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[奇談綴り]羽ばたき

ある日の夕方、池袋西口公園を歩いていた。
夜というにはいささか早い、日が落ちてすぐの時間帯で、行き交う人の輪郭が定かでない程度のいわゆる「たそがれ時」という時間帯だ。

西口公園は普段から人が多い。
人の少ない場所を歩こうと、見える範囲全体にぼんやりと気を配る。

ふと、「来る」と思った。
理由は特にない。
ただ、正面から何かが来る、と思った。

目の焦点を合わせると、真正面から何かが飛んでくる。
こちらにぶつかるまでもうあまり時間がない。
とっさに腕をクロスして上に持ち上げて顔と頭をブロックし、すこしだけ腰を落とす。

ブワァ!

何か黒いものが正面まで飛んできて、ぶつかる寸前で上に避け、羽ばたきを残して飛び去った。
鳥ではない。
羽ばたきとは言ったが、それは巻き起こった風がそんな風に動いたからで、羽音はしなかった。
慌てて後ろを見たが、特に鳥が居るということもない。
周囲を見渡しても、こちらを気にしている人は居なかった。

体感的にはカラスぐらいの大きさの何かだったので、鳥だとしたら周囲にいないのは不自然だ。おかしな動きではあるが、元々避ける前提で突っ込んで来たなら…まあカラスや猛禽類ならありえない動きでもない。
フクロウなら羽音はしないだろう。鳩なら完全にこっちにぶつかっているだろうけれど。
コウモリならそもそも突っ込んでこない。彼らの超音波探知は優秀だし、警戒心が強いので基本的に人間に寄ってこないのだ。

気持ち悪いな、と思いはしたが、実体もなければ実害もない。
首を傾げながら移動した。

その後も特におかしなことは何もない。
鳥だったのか妖物だったのか、判然としないのが気持ち悪いだけである。

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