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[奇談綴り]怖い日本画

始めに書いておくが、これについては具体的な怖い現象が起きていない。
ただ、才能ある画家の真筆には、何か宿ったりするのかもしれないな、と思った話である。

ある日、件の視える友人から、急に「この画家知ってる?」というメールが送られてきた。
メールにはとても美しい鯉の日本画の画像が添付されていた。
日本画では有名で人気のある作家さんらしく、検索するとたくさん画像がでてきたが、どれも添付の絵とは違うようだ。
暗い水面を錦鯉が美しく泳いでいる。
残念ながら日本画には詳しくないので知らない作家ではあったが、かなり著名な人物だということは検索で知った。

気になったので電話を折り返して事情を聞く。
「知らなかったのかあ。
これね、蔵の整理を手伝ったら『持っていってください』って言われてさ。
本物かどうかわからないから、知ってたら教えてもらえるかな、って。
有名な人だからさ、本物ならすごい値段じゃん?
それをぽいっとくれるっていうから、なんか変だなって思って。
ものすごいお金持ちの旧家だから、美術品の値段をあんまり気にしないみたいなんだけど。」

何だその小説みたいな展開。
話を聞きながら検索の条件を変えてみる。贋作や複製なら同じ絵が複数見つかるはずだが、全く引っかからない。
絵には疎いが、美しい筆致は本物のように見える。
ふと思いついて、展示会を中心に個人ブログまで範囲を広げて検索してみたところ、一件ヒットした。
「百貨店の美術館の展覧会で展示されていた」という概要とともに、小さめだが画像も添付されていて、まさに今見ている絵と同じものである。
売り物では無いとのことなので、この絵が現物の可能性はある。

「残念ながら自分ではわからないんだけどね、百貨店の展覧会で同じ絵があったそうだから、くれた人に聞いてみれば?
そこのお家から貸し出した可能性あるでしょ。
ところで、それをもらうとなにか不味いことがあるの?真筆ならすごい値段だし、もらっておいてもいいんじゃない?」
百貨店の名前と展示の名前、時期を伝えると、早速確認するという。

「高いものを気軽にくれるのも気になるし、なんか絵がね…怖いんだ。
写真にするとただのきれいな絵なんだけど、実物は黒いものがにじみ出てくるような嫌な感じがするの…。
金が使われてて、水面の描写がすごいんだけどさ。
うちの家族もちょっと怖がってるし、高いものならなおさらメンテとかできないし。
とりあえず聞いてみる!」

この絵が怖い…?
何度画像を見直しても、ちょっと暗い水の中を美しく泳ぐ鯉にしかみえない。
まあたしかに、100万円を超えてくる作家の作品を雑にくれるとか、理由を勘ぐってしまうところだけども。

それからしばらくして、また電話があった。
「すごいね、その展示会に貸し出したって言ってた!驚かれたよ!
どうやって検索したの?
それで、出どころの確かさを考えてもホンモノなんだよねえ、コレ。
でもどうしよう…。
本当にさ、もらっても飾るところもないし、ものすごい威圧感があるから売るのも怖いし…。
なにより、実物を見た人がみんな怖いっていうんだ…。」

「うーん、そんなに嫌なら、くれた所に戻すしか無いんじゃない?
画像だけ見るといい絵だし、先方は売り払ってもいいつもりでくれたんでしょ?
美術館に寄付でもいいと思うよ。
真筆なら捨てるなんてとんでもないし、どれも嫌なら返すしかないねぇ。」

「美術館に寄付はいいね! うん、ちょっと考えてみる。」

確かにちょっと変な話だ。
何を手伝ったのかは詳しく話してくれないが、それにしても「手伝い」である。美術品をもらう理由がない。
日当を追加してくれるとか、もっとこう無難な量産品をくれるとかならまだしも、どうやら本当に真筆である。
展示会に貸し出したということは、価値も分かっているということだ。
その絵を『選んで』くれたとしたら、なんだかきな臭いな…。
まあ自分には関係ないんだけど。

結局、絵はくれた人に返したらしい。わりとアッサリ受け取ってもらえたようだ。
「いい絵だったんだけどさ、動いてるというか、なんか本当に嫌な気配がしてて、怖かったんだよね。
相談してよかった。」

絵がその後どうなったのかは分からない。
まだその旧家の蔵にあるのではないだろうか。

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