?」

友人も自分がおかしなことを言っているという自覚はあるらしい。
なぜなら、出入り口は友人のいた居間にしかない狭い部屋で、生き物がどこか別の所に行けるような場所ではない。
それなのに完全に気配が消えたので、慌ててドアを開けたらしい。
先程までのふざけた表情は消えて、完全に真顔である。

こちらとしても理不尽だ。
座り込んで緑茶を一口飲んだだけで「気配が消えた」と言われても、意味がわからない。
リラックスすると消えるとかそういうヤツか。
いやそもそも気配ってなんだ。

「気配」という単語がゲシュタルト崩壊してきたので、その日はそれでお開きになった。
友人は後日、いつも世話になっている僧侶に私の話をして、理由がわかるか聞いてみたらしい。
「昔(前世)、霊能者とかそういう気配を消すことが必要な仕事をしていたのかも知れないね」という答えだったそうだ。

うん…いや、今の世の中で気配なんか消す必要ある?
人間どころか赤外線センサーの反応も悪くて、正直暮らしにくいんですけども。

結局、何もかもよくわからないので、特に何もしていない。
未だに赤外線センサーの反応は悪いし、店員に気づかれないことも多い。
赤外線は「周波数が近すぎると反応が悪い」と聞いたのだが、それはそれで人間離れしすぎではないか。

「こうすれば気配が強くなる」という方法があれば教えてほしいな、と思う。

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