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[奇談綴り]血縁という呪縛

ある友人がやっと一人暮らしをすることになった。
仲の良い友人達はその人が実家から離れて暮らすことをずっと望んでいたので、これでやっと本人も落ち着いて暮らせるだろうと安心した。

理由はいわゆる「毒親」というやつだ。

友人と知り合ったのは学生時代で、その頃はまだそれほど問題なかった…と思う。
年に何回か家族で旅行に行ったり外食に出かけた話をしていたし、友人も多少の愚痴を言いながらも自由に過ごしていた。あの時代の田舎の家族としては標準的であったと思う。
あくまで友人の話す家族のエピソードからの推測と印象であるが、それほど間違ってはいないと思う。

最初に違和感を感じたのは、せっかく決まった都会での就職を2年ほどで切り上げて地元に戻った時だった。
ご両親が病気だということで帰ったのだが、実際には大したことがなかったらしい。実際、そこから何年も元気に暮らしていた。
まだ還暦に届くかどうかという若さで友人に家事をさせて暮らしていたらしい。

まるでだまし討ちのようなやり口に違和感を感じたが、家族に従うことを選んだのは友人である。
口出しする理由もない上に電車で数時間の距離、折々の連絡で様子を見るしかなかった。

事が発覚したのは一昨年である。
お父様が亡くなったのだが、相続でモメた。
なんと、お母様が「友人が親の金を横領して好きなように使った、遺産は渡さない」と言い始めて、それにきょうだいも同調したのである。

お父様の介護や実家の家事は友人がほぼ一人で請け負っていたそうだ。
それなのに、亡くなると同時にそういう事を言い始めて、自分ひとり仲間はずれにされてキツイ、という話を、やっと相談というか愚痴ってくれた。

私は友人からの話しか聞いていないのだが、それでもそれが真実だと考える状況証拠がある。
友人のきょうだいは、もう何年も他県で暮らしていて、めったに実家に帰ってこなかった。それが急に帰ってきて、とんでもない理屈の見た目にも呪いがかかったような手紙を送りつけてきたのだ。
見せてもらったのだが、まさに呪いといった風情の見かけと文章だった。

もちろん、疑えばどこまでも疑える。遠く離れていて、友人の提供する情報しか見聞きしていないのだから。
ただ、相続については法律で認められた割合がある。
それを謎の理屈で人を貶める文言を使ってまで放棄させようというのは、異常であると思った。

詳しい状況を聞いた共通の友人のグループ内では「痴呆の始まりではないか」という意見も出た。
私もそう思ったが、親子いっぺんに同じタイミングで痴呆というのはちょっと考えにくく、つい別な理由を想像してしまった。というのもこの友人、「サソリ」のエピソードの友人なのである。
あの後、友人自身には特に何もなく、むしろ昔より健康になったりしていたのだが…。
『見える友人』はサソリを「家系のなにか」と言っていた。
防御が成功した結果、他の家族に強く影響が出た、というのは考えすぎだろうか。

共通の友人のひとりが意を決して「親戚の痴呆が始まったときと同じ」と伝えたのだが、たとえそうだとしても同じ家にいながら全く没交渉で、なんならハラスメントを受けている状態なので、病院に連れて行くことすら無理だという話だった。
だからもう、準備ができ次第で家を出る、と。

私達には友人の方が大切なので、皆で賛成した。
物理的な距離を取るというのは、生身の人間にもオカルト的にも意外と有効なのである。

友人が家を出ることを考え始めたのは「サソリ」のエピソードのあとらしい。お父様の病気やなかなか条件に合う転居先が見つからないとかでかなり伸びたが、やっと柵から外れて転居が叶った。
その後、残ったお母様ときょうだいが親子で同じような心の病っぽいものに蝕まれ、特にきょうだいは田舎ではなかなか得難い順調な仕事を辞めて帰ってきて、家と遺産に執着している。
とても呪いっぽいような気がしないだろうか。

私はこの件はガチの呪いである確率は低いと考えているが、それとは別に、毒親もまたある種の呪いであると言えるだろう。
友人はせっかく呪いから離れられたのだ。これ以上影響がないように、彼らだけでがんばってほしいものである。


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